地理 第5回 国家・都市と人口 応用編2 人口と都市
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過密と過疎
1.人口密度の高い地域
地球の陸上はどこでも人が生活しやすくできているわけではありません。まあ根性とテクノロジーさえあれば住めないことはないんですが,人が住みやすい,環境がよい場所というのはそれほどたくさんあるわけではないのです。
人が住みにくい場所としては北極圏や南極圏のような寒いところ(寒帯),雨が極端に少なく水を得にくいところ(乾燥帯),標高の高いところ(高地)などです。共通点としては農業をおこなうのに厳しいところです。このような地域では当然人口密度はとても低い。
逆にいえば農業に適したところは人が生活しやすい。大河の流域は水を得やすいだげてなく土地も肥沃で,たとえ乾燥帯でも農業に向いているので人の生活が可能です。
また温帯は人が生活するにもっとも適した気候です。なかでも北緯40度線上は小麦の生産に適しており,世界の大都市が集中するラインの1つでした。
アジアでは米を主食とする地域がありますが,米は単位面積あたりの収穫量が高く,多くの人口を支えることができます。モンスーンアジアは世界でもっとも人口密度の高い地域となっています。
☆人口密度が高い地域
・温帯の先進国…アメリカ(メガロポリス=東部海岸地域)・ヨーロッパ
・中国…東部の沿岸地域
・日本…太平洋ベルト
・モンスーンアジア…東南アジア・バングラデシュ(世界で最も人口密度が高い国の1つ)
2.過密
地球上で人口密度の高い地域が限られていることがわかりました。その限られた地域の大都市にさらに人口が集中し,それによってさまざまな問題が生じることを過密といいます。
過密状態になった都市ではどのような問題がおこるのでしょうか。考えて見ましょう。
人が多くなると住む場所が減ります。それにともなって地価が高騰します。交通渋滞・通勤ラッシュも起こりますね。さらに大気汚染をはじめ,水質汚濁,騒音,振動などの公害もはげしくなります。中国の大気汚染は日本にも大きな影響を与えてますね。そしてゴミ処理の問題。
住居やビルの密集は緑を失うことにもなります。コンクリート・アスファルトに囲まれるとヒートアイランド現象という都市部の気温が異常に上がる現象が起こります。公害問題とともに健康問題も深刻になります。インフルエンザなどの感染症が猛威を振るうのも人が密集しているからです。
人が集まってもそれだけの職がなければ失業率が上がります。失業しないためには高学歴が求められます。教育格差の問題です。失業すると生活が困難になりますからホームレスが発生します。スラム街という貧困層が密集する地域も形成されます。このような経済問題も過密がもたらす都市問題です。
人と人とのトラブルも多くなり,経済問題とからんで犯罪が多発します。大規模な自然災害にも対処が難しくなり,避難がスムーズにいかなくなったり,都市機能が麻痺すると二次災害による死傷者の数が桁違いに多くなります。
このような過密は人口密度の問題ですから,解決策は都市部の面積を増やすか人口を減らすかのどちらかということになります。面積を増やすといっても難しいですから,人口を減らす策を講じる方が現実的です。
日本では大都市への人口流入は高度経済成長期(1950年代後半から1973年)におこりました。1950年では関東地方・近畿地方・東北地方・九州地方の人口の差はほとんどなく,東京・大阪・名古屋の三大都市圏の人口は全人口の3分の1,その他の地方が3分の2を占めていたのです。それがこの時期一気に都市部へ人口が移動していきます。現在では三大都市圏の人口は全人口の半分を占めています。東京都だけで10分の1の1300万人が住んでいます。東京都は面積で45位(大阪府は46位)ですからいかに人口密度が高いかがうかがえます。
そこで高度経済成長期の後半には都心部の人口を郊外に移す計画が進められました。ニュータウンの建設です。ニュータウンは生活を第一の目的に計画的つくられた街で,住居だけでなく,公園・学校・医療機関・食料品店なども計画的に配置されています。東京の多摩ニュータウンと大阪の千里ニュータウンが有名なので2つはおぼえておきましょう。
ニュータウンの建設は人口の郊外流出を促し,さらには都内(府内)にとどまらず周辺の県へと広がっていきます。このように都心部の人口が減少し,郊外や周辺の県の人口が増加していくことをドーナツ化現象といいます。
3.過疎
過疎は過密の反対。人口が減少していくことで社会生活を営むことが困難になった状態をいいます。またその状態になることを過疎化といったりします。過疎はまず漢字でしっかりと書けるようになることが大切です。
過疎化が進む集落では流出する人のほとんどが若い人です。すると過疎地域の人口年齢別構成は極端に高齢者の割合が高くなります。人口が少ないのですから,商業やサービス業は利益を得られないので撤退が相次ぎます。そのうち行政による教育・防災・医療などのサービスも満足に提供できません。人口の少ない過疎地域では税収も少なくなるからです。公共交通機関も減っていきます。「廃校」・「廃駅」・「廃線」・「廃港」は「廃村」へとつながります。
また過疎化が進んでいるところは農業・漁業・林業などの第一次産業人口の割合が多いことも特徴です。近年はこれらの特徴をいかした地域活性計画が官民問わずさかんにおこなわれています。
人口の統計の問題
これまでのことを頭に入れて人口統計の問例題をやってみましょう。
1.人口増加率の問題
【例題1】次の表は,近畿2府4県(大阪・京都・滋賀・兵庫・和歌山・奈良)の面積,人口,人口密度,人口増加率を示したものある。兵庫県と滋賀県にあてはまるものを選び,それぞれ記号で答えなさい。[表:応用編5-1 日本国勢図会2024/25より 2023年]
|
面積
(k㎡) |
人口
(千人) |
人口密度
(人/k㎡) |
人口増加率(%)
(2022-2023) |
ア |
4725 |
892 |
188.8 |
-1.27 |
イ |
1905 |
8763 |
4599.1 |
-0.22 |
ウ |
4017 |
1407 |
350.1 |
-0.16 |
エ |
8401 |
5370 |
639.2 |
-0.60 |
オ |
3691 |
1296 |
351.0 |
-0.79 |
京都府 |
4612 |
2535 |
549.7 |
-0.57 |
面積と人口からイが大阪府(面積が最も小さく,人口が最も多い),エが兵庫県(大都市神戸があり人口が多く,面積が最も大きい)であることがわかります。
次に人口増加率(増減率)をみてみましょう。人口増加率には自然増加率と社会増加率があります。自然増加率とは生死による増減,社会増加率は転入・転出による増減を示しています。「増加率(増減率)」が「-」ということは,「減少」しているという意味になります。表はすべて-を示しているので,減り方の比較となります。-の数値が大きいほど減り方が大きい,小さいほどそれほど減っていないと考えることができます。ウが滋賀県となります。ウは一番低く,全国的にみてこれでも増加率は高い方(減少率は低い方)です。近畿では大阪・神戸・京都という大都市をかかえる府県とともに通勤・通学圏(ベッドタウン)である滋賀県の人口増加率が高い(減少率が低い)。滋賀県は人口増加率で答える県であることをおぼえておきましょう。
かつては奈良県も同様に人口増加率が高かった。確かに現在も大阪府に隣接するいくつかの市では開発が進み増加率も高いのですが,全体的には山がちで交通の便が悪く,人口は減少傾向にあります。増加率がもっとも低く(減少率が高い),人口が少ないアが和歌山県,オが奈良県ということになります。和歌山県も南北に長い県で山がちです。北部の和歌山市から南部の潮岬まで特急電車でも3時間ぐらいかかる。高速道路も少しずつ南へ延長されていますが,大阪都市圏への交通はかなり不便な位置にあります。
答え:兵庫県,エ 滋賀県,ウ
【例題2】次の表は,宮城県・埼玉県・高知県・沖縄県の面積,人口,人口密度,人口増加率を示したものである。宮城県にあてはまるものを選び,記号で答えなさい。[表:応用編5-2 日本国勢図会2024/25より 2023年]
|
面積
(k㎡) |
人口
(千人) |
人口密度
(人/k㎡) |
人口増加率(%)
2022-2023 |
ア |
7282 |
2264 |
311.0 |
-0.68 |
イ |
2283 |
1468 |
643.3 |
-0.02 |
ウ |
7102 |
666 |
93.8 |
-1.37 |
エ |
3798 |
7331 |
1930.5 |
-0.08 |
【例題1】と同じような問題です。それぞれの県の特徴を考えながら解きましょう。
まず人口からエが埼玉県であることが容易に推測できます。また埼玉県は東京の周辺県ということもあって人口増加率(社会増加率)が高いのも特徴です。
アはどこでしょう。表中では二番目に人口が多い。これが宮城県です。宮城県は太平洋ベルトからそれる東北地方にありながら,周辺県よりも人口が多い。県庁所在地の仙台は東北地方の交通の要地(東北新幹線・東北自動車道)であり,地方中枢都市として栄えています。東北地方の問題が出題されたとき「宮城県は人口をみて答える」。大事なポイントです。
さて大都市の周辺県は人口増加率が高いという特徴をもっている。その代表例が関東では埼玉県,近畿では滋賀県であることを学びました。では表中,人口増加率が突出して高いイはどこなんだ。この数字は尋常じゃない。これは東京に次いで全国で二番目に高い増加率で。この県こそ沖縄県なんです。沖縄県はもちろん太平洋ベルトに含まれません。なのに人口増加率が高い理由は,通勤・通学などの社会的要因ではないのです。沖縄県は生まれてくる子どもが多く(兄弟姉妹が多い),これは自然的要因なのです。
そこで地方の県で人口増加率が高い,テストによく出る代表的な県として「宮城県(マイナスですが実は全国的にみても高い)」(社会増加率)と「沖縄県」(自然増加率)をおぼえておくことが大切です。
最後にウの県は人口が少なく,増加率も非常に低い。(「-」がついているので減少率が高いといってもよい)これは高知県です。高知県は山陰の鳥取・島根とともに人口の少ない県の代表選手としてよく出題される県です。
答え:ア
2.昼間人口と夜間人口
言葉から説明しますが,語句を問われることは絶対にありませんし,あまり難しく考える必要もありません。まず日本では一般的に人口といった場合,その場所に住所を登録している数をいいます。これは市町村ごとに作成された住民基本台帳というのをもとに算出します。しかし住所登録している場所と実際に住んでいる場所が異なる人もいるわけで,そのような現住人口の実態を調査するのが国勢調査です。国勢調査は総務省が5年ごとに実施します。国勢調査によって得られた人口と住民基本台帳を元にした人口とではわずかな誤差がでますが,補正することによって得られた人口を「常住人口」といいます。簡単にいうと実際にそこに住んでいる人の数です。普通,人はそこで夜を過ごすわけですから「夜間人口」ともいいます。したがって「常住人口」=「夜間人口」≒「人口」と考えて下さい。
一方,「夜間人口」に対して「昼間(ちゅうかん)人口」というのがあります。これはある場所から他の場所へ昼間に移動(出る)した人数を引いて,他の場所からある場所へ移動(入る)した人数を足して算出します。通勤・通学などを考慮した昼間のその場所の人口です。東京や大阪など働く場所が多いところでは昼間人口が多くなります。逆に昼間に都市へ働きに来た人は周辺の県へ帰っていく。このような人口の増減を把握するのが「昼間人口」・「夜間(常住)人口」です。
【例題3】次の表は関東地方の1都6県と近畿地方のある府県Xの統計である。これをみてあとの問いに答えなさい。[表:応用編5-3 総務省 国勢調査平成27年・令和2年より]
都府県 |
昼間人口
(万人 2015年) |
夜間(常住)人口
(万人 2015年) |
人口
(万人 2020年) |
産業別人口(% 2015年) |
第一次産業 |
第二次産業 |
第三次産業 |
茨城 |
284 |
292 |
287 |
5.9 |
29.8 |
64.4 |
栃木 |
196 |
197 |
193 |
5.7 |
31.9 |
62.4 |
群馬 |
197 |
197 |
194 |
5.1 |
31.8 |
63.1 |
埼玉 |
646 |
723 |
735 |
1.7 |
24.9 |
73.4 |
千葉 |
558 |
622 |
628 |
2.9 |
20.6 |
76.5 |
東京 |
1592 |
1351 |
1404 |
0.4 |
17.5 |
82.1 |
神奈川 |
832 |
913 |
924 |
0.9 |
22.4 |
76.7 |
X |
922 |
884 |
884 |
0.6 |
24.3 |
75.1 |
1.表中の都県のうち,2015年の人口が2010年と比べてもっとも減少していると考えられるのはどこですか。
2.夜間人口が昼間人口より多く,その差が最も大きい都県はどこですか。
3.昼間人口より夜間人口がとくに多い都県で,共通して多く建設されてきたものを選び,記号で答えなさい。
ア.臨海工業地域 イ.研究学園都市 ウ.ニュータウン エ.ウォーターフロント
4.次の文のうち,表から考えて正しいものを選び,記号で答えなさい。
ア.東京周辺の県は,農業が中心で工業はあまり発展していない。
イ.夜間人口が昼間人口より少ない都府県は,第一次産業に従事する人の率が低い。
ウ.東京都の人口は日本の総人口の約10%を占め,工業に従事する人の率が高い。
エ.表中の都府県の中で2015年から2020年の間に最も人口が増えたのは神奈川県である。
5.表中Xにあてはまる府県を府県を次から選び,記号で答えなさい。
ア.奈良県 イ.大阪府 ウ.京都府 エ.和歌山県
6.前問の5でその府県を選んだ理由を2つ簡単に説明しなさい。
1.比べるべき人口は,夜間人口(2015年)と人口(2020年)です。表中の数字から判断して2020年に人口が減っていると読み取れるのは茨城・栃木・群馬。もっとも減少しているのは5万人減の茨城県。
2.今度は昼間人口と夜間人口の比較です。夜間人口が昼間人口より多い都府県は,東京・Xをのぞくすべての県です。そのうちその差がもっとも大きいのは,神奈川県(913-832=81万人)。
3.昼間人口より夜間人口がとくに多い県は,埼玉県・千葉県・神奈川県です。このうち埼玉県は内陸県なので,ア・エは不適当です。ウォーターフロントは「臨海」地区の意味で,近年再開発が進んでいる港湾地帯です。イの研究学園都市は茨城県の筑波が知られています。したがって計画的に開発された住宅都市であるニュータウンを選ぶ。
4.ア・ウは産業別人口の割合を読み取る。ア・ウ文に出てくる農業は第一次産業,工業は第二次産業です。ア文は第一次産業より第二次産業の割合が高いので不適。ウ文は前半は正しいが,第三次産業の割合がダントツに高いので不適。エ文は最も人口が増えたのは東京(1404-1351=53万人)であるので不適。イ文では夜間人口の方が少ない都府県である東京都とXともに第一次産業の割合が低くなっているので正解。
5.Xは東京同様に夜間人口より昼間人口が多いこと,その上第三次産業の割合が高いことも東京都と同じ傾向。(6の解答)これにあてはまるのは大阪府。
答え:1.茨城県 2.神奈川県 3.ウ 4.イ 5.イ 6.夜間人口より昼間人口の方が多く,第三次産業の割合が高いから。
【例題4】次の表は,地図中A~Dの都県の昼夜間人口比率を示したものである。地図中Bにあてはまるものを表中から選び,記号で答えなさい。[表:応用編5-4 総務省 国勢調査令和2年より]
都県 |
昼夜間人口比率
(%,2020年) |
ア |
89.9 |
イ |
87.6 |
ウ |
119.2 |
エ |
88.3 |
昼間人口・夜間人口の問題はこのような形で出題されることもあります。理解しなければならないことはただ1点です。比率を求める式において,分子(昼間人口)の方が大きければ比率は100を超えます。逆に分母(夜間人口)の方が大きければ,比率は100未満となります。地図中Bは東京都を示しています。東京は昼間人口の方が多いので,昼夜間人口比率は100以上の値になっているはずです。(問題が大阪であっても同じように考えればよい。)
答え:ウ
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