地理 第5回 国家・都市と人口   発展編2 人口と都市

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知っておかないと解けない人口

1.世界の人口
①州別人口の多い国
 発展編を学ぶ諸君には2位までおぼえておいてもらいましょう。

州  1位  2位 
 アジア  中国 インド 
 ヨーロッパ  ロシア ドイツ 
 アフリカ  ナイジェリア エチオピア 
 北アメリカ  アメリカ合衆国 メキシコ 
 南アメリカ ブラジル  コロンビア 
 オセアニア  オーストラリア パプアニューギニア 
   

②おぼえておくと便利な人口
 日本の総人口以外にもイギリス・フランスは日本の人口の約半分,ドイツが約8000万人,韓国は約5000万人というのは問題を解くときに役に立つ数字です。
 人口密度に関してはシンガポールが国家として最も高く約7600人/k㎡です。その他につつぐ国も都市国家型の面積が小さい国がつづき,香港・台湾などもベスト10に数えられますが,これらは国ではなく地域として名を連ねます。少し難しい数字ですが,世界の人口密度が約52人/k㎡であることも問われた(選択肢で)こともある数値です。
人口の多い都市に関しては都市で統計を出すものもあれば,都市域(都市圏)として統計を出すものもあり様々です。あまりこだわっておぼえる必要はないと思います。

2.移民・在留外国人
①EU諸国
 ドイツ・イギリス・フランスといったEU主要国は,かつての第二次世界大戦による人口減=労働者不足の解消のため様々な移民政策をとってきました。また急速な少子高齢化もあって移民政策は国の経済を支える重要な柱の1つです。その一方で,移民の増加は失業率の上昇や治安の悪化,文化的摩擦などさまざまな問題もも抱えています。
・ドイツ
 大戦後の労働者不足を補うために,まず大規模に受け入れたのはトルコ人でした。現在は減少傾向にありますが,その代わり別のところからの移民が増加しています。
 東西冷戦の終結,EUの拡大と段階をを経て,ポーランド・ルーマニア・ブルガリア・ハンガリー・旧ユーゴスラビア連邦といった東ヨーロッパからの移民が多いのが特徴です。移民する側にとってドイツはEUの優等生でありますし,経済的に安定している。何よりも近いことが大きい。移民を受け入れる側のドイツは少子高齢化対策の目的があります。ドイツは実は日本に次ぐぐらいヨーロッパでも有数の高齢者の割合が高い国です。
・イギリス
 イギリスでは旧植民地国からの移民が多いのが特徴です。数としては人口の多いインド・パキスタン,近年中国からの移民も増えている。EU離脱を決めた背景には移民の増加があり,今後移民の制限を進めていくもようです。
 イギリスへの入国は他のEU諸国とは違ってかなり厳しい。場合によっては入国拒否されることもあるようです。これはテロを警戒する目的とともに,外国人の不法滞在を取り締まるためのものです。どこに泊まるか,目的は何か,現金の所有額,滞在期間など細かく質問されます。(他のEU国の入国ではパスポートを見せるだけ)
・フランス
 フランスも移民大国の1つです。元大統領サルコジ氏もハンガリー移民の2世です。しかしなんといっても北アフリカからの移民が圧倒的に多い距離的にも近く,歴史的に旧植民地になった国々で,フランス語を話すことができるからです。アルジェリア・モロッコ・チュニジアですね。もと有名なサッカー選手で国民的スターのジメディーヌ=ジダン氏はアルジェリア移民の子で,マルセイユの下町でボールを追いかけていました。彼の得意技はマルセイユ・ルーレットといい,彼にちなんで名づけられたフェイント技でした。
 フランスの移民政策の問題はフランス文化・社会への恭順・適応にあります。特に北アフリカからの移民にはイスラム教徒が多いため,移民たちの中にはそれが抑圧的・差別的に感じて,ちょっとした事件が大きな暴動につながることも多い。

②アメリカ
 アメリカの移民について「ヒスパニック」という言葉がすでに出てきました。特にアメリカへの移民NO.1はメキシコからの移民です。しかも20代から30代の働き盛りの人が多く,彼らがそのままアメリカで出産することでアメリカの出生率を押し上げ,アメリカが先進国の中でも人口増加率が高い原因となっています。

③日本国内の在留外国人数
 下のグラフをみてみましょう。

[グラフ:発展編5-1 データブック・オブ・ザ・ワールド2024より 2022年]

 できれば3位まで順におぼえておいた方がよいでしょう。地域的には2つのグループにわかれます。上位3ヶ国の中国(台湾含む)・韓国(朝鮮)・ベトナム・フィリピンのアジアグループとブラジル(他にペルー)の南米グループです。
 アジアグループは距離的な近さもありますが,歴史的な背景として日本の植民地時代に日本に移り住んだ人やその子孫がそのまま日本に住み続けていることがあります。これが中国・韓国です。さらに東南アジアについては,これまで在日東南アジア人を代表するのがフィリピンでした。しかし近年ベトナム人が急増。これは最新の難関校の入試問題でも問われています。最新の統計では韓国・フィリピンを超えて第2位になっています。今後も要注意です。
 南米グループは逆に,日本から移民として渡った人々の子孫(日系二世・三世)が出稼ぎ労働者として日本に働きに来ている。日系人は,日本における長期滞在が認められており,近年四世にも広げられました。
 下の表は上のグラフ上位の外国人在留地上位5位の都道府県です。上位3位までのアジアグループは東京・大阪・愛知などの三大都市圏に重なりますが,ブラジルは少し様相が違う。参考までに製造品出荷額上位5位までをブラジルの横に付け加えました。在日ブラジル人の多くは製造業・建設業に従事しており,製造業がさかんな東海地方や北関東に多く在留していることがわかります。上位の都道府県にはブラジリアンタウンとよばれる町を形成しているところもあります。富士重工業・三洋電機の工場がある群馬県太田市・大泉町,ヤマハの静岡県浜松市がその代表例です。

順位 外国人在留都府県【法務省 2020年6月】 製造品出荷額
【経済産業省 2020年】
中国 韓国 フィリピン ブラジル
1 東京 大阪 愛知 愛知 愛 知
2 神奈川 東京 東京 静岡 神奈川
3 埼玉 兵庫 神奈川 三重 静岡
4 大阪 愛知 埼玉 群馬 大阪
5 千葉 神奈川 千葉 岐阜 兵 庫


[表:発展編5-2 法務省・経済産業省ホームページより]

 日本の生産年齢人口の減少を見越して,労働力不足に対応するため外国人労働者の長期滞在資格を緩和する動きが出てきました。特定技能とよばれる在留資格がその1つです。資格をとるためには,高度な日本語能力や技能実習で一定以上のスキルを身につけなければなりません。特に人手不足に苦しむ14分野で,その内容は介護,農水産業,建設業がその代表です。訪日外国人旅行者の増加とLCCの事業拡大にともなって航空業界も含まれています。

※海外在留邦人
 逆に海外に在留する日本人はどこの国が多いのでしょうか。[表:発展編5-3 データブック・オブ・ザ・ワールド2024より 2022年]

  在留邦人上位5位
 順位 国  人数(人) 
1 アメリカ  418842
2  中国 102066
3  オーストラリア 94942
4  タイ 78431
5  カナダ 74362

 これは予想通り,アメリカが1位,中国が2位。以下アメリカも含めて英語圏での在留が多いことがわかります。

人口問題

1.出生率
 出生率という場合,二通りの意味があります。「普通出生率」と「合計特殊出生率」です。
①普通出生率
 〔その年の出生数〕÷〔総人口〕×1000で計算します。人口1000人あたり何人生まれたかを示し,単位は「‰(パーミル)」で表します。与えられたグラフに「‰」があれば千分率だと思って下さい。
 同様に死亡率というとき,同じように計算し,出生率が死亡率を上まわっておれば人口は自然増すると考えられます。逆の場合は自然減ということ。出生率から死亡率を差し引くと人口増加率が求まります。「+」だと人口増加,「-」だと人口減少を意味します。

②合計特殊出生率
 一人の女性が一生に生む子どもの数をいいます。仮に死亡率が変わらず,生まれてくる子どもの男女比が1:1だとすると合計特殊出生率が2であれば人口が維持されます。(正確には約2.1)これ以上だと人口は増加,以下だと人口は減少していくことになります。人口爆発がおきているアフリカの国の中には6を超える国があります。先進国ほど低く,世界最低の国は実は韓国で約1(0.98)です。現在の日本の合計特殊出生率は「1.30」(2021)で,世界183位です。この数字は毎年微妙に変化しますが,だいたいの数値をおぼえておきましょう。

 現在の日本の人口ピラミッドを合計特殊出生率と関連づけてみてみましょう。
[グラフ:発展編5-4 日本国勢図会2022/23より 2020年]
 グラフの都合上75歳以上の高齢者はまとめて描かれています。74歳~75歳は太平洋戦争後の1947年から49年に生まれた人たちです。この1940年代後半を「第一次ベビーブーム」といいます。このころの合計特殊出生率は4.5以上もあったそうです。第一次ベビーブーム世代は現在「団塊の世代」ともよばれています。
 第一次ベビーブームが収束し,高度経済成長期を迎えると出生率は2を超えるぐらいで落ち着きます。1966年,干支では丙午(ひのえうま)の年,「丙午の年に生まれた女性は不吉」という昔からの迷信があって,この年の出生率は「1.58」に落ち込みますが,例外的に低い年はこの年だけでした。
 第一次ベビーブーム世代が大人になり,結婚するちょうど25年後の世代,グラフでは45~49歳あたりが再び膨らんでいます。1970年代はじめに「第二次ベビーブーム」がおこります。出生率そのものは「2.1」ぐらいですが,出産する女性の数が多いので一気にその部分が膨らみます。
 では第二次ベビーブーム世代の25年後,グラフでは20~29歳のグラフが三たび膨らみをみせ,第三次ベビーブームがおこっているかというと,そうではありませんね。1995年以降,出生率は「1.5」以下に落ち込んでおり,以後「1.5」を上回ることはありません。
 第二次ベビーブーム世代が大人になるまで,または大人になってから少子化を招くさまざまなことがらがおこりました。1985年,男女雇用機会均等法が制定されると職場の男女差別が法的になくなります。女性の社会進出が促進されました。また教育環境も整備され,「受験戦争」とよばれる高学歴社会に突入します。大学を出てから社会に出て就職する人が多くなった。そのため晩婚化が進みます。
 たとえ結婚年齢が上がったとしても子どもはつくれるのですが,1990年代にはバブルがはじけて不景気になります。この不景気は「失われた10年」とよばれました。失業率の上昇,リストラ,終身雇用制度の崩壊,福祉の不十分など,将来に対する不安が子づくりを消極的にしていったのです。
 少子化によって日本の総人口は2005年をピークに減少に転じていることも頭に入れておきましょう。

③平均寿命
 平均寿命とはその年に生まれた0歳の子どもがあと何年生きれるかの平均余命のことです。だから最新の平均寿命が発表されたからといって,今現在のわたしたちが平均どれだけ生きれるかということではないのであしからず。

【例題1】次の選択肢は中国・日本・エチオピア・イギリスのいずれかの国の平均寿命(2021年)である。イギリスと中国にあてはまるものを選び,それぞれ記号で答えなさい。
 ア.65.0歳   イ.78.2歳   ウ.80.7歳   エ.84.4歳


 これまで通り人口の考え方として発展途上国と先進国のグループにわけて考えましょう。発展途上国ほど平均寿命は短く,先進国ほど長くなる。イギリスと日本は先進国なのでウ・エのいずれか,中国とエジプトは発展途上国なのでア・イのいずれかになります。日本は世界トップクラスの長寿国なので,が日本,がイギリスとなります。中国は途上国の中でも経済発展が著しいのでの方がふさわしい。はエチオピア。
答え:イギリス ウ  中国 イ

※わが国の死因別死亡数の割合
 下のグラフからもわかりますが,現在
日本人の死因第1位は悪性新生物によるものです。いわゆる「ガン」です。この割合は他の死因とは別に一貫して増加傾向にあります。
[グラフ:発展編5-5 日本国勢図会2023/24より 2021年]


2.高齢社会
①高齢社会
 統計の上では,高齢者とは65歳以上を指します。人口に占める65歳以上の高齢者の割合が7%以上になると「高齢化社会」,14%以上だと「高齢社会」といいます。(21%以上になると「超高齢社会」といい,7→14→21と数字は7の倍数になっています。)
 下の統計は各国の年齢を3階級にわけた人口構成です。0歳~14歳を年少(幼年)人口,15歳~64歳を生産年齢人口,65歳以上を老年人口といいます。

[グラフ:発展編5-6 データブックオブ・ザ・ワールド2024より 2021年]
 先進国ほど年少人口の割合が低く,老年人口の割合が高いことがわかります。発展途上国はその逆になっています。高齢社会の代表例として出てくるのが,スウェーデンと日本です。しかしこの2つの国ずいぶん様子が違います。
 スウェーデンでは1890年の段階ですでに老年人口が7.7%で高齢化社会を迎えていました。そこでスウェーデンでは将来の高齢社会に向けた国のあり方を早くから設計していました。つまり社会保障制度・福祉の充実です。
 しかしこれには非常に重い税負担が必要です。税の負担には国民の了承が必要です。納得して税を支払うには税徴収者である政府がしっかりとしていなければなりません。無駄遣いをなくし,汚職をなくし政府が徹底して模範を示し,国民の信頼を得る努力をおこなったため,高福祉・高負担の社会ができあがったのです。スウェーデンでは消費税は25%(ものによっては上下する),国民所得に占める税負担率は70%です。100万円の収入のうち70万円は税にとられることになります。そのかわり教育・福祉・医療にかかるお金はほとんど無償です。高齢社会ではありますが,合計特殊出生率は2に近い。共働きが基本ですが,子育て環境は非常に整っている。このような傾向は北欧全体の傾向であることも頭に入れておいて下さい。

 一方,日本です。日本が高齢化社会に突入したのは1970年のことです。そこからさらに急激に高齢化が進み,2010年には23%で,世界一の高齢社会です。今や4人に1人は高齢者です。この急激な高齢化に社会はついていけてません。少子化も進んでおり,人口は減少に転じています。消費税は10%に上がりましたが,財源の確保としてはまだまだ不十分です。

[グラフ:発展編5-7 World Population Prospects 2020より]
 上のグラフから,日本の高齢社会がいかに急激に進んでいるかがわかります。中国も次にお話する一人っ子政策によってこれから超高齢社会を迎えることになります。

②中国の人口問題
 中国は発展途上国という位置づけにあります。近年,国内総生産(GDP)は日本をぬいて世界2位となりましたが,人口が多いため一人あたりに換算するとまだまだ低い。統計上では第一次産業人口の割合がまだまだ高い。先進国クラブと称されるOECD(経済協力開発機構)に加盟している国を先進国とみなす向きもありますが,中国はこれに加盟していません。
 すると発展途上国である中国では人口増加率が高くなるはずですが,そうはなりません。いわゆる一人っ子政策という政策の成果です。

 中華人民共和国ははじめ国力強化のために人口増加政策をとります。しかしそれはさまざまな問題を引き起こしたため,1979年(1980年ごろでよい)から一人っ子政策をとりました。これは人口を減らす政策ではなく,人口増加を抑制する政策です。目標はだいたい増加率10‰,つまり1%です。だいたいアメリカが現在増加率1%ぐらいです。
 一人っ子政策のポイントは次の通りです。
・子ども一人以下の家庭の優遇(医療・教育など)
・二人以上の家庭では罰則(金)
・少数民族は対象外(現在はホンコン・マカオ住民も対象外)


 1990年代には人口増加率1%は達成されましたが,この政策にはさまざまな問題点がありました。農業が中心である中国の農村では子どもは大切な働き手です。2人目以降の出産が必要になることがあります。そのような場合,2人目以降は出生届を役所に届けないという手段をとります。このような戸籍をもたない子どもは「黒孩子(ヘイハイズ)」とよばれています。黒孩子は子どもとして認められませんから行政サービスを受けることはできません。
 儒教思想が浸透している中国では男子が親の面倒をみるという考えがあります。また男子は肉体労働に長けていますから,男子を欲しがる家庭が多い。妊娠時の検査で女子であったり,生まれた子どもが女の子であった場合,中絶や捨てられたりするのです。このため1980年以降の子どもの男女比がいびつになっています。
 また一人っ子として生まれた子どもは大切に扱われすぎるため,甘やかされ「小皇帝」とよばれて育つことがあります。

 さらに現在ではこの政策のため,生産年齢人口が減少に転じようとしています。これは将来の中国が超高齢社会になることを予測しています。そのため現中国政府は2016年,一人っ子政策の撤廃を決定しました。

【例題2】次のブラフは中国・ナイジェリア・スウェーデン・日本の出生率・死亡率の変化を示している。日本にあてはまるものを選び,記号で答えなさい。

[グラフ:発展編5-8 総務省統計局「世界の統計2020」より]
 のグラフは出生率・死亡率ともに安定しており,ともに10‰(1%)で推移しています。つまり人口増加率(出生率-死亡率)は低く,±0ぐらいです。これは先進国の特徴を示しており,スウェーデンのグラフ。
 のグラフは前半は出生率がが死亡率を大きく上回り,1990年代になって人口増加率(出生率-死亡率)が10‰(1%)ぐらいになっています。これは一人っ子政策の結果がこのころになってから現れたことを示しており,中国のグラフ。またこのままの予測では,2030年ごろから死亡率が出生率を上回り,人口減少時代が訪れることも示しています。
 のグラフは出生率・死亡率ともに他のグラフよりも高く,出生率が死亡率をはるかに上まわっています。これは人口増加率が非常に高い国の特徴です。よって発展途上国のナイジェリアのグラフ。
 のグラフは1975年ぐらいまでは出生率が死亡率を大きく上回っていますが,1980年ごろからスウェーデンのグラフに似てきています。また2005年でちょうど死亡率が出生率を上回り,人口減少傾向を示しています。これが日本のグラフ。
答え:エ

3.日本の人口動態
①高度経済成長期前半(~1960年ごろまで)…三大都市圏への人口集中
 戦後10年もすると日本の経済復興はすすみ,1956年発表の経済白書では「もはや戦後ではない」と書かれていました。高度経済成長の始まりです。このころから東京・大阪・名古屋への人口流入が激しくなり,のちに三大都市圏とよばれるその中枢が形成されていきます。応用編でもお話しましたが,1950年では関東地方・近畿地方・東北地方・九州地方の人口の差はほとんどなく,三大都市圏の人口は全人口の3分の1に過ぎませんでした。
 都市の中心部,行政・企業の本社・商業・飲食店など人と富が集中する中央業務地区を都心といいます。東京を例にとってみれば,皇居・霞ヶ関・永田町・東京駅などがある千代田区・中央区・港区あたりです。東京都の第三次産業人口が多い理由の1つは,この地域の大企業の本社勤務者や政府機関で働く公務員が多いことにあります。
 あまりにも都心部へ人が集中したため,業務機能を周辺部に分散させるしかなくなりました。JR山の手線あたりです。こうして新宿・池袋・渋谷などは副都心として首都機能を分担するようになりました。現在新宿区にある東京都庁もはじめは千代田区にあったんです。
 中心部の業務が集中することで地価が高騰し,生活環境も悪化していきます。人々の生活の場は次第に郊外へと広がっていきます。激しい人口の流入は,市街地・住宅地を無秩序に広げていくことになりました。これをスプロール現象といいます。

②高度経済成長期中期(1960年代前半)…過密・過疎の顕現化・太平洋ベルトの形成
 一方,行政も首都の過渡な過密化とスプロール化に対して,計画的な都市整備に着手します。1950年代後半から「首都圏整備計画」を立て都心部の過密対策だけでなく,周辺7県を含めた総合的な整備・開発をすすめようとしたのです。「7県?」と思った人?そうです。「首都圏」といったこの場合,関東地方1都6県に山梨県を加えて考えます。衛星都市の整備・ニュータウンの建設がそれにあたります。
※関東地方以外に住む人には盲点になっていると思いますが,実は山梨県は東京都に隣接しているのです。
 衛星都市は,もともと独立した都市(町)としてすでに存在していたものです。それが大都市との結びつきを強め,その機能を分担するようになりました。その大きな目的が住宅都市としての機能の場合,これをベッドタウンとよびます。関東圏では八王子市・横浜市・川崎市・相模原市・旧浦和市(現さいたま市)・千葉市などが,近畿圏では堺市・京都市・神戸市・大津市・奈良市,中部圏の岐阜市など都心部周辺の都市だけでなく,周辺の県の都市にまで広がっています。
 ニュータウンは都市ほどの規模はありませんが,市内の丘陵地などを利用して新しく一から建設された計画住宅地です。最初から都市として栄えていたわけではありません。関東では多摩丘陵につくられた多摩ニュータウン,横浜の港北ニュータウン,近畿では千里ニュータウン(大阪府豊中市・吹田市),泉北ニュータウン(大阪府堺市・和泉市)が有名です。
※大ロンドン計画(イギリスの首都圏整備計画)
 イギリスの首都ロンドンでも戦後復興の都市開発が問題となりました。ロンドン都心部の過密とスプロール現象によって無秩序に郊外が拡大します。これを防止するとともに景観の保全,防災の目的のために
グリーンベルトとよばれる緑地地帯を設けました。グリーンベルト内では開発が抑制され,広い範囲で農地・森林・公園がみられます。ロンドンのニュータウンはこのグリーンベルトのさらに外側に建設されています。


ロンドン郊外 グリーンベルト
みわたす限りの緑と牧草地
ロンドンから車で30分も走ればこの風景

同上

 こうして東京・大阪・名古屋を中心に大都市圏が形成されていくわけですが,これらの都市もいつまでも人を受け入れることはできません。土地だけでなく,働き口も飽和状態になってきます。そこで形成されていったのが太平洋ベルトです。これまでの四大工業地帯(京浜・中京・阪神・北九州)の中間に工場と人とを誘致し,工業地域を形成しようというのです。その結果,日本の人口の60%,工業出荷額の70%が太平洋ベルトに集中するようになりました。
 逆に太平洋ベルトから外れている地方の県では人口が減少し,工業も衰退していくことになります。1960年代前半は過密・過疎の問題が浮き彫りになってきた時期です。

③高度経済成長期後期(1960年代後半)…大都市圏の郊外化
 スプロール化,衛星都市,ニュータウンの建設が進むと次第に都心部の人口増加率は低下していきました。東京都の区部では人口増加率が1950~55年で19.2%であったのが,1955~1960年には7.0%に減少,1960年~1965年では-0.6%と増加率がマイナスに転じて,人口が減少しています。東京都全体で増加率がマイナスになり人口減少がみられるのは少し遅れて1975~1980年になってからですが,都・区ともにその後も低い増加率となっています。大阪市,名古屋市も東京からそれぞれ時期は少しずつ遅れてこの現象がみられます。
 下の表は東京23区・大阪市・名古屋市の人口増加率とベッドタウンの例として東京都の八王子市,そして東京都の5年ごとの人口増加率をまとめたものです。オレンジ色の枠の増加率を比較してみましょう。大きく増加率が低下していることがわかります。このとき都道府県別の人口増加率上位5県は,①埼玉県(28.2%),②千葉県(24.6%),③神奈川県(23.5%),④大阪府(14.5%),奈良県(12.6%)となっています。
 このように都市圏の中心部の人口が減少し,郊外都市・周辺の県の人口が増加することをドーナツ化現象といいます。

  三大都市の5年間の人口増加率(増減率)    
東京23区 八王子市 東京都 大阪市 名古屋市
1955 29.42 61.68 28.03 30.22 29.7
1960 19.24 18.73 20.49 18.22 19.09
1965 7.02 31.12 12.24 4.8 21.58
1970 -0.59 22.03 4.96 -5.57 5.2
1975 -2.20 27.24 2.33 -6.76 2.15
1980 -3.41 20.03 -0.47 -4.71 0.39
1985 0.03 10.2 1.82 -0.45 1.36
1990 -2.29 9.3 0.22 -0.47 1.81
1995 -2.40 7.94 -0.69 -0.81 -0.12
2000 2.10 6.49 2.47 -0.14 0.9
2005 4.36 4.47 4.25 1.16 2
2010 5.37 3.58 4.63 1.39 2.2
2015 3.36 -0.44  2.70 1.00 1.4 
2020 3.93  0.31 3.93  2.28 1.59 


[表:発展編5-9 総務省統計局 国政調査より]
④石油危機前後(1970年代)…郊外および地方への人口分散
 高度経済成長期も後半になると第一次ベビーブーム世代の地方からの人口流入は一段落しますが,これによって地方の過疎化が深刻になってきました。その一方で流入した都市では第二次ベビーブームがおこり,郊外化が加速します。地方の過疎と都市圏の過密を解消しようと,行政は積極的に都市から地方への人口逆流を模索します。
 まず都市圏での工場立地の制限し,地方に誘導する政策をとります。これによって地方の製造業の比重が高まり,雇用が増加,都市と地方の所得格差も小さくなってきます。
 それと同時に地方への公共投資も増加します。例えば田中角栄(首相:1972~74)は「日本列島改造論」を唱え,新幹線・高速道路・空港をセットで建設することで地方への人口逆流を狙いました。
 また1973年の石油危機による経済の停滞も大都市からの人口流出の一因となります。また開発・発展一辺倒よりも生活の質重視にライフスタイルが変化しはじめ,「東京砂漠」とまで揶揄された大都会を離れ,地方の住みよい環境を求めて,人々が都会を離れました。
 このように都市圏へ流入した人口が地方へ戻る現象をUターン現象といいます。あるいは故郷まで戻らずとも,交通網の整備によって利便性の増した,故郷にも大都市にも近い都市に定住しようとする動きをJターン現象といいます。1975~80年の人口増加率では「-」を記録したのは東京都だけでした。

⑤バブル景気まで(1980年代~1990年代初め)…大都市圏の人口再流入と再郊外化
 1970年代に発した日本全国の交通網の整備は1980年代から現在にかけて着々と完成していきます。これによって地方では過疎が抑制されたところもあれば,一方で過疎化が進行したところもでてきました。
 高速道路・新幹線・空港といったインフラストラクチャー(生活・生産の基盤となる施設の総称)は全国隅々まで整備することはできません。せいぜい各都道府県の中核都市(庁の所在地など)を結ぶのが精一杯です。
 すると中核都市は交通の利便性から人が集まりますが,そこからの距離が遠ければ遠い場所ぼと生活が不便になります。特に交通の利便性がよく,人が集まりやすいのは,交通網の分岐点です。例えば,仙台は新幹線・高速道路・空港が整備されています。東京に比較的近いため,利便性が高い。東北地方の人々は,仙台から伸びた交通機関を使って仙台に吸い上げられます。
 仙台を「口」,東北地方の各地を「コップ」,交通網を「ストロー」,そしてコップの中の飲み物は「人」にみたてて,このような現象をストロー現象(効果)」といいます。
 仙台とて見方によってはストロー効果の餌食です。仙台だけではありません。東京から放射状に延びた高速道路・新幹線というストローは北関東・東北・甲信越の人口を南関東に吸い上げる効果を見せています。九州では福岡の人口は伸びますが,他県(都市・村)は福岡に吸収されていきます。本州四国連絡橋の開通で四国の活性化を狙いましたが,四国の人口・消費活動は京阪神・岡山・広島に流出してしまいました。
 地方の過疎化解消を目的にした公共交通機関の整備は皮肉にも,末端地方都市(村)の過疎化を進行させ,大都市圏への人口流入を再び引き起こすという側面ももっていたのです。

 1980年代中ごろから輸出産業を中心に日本の景気はよくなってきました。そして迎えたのがバブル景気(1980年代後半~1990年代初め)です。バブル景気については公民の日本経済のところで詳しくやりますが,この景気によって大都市圏の地価が急騰,そして再び人口の郊外化がはじまったのです。歴史は繰り返します。

⑥現在まで(1995年~)…都市の再開発と都心回帰
 バブル景気の崩壊は地価の下落をもたらし,不動産取得が容易になったことで,都心部の人口に増加傾向がみられるようになりました。先に示した人口増加率の表をもう一度みてみましょう。1995~2000年以降,三大都市の人口増加率が回復し,増加率が高くなってきています。
 臨海部の再開発も大きな原因です。都市圏からの工場の撤退,コンテナ化が進んだことによる空き倉庫の増加などで荒廃していた港湾施設を再利用・再開発することで臨海部が活性化していきました。具体的には高層マンション,レジャー施設(遊園地や水族館など),大型ショッピングモールなど。このように再開発された臨海地域をウォーターフロンとよびます。1981年,神戸でポートアイランド博覧会が開催されたことが始まりとなり,現在では東京のお台場,千葉県浦和市の東京ディズニーリゾート,大阪市の天保山(海遊館)・USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)などが有名です。
 また横浜市の横浜みなとみらい21千葉市の幕張新都心もウォーターフロントであるとともに,さいたま新都心とあわせて副都心のさらに外縁部に設けられた新都心として成長を続けています。


【例題3】次の表の①と②の人口推移は,地図中の2つの都市について示したものである。①と②にあてはまる都市を地図から選び,記号で答えなさい。

 最初に都市②をみます。人口が1960年に300万人に達しています。また1970年~2000年にかけて人口が減少していることを考えると,大阪市であることが推測できます。
 次に都市①は2000年の人口が②よりも多い。大阪市よりも人口が多い都市は2つしかありません。東京23区と横浜市です。人口の規模から考えると横浜市が適当。
答え:①オ ②ク

4.過疎
①過疎地域
 過疎の現状についてまとめておきましょう。過密とは逆に,過疎化が進行しやすい地域はまず地方の農村・漁村・離島などです。このような過疎地域は日本の面積の約60%に達します。(総人口のわずか約9%)[全国過疎地域自立促進連盟 過疎地域データバンクより]特に太平洋ベルト外の地域ではその割合が高くなっていますが,過疎地域はほぼ全国的にみられます。東京都でも奥多摩地域や伊豆諸島は過疎に認定されています。
 過密でみたように高度経済成長期に第一次産業から第二次・第三次産業へと産業構造が変化したことから,地方から都市への人口流出が始まります。
 過密・過疎の問題解決のために行政がおこなった地方への公共投資は,地方の中央依存を高め,地方の自立性を失わせたり,交通網の整備はストロー効果をもたらしたり,逆効果になってしまいました。
 人口の減少に加え少子高齢化も追い討ちをかけて,地域社会としての機能を保てない村落もみられます。人口の50%以上が65歳以上の高齢者となってしまった村落を限界集落といいます。さらに進んでいくと廃村につながります。

耕作放棄地
 耕作放棄地とは農地でありながら1年以上何もつくっておらず,耕作する見込みのない農地をいいます。昭和60年(1985年)に13.5万haであったのが,平成22年には42万haの約3倍に,耕作放棄地率は10%をこえてきました。[農林水産省 農業センサス2015より]近年再利用が進んできてはいますので,増加率は低くはなってきていますが,増加傾向にあります。
 2009年,農地法が改正され,個人や農業生産法人でなくても自由に農地を借りることができるようになりました。これによって一般企業やNPOが農地を利用し,農業への新規参入が可能になりました一般企業の参入によって機械化による大規模経営,流通の効率化が可能になります。テレビの通販でやっている青汁とか,大手スーパーでは自社農園から直接野菜などを仕入れて,それ売りにしているところもあります。農作物だけでなく放牧地,太陽光発電のためのソーラーパネルの設置場所への転用を進めるところもあります。
 耕作放棄地の中にはわざとそのままにしているところもあります。都市に居住する非農家が遺産相続として農地を受け取った場合,地価が上がることをみこして手放さないことがあります。このような耕作放棄地を政府は都道府県が強制的に借り上げて,農業する意志のある個人や団体に貸し与える制度を今後強化していくようです。

③都市の中の過疎
 過疎は大都市から遠く離れた地方村落にだけをイメージするとだめです。庁の所在地から離れた地方都市,場合によっては大都市にもみられることがあります。
 都市の過疎は,市の中心地の衰退にみられます。車社会(モータリゼーション)が進行していくと,自動車で買い物にいくスタイルが定着します。農業・林業が衰退したことによって広い農地や材木の集積場が大規模な駐車場を備えた大型のスーパーや娯楽施設に生まれ変わったこともあります。
 これによって路線バスや鉄道の利用者が減少し,駅がある市街地が衰退していくことになりました。かつては鉄道駅やバスターミナルの周辺で賑わった商店街は今や「シャッター通」とよばれるようになっているところもあります。モータリゼーションに対応した商店街の再生には,公共駐車場の完備が不可欠になってきますが,言葉でいうほど簡単ではありません。そこには土地や資金が必要なのですから。
 地元商店街の衰退や公共交通機関の廃線によって,地元住民・高齢者や障害者にとって生活必需品の購入が困難になっていきます。このような人々を「買い物難民(弱者)」といいます。買い物難民に対して地元の商店街は宅配サービスによってキメ細やかな対応で対処していますが,商店街住民の高齢化も進んでおり,駅前市街地・商店街からの人の流出はますます増えるかもしれません。
 このような都市の郊外化,スプロール化を抑えるための試みとしてコンパクトシティという発想があります。都市の規模を小さく保ち,高齢者でも商業,医療,介護などの施設にアクセスし易い。行政サービスを提供する側にとっても効率化することによって無駄な労力やコストがが少なくなります。また車利用が少なくなる分,環境にもやさしい。かつて人口増加や車社会がもたらした都市の郊外化とは反対の,現在の少子高齢化,持続可能な社会に適応した街のあり方です。

シヤッター通り商店街

バイパス沿いの駐車場を完備した店舗
左のシヤッター通りと同じ市内
耕作放棄地と土地活用の立て看板
右の写真の隣側にあり開発がすすんでいる

④地域活性化
 過疎によって衰退した地場産業・地域文化を立て直そうという動きを地域活性化(地域おこし・村おこし)です。行政によるものもあれば,地域住民によるもの,NPOが主催するものなど様々です。1980年代にはじまった,大分県の一村一品運動沖縄県のシマおこし運動がのちの地域振興運動に大きな影響を与えました。
 現在もっともさかんな手法としては地域キャラクター(ユルキャラなど),B級グルメなどを創出しての観光アピールがあります。ただしこれには地域独自の観光資源の開発・再生をしっかりしておかなければなりません。
 観光資源には自然のほか,歴史的建築物・美術館・博物館などの施設の充実,スポーツイベントなどが考えられます。
 行政による地域振興はこれまで資金面での援助が基本でしたが,それは地域の経済的自立を妨げるものでもありました。2006年の商標法改正によって地場産品の名称を「商標」として用いることが認められるようになりました。「地域ブランド」の誕生です。他の地域の同類の商品を排することでその土地で生産されること自体に価値をもたせることができ,産業の育成につながります。
 農村ではグリーンツーリズム(アグリツーリズム)もさかんにおこなわれるようになりました。都市居住者がその余暇に農村・農場を訪れて農業体験をおこない,都市と農村の交流を深めていこうというものです。観光農園・棚田オーナー制度・山村留学などもその一環です。また農協と生産者が協力して設置する農産物直売場,国土交通省により登録される「道の駅」での農産物の販売は,モータリゼーションを活用した地域振興策の1つです。

 このような地域活性化の動きに環境問題も加わり,都市圏では現在の生活スタイル(価値観)を変えるため労働者が地方へ移住しようとする動きがでてきました。Iターン現象といいます。地方出身者が他の地方へ移り住む,あるいは都市出身者が地方へ移り住むことです。
 スローライフ(都市の大量・高速・効率重視の生活に対してゆったりとした暮らし),スローフード(ファストフードに対してその土地の食文化・食材を見直す),地産地消運動などの価値観が生まれてきたのです。移住していく人々はその地で農林水産業に就いたり,伝統産業の後継者として学んだり,第三次産業から転職していくわけですが,実際にその地で生計を立てて成功していくためには,本人の努力はいうまでもなく,地域住民や行政の協力・援助がまだまだ必要なのが現状
 

都市の形

1.政治
①首都と人口最大の都市
 日本の首都は東京都で,東京都とその中心となる東京23区は日本で人口が最も多くなっています。イギリスのロンドン,フランスのパリも同様です。しかし国によっては人口最大の都市=首都ではないところもあります。このような国の首都は国の発展段階で政治機能だけを集めて新しく計画的につくられた都市が多い。いくつか挙げておきましょう。

人口最大の都市が首都でない例

国  首都  人口最大の都市 
アメリカ合衆国  ワシントン(DC)  ニューヨーク 
 ブラジル ブラジリア  サンパウロ 
 オーストラリア キャンベラ  シドニー 
 中国 ペキン  シャンハイ 
 インド デリー  ムンバイ
 トルコ アンカラ  イスタンブール 
 カナダ オタワ  トロント 
 パキスタン  イスラマバード   カラチ  

政令指定都市
 人口50万人以上の大都市で,都道府県がおこなう行政的事務や財政権の多くを委譲することが政令で認められた都市です。正確に把握しようと思えば少しややこしい。いくつかポイントがあります。
 まず「人口50万人以上」であること。しかし「よし政令指定都市に認定してやろう」と認めてもらうためにはもう少し多い「70万人」が現状のラインです。
 ではだれが認めてくれるのかというと内閣です。「政令」は内閣が発する法令です。政令によって「都道府県がやっている仕事の多くをあなたたちがやりなさい」と認めてもらうのです。人口が多く,仕事も増えて,サービスも充実しなければならないから財政もたくさん必要になります。こうして「市」でありながら都道府県と同格の存在となったのが政令指定都市です。統一地方選挙でも政令市の市長と議員は,都道府県の知事・議会と同じ日程でおこなわれます。(普通の市はこのあとの日程で選挙)
 都道府県から委譲される仕事は「多く」ですからすべてではありません。例えば小中学校の教職員の任免権,社会福祉(生活保護・老人福祉・障害者自立支援・母子家庭福祉),都市計画と道路管理(国道・県道),食品衛生などです。委譲が認められていない仕事には農林水産業行政や警察の設置があります。外国のテレビドラマに登場する市警(ロサンゼルスなど)は存在しません。〔都道府県・市町村の仕事については公民で〕
 また「区」とよばれる行政区の設置が認められているのも特徴です。
※政令指定都市より下位の都市として中核市→特例市があり,それぞれ人口規模・都道府県からの委譲権限が小さくなります。

③特別区
 東京都にある23区は,政令指定都市の行政区とは異なり,市町村と同等にあつかわれます。その証拠に区長は住民の直接選挙で選ばれるようになっています。しかし完全に市町村と同一かというとそうではないので,特別地方公共団体とよばれています。
 「特別区」とよばれるもう1つ有名なものにはアメリカの首都「ワシントン」があります。よく「ワシントンDC」といいますね。「DC」とは「District of Columbia」の略で「コロンビア特別区」といいます。「コロンビア」は南北アメリカ大陸の地名によく使われるコロンブスにちなんだ名前で,「特別区」が意味するのはどの州からも独立した地区という意味です。大統領官邸(ホワイトハウス),連邦議会,連邦裁判所があり,首都機能を集中させた計画政治都市です。

地方中枢都市
 東京・大阪・名古屋の三大都市に対して,その他の地方の中心的役割を担う都市です。札幌・仙台・広島・福岡の4都市を指します。人口は,札幌市→福岡市→広島市→仙台市の順に多い。知っておくと便利です。(県別に並べても同じ。北海道→福岡県→広島県→宮城県になる。)

2.文化
①門前町と寺内町
 「門前町」は,「門の前の町」ですから寺社の前に形成された町です。伝統のある大きな寺社には多くの参拝者が訪れますから,その前で商工業者が集まって賑わいました。したがって宗教都市でありながら商業都市としての色が濃い。
 門前町の代表例は何といっても長野の善光寺がよく出ます。その他,千葉県成田(成田山新勝寺),香川県琴平(金刀比羅宮)などたくさんあります。
 一方「寺内町」とは「寺の中の町」です。お寺の広い敷地の中に信者とともに商工業者が生活する。門前町とは正反対です。「寺内町」という場合,この「寺」とは決まっています。浄土真宗(一向宗)のことです。浄土真宗は室町時代以降,一向一揆を起こすなど攻撃的性格をもち,阿弥陀如来をひたすら信仰するさながら一神教のようでした。一神教には排他的なところがありますから,信者は寺の敷地に囲われます。また町は城壁や堀などに囲まれていて,宗教都市でありながら防衛的な性格がみられます。
 寺内町の代表例は,かつて織田信長と抗争した石山本願寺があった大阪市。石山本願寺の防衛能力は秀吉に見込まれ大阪城として再生されました。奈良県橿原市今井町は重要伝統的建築物群保存地区に指定されています。あとは福井県吉崎。浄土真宗中興の祖蓮如が北陸布教の拠点とした場所です。

奈良県橿原市今井町
電線のない通りもある
  今井町の旧家 今井町の周囲にある堀


②宗教都市
 宗教施設や聖地を中心に発達した都市。世界ではエルサレム(イスラエル)メッカ(サウジアラビア)バチカン(イタリア),サンチアゴ・デ・コンポステラ(スペイン),バラナシ(ベナレスとも表記,インド)が典型的。
 日本では神道の三重県伊勢市(伊勢神宮)島根県出雲市(出雲大社)栃木県日光市(日光東照宮)が,その他奈良県天理市(天理教)も知っておきましょう。

③学術都市
 大学や研究機関が中心となって発達した都市。日本では筑波学術研究都市(茨城県つくば市)関西文化学術研究都市(大阪・京都・奈良にまたがる)。世界ではイギリスのオックスフォードアメリカのボストン(マサチューセッツ州)にはハーバード大学があります。(同州のケンブリッジ市にはハーバードのキャンパスのほかマサチューセッツ工科大学もあります)

④観光都市
 観光地として数多くの観光客を迎えている都市です。観光客をひきつけるポイントとしては世界遺産があります。日本では京都・奈良は交通の便からも観光客が多い。
 世界ではパリ・ロンドンといった大都市。地方都市ではスペインのバルセロナ(サグラダ・ファミリア教会が有名)イタリアのベネチア,保養目的ではハワイのホノルルなど。

3.標高2000m以上の首都
 代表的な高山都市は次の通り。

都 市  標 高(m)  国 
 ラパス  4071 ボリビア 
 ラサ  3650  中国チベット自治区
 キト  2812  エクアドル 
 ボゴタ  2548  コロンビア
 アジスアベバ  2324  エチオピア
 メキシコシティ  2306  メキシコ

 上に挙げた国はチベット以外すべて低緯度地帯に位置します。低緯度は本来熱帯ですね。標高の高いところに都市を築いた方が涼しくて過ごしやすい。これらの都市は「常春」の高山気候となっています。(ラサもチベット高原とはいえそれほど厳しい気候ではない。)
 ラパス世界で一番高いところにある首都として知られています。ボリビアの首都は正式(法的に)はスクレという都市なんですが,議会や行政府もラパスにあるので事実上ラパスが首都ということになっています。
 ラサは中国のチベット自治区の中心地(政治)であり,チベット仏教の中心地(宗教)でもあります。
 キトは赤道直下にある都市です。エクアドルという国名自体が「赤道」を意味するスペイン語です。エクアドルの人口最大の都市はキトではなく,グアヤキルという都市です。しかしキトに首都を置いている理由は,この都市が高山気候で過ごしやすいことともに,かつてここに南アメリカ大陸におけるカトリックの拠点が置かれていたからです。実は宗教都市でもある。
 キトと同様ケニアの首都ナイロビもまた赤道直下の都市として知られています。高山都市というほどではありませんが,標高は2000m近くあり,温帯の気候を示し,年間通して過ごしやすい。

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