地理 第6回 農林水産業   応用編1 世界の農業

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世界の各地域の農業

1.熱帯地域の農業
①プランテーション農業
 熱帯地域にはかつて欧米(ヨーロッパ・アメリカ)の植民地となった国が多くあります。そこで欧米企業が資本(お金)や技術を投下して,現地人を安価な労働力として使用し,単一の作物を大量に栽培する。こういう農園をプランテーション,農業をプランテーション農業といいます。主な農作物は基礎編で紹介しましたのでここでは繰り返しませんが,工業原料となったり,嗜好品の原料となる作物が多いのが特徴です。
 これらの作物は地域ごと,国ごとに一種類の作物(単一作物)を大規模集中的に栽培(単一栽培)します。するとその国や地域の経済は,栽培する一種類の作物頼りになってしまいます。しかしわたしたちの社会のモノの値段は需要(買い手)と供給(売り手)の関係で成り立っていますので,もしこのバランスが崩れてしまうと価格が不安定になってしまいます。特に農産物は気候や自然の変化によって収穫量が変動しやすい。
 また何かがきっかけである作物が世界で流行すると需要が伸びて商品価値はあがりますが,流行が去っていくと商品価値が下がる。30年近く前,日本で「ナタデココ」というデザートが大流行しました。ココナッツからつくる歯ごたえのある寒天のような食べ物ですが,食感がよくカロリーも低いので,こぞって日本人がデザートとして食べていました。ココナッツ(ココやし)は東南アジアで栽培されますが,流行が去ると一気に商品価値が下がり,現地の人は負債を抱えることになりました。
 このように国の経済が単一作物に依存することをモノカルチャー経済といいます。非常に不安定な経済ですので,問題解決には農業の多角化(多くの種類の農産物を作る)や産業の工業化(農業だけに頼らない)が必要になってきます。しかしこれにもやはり欧米・日本などの先進国の資金援助はかかせないもので,結局は当事国の努力だけでなく,先進国の企業・消費者の倫理感,モラルも問われることになります。

【例題1】次のグラフはタイとマレーシアの輸出品の変化を示している。グラフ中Xに共通してあてはまる品目を下から選び,記号で答えなさい。またグラフから読み取れる2国の産業の変化を「一次産品」・「工業化」の語句を用いて,簡単に説明しなさい。

[グラフ:応用編6-1 日本国勢図会1978年及び2021/22より]


 ア.衣類   イ.機械類   ウ.小麦   エ.鉄鉱石


 まずはXにあてはまる語句を選びますが,輸出額をよくみましょう。1975年と2020年を比べるとタイで100倍近く,マレーシアで60倍近くのびている。この原因が何かと考えると選択肢から機械類ではないかと予測できます。
 するとあとの説明もそれほど難しくはありません。使用する語句の「一次産品」とは自然の状態のもの・加工されていないもののことで,農産物や鉱産資源だと考えて下さい。グラフ中でいえば「米」・とうもろこし」・「天然ゴム」・「すず」・「木材」・「原油」です。

答え:X=イ  輸出の中心が一次産品から工業製品に変化し,工業化が進んだ。

焼畑農業
 熱帯や太平洋地域でおこなわれる農業です。文字通り森林や野原を焼くのです。焼くといっても森林にそのまま火をつけたらただの放火です。山火事になって大変。ちゃんと焼く範囲は決めておいて,火が広がらないようにその範囲の木々は伐採しておきます。
 焼かれた場所は灰だらけ。そんなことしてどうするの?いやいやこの灰,実は肥料になるのです。植物にとっての三大栄養素とは何か知っていますか?「たんぱく質」・「炭水化物」・「脂質」?それは人間。「リン」・「窒素」・「カリウム」です。灰にはこのカリウムがたくさん含まれている。天然素材の肥料,これが利点の1つ。
 この肥料豊富な土地でタロイモ・ヤムイモ・キャッサバなどの現地の主食となるイモ類を栽培します。そして2・3年すると土地がやせてきますので,その耕地は放棄します。ほったらかしにするのです。ほったらかしにすることでその土地の地力が回復し,そこで新しい森林が形成されます。
 ほったらかしにした方の人間は別の場所に移動してそこでまた土地を焼き払い,農業を始める。こうやって場所を移動しながら何十年もしたら最初に焼いた土地に戻ってくる。するとそこには立派な森林が育っている。そしたらまたそこで「さあ焼くぞ」って・・・。焼く以外の手間・コストはほとんどかからないのも利点です。
 しかしほとんど自然まかせの農業ですので収穫量の方はあまり多くは期待できません。その一方で人口が増加すると,焼畑のスピードだけが増して,土地の回復が追いつかなくなり,森林破壊の原因にもなります。焼畑農業がもっともさかんにおこなわれている国はブラジルであり,ブラジルをはじめとする熱帯林の破壊の原因に焼畑農業があることも頭に入れておきたいところです。
 ちなみに日本でも鎌倉時代・室町時代にかけては草木を焼いた「草木灰」という肥料を利用していました。

2.乾燥帯の農業
オアシス農業
 乾燥帯で水が豊富に得られる場所を「オアシス」といいました。このオアシスでは当然農業が可能です。代表的な作物になつめやしがあります。その果実を干したものは乾燥帯の人々の食料となっています。干し柿のような味がします。

オアシス ナツメヤシの木 ナツメヤシの実

遊牧
 遊牧については基礎編で説明済み。特に西アジアのアラブ地域では遊牧民は「ベドウィン」とよばれており,説明文・問題文の中で使用されていることがあります。

 遊牧の風景

3.ヨーロッパ式農業
①地中海式農業
 非常によく出題される農業の形式です。要点は基礎編で説明済みです。「小麦(穀物)」+「果樹栽培」です。教科書的な説明をすると,地中海性気候の特徴をいかし,乾燥する夏に果樹栽培,比較的雨の多い冬に小麦栽培をおこなう農業です。特に果樹栽培というところを強調しておぼえておいて下さい。中でも乾燥に強い(耐乾性)の樹木を育てる。その実は糖度が高い。(雨が多いと実は水っぽくなる)
 本場はもちろん地中海に面した地域。ヨーロッパ南部の国々。ポルトガルは地中海に面していませんが,地中海性気候なので地中海式農業の範囲です。まちがえないように。北アフリカの一部もそうです。地中海沿岸の代表的な作物はオリーブとぶどうです。(下表:赤色が地中海に面した国)

オリーブの生産 ぶどうの生産
スペイン 35.8 中国 18.9
イタリア 9.8 イタリア 10.5
トルコ 7.5 スペイン 8.7
モロッコ 6.9 アメリカ 7.5
ポルトガル 6.0 フランス 6.9

[表:応用編6-2 データブックオブ・ザ・ワールド2024より 2021年]

 オリーブの木と実

 地中海性気候を示すのは,何も地中海沿岸だけではありません。アメリカの西海岸もそうでした。具体的にカリフォルニア州という州名はおぼえておいて損はありません。カリフォルニア州には「サンキスト」という会社があります。正確には柑橘類(オレンジ・レモン・グレープフルーツなど)の生産販売協同組合。「SUNKIST」と書かれたおいしそうな果汁100%のジュースみたことあるでしょ。「SUNKIST」は「kissed by the sun」の意味。これが一語になって「sunkissed」。さらに変化させて「SUNKIST」。つまり「太陽の恵みを受けた」という意味です。アメリカの西海岸の地中海式農業は特に果樹栽培に重点をおいたものです。

混合農業
 ヨーロッパ由来の農業の1つですが,地中海式農業が原型となっています。(詳しい話は発展編を参照)こっちは「小麦(穀物)」+「家畜」です。ヨーロッパでもアルプス以北は西岸海洋性気候で,夏の乾燥がみられません。したがってアルプス以北では地中海式農業で栽培されるような果樹には不向きで,そのかわり家畜が飼育されるようになりました。穀物栽培と家畜の飼育が組み合わさったので混合農業といいます。
 さらにヨーロッパ北部は気温も涼しくなります。冷涼な気候は乳牛の飼育に向いていました。中でもオランダ・デンマーク・イギリスなどの北部ヨーロッパ諸国では混合農業の家畜の飼育が特化して酪農が発達しています。特にオランダはよく出る国です。

 オランダは国土面積が九州ほどしかありません。その4分の1が海面より低い土地です。この土地はポルダーとよばれ干拓によって人工的につくられた土地なのです。ヨーロッパにはこんな言葉があります。「世界は神がつくったが,オランダはオランダ人がつくった。」それはもうものすごい努力でした。
 排水には風車の動力が利用されました。未だに現役の風車もありますが,現在は観光用に残されたものが多い。

 オランダの風車

 こうして広げられた土地では酪農をはじめ,花の栽培もさかんです。オランダといえばチューリップ。もちろん花そのものも売りにだしますが,ほとんどのチューリップは開花直後に花を落とされ,その球根だけが国内外に販売されます。このように都市向けの野菜・草花を育てる農業を特に園芸農業といいます。
 オランダは小さい国ですが,酪農・園芸農業の発達によって何とアメリカに次ぐ世界第2位の農産物輸出国となっているのです。

4.アメリカの農業
①点差がつく…とうもろこしと大豆を見わけろ!
 アメリカの適地適作図,基本の6作物(または農業)を基礎編で理解するべき点とともに学習しました。応用編ではもう1つ,2つ付け加えることにします。もう一度適地適作の図を使って例題を解いてみましょう。
【例題2】下の地図と資料をみて,あとの問いに答えなさい。
1.地図中から,次の作物を主に生産している地域を選び,記号で答えなさい。
 ①大豆   ②春小麦   ③冬小麦

2.下の資料は小麦・とうもろこし・大豆の総生産量・生産上位国と生産割合を示している。大豆にあてはまるものを選び,記号で答えなさい。また表中のXにあてはまる国名を答えなさい。

A 1162353千t B 765770千t C 371697千t
X 31.7 中国 17.8 ブラジル 36.3
中国 22.5 インド 14.2 X 32.8
ブラジル 7.3 ロシア 9.9 アルゼンチン 12.8
アルゼンチン 5.0 X 5.8 中国 4.4
ウクライナ 3.5 フランス 4.7 インド 3.4

[表:応用編6-3 日本国勢図会2023/24より 2021年]
 まず大豆の産地としてふさわしいのはどこでしょう?これはとうもろこし地帯(コーンベルト)・綿花地帯(コットンベルト)と同じです。植物の栽培につきものなのが連作障害というものです。発展編で詳しく述べることになりますが,ここで簡単にいうと同じ作物をつづけて作ると土地の栄養分が失われて収穫量が落ちるのです。だから昔から人間は知恵をしぼって,連作障害を克服してきました。その1つが輪作というものです。同じ耕地で周期的に作る作物を変えて栽培する。とうもろこしはイネ科の作物で,これに相性のよい作物はマメ科の作物だとされています。そこでアメリカでは伝統的にとうもろこしと大豆の輪作がおこなわれてきました。(綿花地帯も同じ)
 この大豆,もちろん世界中に輸出されていますが,主な利用法は食用油です。そしてその搾りかすが飼料として利用される。

 2の統計表ですが,は中国が1位ですので,小麦の生産量の統計。ではは見わけがつくでしょうか?これは中国ではなく,アメリカが生量上位となる代表的な統計であることをまずおさえておきましょう。しかしその他の国をみると中国・ブラジル・アルゼンチンと同じような国が並んでいます。すると国で判断するのが難しいですね。そこで大豆ととうもろこしの2つを区別する必要がある場合,その生産量に注目して下さい。多い方がとうもろこしです。とうもろこしと大豆ではあくまでもとうもろこしがメインなのです。
 この2つ,普通の易しい問題ではどちらか1つが出題される。どちらか1つならある程度勉強している人なら答えることが可能でしょう。統計においてその数量が判断の決め手になるのは珍しい(けど無くはありません)。2つ同時に出されたらポイントを知らないと正解率は50%,知っておれば100%。確実に点差がつくところです。

 次に小麦。小麦には春に種をまき夏に育てて秋に収穫する春小麦と,秋に種をまき冬に育てて春・初夏に収穫する冬小麦があります。まぁ小麦の性格の違いみたいなもので,人間にもいるでしょ,厳しさを経験しないと大きくなれないタイプの人と厳しさを経験しなくても何となく大きく育つタイプの人。
 とはいっても気温の低い地域で冬の低温にさらして育てるというのも拷問に近いので,冬に育てるためにはある程度暖かいところがよい。というわけで冬小麦は南側(低緯度),夏に育てるのに適している春小麦は北側(高緯度)とうまく気候と栽培作物を合わせています。この辺が広い国土にさまざまな気候をもつアメリカの適地適作の真骨頂。もし迷ったら「春が来た」(春小麦が北)とでもおぼえておきましょう。
 また小麦地帯はアメリカからカナダにまで広がっているイメージをもって適地適作の図をみるようにしましょう。
答え:1.①ウ ②ア ③エ  2.C  X=アメリカ(合衆国)

②アメリカの大規模農業
 アメリカの農業の特徴の1つは,適地適作でした。適した気候・土地・立地条件のもとでの農作物の栽培,ちょっと考えたらわかるけど,これは本当は当たり前のことなんです。何も適さない所で無理につくらなくてもいいじゃないか。それぞれの農作物が育ちやすい環境で育ててあげれば,手間ヒマをあまりかけずとも作物は実る。人件費カットにもつながり,実に合理的です。
 例えば日本の農業の中心である稲作は,実に涙ぐましい努力によって今日までやってきました。土地は狭い,そのままでは使えない土地もある,寒さに弱いし,雑草・害虫の駆除に肥料の散布などなど手間をかけて米は育てられるのです。その点アメリカは楽チンです。
 さらにアメリカの農業を楽チンで生産性の高いものにしているのが,大型機械と化学肥料を使った「大農法」です。トラクター1つとっても日本のトラクターよりずっと立派な体格をしています。まるでメジャーリーガーとプロ野球選手。農業従事者1人あたりの農地面積は185ha,日本は約1.9ha[データブックオブ・ザ・ワールド2023年より 2019年]ですから約100倍,種まき,肥料の散布には小型飛行機を使ったりします。その規模の大きさに唖然とします。
 「適地適作」と「大農法」,これがアメリカの農業の特徴です。

5.南半球の農牧業
 南半球はかつてそのほとんどの国がヨーロッパ諸国(中でもスペイン・イギリス)の植民地となっていました。そのためヨーロッパ式の農業がそのまま現地に持ち込まれます。また土地も広く,アメリカ同様適地適作・大農法による企業的(商業的)な農業が発達しています。

①小麦
 北半球では小麦の生産の基準となるのは北緯40度線でした。南半球はというと,これもだいたい同じように考えて下さい。南緯40度は北緯40度の応用です。地図に引いてみると,目安となるのはオーストラリア大陸南端,タスマニア島という島がありますが,その海峡を通過します。またニュージーランドの2つの島の間,アルゼンチンのブエノスアイレス付近(少し南側)を通ります。アフリカ大陸は通らないというのもポイントです。
 すると南半球の小麦の産地も自然と見えてくるはずです。まずはオーストラリア南部,特に南東部には大きな川があるため大産地となっています。次にアルゼンチン,ラプラタ川下流域の温帯草原をパンパといいますが,このあたり。

 南半球では北半球と季節が逆になりましたね。つまり作物の収穫時期も反対になるわけです。作物を収穫できない時期,品薄となる時期を「端境期(はざかいき)」といいますが,北半球で季節的に収穫できない作物は南半球では収穫できる季節となっているのです。
 例えば北半球で多く栽培される冬小麦は北半球が春の季節(3~5月)に収穫しますが,南半球では春は(9~11月)ですから,この時期に収穫します。このように南半球の小麦をはじめとする農作物は北半球で品薄のころに北半球向けに出荷できるので高値で取引されるという利点をもっています。

②地中海式農業
 南半球にも地中海性気候がありました。南半球の地中海性気候のグラフは非常によく出題されるグラフなので注意が必要です。気温が高い夏に乾燥,気温が低い冬に降水でした。グラフは北半球と逆転するから注意が必要なのです。
 地中海性気候ということは地中海式農業に適しているわけで,夏の果樹栽培がその特徴でした。場所としてはアフリカ大陸南端=南アフリカ共和国南端ケープタウン周辺。チリの中部オーストラリア大陸南岸一帯ですね。チリの輸出品を示すグラフは稀に出題され,鉱業でお話する「銅」のほかに「果実」というのが特徴になってきます。

③牧畜
 オーストラリア,ブラジル,アルゼンチンなど広い国土をもつ国々ではアメリカのような企業的な放牧がおこなわれています。肉牛・豚などおなじみの家畜はいうまでもなく,特にオーストラリアの羊はしっかりとおぼえておきたいところです。
【例題3】次の統計は牛・豚・羊の国別頭数の割合を示している。A~Cの組み合わせとして正しいものを選び,記号で答えなさい。[表:応用編6-4 日本国勢図会2023/24より 2021年]

中国 14.5 ブラジル 14.7 中国 46.1
インド 5.8 インド 12.6 アメリカ 7.6
オーストラリア 5.3 アメリカ 6.1 ブラジル 4.4
ナイジェリア 3.8 エチオピア 4.3 スペイン 3.5

 ア.A 牛   B 豚   C 羊
 イ.A 牛   B 羊   C 豚
 ウ.A 豚   B 牛   C 羊
 エ.A 豚   B 羊   C 牛
 オ.A 羊   B 牛   C 豚
 カ.A 羊   B 豚   C 牛

 どの統計にもよく似た国が登場しますね。この中から特徴を読み取っていきましょう。まず表A・Bのインドに注目してみましょう。インドといえばどんな動物をすぐに思い出しますか。そう「牛」ですね。ヒンドゥー教は牛を神聖視し,牛を大切にする国です。すると表A・Bのいずれかが「牛」ということになります。
 次に表A・Cの1位は中国。中国では「肉」といえば「豚」を意味する。これは古代からそうでした。中国(料理)は豚文化です。肉料理では圧倒的に豚を使った料理が多い。A・Cのいずれかが「豚」ということです。
 そうするとAを決定できれば,B・Cも自動的に決定できそうです。表にはオーストラリアが入っている。オーストラリアの家畜といえば,日本人は「オージービーフ」を思い出しがちですが,問題は「牛肉」ではありません。家畜としてはまずは「羊」を思い出すようにしましょう。表が「羊」。
答え:オ

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