地理 第6回 農林水産業 応用編2 日本の農業
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さまざまな統計からみた日本の農業
1.世界との比較した日本の農業
①散布図に慣れる
散布図というのは,縦軸・横軸に2つの項目の量や大きさをとり,データがあてはまるところに点を打つというグラフの描き方です。読み取らなければならないのは縦軸・横軸の2つの項目ですので注意して下さい。ここで使われる項目は「~あたりの~」という見方で「全体量(数)」ではないので,その辺の考え方も慣れておきましょう。
【例題1】次のグラフ1・2から読み取れる日本の農業の特徴を述べた文として正しいものを,次のア~エから選び,記号で答えなさい。[グラフ:応用編6-5 FAOSTAT ILOSTATより 2019年]
ア.中国に比べ,耕地1haあたりの穀物生産量が少ない。
イ.オーストラリアに比べ,農業従事者1人あたりの耕地面積,耕地1haあたりの農業生産額ともに大きい。
ウ.インドと農業従事者1人あたりの耕地面積,耕地1haあたりの農業生産額ともにほぼ等しい。
エ.アメリカと比べ,耕地1haあたりでは,穀物生産量は少ないが,農業生産額は大きい。
ア.グラフ1の横軸のみ比較→中国より多いので×。
イ.グラフ2の縦軸・横軸の両方を比較→農業従事者一人あたりの耕地面積はオーストラリアより狭いので×。
ウ.グラフ2の縦軸・横軸の両方を比較→農業従事者1あたりの耕地面積はインドとほぼ等しいといえるが,耕地1haあたりの農業生産額はインドより大きいので×。
エ.グラフ1の横軸とグラフ2の縦軸を比較→○。
答え:エ
②グラフ1…土地生産性と労働生産性
グラフは世界の代表的な農業国と日本を比較しています。グラフ1では横軸に単位面積あたりの収穫量,縦軸に農業従事者1人あたりの収穫量がとられています。
単位面積あたりの収穫量は土地生産性とよばれます。一定の土地からどれだけの収穫量が得られるかということ。狭い土地でもたくさんの収穫が得られれば土地生産性は高くなり,広い土地でも多くの収穫が得られないと土地生産性は低くなります。
次にグラフ1の縦軸からは労働生産性がわかります。穀物生産量を農業従事者の数で割ったもので,たくさんの人が農作業に関わると1人あたりの生産量が少なくなり,労働生産性が低くなります。人手が少ないと労働生産性は高くなります。人手が少ないということは効率がよいということです。労働生産性が高いということは効率がよいということです。
※労働生産性の求め方には「生産に関わった人数」だけでなく「労働時間」を考慮する方法などもあります。
☆グラフ1からわかること
日本の農業は土地生産性が高く,労働生産性は低い。
③グラフ2…土地生産性が高く,労働生産性が低い理由
グラフ2の横軸をみると,日本は農業従事者1人あたりの耕地面積が非常に狭いことがわかります。もちろん中国やインドは耕地面積は日本より広いでしょうが,同時に農業従事者も多いので,1人あたりとなると日本と同様非常に狭い。
日本の場合は,そもそも国土が山がちなため平地そのものが少ない。斜面までも農地にしてきました。さらに戦後の農地改革によって小規模農家がたくさん誕生したため,大規模な機械化農業が困難でした。そのため効率のよい農業ができなかった。
またグラフ2の縦軸から1haあたりの農業生産額は他国を圧倒して大きいことがわかります。これは農産物の価格が高いことを意味します。労働生産性の高い農業ができなかった分,日本では狭い農地に人手と資本(お金)をたくさん使って土地生産性を高めるしかなかった。
☆グラフ2からわかること
土地生産性が高く,労働生産性が低いのは,狭い土地に多くの労働力・資本(お金)を投入するため。そのため農産物価格が高くなり,貿易では不利になります。(国際競争力が弱い)土地生産性だけでなく,労働生産性を高めることが日本の農業にとって必要になってきます。
④グラフ3…土地生産性を高める方法1
ではなぜ狭い耕地で多くの収穫を得られるのでしょうか?まず日本の農業の中心が稲作であるという点。稲はそもそも連作(毎年同じ作物を続けて作ること)が可能で,小麦など他の作物より土地生産性が高いといわれています。
作物的特徴のほかに人手と手間(時間など)をかける方法があります。灌漑・排水などの土地の整備から,雑草・害虫の駆除,これらを人の手でおこなうのです。したがって東アジアの伝統的稲作は特に土地生産性が高い。
フランスなどヨーロッパでは連作障害(同じ作物を同じ耕地で作り続けることで収穫量が落ちる)を防ぐためもともと土地生産性はよくありませんでした。農地をいくつかに区切って休耕地をもうけなければならなかったからです。それを豆類やカブなどを栽培(輪作)することで乗り越えてきた結果,今では土地生産性は非常に高くなっています。アメリカももともと土地生産性は低かったんだけれども品種改良や管理のいきとどいた肥料投下によって土地生産性が飛躍的にUPしています。
[グラフ:応用編6-6 FAOSTATより 2019年]
グラフ3の横軸はグラフ1と同じ土地生産性を,縦軸(目盛の数値に注意)には単位面積あたりの農業従事者をとっています。農業人口の多い中国・インドは特別として,日本は先進国の中では単位面積あたりの農業従事者数が多いことがわかります。インドなどは農業従事者の数は多いのですが,土地の生産性を上げるための努力が少なく,自然のままの耕地が多いので土地生産性は低い。
☆グラフ3からわかること
日本の農業は狭い土地に人手をかける労働集約的な農業。※集約とは「集める・集中する」の意。
⑤グラフ4・5…土地生産性を高める方法2
人手(労働力)をさくことだけではありません。フランスやアメリカは単位面積あたりの農業従事者が日本よりずっと少ないのに土地生産性が高い(グラフ3)。理由はお金をかけているからです。お金といっても実際はお金が農作物を作るわけではありません。そのお金を使って機械や肥料を買ったり,施設を充実させたり,高収量品種の改良などの研究費にあてたりするわけです。グラフ4をみてみましょう。
[グラフ:応用編6-7 FAOSTATより 2019年]
グラフ4は横軸は同じ土地生産性を,縦軸には単位面積あたりの肥料消費量を示しています。日本の肥料消費量が他国に比べて非常に高いことがわかります。日本は労働力とともに肥料もたくさん土地に投入している。
中国は土地生産性では日本とそれほど大きく変わりません。人手は日本と桁違いに投入されていますし,肥料の消費量は日本の倍近く。それでは中国と日本の農業の特徴はよく似ているのでしょうか?いえいえ次のグラフが日本と中国の大きな違いを示しています。グラフ5です。
[グラフ:応用編6-8 FAOSTATより 2019年 トラクター台数は2005年]
このグラフでは中国はほとんど農業用トラクターを使用していないことになります。農作業のほとんどを手作業でしなければならないので,多くの人手が必要なのです。
一方,日本はフランス・アメリカほどではないにしろ,他国に比べて台数が非常に多い。アメリカは世界の農業でも学んだように,大型機械を使った大農法をおこなっています。
☆グラフ4・5からわかること
日本の農業は狭い土地に,人手だけでなくお金(資本)を投入する資本集約的な農業。
まとめると
☆世界と比べた日本の農業
・狭い耕地に多くの労働力・時間・肥料・資金をかける集約農業。
・経営規模(農家1戸あたりの耕地面積)が小さい。
・欧米に比べて土地生産性は高いが,労働生産性は低い。
・農産物の価格が高く,国際競争力が弱い。
・労働生産性をいかに高めるかが重要な課題。
⑥グラフ1・2・5からわかること…労働生産性を高めるためには
ここでもう一度グラフ1に戻ります。グラフ1の縦軸は労働生産性を示していました。一目瞭然アメリカ・フランスが労働生産性の高い国です。労働生産性の高いこの2国の特徴をグラフ2・5から考えてみることにします。
グラフ2では農業従事者1人あたりの耕地面積が広い
グラフ5では農業従事者100人あたりのトラクター(農業用機械)の台数が多い。
ということがわかります。
そこで労働生産性を高めるためには農家の経営規模を大きくすることが大切になってきます。経営規模が大きくなると大型機械も使用しやすい。日本のように狭い土地があちこちに分散しているようなところでは機械はその本領を発揮しにくい。
広い土地で大きな機械が存分に威力を発揮すると人手が少なくて済み,労働時間も短縮できる。効率がよくなる。コストが安くなる。農産物価格が安くなる。国際競争力が強くなり,日本産の農作物が国内外でたくさん売れるようになる。農家も利益が増える。
労働生産性の向上によって作業時間が短縮されると,その時間は余暇にまわすことができる。農家の生活の質もよくなります。人手を多くさくアジアの農業では暇なしです。そのわりに利益も少ない。
2.農業従事者
農家は第一次産業のうち農業をおこなう人のことです。農家にはさまざまな分類法があります。
昔ながらの方法としては専業農家・兼業農家という簡単な方法です。私のころはこのように学びました。専業農家とは全収入が農業収入だけという農家,兼業農家とは農業収入以外にも収入がある農家です。
しかし今や農業収入だけで生活することが困難な時代です。専業農家というのはほとんど見られなくなりました。そこで現在は農家を収入と働き手の両面で分類するようになりました。以下はその区別ですが,専業・兼業の区別はまだ出題される場合があるので注意して下さい。
①自給的農家と販売農家
一定以上の耕地面積(30a)で年間に一定以上の収入(50万円)を得ている農家を販売農家,その基準以下なら自給的農家といいます。自給的農家は生産した農作物をほとんど出荷することはなく,文字通り作物は自給のために生産しています。そういうわけで産業として農業をみるとき,「農家」といえばたいてい「販売農家」を指していいます。
②農業従事者の高齢化
[グラフ:応用編6-9 日本国勢図会2024/25より]
上のグラフからわかるのは,年々農家数が減り続けていることです。また現在(2020年),販売農家の半数以上が副業的農家であり,副業的農家とは65歳未満の農業従事者がいない販売農家です。このことは販売農家に占める65歳以上の割合が年々増加し,グラフから現在その多く(70%以上)を占めていることからもわかります。
そこで農家が減少している大きな要因が高齢化と後継者不足であると推測できます。日本の農業の存続には若者の新規就農が望ましいのですが,新規就農者の半数は60歳以上で,定年退職後の就農者が多くを占めています。
3.食料自給率
【例題2】次のグラフは日本の米・小麦・野菜・果実・肉類・大豆の自給率の推移を示している。米と肉類にあたるものを選び,記号で答えなさい。
[グラフ:応用編6-10 日本国勢図会2024/25より]
基礎編でまず自給率の高いものと低いもののグループにわけておぼえておくようにいいました。高いグループは米・野菜,低いグループは小麦・大豆。ア・イのいずれかが米か野菜です。米はほぼ100%自給していますのでアが米,イが野菜です。
自給率の低いオ・カは,小麦か大豆ですが,2つが同時に出題された場合,見わけるのは困難です。これはもう大豆の方が低いとおぼえておくしかありません。(簡単な説明はのちほど②で。ただし2つが同時に出題されることは稀です。)オが小麦,カが大豆ですが,直接問われてはいません。
残りのウ・エのいずれかが果実・肉類になりますが,ここ応用編では肉類の自給率をおぼえておくようにしましょう。だいたい半分,約50%という感覚で。
答え:米 ア 肉類 カ
①農産物輸入自由化と米
貿易の自由化とは輸出入の流れをスムーズにすることです。スムーズにするためには様々な障壁を取り除く必要があります。例えば数量の制限であったり。関税をかけることなどがその障壁にあたります。
関税はモノが国境を越えるときにかかる税で,税の徴収そのものが目的であったり,国内の産業を守るためにかけられる保護関税というものもあります。日本の農産物の場合は国際競争力が弱いことや高度経済成長期以降の農業の衰退ということもあって主に保護関税をとることで国内の農業を守ってきました。
自由化への流れは次のようになります。
米の自給率は1995年まで100%を超えていました。米は日本の基礎的な食料であることから,政府は米の輸入を厳しく制限するとともに農家に財政支援をおこなっていました。
しかし世界の貿易の流れは自由化。世界(特にアメリカ)は日本に対し,農産物の輸入の自由化を再三にわたって求めてきます。そのような流れの中で1991年,牛肉とオレンジの輸入の自由化(輸入量制限の撤廃)が実施されます。【例題2】のグラフで1980年代から1990年代にかけて肉類と果実の自給率が右肩下がりになっている大きな原因です。
それでも米は断固として輸入を拒否していました。ところが1993年,冷夏が日本を襲います。かつて日本は米を余るほど生産してきました。食生活の変化によって米の消費量が減少したのにも関わらず日本の政府は米農家を保護し,米を作ってきたのです。その結果,1970年代に政府は米の生産調整をおこなわざるを得なくなりました。これを「減反(げんたん)政策」といいます。減反政策によって米の在庫は次第に減少していきます。そこへ思いもよらない冷夏の到来。かつては余っていたはずの米がない。とうとう政府は米の緊急輸入を決定します。主な輸入先はタイでした。
ついに開け放たれた重い扉を再び閉じるのは難しかった。1995年,米の輸入禁止を撤廃。ただし交渉によって輸入量・関税率(高関税)には細かい取り決めが設定され,政府管理のもと最低限の輸入量に留めました。このようなしくみをミニマムアクセスといい,ミニマムアクセスによって輸入された米をミニマムアクセス米といいます。1995年以降,米の自給率は100%ではなく,ほぼ100%とおさえておく必要があるのはそのためです。
②その他の作物
野菜はそもそも鮮度が重要ですから自給率も高くほぼ100%で,輸入野菜といっても冷凍などの加工野菜が輸入されるだけでした。しかし1980年代後半から中国から生鮮野菜が輸入されるようになって自給率を少しずつさげてきます。
さて米・小麦などの穀類や大豆などの豆類は野菜や果実とは違って,単位面積あたりの収入が低い作物です。したがって広い土地で大量に生産しなければ利益は薄い。日本は耕地面積が狭い国ですので,主食である稲作用に農地を割けても,小麦や大豆にまで土地を割くことはできません。小麦栽培には日本は少々多湿すぎることもこれまでみてきました。また広い土地があっても日本式の手間暇をかける農業では大変な労力を必要とします。大型機械を導入すればそれも解決できますが,それに見合った収入が得られない。そうすると小麦・大豆は自然とその大半を輸入に頼らざるを得ません。
さらに大豆の自給率が極端に低いのは,大豆はその大半を油に加工するためです。大豆油はサラダ油・マヨネーズ・ドレッシングなんかに使われています。戦後これらの需要が急激に増加したため,大豆の国内生産だけでは全然間に合わなくなった。油用の大豆を除いて,しょうゆ・みそ・納豆・豆腐などの食用大豆だけで考えると自給率はもっと上がるのですが。
もう少し考えて見ましょう。とうもろこしも小麦・大豆と同じような性格をもっており,自給率の低い作物です。とうもろこしの用途は主に飼料です。基礎編で鶏卵は自給率の高い食料であることをおぼえておく必要があるといいました。鶏卵や肉類はそれほど自給率が低いわけではありませんが,飼料作物の自給率は非常に低い。飼料を考慮に入れて肉や卵の自給率を算出したらもっと下がることを頭に入れておいて下さい。
【例題3】次のグラフはみかん・りんご・ぶどうの生産量の推移を示している。みかんにあてはまるものを選び,記号で答えなさい。
[グラフ:応用編6-11 農林水産統計より]
まずAは日本でもっとも生産量が多い果実です。しかし1980年代後半から1990年代前半にかけて生産量が大きく落ちている。この時期オレンジの自由化交渉がおこなわれ,1991年に輸入量制限の撤廃によって自由化されました。その影響を大きく受けているAがみかんです。またみかんは隔年結果が顕著な作物といわれ,一年おきに収穫量が大きく変化することで知られます。グラフが大きくジグザグになっているのがわかるでしょ。豊作と不作が交互に来るんだ。
Bは現在2番目に生産量が多い作物。りんごです。1991年はリンゴ台風とよばれる自然災害にあってりんごの大凶作でした。2011年もりんごの不作の年です。
答え:A
【例題4】外国からの食料の輸入が増加するとどのようなことが問題となるか。簡単に説明しなさい。
答え:食料の自給率が低下する。(長期的に食料が安定供給されるか。輸入食料の安全性。)
☆日本の農業の特色
・多くの労働力や資本を費やす集約農業。食料の国際競争力が弱く,価格が高い。
・農家の高齢化が進んでいる。
・食料自給率が低く,輸入量が増えている。今後も農産物の輸入自由化が進む。
生産性を上げる努力…各地の特色
1.水田単作地帯…北日本の稲作
①なぜ北日本で稲作がさかんか?
世界の農業で学んだように,基本的に米は温暖湿潤な気候を好みます。しかし基礎編の日本の農業では都道府県別で新潟・北海道が,地方別では東北地方や北陸地方で米の生産量が多いと学びました。どちらかというと冷涼なイメージの場所ですね。矛盾しているようにみえます。
※ここでいう北日本とは北海道・東北に北陸も含めています。
弥生時代以降,稲作は北海道を除く全国に広まりましたが,やはり温暖多雨な気候の西日本で稲作はさかんでした。古代の政治の中心が西日本に置かれたり,織田信長などの強い戦国大名はみな豊富な穀倉地帯を背景にもっていました。徳川家康が豊臣秀吉に関東を与えられたとき,家康は愕然としたでしょう。(当時の関東地方は広いだけで荒地そのものだった。)
農業技術もまず近畿・西日本→東日本と広がっていきます。鎌倉時代には近畿地方・西日本で牛馬耕や米と麦の二毛作が始まり,室町時代に全国に普及していきます。
江戸時代の備中ぐわの「備中」は岡山ですし,井原西鶴の『日本永代蔵』(巻五・三「大豆一粒の光り堂」)では大和(奈良)の川端の九助という人物が千歯こき・千石どおし・唐箕の発明者として登場します。(本当の話かどうかは別として,いずれも近畿が発祥ではないかとされる)また江戸時代,高知(当時は土佐)では温暖な気候を利用した二期作がおこなわれており,減反政策がはじまる1970年代まで二期作の代表的な場所でした。高知平野の説明文によく「昔(かつて)は二期作がさかんであったが,現在は野菜の促成栽培がおこなわれている。」といった文が使われます。
そして西廻り航路の終着点大阪が「天下の台所」とよばれたのも現在とは異なり西日本が日本の穀倉であったことを象徴しています。それではなぜ現在は北日本で稲作がさかんになったのでしょう?
②品種改良
北日本の冷涼な地域での稲作は明治時代になってからさかんになりました。欧米の自然科学・土木技術がそれを可能にしたのです。まずは稲そのものの改良です。品種改良には大きく2つ目的があります。まずは自然対策,そして人間対策です。自然対策とは寒さや病害虫に強い品種を作ること。人間対策とは「おいしい米」を作ること。
背に腹は変えられませんから,まずはおいしさよりも寒さにさ強い品種が必要です。明治時代の終わりに発明された「陸羽(りくう)132号」という品種は冷害に強く,東北地方で広く栽培されるようになります。岩手県出身の詩人宮沢賢治もこの品種を積極的に普及に努めます。(『春と修羅 第三集』「あすこの田はねえ」宮沢賢治)
「陸羽132号」の子どもが昭和初期に新潟県で誕生します。日本農業史上燦然と輝く「農林1号」の誕生です。耐寒・美味・多収量,ゆーことなし。この品種は戦前の不景気,冷害,戦争中の食糧不足の中,すばらしい活躍をしてみせました。そしてさらにその子どもこそ何を隠そう「コシヒカリ」なのです。「よっ!米界のサラブレッド」。
※現在おいしい米の品種の代表例が魚沼産コシヒカリ。魚沼は新潟県の日本海の海岸線から内陸に入った山手にあります。おいしい米が育つには夏の気温の寒暖差にあるといいます。植物も夜は休みます。昼間は光合成でエネルギーをせっせと作っているのですが,夜が暑いと稲はゆっくり休むことができず,昼間に作りだしたエネルギーを夜に使ってしまうのです。(夜は光合成できないのでエネルギーは消費するだけ)
夏は昼間暑く,夜が涼しい方がいいのです。だからおいしい米は平野部より山手がよい,豊富できれいな谷水が得られればなおよい。魚沼産コシヒカリはコシヒカリの中でも最高の場所でつくられているのです。
③自然条件
地形的には北陸・東北・北海道には大きな平野が多いこと。その大きな平野は河川がつくりだした水もちがよい,水田に向いた平野です。
気候的には東北・北海道の太平洋側は千島海流の影響を受け,たびたび冷害に悩まされますが,日本海側は暖流の対馬海流の影響で冷害は起こりにくく,冬の積雪のため豊富な雪解け水が春から夏に得られます。(空梅雨などの水不足に悩む必要がない)逆に夏は降水量が太平洋側に比べて少ないので日照時間が長くなり,稲の生育にはプラスです。台風による水害の被害も少ない地域だということもプラス面です。
その一方で北陸・東北・北海道の日本海側は冬の積雪のため,農作業ができません。これらの地域では年に一度,農業は米に集中しておこなわれる一期一毛作が特徴です。米の一期一毛作,これが北日本の日本海側の稲作の特徴の1つで水田単作ともいいます。
④社会的条件
関東から西日本にかけても大きな平野はありますが,同時に大都市がありました。その大都市が戦後都市圏を形成し,さらに高度経済成長期になると太平洋ベルトを形成します。産業構造が農業から工業へと変わっていくと,これまで農業用地として利用されていた大きな平地・平野は人間が居住する空間となり,同時に工場用地に転用されていきます。逆に北日本では工場立地は進まず,農地は農地として残されました。
加えて食糧管理制度という米農家を守るための農業政策が日本にはありました。(この制度については《発展編》)この制度の下,1995年まで政府は米農家を保護してきたのです。そのため米は過剰に生産され,また食生活の変化から米の消費量が減少したため,米は余るという状況になりました。この状況に対し政府は減反政策という米の生産調整をおこない,水田から畑地への転用を進めていきますが,北日本はその自然条件から他の作物への転作は難しかった。これに対して西日本は気候もよく別の作物への転作が進みました。
以上のような理由で,現在北日本が日本の穀倉地帯となったのです。
2.水が多くて…
①日本四大水郷地帯
水に恵まれているところを水郷といいます。最も有名なのが千葉県と茨城県の利根川下流域。他にも日本各地に水郷とよばれる町・村はたくさんあり,水が豊富なので周囲は水田に利用されているところが多い。その一方で水はけが悪く,排水の便がよくないという一面ももっています。
・利根川下流
利根川下流の霞ヶ浦付近。霞ヶ浦は現在日本で2番目に大きい湖です。利根川が形成したこの一帯は関東地方でも最大の稲作地帯です。(関東平野には関東ロームとよばれる火山灰の地層が広がっており,水はけのよい台地が多い。そのため関東平野は畑作地が多い。)
この地域の稲は早場米(はやばまい)として知られ,早まき・早刈りの稲をいいます。水はけが悪いため梅雨時期の増水・冠水,台風時期の洪水対策として,これらの時期が来る前に田植えや稲刈りをしてしまうのです。
・信濃川下流
信濃川下流の越後平野です。越後平野は信濃川だけが形成した平野ではありません。ここが大事なところで越後平野と信濃川はたいていはセットで登場するのですが,もう1つの川は別のところで登場します。その川は阿賀野川という川で,その流域で新潟水俣病が発生した川として登場するのですが,地形や農業で一緒に登場することはありません。それではダメです。越後平野は信濃川と阿賀野川をセットでおぼえておくこと。
大きな川が二本も流れ込んでくるのだから,かつての水はけの悪さはひどいものでした。田んぼどころか沼地といった方がよいでしょう。昔は胸まで浸かって田植えをしていた。ここまで水はけの悪い田んぼを湿田といいます。水が多いのも考え物で,かつての越後平野は米どころとはいいがたかった。
明治時代になって分水路や暗きょ排水といった土木技術を駆使して水はけをよくする土地改良を施し,湿田は乾田(普通の田んぼ)へと変えられていきました。また先に出てきた「農林1号」・「コシヒカリ」なども新潟の研究所で開発され,現在新潟県は日本屈指の米どころとなったのです。実に涙ぐましい努力。
ん?ちょっと待った。ここで説明を終えてはいけません。何と越後平野はただの米どころではありません。水田単作が普通の日本海側で,二毛作もできるようになったんだ。では米の裏作(米を作らない時期に栽培するもう1つの作物)に何を作っているんだろう?
答えはチューリップです。チューリップと出てきたら富山県の砺波(となみ)平野,新潟県の越後平野。(砺波平野は発展レベルですので,これを直接問われることはまずないでしょう。)チューリップは冬のある程度の低温を経験しないと花が咲きません。冬,雪の下に埋まっていると水分を切らすこともないので安心です。
・木曽川下流
木曽川は必ず長良川・揖斐川の3セットで登場しますが,河川名を問われるのはまず木曽川だけだと思って大丈夫です。(心配だという人は3つとも)これらの河川の下流に広がるのは濃尾平野です。濃尾平野については地形のところで出てきましたので詳しくはそこを参照して下さい。輪中とよばれる集落が特徴です。
・筑後川下流
筑後(ちくご)川の下流域は筑紫(つくし)平野です。「筑」の読みが大事ですね。この筑紫平野にはクリークとよばれる灌漑用の水路が網の目のようにはりめぐらされています。高低差の少ない低地が広がる筑紫平野では,田んぼに水を引くのが逆に大変でした。そこで発想の転換。上から下に水をを引くのではなくて,下から上に水を引く。有明海の干満差を利用したのです。(下図参照)
クリークと水門(佐賀県)
・その他
その他にも水郷とよばれる場所は数多くありますが,琵琶湖東岸の近江盆地も有名な米作りがさかんな水郷地帯としておさえておきましょう。近畿地方ではあまり米作りは問われませんが,滋賀県または近江盆地は近畿有数の米どころであるこをおさえておきましょう。
②石狩平野
石狩平野(石狩川)は北海道を代表する水田(単作)地帯ですが,そもそも農業には不向きな低湿地でした。泥炭地(でたんち)とよばれ,湿地や沼沢(しょうたく)の植物が低温のため分解されないままわずかに炭化したものが堆積している,そんな土地です。低湿地の改良には越後平野のような排水という方法がありますが,石狩平野の場合は「客土」という方法で改良します。「客土」とは土を入れる・補充するということです。他所から(つまりお客さん)土をもってくる。
3.水が少なくて・・・
①讃岐平野
瀬戸内海に面する香川県の讃岐平野では,干害に備えて昔からため池が数多くつくられました。現在は吉野川の水を徳島県から引く香川用水がつくられ,讃岐平野を潤しています。
②愛知県東部
愛知県東部の知多半島・渥美半島はその地形(半島)から水を得にくい土地でしたが,現在は三本の用水が引かれています。このうち特に渥美半島(豊川用水)の近郊農業(電照菊・メロン)はよく出題されます。
4.土地が狭くて・・・
①干拓
遠浅の海・湖・干潟を堤防でしきり,閉じ込められた水を排水することで陸地をつくりだす方法です。(下図)英語でポルダーといいます。オランダの干拓地をポルダーといいました。英語とオランダ語はよく似ていますからオランダ語でも干拓地はポルダーです。オランダには「~ダム」(アムステルダム・ロッテルダムなど)とか「~ダイク」という地名がたくさんありますが,「ダム」は日本でも川の水をせき止める施設を指していいます。つまりこれらはみな「堤防」の意味です。ちなみに堤防で囲ったところに土などを入れて陸地をつくりだす方法は「埋め立て」です。
☆日本三大干拓地
・有明海
・児島湾(岡山県)
・八郎潟(秋田県)…八郎潟はかつて日本第2位の面積の湖でした。北緯40度と東経140度が交わる付近であることをおぼえておきましょう。
②棚田
山地は山地であるがゆえに平地は少なく(あたりまえやろ 何いってんだ),ゆえに耕地として利用しにくい。そんなところでも田畑をつくろうという努力です。山の斜面を削って階段状に耕地をつくります。田んぼにしたら棚田(たなだ),畑にしたら段々畑。
棚田は地方によっていろいろな呼び方をします。石川県輪島では「千枚田」,たくさんの田んぼがあるからでしょう。長野県では「田毎(たごと)の月」という詩的な表現をします。月夜,水を張った田んぼ1つ1つにお月さまの姿が映し出される風景からこう呼ぶのでしょう。(実際にはにはすべての田に月が映し出されるわけではありません)
しかしこのような幻想的な光景から思いもよらない過去が長野県更級(さらしな)地方にはありました。「姨(おば)捨て山の伝説です。昭和時代に深沢七郎という人が『楢山節考』という小説の中で描き,映画化されたのが有名ですが(私はこの映画を子どものころ見てショッキングだった)古くは『今昔物語』の中にも書かれています。(柳田國男の『遠野物語』にもある)
この地方ではお年寄りは口べらしのために姨捨山に捨てにいかれたのです。それほどこの地方の食料事情は悪かった。棚田は山地に暮らす人の涙なしには語れない努力の結果なのです。
5.人があまって・・・
農業人口がどんどん減っているのに,農業で人があまるってどういうこと?もちろんこれは現在のことではありません。静岡県のお茶の話。
静岡県の牧ノ原台地は静岡,そして全国最大の茶の産地です。茶の産地の自然条件は基礎編で学びました。牧ノ原台地の東には大井川という川が流れています。江戸時代,この大井川には橋がかけられませんでした。それは幕府(徳川家)が江戸を防衛する目的があったからです。橋どころか渡し舟も禁止されましたから,参勤交代で江戸を行き来する大名にとっては難所の1つだったのです。
ではここを渡る人はどうやって川を越えたのかというと川越人足という人を使ったのです。簡単にいうと人を担いだり籠に乗せて川を渡るのです。今では考えられませんが,これはこれで江戸時代には立派な職業だったのです。
ところが時代がかわり明治になると,明治政府は大井川に橋をかけました。これにより1000人以上もいた川越人足は失業。それだけではありません。明治政府は四民平等という政策をで身分制度を撤廃。困ったのは支配階級の士族でした。江戸幕府最後の将軍徳川慶喜が駿府(現在の静岡市あたり)に隠居すると,多くの士族(かつての武士)が彼に従い静岡に移住してきます。静岡には職の失った人がわんさか集まったのです。
そこで明治政府は,これらの人々に新しい生活の糧を与えます。それが茶の栽培だった。このように静岡が全国一の茶の産地となったのには,明治初めの失業対策が背景にあったのです。
大井川蓬莱橋(静岡県島田市)
6.園芸農業
土地にお金をかける資本集約型の農業に「園芸農業」というのがあります。土地生産性の非常に高い農業で,都市への出荷を目的に野菜や果実・草花を栽培します。世界ではオランダが有名。日本の農業では近郊農業,遠郊農業(都市から遠いので輸送園芸農業ともいう)がそうです。
生産性を高めようと思えば,自然条件さえ無視して作ればよい。どうするかというとビニルハウスなどを施設を作って気温の調整をしたり,照明を調節して花の開花時期を変えたりするのです。このような設備を使用する園芸農業を特に施設園芸農業といいます。
①近郊農業
大都市つまり大消費地の近くでおこなう園芸農業です。輸送費は安くて済むというのが最大の利点ですが,都市近郊であるため土地の値段が高いのが弱点。それだけではありません。土地には固定資産税という地方税(市町村税)がかかります。固定資産税は土地の価値に対してかかりますから,保有する土地の地価が高くなると所有者が支払う税金も高くなります。
そこで政府は「生産緑地」という制度を設けました。本来,農地には住宅地なみの税が課されるのですが,その場所で将来にわたって農業を続けていく意志があることを申請すれば生産緑地として認定され税が安くなるのです。それでも地方と比べれは土地代はずいぶん高くつき,交通手段の発達などで遠郊農業と比べたときの有利さが失われていっているのが現状です。
②促成栽培と施設園芸は違うのか?
さてここで次の質問がよくあります。「促成栽培と施設園芸農業はどうちがうの?」この質問がおこる原因はこうです。促成栽培の説明や問題はたいていこうなっています。「温暖な気候をいかし,ビニルハウスなどで野菜の生育を早め,他の産地より早い時期に出荷する農業。」
ポイントは2つあります。まず促成栽培とは「早く作って,早く出荷する」,抑制栽培とは「遅く作って,遅く出荷する」ことで,この2つは出荷時期(または栽培時期)を問題にしているのだということ。自然状態(露地栽培という)で作物が実り出荷できる時期よりも早ければ促成栽培,遅ければ抑制栽培です。だから自然状態で早く実らせる促成栽培には暖かい気候が向いているし,遅らせる抑制栽培には冷涼な気候が向いている。
混乱が起きるのは次の点,「ビニルハウス」です。みんな「ビニルハウス」は作物を暖かい環境におく施設だと思いこんでいる。もちろんそういう使い方もありますし,暖かい気候の場所でさらにビニルハウスを使って成長を早めることもあります。涼しいところで室温を上げるよりは電気代が安くつきますもんね。でもビニルハウスの目的は次の通りです。
・加温する(これは想像通り)
・湿度や温度上昇を抑える(夏に暑くなりすぎないように)
・光の調節をする
・風雨から作物を守る
・動物や害虫から作物を守る
トマトを例に挙げますと,トマトは一般に夏野菜のように思われていますが一番夏の暑い時期にはよく実りません。自然状態ではトマトは初夏か初秋がよい。そこで温暖な気候やビニルハウスによる加温で初夏より早く春に作れば促成栽培です。初夏の時期に種まきをして,盛夏の時期はビニルハウスで気温の上昇を防ぎながら生育させ,盛夏から秋にかけて出荷すればこのトマトは抑制栽培です。
「十日の菊」という言葉があります。旧暦の9月9日(今では11月初め)は「重陽の節句」といってちょっとしたお祝い事をする日でした。このころは菊の咲く時期ですので「菊の節句」ともいいます。「十日の菊」とは9月9日の重陽のお祝いを過ぎた十日では菊はもう必要のないものなので,転じて「無用の物」という意味で使われます。三島由紀夫の小説にもこの言葉を題にとった作品(二・二六事件が題材)があり,「無用の物」という意味で使われています。(同様の言い回しに「六日の菖蒲(あやめ)」)
1日過ぎても無用とされる菊ですが,1日どころか日本の国花だけあって,事あるごとに菊は日本文化の必需品となっています。お正月やお彼岸など。ところが普通の菊は秋にしか咲かない。そこでこの菊,栽培方法によっては季節を無視できるんです。
電照菊といいます。菊は日照時間が短くなってきたのを感じとって花を咲かせる用意をします。だから秋に咲くんだ。そこで菊を拷問にかけてやる。ビニルハウスの中で日が短くなってくる8月ごろから夜に照明をたくことで花を咲かせる準備をさせないようにする。こうして開花時期を遅らせるのです。つまりこれもビニルハウスを使った抑制栽培の1つです。
☆施設園芸農業と促成・抑制栽培
・ビニルハウスなどの栽培施設を利用した農業を施設園芸農業といい,栽培方法の問題。
・促成栽培や抑制栽培は,生育や出荷時期が早いか遅いかの栽培時期の問題。
7.おぼえておきたいその他の作物
①豆類・いも類
らっかせい |
% |
|
ばれいしょ |
% |
千葉 |
85.1 |
北海道 |
82 |
|
|
鹿児島 |
3 |
|
長崎 |
3 |
[表:応用編6-12 らっかせい:日本国勢図会2024/25より 2022年 ばれいしょ(春植え):農林水産統計 令和5年度]
らっかせい(落花生)とは,ピーナッツ(その種子)のことです。豆類は北海道が得意とする作物でしたが,らっかせいはその例外としておぼえておくべき作物です。千葉県が生産量1位。
ばしれいしょ(じゃがいも)はすでに基礎編で出てきましたが,ここで注目してほしいのは長崎県です。ばれいしょの生産量1位は北海道で他を圧倒しています。これはばれいしょが冷涼な気候を好む作物で,そもそも南米のアンデス地方が原産の作物だった。ちなみにアンデスとは「段々畑」の意味です。
そのばれいしょをヨーロッパにもたらしたのはこの地域を支配したスペイン人,その後日本には江戸幕府が成立(1603年)する前後にオランダ人によって伝えられました。当時オランダはインドネシアを植民地にしていましたから,ジャワ島(ジャカルタまたはジャヤカルタ)から伝えられた芋という意味で「じゃがいも」と名づけられたのです。
さて江戸時代,日本はオランダ人と長崎で貿易をおこなっていました。つまり長崎はばれいしょの伝来の地というわけです。その後気候の適正からいってばれいしょの産地は北海道が中心になりましたが,長崎では「伝来の地」という誇りから暖地性の品種の開発に力を入れます。長崎で生産されているばしれいしょは暖かい気候に適したものなのです。「デジマ」という品種がありますが,どこかで聞いたことがあるでしょ。そう江戸時代の長崎の貿易港の名です。
長崎のばれいしょは稀に問われることがあります。また北海道が生産量1位の農産物が多い中で「長崎」がヒントになって「ばれしいしょ」をあてられることもありますので,ぜひおぼえておいてほしい。
②野菜・果実
いちご |
% |
|
らっきょう |
% |
|
日本なし |
% |
|
西洋なし |
% |
|
かき |
% |
|
うめ |
% |
栃木 |
15.1 |
鳥取 |
84.3 |
千葉 |
9.8 |
山形 |
68.2 |
和歌山 |
19.4 |
和歌山 |
66.7 |
福岡 |
10.4 |
鹿児島 |
9.4 |
茨城 |
9.1 |
新潟 |
7.9 |
奈良 |
13.7 |
群馬 |
3.8 |
熊本 |
7.3 |
宮崎 |
|
栃木 |
8.7 |
青森 |
7.0 |
福岡 |
8.2 |
山梨 |
1.8 |
[表:応用編6-13 日本国勢図会2024/25より 2022年 らっきょうは農林水産省地域特産物生産状況より2020年]
いちごは統計上果物ではありません。草に成るのは野菜,木に成るのが果物です。(バナナは木ではありません。あれはでっかい草です。正確にいうと果物でなく,野菜です。)
いちごは典型的な施設園芸農業の作物です。また促成栽培の作物でもあります。ビニルハウスを使用した促成栽培。いちごの需要がもっとも増えるのはいつかわかりますか?クリスマスです。そうクリスマスケーキ。しかしいちごの本来の収穫時期は初夏の5~6月です。そのためハウス栽培によって本来の出荷時期より早め,初冬には出荷する必要があるのです。
現在最も生産量の多いいちごの品種は「とちおとめ」,その名からわかるように栃木県の品種。この「とちおとめ」には福岡県の「とよのか」の血が混ざっています。西日本を代表する品種です。福岡県のいちご栽培は高知県・宮崎県の促成栽培と同様,1970年代以降の米の減反政策による転作の成功例です。
らっきょうといえば鳥取。らっきょうは鳥取砂丘の名産です。砂丘地帯なので灌漑設備としてスプリンクラーという水をまく機械が導入されています。スプリンクラーとは「水をまく・散布する(sprinkle)」という意味です。
「梨」には「日本なし」のほかに「西洋なし」があります。日本なしは上位3県が関東地方であるのが特徴。品種では「ラ・フランス」が有名ですね,あのいびつな形をした果物。「おうとう」とともに山形県の特産品であることをおぼえておきましょう。
かき・うめはともに和歌山が生産量1位。和歌山はみかん・かき・うめの3つの生産量が1位。
【例題5】次の表は西洋なし・ぶどう・もも・りんご,いずれかの果実の生産高上位5位の都道府県を示している。表中のa~cにあてはまる都道府県名を答えなさい。またAにあてはまる果実名を答えなさい。
|
A |
B |
C |
D |
1位 |
a |
c |
山形 |
a |
2位 |
福島 |
b |
新潟 |
b |
3位 |
b |
岩手 |
c |
岡山 |
4位 |
山形 |
山形 |
b |
山形 |
5位 |
和歌山 |
福島 |
福島 |
福岡 |
[表:応用編6-14 日本国勢図会2024/25より 2022年]
A・Dはともにaが1位の作物。よってぶどう・もものいずれかであり,同時にaが山梨県であることがわかる。したがってBはりんごで1位のcは青森県,2位のbは長野県。Cは山形県が1位なので西洋なし。ぶどうとももの区別は2位の福島で,福島が2位ならもも。あるいは岡山マスカット(「おかやますかっと」のしりとり)のぶどうでもよい。自分がおぼえられるお気に入りの方法で。
答え:a 山梨県 b 長野県 c 青森県 A もも
③工芸作物
きく(2022) |
% |
|
いぐさ(2023) |
% |
|
オリーブ(2021) |
% |
愛知 |
36 |
熊本 |
100 |
香川 |
90 |
[表:応用編6-15 農林水産統計より]
愛知県のきくの栽培はすでに説明済み。いぐさは何の材料がわかりますか?畳・ござの材料です。九州地方の二毛作で米の裏作として栽培される作物です。オリーブは地中海式農業の代表的な作物ですが,夏に乾燥する瀬戸内海の気候が地中海によく似ているのでしょう。香川県,特に小豆島(しょうどしま)の特産品です。いずれも生産量1位の県をおぼえておけばよい。
④酪農
乳用牛 |
% |
|
肉用牛 |
% |
|
※参考:生乳生産量 |
% |
北海道 |
62.1 |
北海道 |
21.0 |
北海道 |
56.6 |
栃木 |
4.0 |
鹿児島 |
13.3 |
栃木 |
4.7 |
熊本 |
3.1 |
宮崎 |
9.7 |
熊本 |
3.5 |
岩手 |
2.7 |
熊本 |
5.2 |
群馬 |
2.7 |
群馬 |
2.5 |
岩手 |
3.4 |
岩手 |
2.7 |
[表:応用編6-16 日本国勢図会2024/25より 2022年 生乳は農林水産統計より 2022年]
基礎編の乳牛・肉牛の統計に再び登場してもらいましょう。牛の飼育頭数は乳用牛・肉用牛ともに北海道が全国1位でした。
ではここで乳用牛の統計に注目してもらいます。北海道を相手にすると話にならないので,もう北海道は無視します。統計に登場する県のうち,岩手県が最初の相手です。
岩手県は東北地方の太平洋側に位置しますね。東北地方の太平洋側,岩手県あたりまでは沖合いを寒流の千島海流が流れていますので夏の気温が上がりにくい。やませという北東風が冷害をもたらすということはこれまで何度か出てきました。したがって同じ緯度でありながら暖流(対馬海流)の影響を受ける日本海側の秋田県と違って稲作にはあまり向いていない。そのかわり涼しい気候や特に北上高地などの高地の気候を利用した農業が発達しました。それが酪農です。乳牛は涼しい気候に適していましたね。「小岩井農場」というのが有名です。明治時代にこの農場を開いた小野さん・岩崎さん・井上さんの頭文字をとって名づけられた。スーパーでも小岩井農場のバターやチーズ・ヨーグルトなんかが置いてあるのを見たことありませんか?入試問題で岩手県をあてる問題では,決まって乳牛(乳製品)の項目が表の中にあります。「岩手県は東北一の酪農県」とおさえておきましょう。
君たちの住んでいる場所にもよりますが,小岩井の名のついたバターやチーズ・ヨーグルトはスーパーの店頭でみかけますが,牛乳はめったにお目にかかりません。売っているとしてもそのスーパーで東北(岩手)の特産品特売会などのイベントがあるときで,お値段も非常に高い。
牛乳はけっこうみなさんよく飲みますね。しかもあれは生ものです。つまり傷みやすい。日持ちがしない。牛乳は当然乳牛から搾り取るんですが,搾り取った乳を生乳といいます。生乳を新鮮さを保ちながら輸送するのには大変なコストがかかります。だから生乳を牛乳として加工して出荷するには大都市に近い方が有利です。だから乳牛の統計上位の県には栃木・群馬といった大都市に近い県が登場する。参考までに生乳の生産量の統計もつけましたので見てみると千葉県までも上位に入っている。これが肉用牛と比べたときの乳用牛の特徴です。土地・気候という自然条件のほかに酪農は大都市の近くが立地に適している。世界でもヨーロッパ北部,アメリカ五大湖周辺,オーストラリア南部といった大酪農地帯は自然条件とともに大都市の近郊であったことを思い出して下さい。
さて北海道をこのまま無視したままだとかわいそうなので,最後に北海道の酪農についても触れておきましょう。
戦後の1950年代から北海道の根釧台地で,大規模機械を導入した農場開拓がはじまりました。実験的な農場はパイロットファームとよばれ,これまで寒く広いだけで特に何にも利用できなかった不毛の地が一大酪農地に変身しました。もちろん一筋縄ではいかない苦労もありました。
【例題5】次の日本地図A~Hに色をつけた都道府県は,日本の主な農産物の生産量・家畜の飼育頭数の1位~5位までの都道府県である。A~Hにあてはまるものをあとから選び,記号で答えなさい。
[図:応用編6-17 日本国勢図会2024/25より2022年]
ア.肉用牛 イ.乳用牛 ウ.ぶどう エ.みかん オ.日本なし
カ.もも キ.米 ク.茶 ケ.りんご コ.ばれいしょ
Aは山梨県に塗られているのがポイント。ぶとうかももであるが,ももなら福島県が上位に入っているはず。したがってぶどうの地図。
Bは和歌山県・愛媛県に塗られているからみかん。(暖性の果物)
Cは静岡県・鹿児島県・三重県に塗られているので茶。茶の統計は3位まで順におぼえること。
Dは青森県・長野県に塗られているのでりんご。(寒性の果物)
E~Gはすべて北海道に塗られています。そしてE・Gは岩手県にも塗られているため,家畜であることがわかります。Eはその他の県が南九州に集中しているため肉牛。Gは東京近郊の栃木・群馬が塗られていることから乳牛(酪農の立地条件は大都市近郊)。
Fは新潟県や秋田県・山形県といった日本海側の水田単作地帯に塗られているため米。
Hは関東3県が塗られており,北海道には塗られていないので日本なし。(北海道+東京周辺県なら乳用牛の可能性あり)
選択肢コのばしれいしょ(じゃがいも)なら北海道とともに長崎県が塗られなければならない。
答え:A ウ B エ C ク D ケ E ア F キ G イ H オ
☆統計は順位をおぼえることが大切なのではなく,農産物の自然的・社会的特性を理解すべし!
【例題6】次の資料は関東・東北・北海道・北陸・九州各地方の農業生産額の割合を示している。関東と北陸にあてはまるものを選び,記号で答えなさい。(関東には山梨・長野を含む)
[グラフ:応用編6-18 日本国勢図会2024/25より 2022年]
ア・オは畜産の割合が高いことから,北海道・九州のいずれかが考えられます。アは野菜の割合も高いことからアは九州,オは北海道。
イは野菜の割合が高いことから近郊農業(長野・群馬の抑制栽培も)がさかんな関東。
ウ・エは米の割合が高いので東北もしくは北陸。2つを比べると東北はその他(果実)の割合が高いので,ウが水田率が高い北陸,エが東北と考えられる。
答え:関東 イ 北陸 ウ
【例題7】次の資料は北海道と東北6県の農業生産額に占める米・野菜・畜産の割合である。
1.秋田県をグラフから選び,記号で答えなさい。
2.青森や山形はその他の生産の割合が高いが,これは主に何の生産(栽培)がさかんだからか。
3.飼育頭数または収穫量において,北海道が全国1位でないものを次から2つ選び,記号で答えなさい。
ア.乳牛 イ.豚 ウ.ばれいしょ エ.大豆 オ.ピーマン
[グラフ:応用編6-19 データブック オブ・ザ・ワールド2024より 2022年]
1.日本海側の秋田県は北陸同様水田単作地帯で水田率が高い。
2.同じ日本海に面した県でも青森や山形は果実の生産もさかんである。
答え:1.ウ 2.果実 3.イ・オ
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