地理 第6回 農林水産業   応用編3 水産業・林業

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さまざまな統計からみた水産業・林業

1.現在の水産業と林業
①自給率

[グラフ:応用編6-20 水産庁水産白書・林野庁林業白書より]
 上のグラフから農産物と同様,魚介類・木材とも自給率は低下の一途をたどっていることがわかります。現在魚介類の自給率は約60%,木材が約30%で推移しています。木材の自給率は近年は上昇傾向にあります。
 数字はもちろんおぼえてもかまいませんが,これらは農産物(食料)の自給率とあわせて出題されることが多いので,他の食料自給率で学んだことベースに消去法で解くことをまず考えて下さい。

②漁業・林業従事者

[グラフ:応用編6-21 日本国勢図会2023/24より]
 これも農業と同じ。従事者数は年々減少しています。したがって第一次産業従事者数の減少がここでも確認されたわけです。また65歳以上の割合も農業と同様,高くなっていることもおさえておきましょう。

③現在の水産業
 魚介類の自給率の背景には,1970年代の遠洋漁業の縮小,1980年代の円高による輸入の増大(円高になると輸入品価格が下がる),消費者の魚ばなれによる国内消費量の減少などがあります。
【例題】次の各問いに答えなさい。
1.次のグラフ中のA~Dのうち,魚介類の輸入量を示すものを選び,記号で答えなさい。

[グラフ:応用編6-22 農林水産省漁業・養殖業生産統計調査 水産庁水産白書より]
2.次の資料中,X・Y・Zにあてはまる水産物・国名の組み合わせとして正しいものをあとから選び,記号で答えなさい。なおZ国については下の説明文を参考にすること。

世界の漁獲量(2020)
日本の主要水産物輸入高(2022)
百万円 日本のYの輸入先(金額ベース 2021)
14.7 サケ・マス 278329 インド 26.7
インドネシア 7.6 マグロ 226347 17.4
ペルー 6.2 221286 インドネシア 15.3
インド 6.0 1943608
 Z国:第二次世界大戦後,植民地支配からの独立の過程で南北に分裂し,1960年代にはアメリカを巻き込んでの戦争となった。

[表:応用編6-23 日本国勢図会2023/24より]

ア.X:中国    Y:カニ    Z:大韓民国
イ.X:中国    Y:エビ    Z:大韓民国
ウ.X:中国    Y:エビ    Z:ベトナム
エ.X:インド   Y:カニ    Z:ベトナム
オ.X:インド   Y:カニ    Z:大韓民国
カ.X:インド   Y:エビ    Z:ベトナム


1.基礎編でみた「漁業種類別漁獲量の推移」のグラフに「魚介類の輸入量」が加わったグラフです。魚介類の輸入量が長期的にみて増加していることがわかっていれば解ける問題です。
2.世界の漁獲量№1の国は現在中国がダントツです。かつてはペルーや日本も世界一だったこともあるんだよ。
 魚介類の輸入量が増加している中で,特にエビは輸入先が問われる問題が多いので,ベトナム・インドネシア・タイなど東南アジア諸国を思い出せるようにしておきましょう。これらのエビは,てんぷらやフライなど一般的によく食べられるエビで,日本産のものはほとんどないといってもいいでしょう。一度スーパーにいってみてみましょう。「ブラックタイガー」とか「バナメイ」という種類のエビがそうです。
 問題にあるZ国の説明では,「南北に分裂」だけで朝鮮半島に飛びついてはいけません。「1960年代のアメリカを巻き込んでの戦争」とはベトナム戦争のことです。

答え:1.D  2.ウ

④現在の林業
 木材の自給率低下の背景には,高度経済成長があります。この時期,住宅需要が増加したのに対し,国産木材の供給が追いつきませんでした。そこで白羽の矢が立ったのが外国産の木材でした。上(①)のグラフでも1960年代の自給率の下がり方がもっとも急です。その後,これは漁業と同じですが,1980年代の円高によって外材価格がさらに下がったことも自給率の低下に拍車をかけました。
 林業従事者の減少も国産材の供給量を減らす要因です。日本の国土の3分の2は森林ですが,間伐など整備がおこなわれなければ,木材として利用できません。

[グラフ:応用編6-24 日本国勢図会2023/24より 2021年]
 上のグラフは木材の使われ方についてです。まずおもしろいことに気づいた人はいませんか?木材の単位に「㎥」という体積の単位が使われていることです。これは表や資料を解く問題で木材をあてるときにヒントになることがありますので知っておいて損はありません。
 木材の用途ですが,もっともすぐ思いつくのは家屋などの建築用材です。これはグラフ中の「製材用」です。注目してほしいのは「パルプ・チップ用」という現在もっとも使用率の高い項目です。パルプとは紙をつくるときにできる中間生産物です。このパルプをつくるための用材が「木材チップ」で木材を細かいチップ状にしたしたものです。紙は木材を原料としていることをおぼえておきましょう。

2.主な魚介類の産地
①主な漁港と魚種[表:応用編6-25 日本国勢図会2023/24ほかより]

順位 水揚量【2010】 千t 水揚量【2021】 千t 魚種別漁獲量【2021】 千t
1 焼津 218 銚子 280 イワシ類 943
2 銚子 214 釧路 205 サバ類 443
3 石巻 129 焼津 148 カツオ類 252
4 八戸 119 石巻 96 タラ類 231
5 118 91 マグロ類 149

 漁港の水揚量は年によって順位が変動しやすいので,順位はあまり気にする必要はありません。
 最初に2020年の水揚量の統計(中央)をみます。まずおぼえておきたい漁港は静岡県の焼津です。ここはカツオ・マグロの水揚量が多いので遠洋漁業の基地です。
 次に千葉県の銚子。比較的わかりやすいところに位置しているのでおぼえておきたいのですが,茨城県ではないので注意。
 北海道の釧路オホーツク海・ベーリング海でカニ・サケ・タラなどを獲る北洋漁業。これは遠洋漁業です。釧路の場所をおぼえておきたいのですが,イジワルな問題では根室と並べて記号をふってあることもあるので,釧路と根室は位置関係に注意しながらセットでおぼえておくのがよいでしょう。
 東北の漁港に関しては石巻(いしのまき)のほかに2010年の統計(左)にみられる八戸(はちのへ)・気仙沼(けせんぬま)・宮古(みやこ)といった名前が例に出されることがあるので,名前を聞いて東北の漁港であることを思い出せるようにだけはしておきましょう。東北地方の太平洋岸はリアス海岸となっており,天然の良港に恵まれ,沖合は親潮と黒潮がぶつかる潮目となっていて世界有数の好漁場となっています。しかし2011年の東日本大震災で被災し,漁業も大きな影響を受けましたが近年,漁獲量は戻りつつあります。
 
最後に鳥取県の境。ここまでおぼえておけばほぼ完璧でしょう。「境」といった場合は港の名前です。市でいうと「境港(さかいみなと)市」。少しややこしいね。日本海側では唯一おぼえておいたほうがよい港です。主な漁場は日本海ですので,沖合漁業が中心。

 魚種別でみると,イワシ類がもっとも獲れる魚だということがわかればよい。安くでおいしい庶民の味方です。

②養殖[表:応用編6-26 日本国勢図会2023/24より 2021年]

ホタテ貝 カキ類 真珠 ウナギ
青森 48 広島 58 長崎 41 鹿児島 42
北海道 46 宮城 14 愛媛 34 愛知 26

 まずホタテ貝北海道。特にサロマ湖は下の地図で確認しておきましょう。
 カキは何といっても広島が1位。2位は宮城。両県を説明する文章に「カキの養殖」がよくつかわれます。
 真珠は順位はあまり重要ではありませんが,長崎・愛媛,そして三重と続きます。理解しておきたいのはすべてリアス海岸をもつ県であること。特に三重県の志摩半島はリアス海岸,そして真珠の養殖地としておぼえておくべき地形名です。問題によっては「英虞湾(あごわん)」という名前がみられることもあります。
 ウナギは近年,養殖する稚魚がとれなくなっているため,市場価格が文字通りうなぎ昇りになってきています。それでもスーパーでは国産といえば鹿児島県産のウナギが並べられていますね。火山灰地のミネラル豊富な地下水がウナギの養殖に適しています。
 また愛知県は実はうなぎ所。名古屋名物「ひつまぶし」は有名ですね,愛知県のみなさん。また上の統計上ではみられませんが,静岡県の浜名湖はウナギの産地として地形名をおさえておきましょう。

③内水面漁業
 河川や湖沼で淡水の魚介類を獲る漁業をいいます。まずは滋賀県。滋賀県が内陸県であることがわかっていない人がいます。しかし滋賀県には立派な湖がある。琵琶湖です。琵琶湖を代表する魚はアユです。(本当は琵琶湖は霞ヶ浦とともに漁業法上では実は海面漁業に指定されていますが,ここでは淡水という意味で内水面に入れておきます。)
 もう1つ内水面漁業としておさえておきたいのが,島根県のシジミです。宍道湖(しんじこ)という湖をおぼえておきたい。

③栽培漁業
 栽培漁業の簡単な説明は基礎編でやりました。「放流」という言葉がキーワードでしたね。この「放流」,どこでもいいわけではありません。放流する場所は魚が育ちやすい環境でないとダメです。そのため例えばえさがたくさんある所,魚の隠れる場所がある複雑な地形がよい。こういう魚介類の成長にとって好条件を備えた場所(漁礁)を人工的に作ってやる。つまり人間の手で手入れをした海を畑に例えると,稚魚は種子になる。だからこそ「栽培漁業」っていうんだ。牧畜に例えるとこのような海は「海洋牧場」とよばれることもある。


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