地理 第6回 農林水産業 発展編3 水産業・林業
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水産業
1.世界の漁場
①北西ヨーロッパ(大西洋北東岸)
北海や北大西洋を中心とした漁場です。国でいうとイギリス・アイスランド・ノルウェーの漁場。暖流の北大西洋海流と寒流の東グリーンランド海流の潮目があります。特に北海にはバンク(ドッガーバンク・グレートフィッシャーバンク)とよばれる大陸棚の中でも浅いところが点在し,よい漁場となっています。かつてイギリスとアイルランドとの間でこの地域の漁業権をめぐってタラ戦争とよばれるまでの紛争がおこりました。
北海の漁業ではじまった漁法がトロール漁業です。大陸棚ならではの底引き網漁業で,大きな網を船で引いて,根こそぎとってしまう漁法です。大量の魚を獲ることができますが,水産資源保護の観点から問題になっています。日本では東シナ海(黄海)の大陸棚でおこなわれ,底引きですからカレイやヒラメなどの底モノがよくとれます。
ノルウェーは日本に負けないくらいの漁業国です。フィヨルドは天然の良港や養殖場となり,ノルウェー産のサーモン(サケ)の養殖は同国の重要な輸出産業となっています。日本と同様,捕鯨国であることもおぼえておきましょう。
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イギリスの庶民の味フィッシュ&チップス
たら(cod)を使うのが一般的 |
②北アメリカ北東岸(北西大西洋)
アメリカからカナダにかけての大西洋岸。中心地はニューファンドランド島付近です。このあたりは暖流のメキシコ湾流と寒流のラブラドル海流の潮目となっています。大陸棚・バンクも広がっています。
③南アメリカ西岸(南東太平洋)
ペルーからチリ沖にかけての漁場です。南アメリカ大陸西岸を沿うように寒流のペルー海流(フンボルト海流)が北上します。この海流にのるアンチョビー(カタクチイワシ)を獲ります。
アンチョビーは日本ではお正月のゴマメや煮干などに利用される食用魚ですが,大きくなりすぎるとおいしくありません。そこでアンチョビーの大半はすりつぶして魚粉(フィッシュミール)にします。この魚粉は肥料や飼料に加工されるのです。
アンチョビーが大量に獲れていた1960年代,ペルーは世界一の漁獲高をほこりましたが,近年はエルニーニョ現象(ペルー沖の海水温の上昇)のため,寒流にのってやってくるアンチョビーの量が激減し,その地位は下がっていきました。
またチリを代表する魚といえば,ノルウェーと同じサーモンです。お刺身用のチリ産サーモンはよくスーパーでみかけますね。
2.日本の漁業の衰退
①マイワシの減少
[グラフ:発展編6-10 農林水産省海面漁業生産統計調査より]
近年の漁獲量の減少の要因の1つとしてマイワシの漁獲量の減少があげられます。基礎編・応用編でみてきた漁業種類別漁獲量の推移にマイワシの漁獲量の推移を重ねてみますと,日本の漁業の中心である沖合漁業のグラフとほぼ形が一致します。グラフのピークは1988年で,このときのマイワシの漁獲量は全漁獲量の約40%でした。
マイワシが獲れなくなった原因はまだはっきりとわかっていませんが,海洋環境の変化説や周期的に増減するという説,世界的な捕鯨禁止によって数が増えた鯨が食べてしまったなどさまざまな要因があるようです。
マイワシのほか,日本近海で極端に数を減らした魚がいます。お正月お節料理によくでる「数の子」,あれは何の卵か知ってますか?ニシンの卵です。春になるとニシンは北海道沿岸に姿をみせます。かつて北海道ではニシン漁がさかんだったのです。江戸時代には北前船で大阪に運ばれ,蝦夷地の特産物として取引されました。京都の名物にニシンそばというのがあります。冷凍技術がなかった当時,乾燥させたニシンをもどして甘露煮にしたものをそばにトッピングしたのです。
このニシン,江戸時代から昭和初期まで獲れに獲れて,漁師の中には「ニシン御殿」を建てるものもいました。しかし戦後しばらくして漁獲量が激減。それまでの乱獲が原因でしたが,その後も個体数の回復がみられず,現在甘露煮用ニシンや数の子はほとんどアメリカ産・カナダ産です。わたしがまだ小さい子どものころには『石狩挽歌』という歌謡曲が流行りました。(リアルタイムでの記憶はありません)「♪~ あれからニシンはどこへいったやら オタモイ岬のニシン御殿も 今はさびれてオンボロロ ~♪」という歌詞。
日本海でよく獲れる魚にハタハタという魚がいます。秋田県の名物の1つで,大変美味です。乱獲によって急激に漁獲量が減ったため,その数を回復させるために1992年から1995年まで漁を全面禁止にしました。その結果,個体数の回復がみられるようになったそうです。現在でも青森・秋田・山形・新潟で漁獲する量とともに大きさも制限しています。
最近ではウナギの数が減っており,うなぎの市場価格が年々上がっています。天然ものはいうまでもなく,養殖ウナギも減っている。ウナギの養殖は稚魚を捕まえてきて,稚魚を成長させて出荷するのですが,その稚魚がなかなか獲れないようです。これも乱獲や海洋環境の変化などが要因とされますが,何せウナギについてはその生態がよくわからないそうです。特にウナギの産卵場所を突き止めたのがごく最近のこと,マリアナ海溝あたりだとわかったのです。さらに生まれてから何を食べて稚魚にまで成長するかもわからない。ウナギの完全養殖の試みはまだはじまったばかりです。今後に期待しましょう。
②石油危機
1970年代におこった2度の石油危機は,特に遠洋漁業に大打撃を与えました。大型漁船の燃料である重油の値段が上がったためです。魚の値段が上がる一方で,肉類の輸入自由化が進んだことで1980年代から消費者の魚離れが加速します。今では魚を食べられないっていう生徒が私のクラスでも毎年何人か必ずいます。
③漁業規制
・200海里
昔から各国の領海・漁業水域の範囲をめぐって論争は繰り返されてきましたが,1977年,アメリカ・ソ連が200海里漁業専管水域を設定したことに対抗して,日本もをこれを設けました。これによって大打撃を受けたのは,遠洋漁業(特に北洋漁業)であることはいうまでもありません。これまで世界中のさまざまな地域にいって漁をおこなっていた日本の漁船が世界中から締め出されるようになったのです。
この漁業専管水域が国際法上条文化されたのが1982年の国連海洋法条約です。この中では沿岸国の漁業権だけでなく海底資源の優先的な利用権を認めていましたから,200海里は排他的経済水域(単に経済水域)と表現されるようになりました。
・母川国主義
サケ・マスといった魚は産卵・成長は川でおこない,海で回遊して生まれた川(母川)に再び産卵に戻るという習性がある。したがってサケ・マス漁の優先的な権利はその母川国にあるという考えを母川国主義といいます。アメリカ・ソ連がそれまでの漁業水域を領海の12海里から200海里に拡大した背景には,日本の漁船(北洋漁業)が大陸の母川で生まれたサケ・マスを大量に漁獲していることにあった。
200海里漁業専管水域が設定されたあとの1980年代,日本の遠洋漁業(北洋漁業)は漁場の重点を公海に移します。上のグラフの遠洋漁業の漁獲量が1980年代は横ばいで推移しているのはそのためです。しかし母川国主義は公海にまでおよぶという考え方から,公海での漁業も制限され,あとは衰退の一途をたどることになったのです。
・漁業協定
200海里が設定されると相手国の中での漁船の操業には許可・入漁料・漁獲制限が必要になります。また周辺国と200海里が重なる場合も当然でてきます。このような場合,二国間またはそれ以上との間で漁業協定というものを結びます。アメリカとの間だったら日米漁業協定,ロシアであれば日ロ漁業協定,カナダとなら日加漁業協定,韓国となら日韓漁業協定です。日本・アメリカ・カナダの三国間では北太平洋漁業条約というのもあります。
・捕鯨
クジラ漁を伝統にもつ国はたくさんあります。クジラは肉は食用,油はろうそくなどの灯用,骨やヒゲは工芸品として利用されていました。あのアメリカでさえ,日本にペリーを派遣したのは捕鯨船の燃料・水の供給地として日本を開国させようとしたからでした。
しかし現在では動物保護,環境保護を第一の理由にクジラ漁は禁止されるようになっています。国際的な機関は国際捕鯨取締委員会(IWC)といいます。世界の多くの国は現在,反捕鯨の立場をとっています。アメリカに本拠を置く,通称「シーシェパード」とよばれる海洋環境保護団体のようないきすぎた捕鯨妨害行為をおこなう団体も現れています。
ただしここで規制されているのは,「商業捕鯨」といって鯨を商用として利用するための捕鯨です。現在,日本でもおこなわれているのは「調査捕鯨」といって環境・生態調査のための捕鯨です。もちろん捕鯨頭数は厳しく規制されており,日本はこの枠の中で調査捕鯨をおこなっていますが,調査後に市場に出したりしているため各国の非難を受けており,さらなる規制を求められています。
また世界の一部の民族の伝統文化を保護する観点から「生存捕鯨」という形で特別に認められているところがあります。例えば北極圏・グリーンランドのイヌイットがそうです。日本の沿岸小型捕鯨やイルカの追込漁(和歌山県大地町が有名)もこれにあたるというのが日本の立場です。
日本と同じように食鯨文化をもち,商業捕鯨賛成の立場をとる国の代表例がノルウェー(他にアイスランド)であることもおぼえておきましょう。
・マグロ
鯨ほどではありませんが,近年マグロの漁獲規制も強くなってきています。世界中に広まった日本食ブーム(寿司など)もあって世界中でマグロの乱獲が目立つようになりました。といっても世界中で獲れるマグロのほとんどは日本が消費しているのですが。
マグロの漁獲規制はマグロが獲れる海域ごとに関係国が保存・管理の組織を設立しています。全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC),大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT),インド洋まぐろ類委員会(IOTC),みなみまぐろ保存委員会(CCSBT),中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)があり,日本はこのすべてに加盟しています。最近では中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)で2015年から太平洋クロマグロの未成魚の漁獲枠の半減が決定しました。
ワシントン条約の締約国会議でも大西洋・地中海クロマグロの国際取引禁止が提案され,2010年当時これは否決に終わったこともあります。
そんな中最近,近畿大学が卵から成魚まで育てて出荷するマグロの完全養殖に成功し,「近大マグロ」として一部市場に出しているようですが,一般家庭に普及するまでもう少し時間がかかりそうです。
④海洋汚染
高度経済成長期,都市化・工業化が進むと生活・工場排水が河川・湖沼・沿岸を汚染していきました。排水に含まれる有害物質は公害病の原因に,窒素・リンといった物質は淡水・海水の富栄養化の原因となりました。富栄養化した水ではプランクトンが異常発生し,沿岸では赤潮(湖沼ではアオコ)が発生します。赤潮は魚類を窒息死させ,沿岸漁業や養殖業に大きな被害を与えます。
赤潮の原因は富栄養化だけでなく,沿岸の護岸工事(埋め立てや干拓)による干潟の消失も原因です。河川から流れむ栄養分は河口の干潟の生物(貝類など)によって吸収・分解され,海への過剰な流入が防がれていたのです。
こういった問題が一気に吹き出た現場があります。長崎県の諫早湾(いさはや)です。諫早湾では耕地拡大のための干拓事業が進められていました。そもそもこの干拓地は水田として期待されていましたが,米の生産調整がはじまったため畑地として利用されることになりました。1997年,堤防の水門は閉じられ,水門の内側は干拓地と農業のための貯水池(淡水化された)となります。
水門が閉じられたことで干潟がもつ水質浄化作用が失われ,内側ではアオコ,外側では赤潮が発生するようになったのです。有明海では貝の死滅,ノリの色落ちなどが問題となりました。現在も水門の開門に対して賛成派・反対派がそれぞれの立場で運動をおこなっています。
沿岸の護岸工事はまた,魚の沿岸への回遊の減少にもつながります。魚はその魚にあった適水温があり,それぞれの魚は適水温を求めて移動します。また普段は深いところに住む魚が浅い岸辺に寄ってきて産卵することもあります。これを魚の回遊といいますが,護岸工事がこういった魚の産卵場所を壊してしまうことになったり,工場や発電所の温水排水は沿岸の水温を変えてしまうからです。
⑤輸入量の増加
水産物の貿易(2021年) |
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日本の魚介類輸入先(2022年) |
15279億円 |
輸出 |
177483(百万ドル) |
|
輸入 |
174965(百万ドル) |
中国 |
21447 |
アメリカ |
30171 |
チリ |
12.2(%) |
ノルウェー |
13886 |
中国 |
17665 |
アメリカ |
10.9 |
ベトナム |
9087 |
日本 |
14369 |
ロシア |
10.2 |
インド |
7551 |
スペイン |
8870 |
中国 |
9.9 |
エクアドル |
7147 |
フランス |
7817 |
ノルウェー |
8.5 |
[表:発展編6-11 データブック オブ・ザ・ワールド2024より]
日本の魚介類の輸入量が年々増加していることはすでにみました。世界に目を向けると,輸出では中国が1位で,漁獲量とあわせて二冠です。
輸入では日本がアメリカと並んで世界最大の魚介類輸入国の1つとなっているのがわかります。またアメリカでは健康のために肉より魚を食べる日本的食文化が少しずつ浸透してきまして,輸入量を伸ばしています。魚介類の消費量の増加はアメリカだけでなく,世界中の傾向となっています。
次に日本の魚介類の輸入先をみてみましょう。かつて遠洋漁業の柱の1つとして日本の漁業を支えた北洋漁業。その場所では現在ロシアの漁船が操業しておりまして,日本はカニ類・サケ類を大量に輸入しています。
チリからはチリ産のサーモン(サケ類)が,アメリカからはタラ,ベトナムからはエビ類が多く輸入されています。
そのほか,マグロの輸入先1位は台湾で,台湾では黒潮にのって北上する前のマグロを獲り,日本に輸出しているのです。日本の南方での台湾・中国のマグロの漁獲量の増加も日本近海で獲れるマグロが減った原因の1つです。
その他タコの輸入先としてモーリタニア・モロッコというアフリカの国もおぼえておきましょう。
⑥漁業従事者の減少
農林水産業の従事者の減少,高齢化はこれまでみてきた通りです。さらに漁業従事者は農業従事者に比べ圧倒的に男性の割合が多いことが特徴です。約80%が男性従事者です。
3.魚種と漁港
【例題1】次のA~Eは八戸港・銚子港・焼津港・境港・枕崎港のいずれかの水揚の多い魚種とその水揚量を示したものである。八戸港と枕崎港にあたるものをそれぞれ選び,記号で答えなさい。
A |
水揚量(t) |
|
B |
水揚量(t) |
|
C |
水揚量(t) |
|
D |
水揚量(t) |
|
E |
水揚量(t) |
マイワシ |
180106 |
マイワシ |
10810 |
カツオ類 |
73366 |
マイワシ |
38841 |
カツオ類 |
42382 |
サバ類 |
30634 |
スケトウダラ |
4922 |
マグロ類 |
23694 |
サバ類 |
18040 |
サバ類 |
9934 |
ブリ |
5777 |
スルメイカ |
3950 |
サバ類 |
6870 |
マアジ |
11375 |
マグロ類 |
4906 |
マグロ類 |
4068 |
サバ類 |
20574922 |
マイワシ |
3164 |
ブリ |
10975 |
ムロアジ |
2866 |
[表:発展編6-12 農林水産省水産物流調査 2022年]
暖流魚の代表例は,カツオ・マグロ・アジ・サバ・イワシです。マグロにはクロマグロ・ミナミマグロ・メバチ・キハダなど種類があります。若いマグロはヨコワといったりもします。暖流魚ですから,日本では日本海流(黒潮),対馬海流にのって回遊しますので,流域が漁場となります。
C・Eはカツオ・マグロが多いことから,遠洋漁業の港,焼津・枕崎(鹿児島県薩摩半島の南端)が浮かびます。水揚量が多いのは焼津のほうが多い《応用編》のでCが焼津港,Eが枕崎港となるでしょう。
ブリやイカも暖流魚ですが,漁獲量の多い海域は限定されます。ブリは日本海側南部まで,イカは北海道・青森など日本の北部が多い。イカは日本の南部で産卵・孵化し,暖流に乗って成長,北海道・青森あたりで食べごろとなります。そして再び産卵のために南下する。したがってBはスルメイカから八戸。
A・Dの漁港は日本の食卓によくのぼる魚が多く,沖合漁業の漁港です。銚子港あるいは境港のいずれかです。漁獲量が多いことからAが銚子港となります。
イカあたりの知識が難しいかな。後は鹿児島県の枕崎港も少し難関。基本的にイワシ・アジ・サバなどの比較では解きにくいので,もう一歩進んだ知識をもっておきましょう。
答え:八戸港 B 枕崎港 E
林業
1.日本の森林
①民有林と国有林
[グラフ:発展編6-13 日本国勢図会2024/25より 2022年]
日本の森林の3割を占める国有林とは文字通り国が保護・管理する森林です。主な行政機関は農林水産省の林野庁です。国の林野事業は今はほとんどなくなってしまった国営企業(国有林野事業)の1つです。
国有林の6割は国立公園であり,4割は保安林(あとで説明)です。また国有林の大半は東北地方・北海道に集中しています。
民有林とは都道府県が所有する公有林,企業や個人が所有する私有林をいいます。
②天然林と人工林
[グラフ:発展編6-14 日本国勢図会2024/25より 2022年]
人工林は木材の生産を目的として人間の手で育てられ手入れされた森林です。一方天然林はもちろん自然の森林ですが,森林の成立に人の手が入っていない森林をいいます。天然林を人が利用することもあります。成立過程にも利用目的としてもまったく人の手が入らない天然林を特に原生林といいます。
③針葉樹と広葉樹
針葉樹は温帯から冷帯にかけてよく生育する樹木です。冷帯では広範囲に針葉樹林帯が形成され,これをロシアではタイガとよびました。国有林は北日本に多いので,国有林に占める針葉樹林の割合も多くなる。
また針葉樹は成長が速く,まっすぐに伸びるためまっすぐな木材をとることができます。また軽くて柔らかく加工がしやすいのも特徴です。つまり木材としての利用価値が高い。というわけで民有林・人工林としてもよく植えられるんだ。
代表例はスギです。日本でもっとも多いのがこの木です。ほかにヒノキ・マツ・ヒバなどがある。特にヒノキは木の王者といってもよく,非常に材質がいい。加工後も光沢があり,香りもよく耐久性もある。
法隆寺は世界最古の木造建築物(再建説もあり)ですが,ヒノキで建てられているんだな。一流の舞台に立つことを「檜(ヒノキ)舞台を踏む」というのも能楽の舞台がヒノキで造られていたところからです。
またヒバは別名「アスナロ」といもいいます。「アスナロ」は「明日,なろう」。ヒバは何になりたいかというとヒノキになりたいのです。ヒノキには劣りますが,ヒバも立派な針葉樹です。
春日大社(奈良市)の桧皮葺(ひわだぶき)の屋根 ヒノキの皮を何枚も重ねる |
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広葉樹は熱帯から温帯にかけて生育する樹木で,代表例はナラ・カシ,そしてブナです。サクラやカエデも。
☆日本の森林
・民有林>国有林
・天然林>人工林
・針葉樹>広葉樹
2.日本の森林の分布
①三大美林
日本三大美林とよばれるものには天然の三大美林と人工の三大美林があります。その分布は下図のようになりますが,河川が書かれているものは河川とともにおぼえましょう。かつて山で伐採された木材は,筏に組まれて河川に流し河口に集められました。そこから日本各地に運ばれていったためです。林業の発達には河川はかかせないものだった。また人工の三大美林はすべて針葉樹であることも注目しておきましょう。
②その他
他には,縄文杉で有名な屋久島のスギ,白神山地のブナの原生林はともに世界自然遺産に登録されています。また北海道にはエゾマツ・トドマツといったマツが多いことも頭に入れておきましょう。
3.森林保護
①森林の多面的機能
・水源涵養(かんよう)機能
森林は降水が地中に浸透する過程で不純物をろ過する働きがあります。浄化された水は河川となって生物や私たちの生活を潤してくれます。
また森林が広がる土壌では降水は速くしみ込み,ゆっくりと河川に流れ出します。スポンジをイメージすればよいでしょう。このように雨水を蓄え(貯水),洪水を防ぐ役割があることから森林は「緑のダム」とよばれています。
・土砂災害防止機能
森林の下層は落葉・落枝やさまざまな植物でおおわれています。このため土壌侵食が防止されます。樹木をはじめさまざまな植物の網の目のように根がはった土壌はしっかりと保持され,土砂崩れが起こりにくい。
・地球環境保全機能
森林が二酸化炭素を吸収することで地球温暖化防止に役立っています。
・生物多様性保全機能
いうまでもありません。
※漁民の森づくり
森林と直接関係のない漁業関係者が植林する運動が増えています。上でみたように山に森が育たなければ,土砂の流出がおこり,海の環境まで破壊します。また植林によって土壌の栄養分が増えれば,海に流れ出る栄養も豊富になりプランクトンも増え,魚介類がよく育つというわけです。
昔の漁民は森と漁は密接な関係にあるとして森を大切にしてきました。遠く山中にまで植林はしませんでしたが,海岸線や小島の森は「魚(うお)つき林」として伝統的に伐採を控えてきたのです。
※マングローブ
マングローブは海の森林です。熱帯・亜熱帯の汽水域に生育する森林で,そこでは水生生物の多様な生態系がみられます。日本では沖縄などでみられ,特に西表(イリオモテ)島では広大なマングローブが形成されています。今,東南アジア各地でこのマングローブが激減しています。その最も大きな原因の1つが「エビの養殖池」です。日本は食するエビのほとんどが東南アジア諸国から輸入したものであることを「漁業」で確認しました。それは現地の自然の犠牲上に成り立っていたのです。
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西表島のマングローブ |
②防災林
さまざまな災害の防止や災害の被害を緩和させることを目的とした森林を防災林といいます。防風林・防砂林・防潮林・防雪林などなど挙げていくときりがありませんが,いくつか代表例をおぼえておきましょう。また防災林については地形図の読み取りでよく出題されることも頭に入れておきましょう。
・防風林
海岸地域では潮風から生活空間を守るために防風林を植えることがあります。海水浴場で海岸道路と砂浜を隔てる木々があるのをみたことがありませんか?塩害に強いマツなどの針葉樹が使われることが多いです。
関東平野では冬の北西季節風「からっ風」から民家を守るため「屋敷森」とよばれる防風林がみられます。屋敷森は富山県の砺波平野(カイニョとよばれる)も有名ですが,これは防雪林としての役割も兼ねています。他には仙台平野ではイグネ,出雲平野の築地松(ついじまつ)などが知られます。
・防砂林
鳥取砂丘などでは砂の移動をおさえ,農地を守るための防砂林がみられます。この防砂林はもちろん防風林としての役割もあります。
・保安林
森林の多面的機能を守るために農林水産大臣や都道府県知事が指定して伐採・開発を制限する森林を保安林といいます。防災林としての役割はもちろんのこと「魚つき保安林」も指定されています。
3.木材貿易
【例題2】日本は木材の8割を輸入に依存している。下の表のように木材輸入量の中ではチップ(木材チップ)の輸入量がきわめて多い。
1.チップの主な利用目的は何ですか。
2.その目的のため,かつては丸太で供給されていたが,供給形態が丸太からチップに変化した理由を簡単に説明しなさい。
|
輸入量(千㎥) |
丸太 |
2016 |
製材 |
3334 |
合板 |
1402 |
チップ |
11115 |
[表:発展編6-16 林野庁 木材輸入実績より 2023年]
日本では木材チップの90%以上が製紙用パルプの原料として使用されます。チップとは木材を細か砕いたもので,針葉樹・広葉樹問わずつくることができます。かつては丸太を輸入して,日本国内で製紙用にチップに加工していましたが,現在はチップそのものを輸入するようになっています。
これは輸出国が森林保護のために丸太の輸出規制をとったこと。また途上国では林業の発展(無秩序な伐採の禁止や製材技術の発展)や雇用の面から丸太を輸出するより付加価値の高いチップを輸出した方がよいからです。
輸入国からみれば,丸太のまま輸入することは輸入船にすきまができすぎ,コストが高くつきます。
答え:1.紙の原料 2.木材輸出国は天然林保護のため、人工林を造成しその木材を伐採してチップに加工してから輸出するようになったから。また大型専用船で安価な輸送が可能であるから。
①木材の輸入先
次のグラフは木材の輸入先を1988年から2008年までの5年ごとと現在の上位7ヶ国を並べたものです。
1988年
|
% |
|
1993年 |
% |
|
1998年 |
% |
|
2003年 |
% |
|
2008年 |
% |
|
2022年 |
% |
アメリカ |
34.5 |
アメリカ |
32.6 |
アメリカ |
27.3 |
カナダ |
25.4 |
カナダ |
26.9 |
カナダ |
22.8 |
マレーシア |
26.0 |
マレーシア |
21.7 |
カナダ |
25.3 |
アメリカ |
15.7 |
アメリカ |
16.2 |
アメリカ |
18.2 |
カナダ |
15.2 |
カナダ |
20.6 |
マレーシア |
10.2 |
マレーシア |
12.2 |
ロシア |
13.7 |
スウェーデン |
11.6 |
ロシア(旧ソ) |
8.5 |
ロシア |
6.1 |
ロシア |
9.1 |
ロシア |
7.3 |
マレーシア |
6.8 |
フィンランド |
10.8 |
インドネシア |
4.2 |
パプアニューギニア |
3.9 |
中国 |
4.6 |
中国 |
7.1 |
中国 |
6.5 |
ロシア |
10.3 |
台湾 |
1.8 |
インドネシア |
3.3 |
ニュージーランド |
4.4 |
フィンランド |
6.0 |
フィンランド |
6.1 |
オーストリア |
4.5 |
フィリピン |
1.5 |
ニュージーランド |
2.9 |
インドネシア |
4.2 |
スウェーデン |
5.2 |
スウェーデン |
5.0 |
中国 |
3.5 |
その他 |
8.3 |
その他 |
8.9 |
その他 |
15.0 |
その他 |
21.1 |
その他 |
18.9 |
ドイツ |
2.2 |
[表:発展編6-17 財務省貿易統計より作成]
木材の輸入先を大きく2つのグループにわけると東南アジア諸国などの熱帯地方からの輸入とロシア・カナダ・北欧などの冷帯地方(アメリカも含む)からの輸入にわけられます。
フィリピン・インドネシア・マレーシア・パプアニューギニアといった国から輸入する木材を日本では南洋林といったりします。樹種でいうとラワン・チークといった樹木で,これらはその硬さから建築用材や合板として利用されます。もちろん紙の材料としも使います。
南洋材に対して北洋材とよばれるのがロシアから輸入するアカマツ・エゾマツ・カラマツといった針葉樹です。またアメリカ・カナダからの米材も大半が針葉樹です。針葉樹は合板や製紙用に利用されます。
スウェーデンやフィンランドといった国はもともと農業よりも林業に力を入れてきた国でした。森林面積率も高く,育成林業が早くから発達していました。そのため世界的な木材・パルプ・紙類の輸出国でもあります。
②丸太輸出の変化
【例題3】次のグラフはマレーシア・フィリピン・インドネシアの丸太輸出量の変化を示しています。マレーシアにあてはまるものを選び,記号で答えなさい。
[グラフ:発展編6-18 FAOSTATより]
では先の統計表を過去にさかのぼって,1988年の統計では,マレーシア・インドネシア・フィリピンの順に東南アジアの国が目立ちます。その後現在にかけては次第に北米やロシアからの輸入割合が多くなってきますが,1980年代までは日本の木材の輸入は東南アジアが多かったのです。1965年には木材輸入の約3分の1をフィリピンから輸入していました。東南アジアは豊富な森林資源に恵まれていますから,外貨獲得手段として木材は重要な輸出品でした。しかも発展途上国である東南アジアの国々では製材・加工技術が未発達なため,丸太による輸入が多かった。
当然資源・環境を守るという意識も薄かったため計画的に植林(これも林業の大切な仕事)するということもなかった。フィリピンで伐採しつくした日本は今度はインドネシアで,インドネシアで伐採しつくすと,今度はマレーシアへという具合に輸入先を変えていきます。(その次はパプアニューギニア)とうとうこれらの国々は丸太の輸入禁止・制限措置をとることになります。現在,日本の木材輸入先上位国に東南アジアの国はほとんどなくなりました。(上記統計表2021年)。近年まで日本が南洋材の丸太を輸入していた主な国はマレーシアです。
答え:ア
これらの国々の丸太の輸出制限には森林保護という目的のほかに,国内産業の育成という理由もありました。植林や製材・加工技術を発達させ,雇用を増やし,付加価値の高い木材製品を輸出しようというわけです。
森林保護の観点から丸太輸出規制に踏み切ったのは何も東南アジアの国々だけではありません。カナダでもアメリカでも必要以上に丸太を輸出しない方針をとっています。このため木材輸入量に占める木材製品の割合(原木でない)が80%を超えるようになってきました。中でもパルプ・チップの形での輸入が増加していることに注目しておきましょう。
では丸太はダメでチップならいいのか森林は保護されるのかという疑問が浮かぶはずですが,そのことについては各国,真っ向から取り組んではいないようです。
[グラフ:応用編6-19 農林水産省木材需給表より]
③中国の台頭
[グラフ:発展編6-20 FAO Global Forest Resources Assessmentより 2020年]
上のグラフをみると世界全体で森林が減少していっているのがよくわかります。
☆森林減少の主な理由
・地域開発
・焼畑農業
・放牧地の拡大
・バイオ燃料の需要拡大
ヨーロッパは早くから産業革命が発達した地域です。例えばその先端をいくイギリスはいち早く軽工業から重工業へとシフトしていきました。重工業の中心は鉄鋼業です。初期の鉄鋼業では製鉄に木炭を利用していました。そのためイギリス中の木が伐採されていきます。イギリス中に運河がはりめぐらされているのは,イギリス中から材木を運ぶためのものだったのです。その後石炭を使うようになったのですが,イギリスの環境・生態系の破壊は大問題となり,植林が進められ,現在は美しい田園風景が広がっています。
このような反省からヨーロッパでは環境保全に対する意識が早くから芽生え,人工林の植林が進んでいるのです。(そのかわり必要な材木を発展途上国からの輸入に頼り,後進国の環境を破壊したという面もある)
では各年代を比べてみましょう。ずいぶん森林の減少が少なくなっています。(増加したのではなく,減少率が低下しただけです。)環境保護に対する意識が高くなったのでしょうか?確かにそういう面もあります。
減少率が下がった原因として注目すべきはアジアの増加です。しかし実は熱帯地域の森林は残念ながら今なお森林の減少率が高いままなのです。では本当の原因はどこにあるのでしょう?
答えは中国です。2000年代の中国経済の成長は木材の需要も増加させました。そのため中国では大規模な植林が進みました。しかし木は一朝一夕に育ちません。そこで中国は世界最大の木材輸入国でもあるのです。中国が輸入する木材は丸太が圧倒的に多く,そのほとんどはロシアからの輸入です。つまり世界最大の顧客をかかえるロシアは世界最大の木材輸出国というわけです。
木材貿易 |
輸出 |
% |
|
輸入 |
% |
ロシア |
15.4 |
中国 |
32.2 |
カナダ |
11.1 |
アメリカ |
9.6 |
ニュージーランド |
8.0 |
オーストリア |
4.4 |
ドイツ |
7.4 |
ベルギー |
4.2 |
チェコ |
7.1 |
ドイツ |
4.0 |
[表:発展編6-21 データブック オブ・ザ・ワールド2024より 2021年]
④日本の国産材を見直す
中国などの新興国の台頭によって世界的に木材の需要が高まっています。外材価格は上昇傾向にあり,近年の原油高による輸送費も増大しています。そのため現在,国産材の利用が見直されはじめているのです。このような情勢の中で木材の自給率は30%代にまで回復傾向にあると理解しておきましょう。
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