地理 第7回 鉱工業   応用編1 資源・エネルギー

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世界の資源

1.化石燃料
①石油(原油)の産出
[表:応用編7-1 日本国勢図会2024/25より]

原油生産量【2022年】 原油の輸出【2021年】
アメリカ 18.6 サウジアラビア 15.3
サウジアラビア 12.3 ロシア 11.6
ロシア 5.9 イラク 8.4
カナダ 4.8 カナダ 7.6
イラク 4.3 アメリカ 7.3
中国 4.1 アラブ首長国連邦 5.7
アラブ首長国連邦 3.3 クウェート 4.6

 石油の産地は新期造山帯に重なると基礎編でお話しました。新期造山帯は地球内部の活動の影響を最も活発に受けるところです。地表をおおうプレートがぶつかったり,重なったりすることで上に持ち上げられて形成されたのが新期造山帯の山脈です。山脈を含むその周囲の地層はぐにゃっと曲がった形をしています。こういう地層の変形を褶曲(しゅうきょく),そうして形成された山脈を褶曲山脈といいます。(「褶曲」という語句は発展レベルです)
 そもそも地層は何事もなければ地表と平行に積み重なります。そこには生物の遺骸も堆積します。その遺骸が何百万年もかかって地中の圧力や熱によって液体状の油になる。油や水は次第に地中深くに浸透し,ついには水も油も通さない地層の上に溜まります。油は比重が軽いので上に,水は下に溜まることになる。(下図の上)
 そこへ地殻変動がおきます。横からの力が加わり地層が曲げられていくのです。そうすると石油だけが溜まるところができます。これが油田です。(下図の下)ペルシャ湾を中心とする西アジアはかつて大量の生物が生息し(浅い海だったらしい),現在は油田に最適な地形をもっている。石油を採掘するには好条件の場所なのです。

 まずは石油(原油)を産出し,輸出している国の代表例はサウジアラビアをはじめ,イランやイラク,アラブ首長国連邦といった西アジアの国々(ペルシャ湾岸)を思い出すようにしましょう。
 次に応用編で重要になってくるのが,西アジア以外の産油国です。確かに油田を形成する地形的な条件にはめぐまれていませんが,石油は本来,どこにでも存在するのです。かつて大量の生物が存在したような場所(遠浅の海など)であれば,まとまった量の石油がつくり出される可能性が高い。ロシアなどは国土が広いので開発さえ進めば,まだまだ石油が掘り出されるはずです。
 またナイジェリアはアフリカ最大の産油国で,これは受験生の盲点になっています。ナイジェリアは人口と石油がアフリカ最大であることをおぼえておきましょう。

【例題1】次の表は南極大陸を除く五大陸における人口が最大の国の輸出品上位5品目をそれぞれ示している。[表:応用編7-2 データブック オブ・ザ・ワールド2024より 2022年]

石炭 機械類 大豆 機械類
鉄鉱石 衣類 X 石油製品 液化天然ガス
液化天然ガス 自動車 鉄鉱石 自動車 船舶
金(非貨幣用) 金属製品 肉類 X 肥料
穀物 繊維・織物 鉄鋼 医薬品 石油ガス

1.アフリカ大陸のものを選び,記号とその国名を答えなさい。
2.表中のXにあてはまる鉱産資源名を答えなさい。


 まずは五大陸それぞれの人口最大国をしぼりだしてみましょう。ユーラシア大陸は中国,北アメリカ大陸はアメリカ,南アメリカ大陸はブラジル,オーストラリア大陸はもちろんオーストラリア。ここまでは楽勝ですね。ではアフリカ大陸は?これができるかどうかで差がつく。ナイジェリアです。
 次に輸出品の特徴から国を特定していきましょう。まず。ともに鉄鉱石がみられます。そしては石炭とセットになって登場しているので,オーストラリア。したがってはブラジルです。
 はともに機械類が1位。には衣類・繊維がみられるのに対し,では自動車・精密機械・医薬品といった先進国型輸出品の特徴がみられる。が中国で,はアメリカです。(衣類・繊維の輸出はアジア型貿易の特徴)
 には石油関連の語句が多く入っています。したがってがナイジェリア。しかし肝心の原油(石油)が抜けていますので,Xは原油ということになります。

答え:1.オ,ナイジェリア   2.原油(石油)

②石油(原油)の消費量と自給率
【例題2】次の表は,日本・アメリカ・中国・インド・イギリスの原油の世界に占める消費量の割合,1人あたりの消費量,各国の原油自給率を示している。中国と日本にあてはまるものを選び,記号で答えなさい。[表:応用編7-3 日本国勢図会2024/25より 2021年 イギリスは世界国勢図会2023/24より 2020年]

消費量(%) 1人当たり(㎏) 自給率(%)
19.0 2161 76.2
18.8 507 27.5
6.3 172 12.3
3.2 1009 0.2
イギリス 1.3 774 103.2

 は原油の消費量の割合がもっとも多く,1人あたりでも消費量が多い国です。アメリカをおいて他にはありません。
 はアメリカについで原油の消費量の割合が多い。しかし1人あたりではアメリカの6分の1程度です。つまり国としてはたくさんの原油を使用していますが,人口が多いため1人あたりでは少なくなる。近年発展が著しい中国です。自給率も約30%と高いのは,国内での産出量も多いためです。北東部に中国最大の油田があります。ターチン油田といいますが,名前までは必要ないかと思います。地図上で中国の北東部に油田があることだけはおさえておきたいです。
※ターチン油田
 ターチンは漢字で「大慶」と書きます。「慶」は「喜ぶ」とか「祝う」の意味で,中華人民共和国建国10周年の記念の年に発見されたため,「大慶油田」と名づけられました。もともとは地名ではなく,逆にこの油田名からのちに「大慶(ターチン)」の地名がつきます。
 ところでターチン油田があるこの一帯はかつて満州とよばれて,戦前日本の勢力下にありました。このとき日本がこの地で石油を発見していれば,もう少し歴史も変わっていたかもしれませんね。ちなみに中国では続いて「ションリー油田」という油田が発見されますが,これも漢字では「勝利」と書きやはり地名ではありません。

 は中国と同じく,1人当たりの消費量が少ないことから人口の多い国インドです。
 は1人当たりの消費量がアメリカほどではありませんが,多いことから先進国であることがわかります。結論からいうと日本ですが,注目すべきポイントは原油の自給率です。「0.2%」。この数字,実は大事なんです。逆にいえば99.8%輸入に頼っているというこになりますが,「100%」ではない。ここが大事。「ほぼ100%」なんです。微妙な表現の違いですが,日本の原油輸入依存度は「ほぼ100%」と「ほぼ」をつけておぼえておくこと。
 そうすると日本で原油が採掘されていることになりますね。青天の霹靂(予想もしないこと)ですか?実は採れるんですよ。思い出して下さい。日本は環太平洋造山帯ですね。だから新期造山帯のないブラジルやオーストラリアで油田を探すよりほんとはずっと有望なんです。(もちろんブラジル・オーストラリアでも採れないことはない)でもね,石油が眠っている場所が悪い。日本の場合,それは海底であることが多い。だから開発しにくい。では日本のどこで原油が採掘されているかというと,新潟県です。その量は微々たるものですけど。
 最後にイギリスですが,この国の自給率に注目しましょう。何とイギリスは100%以上の自給率を誇っている。(エネルギー資源全体では約75%)先進国では珍しく石油資源に恵まれた国です。採れるのはイギリスの東側に広がる海,北海です。北海油田。これも新期造山帯に属さない油田の1つです。この油田はぜひおぼえておきたい。

答え:中国 イ   日本 エ



③天然ガス
 天然ガスは文字通り天然(地下)に存在するガス(気体)全般をいいますが,社会科で使われる意味での天然ガスは,可燃性のガスで,これも化石燃料です。石油が気化したものとまではいいませんが,石油と同じく生物が分解・圧縮される過程で気体状になったものだと考えて下さい。だから天然ガスのおおまかな分布は石油の分布とほぼ重なります。つまり新期造山帯沿いで天然ガスは採掘されやすい。

天然ガスの生産量【2021】 天然ガス埋蔵量【2020】
アメリカ 24.2 ロシア 19.9
ロシア 15.3 イラン 17.1
イラン 6.4 カタール 13.1
中国 5.5 トルクメニスタン 7.2
(中東その他) 11.4 アメリカ 6.7
※中東 17.8 ※中東 40.3


[表:応用編7-4 日本国勢図会2024/25より]
 埋蔵量・生産量とも中東・ロシアが多く,新期造山帯上のアメリカ・カナダも多い。天然ガスの生産量の多い国は,世界的な産油国であることがわかります。あまり順位は気にしなくてもかまいませんが,ロシアという国は石油と同様応用編では注目しておきたい国です。石油のところでもお話しまたが,ロシアに何せ国土が広い,しかもまだシベリアには未開発の土地もたくさんある。そういったところの開発が進むと新たな油田・ガス田がたくさんみつけられることでしょう。
 またアメリカは近年,地下深くの岩盤地層から天然ガスを採掘する技術を発展させてきました。従来のようなガス田以外から採掘されるこの天然ガスはシェールガス(原油であればシェールオイル)とよばれます。これによってアメリカは飛躍的に天然ガスの生産量・自給率を高めています。(シェール革命)

液化天然ガスの輸出【2021】 日本の液化天然ガスの輸入【2022】
オーストラリア 20.9 オーストラリア 42.7
カタール 20.7 マレーシア 16.7
アメリカ 18.4 ロシア 9.5
ロシア 7.6 アメリカ 5.7
マレーシア 6.5 パプアニューギニア 5.3

[表:応用編7-5 データブック オブ・ザ・ワールド2024より]
 天然ガスや石油は陸上であればパイプラインという管を通して輸送されます。ロシアの天然ガスは陸続きの周辺諸国やEU諸国に輸出されています。さらに大洋を渡って遠くまで輸送するためには船を使わなければなりません。石油や天然ガスを運ぶための船をタンカーといいます。
 天然ガスは気体であるため,そのままだと体積が大きすぎて少ししか運べません。特に日本のような島国はどうしても船を使わなければ輸入できませんから,天然ガスを超低温で冷やして液体状にして大量にタンカーに入れるのです。そのため日本などが輸入する天然ガスは液化天然ガス(LNG)といわれるのです。
 日本の液化天然ガスの輸入先として大切なのは,マレーシアのほかにインドネシアの東南アジアの2ヶ国です。今のところオーストラリアよりこちらの方が大切です。

④石炭の産出[表:応用編7-6 日本国勢図会2024/25より]

石炭の産出【2022】 石炭の輸出【2021】
中国 51.8 インドネシア 31.1
インド 10.3 オーストラリア 28.0
インドネシア 7.8 ロシア 15.7
アメリカ 6.1 アメリカ 6.0
オーストラリア 5.0 コロンビア 4.8
ロシア 2.6 南アフリカ共和国 4.3
南アフリカ共和国 1.5

 石炭は低くなだらかな古期造山帯で採れやすいことは基礎編でお話しました。これは地質年代でいう古生代という時期のシダ植物が化石となったものです。だいたい3億年ぐらい前かな。
 上の統計表では,オーストラリアが注目すべき国です。オーストラリアでも東に低くなだらなか山脈(グレートディバイディング山脈)があり,石炭はこの山脈沿いの東部で産出されます。オーストラリアの石炭や鉄鉱石の鉱山では,大型機械を使って地表から渦をまくように掘り進めていきます。このような採掘方法を露天掘りといいます。
 同様にアメリカでも低くなだらかなアパラチア山脈はアメリカ東部にあります。これに沿ってアパラチア炭田がある。アメリカとオーストラリアは最重要事項。ちなみに南アフリカ共和国にも東側に古い山脈(ドラケンスバーグ山脈)があり,石炭産出国です。
 もう1つ。日本の石炭の輸入依存度ですが,これも石油と同じく,ほぼ100%と「ほぼ」を添えておぼえておいて下さい。99%以上は輸入,1%未満の自給です。わずかに採れる日本の石炭のほとんどは九州と北海道に集中しています。


※オーストラリアの天然ガスとインドネシアの石炭
 上の統計表の天然ガスをみてみましょう。オーストラリアは1位ですが,統計の読み取りではそれほど重要ではありません。(今後重要になってくる可能性はあります。)ちなみにオーストラリアには新期造山帯はありませんでしたから,石油・天然ガスは採れにくいはずですね。ではどこで採れるのかというと,北部のインドネシアやニューギニア島近くの海底です。インドネシアはアルプス・ヒマラヤ造山帯の,ニューギニア島は環太平洋造山帯の一部ですね。そのあたりまでパイプラインをのばして採掘するのです。もちろん経済水域の範囲内で。
 逆にインドネシアは新期造山帯にあたるのに石炭の産出・輸出量が多い。原則として石炭は古期造山帯で形成され,採掘されますが,新期造山帯と古期造山帯はそもそも形成された時期が異なります。そこで古い時代に形成された石炭層がのちに,地殻変動によって新しい地層に入り込んだようなことがある場合,そこでは石油・天然ガスに加えて石炭も産出されることがあります。
 新期造山帯=石油・天然ガス,古期造山帯=石炭の区別はあくまでも原則であり,各地で例外も多々見られます。しかしその原則こそ理解の始まりですので,最初から例外的な場所から覚えず,注目すべき点からおさえて下さい。統計で1位となると重要視したくなりますが,1位から見ると全体が見えないことがあります。

2.その他の鉱産資源
①鉄鉱石
 鉄鉱石はもちろん,鉄鋼業(製鉄)に不可欠な原料です。鉄鉱石の正体は酸化鉄です。鉄に酸素が結びついたもの。実は地球でもっとも多い元素は鉄(Fe)って知っていました?地球の中心では鉄はドロドロの液体状で存在します。むかーし,むかしその内部の鉄が噴火活動によって地表に押し出されました。30億年ぐらい前(誤差はもちろんあります)に光合成ができる生物が誕生すると,これらの生物は大気中の二酸化炭素を吸収して酸素を出し,大気中の酸素濃度を上げるとともにその酸素は海中の鉄と結びついて酸化鉄(鉄鉱石)を生み出しました。その後海底が隆起したところに鉄鉱石の鉱山があるのです。だから鉄鉱石が採れるところは,石油より石炭より,もっともっと昔の地層。その地層が現れるのはもう山など風化してしまった造山活動もない安定した地形の場所なわけです。(もちろん山脈で鉄鉱石が採れるところもあります。「比較的採れやすい」ということです)
 鉄鉱石の産出・輸出・日本の輸入先の統計については基礎編でみた通りです。特にオーストラリアとブラジルは最重要。アメリカは高校入試ではめずらしく,石油・石炭・鉄鉱石の3つの資源がそろって場所までよく問われる国で,鉄鉱石は五大湖の西(スペリオル湖西岸)にあるメサビ鉄山は名前までおぼえておいたほうがよいでしょう。
 その他,鉄鉱石が採れる国としておさえておいてほしいのはスウェーデンです。「スウェーデン」の説明文には「北部で良質の鉄鉱石が採れ………」とある。



③石灰石
 物質名でいうと炭酸カルシウム。岩石の名前では石灰岩。建築や彫刻で使う大理石も石灰石です。昔,中国の南部に大理という国があってそこでよく採れたからこういいます。工業原料としては石灰石。驚くことなかれ,何とこいつの日本の自給率は100%です。採れるのは山口県から福岡県にかけての一帯。それから埼玉県
 では何に使われるのかというと,1つは建築で使うコンクリートです。セメント工業といいます。もう1つは鉄鋼業です。なぜ鉄をつくるのに石灰石が必要かというと,後のお楽しみです。

④ボーキサイト
 ボーキサイトとは何でしょう?これは酸化アルミニウムです。つまりアルミニウムの原料であることだけ今はおぼえておいて下さい。詳しくは発展編で説明します。ボーキサイトも日本では採れません。

⑤その他の鉱産資源[表:応用編7-7 データブック オブ・ザ・ワールド2024より 金鉱2018年,銀鉱2018年,銅鉱2018年,ダイヤモンド2018年]

金鉱の産出 銀鉱の産出 銅鉱の産出 ダイヤモンドの産出
中国 12.1 メキシコ 22.4 チリ 28.6 ロシア 29.4
オーストラリア 9.5 ペルー 15.4 ペルー 11.9 ボツワナ 16.6
ロシア 9.4 中国 13.2 中国 7.8 カナダ 15.8
アメリカ 6.8 ロシア 7.6 コンゴ民主 6.0 コンゴ民主 10.3
カナダ 5.5 ポーランド 5.4 アメリカ 6.0 オーストラリア 9.6
ペルー 4.3 チリ 5.1 オーストラリア 4.5  南アフリカ共和国 6.7
 インドネシア 4.1  オーストラリア 4.6 ザンビア 4.2 アンゴラ  5.7
3310トン 27000トン 2040万トン 14700万カラット

 続いて,金・銀・銅です。国を見る前に,上の統計表の一番下をみて下さい。金・銀・銅の順に産出量が少ないのがわかるでしょ。特に金は非常に少ない。だから希少価値があるんだ。もっといえば高い価値で安定しているということでもある。そこで古くから金や銀は貨幣として使われていたのです。金や銀は貴金属といういい方もする。一方銅は金・銀に比べて産出量の桁が違う。だからオリンピックでも三等賞。(三等賞でもスゴイんだけどね)何がいいたいかというとこれらの統計は,国を見なくても産出量をみればわかることがあるんだということ。
 裏技を先に紹介しておいて産出国をみておきます。ここでもまた結論から先にいいますが,銅の1位チリ以外は順位にこだわらなくてもよい。金で重要なのは南アフリカ共和国銀はメキシコ・ペルーなど中南米の国に,オーストラリアを加えると南半球の国々に産地が偏っています。
 かつて南アフリカ共和国には3つの世界一があったといわれました。金とダイヤモンドと死刑囚の数。死刑囚のほとんどは黒人です。つまりアパルトヘイトによる厳しい差別。そして金やダイヤモンド鉱山で肉体労働をしていたのが黒人です。
 南米で銀鉱が発見されたのは16世紀の大航海時代。この地を支配したスペインが銀を大量に大西洋を越えたヨーロッパにもたらします。当時,世界的な通貨は銀でした。(日本の石見(いわみ)銀山が栄えたのもこのころです。)南米から大量に流入した銀はヨーロッパ社会を根底から変えていきました。絶対王政の富,資本主義の起こりも南米の銀が一因です。銀と南米は強く結びつけておきましょう。ちなみにアメリカのドルのマーク$も銀=シルバー(silver)のSが由来という説があります。

 次はダイヤモンド。ダイヤモンドは地球上でもっとも固い物質といわれますが,そもそも炭素です。燃やした人はいないと思いますが,燃やすと炭になるそうです。(ただしめっちゃ高温で)産出量が最も多いのはロシアですが,ボツワナ・コンゴ民主共和国といった聞きなれない国はみなアフリカの国々です。順位を気にする必要はまったくありません。アフリカに多いということだけ頭に入れておいて下さい。
 さてそのアフリカですが,ダイヤモンドだけでなく,世界ではあまり産出されない希少な金属が採掘されます。これをレアメタルとよんでいます。例を挙げれば,クロム・マンガン・ニッケル・何とかウム……ウム・ウム・ウムです。アフリカはこれらのレアメタルの宝庫であることを知っておきましょう。
 興味ある人は理科の周期表をみてみましょう。これらのレアメタルの中でも特に周期表の21・39・57の縦列をレアアース(希少土)とよんでいます。(57の枠はさらに57~71に細かくわかれているはずです)
 レアメタルやレアアースは強度が高く錆びにくい材質をつくる材料となったり,物質の機能を高める性質があります。また家電・携帯・パソコンなどわれわれの生活にかかせない電気製品の材料にもなります。その一方で日本ではほとんど産出されないため,輸入に頼らざるを得ないのが現状です。

【例題3】次の表はインド・南アフリカ共和国・ロシア・チリの貿易品目上位5位を示している。インドとチリにあてはまるものを選び,記号で答えなさい。[表:応用編7-8 データブック オブ・ザ・ワールド2024より]

輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入
石油製品 20.9 原油 23.7 機械類 31.6 機械類 23.8 白金 13.7 機械類 20.7 原油 25.5 機械類 31.5
機械類 12.3 機械類 16.8 25.2 自動車 11.2 石炭 11.0 石油製品 16.7 石油製品 14.2 自動車 8.9
ダイヤモンド 5.3 石炭 6.7 野菜と果実 8.1 石油製品 5.7 自動車 9.1 自動車 7.1 天然ガス 11.3 医薬品 4.9
化学薬品 5.1 化学薬品 5.5 魚介類 6.6 原油 4.6 機械類 7.0 原油 3.9 鉄鋼 6.0 金属製品 3.4
医薬品 4.8 金(非貨幣用) 5.0 化学薬品 2.9 衣類 3.5 卑金属鉱 5.9 化学薬品 3.0 石炭 3.6 衣類 3.1

 比較的マイナーな国の貿易を取り上げました。こういった国々の貿易は公立よりもむしろ私学の問題で出題されることがあります。統計で注目するのはは輸入品ではなく(ほとんど無視してもかまわない),輸出品です。
 は稀に出題されることがあるインドの貿易品目です。特徴は「ダイヤモンド」です。さきほどダイヤモンドはアフリカ大陸でほとんど産出されるといいましたが,実はダイヤモンドの加工(カット)はその90%以上がインドでおこなわれているのです。歴史的にみると19世紀までダイヤモンドはインドでしか採れない鉱物・宝石だとされていました。そのためインドではダイヤモンド加工技術が発達したのです。やがてインドのダイヤがが枯渇すると南米へ,南米が枯渇するとアフリカへと主要産地が変わっていきました。
 は「銅鉱」でチリ。チリではあと地中海性気候がみられるため「果実」が,そしてサーモン(鮭)に代表される「魚介類」の輸出もさかん。
 は「白金」。これはレアメタルです。プラチナともいいます。また南アフリカ共和国は東部に古期造山帯(ドラケンスバーグ山脈)があるため「石炭」も豊富に産出しましたね。
 は「原油」・「天然ガス」,「石炭」化石燃料三兄弟を輸出できるのはロシアと考えればよい。

答え:インド ア   チリ イ

【例題4】次の資料は,ドイツ・フランス・ガーナ・ボツワナの主要な輸出品とそれらの総輸出額に占める割合を示したものである。ドイツ・フランスと比べた,ガーナ・ボツワナの輸出の特徴を簡単に説明しなさい。[表:応用編7-9 データブック オブ・ザ・ワールド2024より 2022年]

ドイツ フランス ガーナ ボツワナ
輸出 輸出 輸出 輸出
機械類 26.4 機械類 18.3 金(非貨幣用) 37.0 ダイヤモンド 86.8
自動車 15.0 自動車 7.7 原油 31.3 銅鉱 3.9
医薬品 7.7 医薬品 6.2 カカオ豆 11.0 機械類 2.6
精密機械 4.1 航空機 5.3 ココアペースト 2.4 1.2
金属製品 3.1 化学薬品 3.2 野菜と果実 2.4 化学薬品 0.7

 農業でもやった「モノカルチャー経済」の問題です。さまざまな工業製品の輸出をおこなっている先進工業国に対して,特定の鉱物や農産物に国の経済が大きく依存している。アジアの諸国では近年工業化が進み工業製品の輸出が目立つようになりましたが,ガーナやボツワナ(特にこの国をおぼえる必要はない)などアフリカ諸国ではまだまだそれが進んでいない。

答え:特定の鉱産物(鉱物・鉱産資源)や農作物にかたよっている。(「輸出が多い」など)

エネルギー

1.世界の発電
【例題5】次のグラフは,日本・フランス・ブラジル・サウジアラビアのいずれかの国の総発電量と発電量の内訳を示したものである。フランスにあたるものを選び,記号で答えなさい[グラフ:応用編7-10 データブック オブ・ザ・ワールド2024より 2021年]

①各国の発電の特徴
 いくつかの国については,その発電の構成の特徴を知っておかなければなりません。火力発電が主力の国,水力発電が主力の国,原子力発電が主力の国にグループわけしておぼえておきましょう。

[グラフ:応用編7-11 日本国勢図会2024/25より 2021年]
 火力発電が中心の国としては日本の他,アメリカ・中国ぐらいでいいでしょう。大切なのは次。水力発電が中心の国としてブラジルとカナダ原子力発電が中心の国としてフランスが重要。

①火力発電中心
 火力発電は石油・石炭・天然ガスといった化石燃料を燃やすことによって電力を得る方法でした。アメリカや中国では自国で石炭を大量に産出することができます。その石炭を使っての火力発電が発電の主力となっています。(他にインドやオーストラリアでも)【例題5】に出てくるサウジアラビアは世界最大の産油国の1つなのでもちろん石油による火力発電が多くなるし,ロシアのように石油や天然ガスが豊富な国も火力発電が中心となる。このように火力発電が中心の国では自国で化石燃料を大量に産出します。
 日本はというと化石燃料はほとんど産出しませんから輸入に頼るわけです。日本のように経済的に豊かな国なら資源を買うことは簡単です。そのかわり他国に比べて電気料金が高くなるのはしかたがない。

②水力発電中心
 水力発電が中心の国には当然,水量の多い河川が必要になってきます。日本も河川の数ならたくさんあるのですが,大陸に流れる河川に比べればその水量は微々たるものです。カナダやブラジルは国土が広く,水量の豊富な河川がたくさんある。またブラジルは国土のわりに化石燃料に乏しい国柄であったことはすでに説明しました。かといって日本のように輸入に頼るほど経済的に豊かではない。そうすると自らの国土を有効活用するしか国の電力を支える道がないのです。これまで世界最大のダムはブラジルとボリビアの国境にあるイタイプダムでしたが,2009年より中国の長江に建設された三峡(サンシャ・サンシヤ・サンシア)ダムにとってかわられました。中国の三峡ダムは私立の入試で近年ちょくちょくみかけるようになりました。今後も要注意です。
 国土は小さいけれど国土を有効利用して水力発電を国の電力の中心としている国にはノルウェーがありますが,このような国は日本に比べたら支える人口が違いすぎます。

③原子力発電中心
 フランスは「農業国」として重要な国でしたが,もう1つ原子力発電が中心の国としておぼえておく必要があります。ここが差がつくポイントです。
 原子力発電には当然,しっかりとした原子力技術が必要ですね。その技術がフランスは世界トップレベルなんです。日本ですら何かあったら,フランスに相談・協力をもちかけます。
 そもそも原子力技術はみなさんも御存知の通り,兵器開発に始まりました。「原爆・水爆」です。フランスはこの技術を積極的に取り入れます。理由は二度の世界大戦です。世界大戦では二度ともフランスはドイツにコテンパンにやっつけられ,自国の領土を蹂躙されました。イギリスやアメリカの助けなしには戦勝国になることができなかった。その教訓からフランスは戦後,自国の安全保障強化と軍事力の自立をめざします。このようなとき何をすればもっとも効率的かつ決定的になるかというと核兵器の開発です。
 フランスの電力事情の背景には自国の安全保障問題があり,それは同時に化石燃料に乏しいフランスのエネルギー問題も解決したのです。現在ではフランス国内で発電した電力を周辺国に輸出するまでになっています。

 ここで【例題5】に戻ります。は火力発電が100%なので,産油国サウジアラビア。は水力発電の割合の高さからブラジル。は原子力発電が中心なのでフランス。は火力発電が中心で,総電力量が最も多いので日本。

答え:ウ

④新エネルギー
 まず石油・石炭・天然ガスは化石燃料といいました。そしてそれらに加えて原子力発電に使うウランは採りつくしてしまえばなくなってしまいます。そういう意味でこれらは「枯渇資源(エネルギー)」です。これに対してエネルギー源となる資源がほぼ無限で,繰り返し利用できるものを「再生可能エネルギー」といいます。
 「再生可能エネルギー」の中には自然の状態で人間が特に手を加える必要のないものが「自然エネルギー」です。水・太陽光・風・波・地熱などです。また植物など生物由来のものを加工して利用するものを「バイオマスエネルギー」といいます。このうち,従来からあるエネルギーの主力となってきた大規模水力発電を除いたものを「新エネルギー」としています。あまり言葉の定義に神経質になる必要はありませんが,「再生可能エネルギー」,「バイオマス発電・バイオ燃料」といった語句は,基礎編でお話ししましたが,おぼえておくようにしましょう。

2.エネルギー問題
①火力発電と二酸化炭素
 下のグラフ左は発電電力量が多い国が順に並んでいます。グラフ中の国(上位5ヶ国)はいずれも火力発電が中心の国でした。火力発電は化石燃料を燃やします。化石燃料は炭素(C)や水素(H)で構成されていますので,それを燃やす(酸素=О2を加える)と,二酸化炭素(CO2)が出ます。二酸化炭素の増加は地球温暖化をもたらしますね。
 若干の順位の違いはありますが,電力量の多い国と二酸化炭素排出量が多い国はその割合までほぼ重なることがわかります。これらについては順位を問われることはまずありませんが,二酸化炭素排出量の多い上位2ヶ国,中国・アメリカは頭に入れておき,それは同時に電力量が多い国であることを理解しておきましょう。

[グラフ:応用編7-12 日本国勢図会2024/25より 2021年]

②エネルギー消費量と経済
 今度は発電量(上グラフ左)とその国の経済を比べてみましょう。下のグラフは2022年のGDP(国内総生産)の世界トップ10の国々です。国内総生産とは,国内で一年間に生み出された財やサービスの総計(総額)で,その国の経済力をはかるものさしとしてよく使われます。(表中の「名目」というのは気にする必要はありません)赤で塗られた国が,上のグラフに出てくる国です。

名目GDP(百万ドル)
アメリカ合衆国 25744100
中国 17963171
日本 4232174
ドイツ 4076924
インド 3465541
イギリス 3089073
フランス 2775317
ロシア 2240422
カナダ 2137939
イタリア 2046953
[表:応用編7-13 日本国勢図会2024/25より 2022年]

予想通り発電量の多い国はGDPも多く,経済と電力は切っても切りはなせない関係にあります。とういうことは,経済と二酸化炭素の排出量は大きな関係がある。次にもう少し,見方を変えてみます。

[グラフ:応用編7-14 データブック オブ・ザ・ワールド2024より 2021年]

 国民(総)所得とは,国民1人が年間にどれだけ稼いだかという額だと思って下さい。GDP(国内総生産)とともにその国の経済力を測る指標の1つです。
 アメリカや日本などの先進国は1人あたりの国民総所得もエネルギー供給量も多くなっていますが,中国やインドは非常に低い位置にいます。この原因の大きな理由は人口です。人口が多いので国全体としては多くなりますが,「1人あたり」となると非常に少なくなる。発電量は多くても国民一人ひとりにわたる電力や経済の恩恵は非常に少なくなるのです。こういった「1人あたりの~」という統計の読み取りには,人口を考慮に入れて問題を考えるようにしましょう。

【例題6】次の表はエネルギー供給量上位5ヶ国を示しています。表中のア~オには,アメリカ・インド・中国・日本・ロシアのいずれかの国があてはまります。中国とインドにあてはまるものをア~オから選び,それぞれ記号で答えなさい。[表:応用編7-15 データブック オブ・ザ・ワールド2024より 2020年]

1次エネルギー供給量 生産量
1人あたり(㎏)
2035 6164 2798
3501 2481 2157
761 5293 1430
385 3064 43
874 626 570
1次エネルギーとは,石油・石炭・天然ガスなど自然に存在する未加工のエネルギー。
1次エネルギー供給量と生産量(石油換算 百万トン)

【例題2】によく似た問題です。消費量(計)が圧倒的に多いア・イがアメリカ・中国のどちらかでしょう。「1人あたり」に注目すると,人口が多い中国が少なくなるはずです。したがってはアメリカ,は中国。
 1次エネルギー生産量(石油・石炭など)が少ないは日本。残るウ・オがインドかロシアになるわけですが,これも「1人あたり」で考えると人口が多いインドが少なくなる。よってがロシア,がインド。

答え:中国 イ   インド オ

【例題7】次のグラフはアジア・アフリカ・北アメリカ・南アメリカ・ヨーロッパ・オセアニアの世界の総エネルギーの消費量に占める各地域のエネルギー消費量の割合(%)と,世界の総人口に占める各地域の人口の割合(%)とをそれぞれ示しています。

[グラフ:応用編7-16 データブック オブ・ザ・ワールド2024より 2020年]
1.グラフ中のA・B・Cはアジア・アフリカ・ヨーロッパのいずれかにあてはまります。それぞれどの地域にあてはまるか答えなさい。
2.グラフから,発展途上国が多い地域と先進国が多い地域とでは人口の割合とエネルギー消費量の割合についてどのような違いがありますか。簡単に説明しなさい。


 人口の割合からAがアジア,Cがアフリカであることがわかります。この2つの地域が発展途上国が多い地域です。逆に先進国が多い地域とは北アメリカとヨーロッパ。
 アジアの人口の割合は約60%に対しエネルギー消費量の割合は約50%,アフリカの人口の割合は約17%に対しエネルギー消費量の割合は4.5%。発展途上国が多い地域では人口の割合に対してエネルギー消費量の割合は小さい。
 一方,北アメリカの人口の割合は7.6%に対しエネルギー消費量の割合は20.3%,ヨーロッパ(B)の人口の割合は9.6%に対しエネルギー消費量の割合は19.2%。先進国が多い地域では人口の割合に対してエネルギー消費量の割合が大きくなっている。2では以上のことを簡単に説明すればよい。
〔書き方〕
 問題文を読み取ると次の4つについて述べる必要があります。「発展途上国が多い地域」・「先進国が多い地域」・「人口の割合」・「エネルギー消費量の割合」です。このどれが欠けても問題に即した解答にはならないので注意しましょう。
 また2つの地域の違いをわかるわかるようにすること。そのためには1つの地域だけを説明してはいけません。
 なお「割合」に対する述語表現は「大きい・小さい」を使うこと。

答え:1 A アジア   B ヨーロッパ  C アフリカ
2.〔例〕発展途上国が多い地域では人口の割合に比べて(対して)エネルギー消費量の割合が小さく,先進国が多い地域ではその逆になっている。
別解:「先進国が多い地域」ではじめてもよい。→〔例〕先進国が多い地域では人口の割合に比べてエネルギー消費量の割合が大きく,発展途上国が多い地域ではその逆になっている。
また解答例の「その逆になっている」の部分は「人口の割合」と「エネルギー消費量の割合」を繰り返してもよいが,文として同じ言葉の繰り返しはおすすめしません。減点の対象になることもあります。このような場合,「逆である」で済ますのがスマートです。

3.エネルギーの歴史
①産業革命まで
 人類が最初に利用したエネルギーは火でした。旧石器時代にころ,原人とよばれるころには人類は火を使用していたと考えられます。石器から土器・青銅器・鉄器と道具が進化するつれて,高温の火が必要になります。こういった高度な道具の作成には薪炭(木炭)が利用されました。
 薪炭には木が必要になりますから,人類が鉄を大量に使用するようになることろには激しい森林伐採が繰り広げられました。
 薪炭だけなく水車・風車による水力・風力エネルギーも産業革命前には重要なエネルギーの1つでした。オランダの干拓地ポルダーでも風車による排水はかかせないものでした。
 動物をエネルギーとして利用することもあります。輸送手段や田畑の耕作,そのほか井戸から水をくみ出したりするなど,牛や馬・ラクダは人間のエネルギーとしてなくてはならないものでした。今でもエネルギーの単位に「馬力」というのがありますね。日本で牛馬耕がはじまったのは平安末期から鎌倉時代にかけてのことです。

②産業革命(18世紀)
 産業革命を支えたエネルギーは石炭です。産業革命は工業としては繊維・衣類などの軽工業から進展しましたが,動力としての蒸気機関,製鉄業の発展が不可欠しでした。はじめは薪炭からエネルギーを得ていましたが,熱量・効率・環境の面から石炭が主力となります。

③20世紀初め~第二次世界大戦
 19世紀末になると石油の重要性が増してきます。大きな理由はガソリンエンジンが開発されたことです。自動車が発明され,第一次世界大戦ごろには戦艦のほか飛行機や戦車などの新兵器の燃料となります。このことは欧米諸国にとって石油資源の確保が戦略上重要な課題となったことを意味します。
 次の表は日本の戦前の石油の輸入先です。[表:応用編7-17 データブック オブ・ザ・ワールド2024より 1935年]

戦前の石油の輸入先 千kℓ
アメリカ 2749
インドネシア 886
英領ボルネオ 191
ソ連 55
中国 54
イラク 48
合計 4204
英領ボルネオは現在のカリマンタン島


 1位はアメリカですね。太平洋戦争前,日本はアメリカから多くの石油を輸入していた。また日本軍が東南アジアへ南進した理由も石油資源を求めてのことです。ところが日本の東南アジアへの戦線拡大に対してアメリカは日本への石油禁輸政策をとります。これが日米開戦を決定的なものにしたのです。

④戦後から1960年代(エネルギー革命)
 戦後,石油は火力発電にも利用されます。それと同時に中東で大規模な油田が発見されます。油田の開発には膨大な費用が必要になりますので,開発に集まってくるのはお金を持っている欧米の企業です。石油メジャーとよばれる欧米の巨大石油会社は中東の油田の利権を独占し,それによって中東の安価な石油が世界各国へ輸出されるようになりました。エネルギー革命のはじまりです。エネルギーの中心が石炭から石油へと転換したのです。
 エネルギー革命によって日本にもあった炭鉱(福岡の筑豊炭田・北海道の石狩炭田など)が次々と閉山されていきました。

⑤石油危機(1973年)
 石油だけに限らず,発展途上国の鉱産資源は独立後もかつての旧宗主国である欧米の企業が独占的に管理・運営していました。このような状態から脱却するため資源保有国は資源ナショナリズムという動きを見せはじめます。自国の資源は自国で開発・管理し,その利益は資源保有国が得る。このような理念のもとに結成されたのが石油輸出国機構(OPEC,読み:オペック)です。この組織には中東産油国だけでなく,アフリカ・南米の産油国も参加しています。
 OPECの活動によって石油の採掘権や価格決定権は1970年代はじめには石油メジャー(石油資本)から産油国側に移ることになりました。そこへある事件が勃発します。
 第四次中東戦争です。中東戦争についてはここでは詳しく説明しませんが,イスラエルと周辺アラブ諸国との戦争です。これを受けてOPECの中東諸国は原油価格を引き上げ,世界中で経済の大混乱が起こりました。これを石油危機(オイルショック)といいます。日本ではそれまで続いてきた高度経済成長に終止符が打たれました。
 石油危機は必ず「1973年」という年,そしてその原因が第四次中東戦争であることをおぼえておきましょう。歴史の問題では必ずセットで出題されます。

⑥1980年代~現在の日本
 ここで日本の発電電力量の推移をみてみましょう。

[グラフ:応用編7-18 資源エネルギー庁エネルギー白書より]
 高度経済成長の初期,日本の電力のほとんどは水力発電でまかなわれ,火力発電といっても石炭による発電が中心でした。1960年代も中ごろになるとエネルギー革命がおこり,石油による火力発電が増加したため,水力発電の割合が下がってきました。石油危機が起こる1973年には,発電電力のほとんどを石油にたよっており,石油危機がいかに日本の経済に大きな影響を与えたが想像できます。
 では1970年代の石油危機(石油危機は1970年代に実は二度起こっている)を,1980年代以降の日本はどのようにして乗り越えてきたのでしょう。

 1つは原子力発電です。日本初の原子力発電所が茨城県東海村に建設され,以後福井県の若狭湾沿岸の大飯・敦賀などや福島県の太平洋岸に集中して建設が進み,関東・近畿地方へ電力を供給しました。その割合は2010年には発電電力の30%以上を占めていました。
 そして2011年3月11日,あの事件がおこります。東日本大震災。東京電力福島第一原子力発電所の事故。この事故を境に日本各地の原子力発電所は次々と停止。2014年には発電量が一旦0%になっています。現在は安全性が確認された発電所について随時,発電を再開していることも注目しておきたい。

 2点目は石炭による火力発電の見直しです。石炭など化石燃料は燃やすと二酸化炭素だけでなく,硫黄酸化物や窒素酸化物も排出します。これらは酸性雨のなどの大気汚染をもたらします。日本は技術力で硫黄酸化物や窒素酸化物の排出を極限まで少なくするすることに成功しました。中国で大気汚染の問題が深刻化しているのは,その技術が進んでいないからです。
 そして何よりも安いのがよい。一度は石油にとってかわられた石炭の地位は,石油危機後の1980年代から徐々に回復してきており,現在では石油よりも発電量の割合が高くなっていることが上のグラフからもわかります。

 3点目は天然ガスの利用です。上のグラフから現在火力発電の主力となっているのがわかります。天然ガスの利点は,石油や石炭より硫黄酸化物・窒素酸化物の排出が少なくクリーンなエネルギーである点です。さらに二酸化炭素排出量も少ない。ただしあくまでも「排出しない」のではなく,「少ない」というのがポイントです。
 原子力発電に大きな問題を抱える今,天然ガスは現在もっとも効率がよく,最重要視されているエネルギーとされています。ただし,石炭にしろ天然ガスにしろ,温室効果ガスを排出する点ではその量に関係なく同じで,これで地球温暖化が解決されるわけではありません。

 最後に省エネ技術の開発です。エネルギーを使用する自動車・家電製品のメーカーの努力によって世界最先端の省エネ技術が開発されていきました。1980年代,日本製の自動車の燃費は他国を圧倒していた
ため円高が進んでも世界中で人気を博し,貿易摩擦の一因ともなりました。

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