地理 第7回 鉱工業 発展編1 資源・エネルギー
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資源・エネルギー問題
[グラフ:発展編7-1 日本原子力文化財団 原子力・エネルギー図面集より 2021年]
1.水資源
①世界の水力発電
水力発電を中心とする国として上のグラフからブラジル・カナダに加えノルウェーをおぼえておきましょう。次のグラフは北欧4ヶ国の発電量の割合です。
[グラフ:発展編7-2 データブック オブ・ザ・ワールド2024より 2021年]
同じ北欧でもずいぶん事情が違います。ノルウェーとスウェーデンは水力発電が中心ですが,スウェーデンでは原子力発電と二本柱です。デンマークとフィンランドでは火力発電が中心ですが,デンマークでは風力の割合が高いこと,フィンランドでは原子力の割合が高い。四者四様です。
日本では明治時代末期に水力発電と工業の電化がはじまり,第一次世界大戦の軍需景気を背景に工場動力の電化が進みます。1925年,ラジオ放送が開始されたことから,大正末期には家庭にも電化が普及していたことがわかります。(東京の家庭では電灯が完全普及)それから1960年まで日本では水力が電力の中心でした。
②水資源
【例題1】次の表は日本の水資源利用の現状を示したものです。A・Bにあてはまる地域を下から選び,記号で答えなさい。[表:発展編7-3 データブック オブ・ザ・ワールド2024より 2019年]
日本の水資源利用(%)
地域 |
生活用水 |
工業用水 |
農業用水 |
関東 |
33.9 |
11.8 |
54.3 |
A |
7.7 |
6.8 |
85.5 |
B |
33.1 |
14.2 |
52.7 |
北陸 |
9.7 |
13.0 |
77.3 |
C |
23.5 |
21.9 |
54.6 |
九州 |
14.4 |
11.0 |
74.6 |
ア.東北 イ.近畿 ウ.東海
Aは農業用水から東北。Bは関東同様,生活用水の割合が大きいことから近畿。残ったCは東海と判断するとよいでしょう。
答え:A ア B イ
日本の水資源の利用割合は農業用水・生活用水・工業用水の順に大きく,工業用水では圧倒的に冷却用水としての使用量が大きな割合を占めています。
[グラフ:発展編7-4 日本国勢図会2024/25より 2020年]
近年,用水の使用量は,生活用水では増加,工業用水と農業用水では減少の傾向にあります。生活用水の増加の背景には,「豊かな生活」があります。トイレやお風呂,洗濯に料理,必要以上に水を消費していませんか?
工業用水の減少は日本の産業の「ソフト化」が背景にあります。大きな重い製品から「軽薄短小」ものへ,そして製造業からサービス産業への転換です。また食料輸入の増加は農業用水の減少につながります。
③河川の総合開発
ダムの建設を中心として治水・貯水・電力・工業などの事業を展開していきます。国の経済に大きく貢献する一方で環境面では大きな問題を引き起こすこともあります。
・黄河(中国)
黄河中流にサンメンシャダム,上流にリュウチャシャ(リウチャシャ)ダム。
・長江(中国)
近年,長江流域にはサンシャ(サンシア)ダムが建設され,これは世界最大の水力発電ダムとなりました。「サンメンシャ」と「サンシャ」はよく似ているので注意。(最近はサンシャダムの方がよく出る) ・メコン川
支流のナムグム川にナムグムダムが建設され,その電力はタイに送電されラオスの重要な収入源になっています。
・ナイル川(エジプト)
ナイル川の氾濫防止と灌漑用水を目的として,当時ソ連の援助によってアスワン・ハイ・ダムが建設されました。(1970年完成)このダムによって誕生した貯水池をナセル湖といいます。(当時のナセル大統領の名をとって)
アスワン・ハイ・ダム(エジプト)
ダムの建設にあたって古代エジプトの遺跡アブシンベル神殿が水没することになりました。そこでユネスコが中心となってこの神殿をそのまま切り取り分解して湖畔に移すという大胆な計画が実行されます。現在みられるアブシンベル神殿は元の場所から移動したものです。このプロジェクトがきっかけになって「世界遺産(条約)」が誕生したのです。
・ボルタ川(ガーナ)
ブルキナファソからガーナを通過してギニア湾に注ぐ河川です。ガーナに建設されたダム・水力発電所によって周辺国へ電力を供給しているだけでなく,アルミニウム工業もおこなわれています。
・テネシー川(アメリカ)
ミシシッピ川の支流テネシー川の総合開発はフランクリン=ルーズベルトのニューディール政策の一環TVA(テネシー渓谷総合開発)として知られます。治水・電力供給を目的としたものですが,それ以上に恐慌期の雇用対策の意味合いが大きかった。
・日本の主なダム
日本最大の貯水量を誇るダムは阿賀野川流域の奥只見ダム(福島・新潟)。夏になると渇水の目安のようにニュースになるのが吉野川の早目浦(さめうら)ダム(高知県)。ダムの高さで日本一なのが黒部川の黒部ダム(富山県)です。
【例題2】次の地図をみて,あとの問いに答えなさい。
1.次のA~Iの文は,地図中のどの地域について述べたものか。地図中のア~サから選び,記号で答えなさい。
A この地域は,( ① )によって肥沃な土砂が運ばれ,豊かな農業地帯となっている。この川の中流に巨大なダムが築かれて,各地で不毛地の開発が進められ,緑の耕地が増えた。
B この地域は,世界最大の米作地帯の1つである。( ② )の中流域に建設されたダムは世界最大の水力発電ダムである。
C この地域は,「聖なる川」としてあがめられている( ③ )の流域にあって,中流は豊かな平原をなし,この国の重要な農業地帯となっている。下流はある農産物の代表的な産地である。
D この地域は,( ④ )の流域にあって,この国有数の農業地帯である。特にこの地域でとれるある農産物を原料とした酒は有名で各国に輸出されている。
E この地域は,( ⑤ )の流域であり,かつてこの国の大統領によって景気対策のための総合開発が実施された。綿花をはじめさまざまな農作物が栽培されている。
F この地域は,綿花の世界的産地となっている。灌漑のためこの地域を流れる河川からカラクーム運河が建設された結果,この河川が流入していた湖は消滅の危機に瀕している。
G この地域は,複数の国を流れてきた( ⑥ )の下流域である。この地域で( ⑥ )は2つの国の国境の役割を担っている。
H この地域は,ある農産物の世界的な産地となっており,その作物はこの国の経済を長く支えてきた。この地域を流れる河川にダムが建設されると,水力発電よるアルミニウムの精錬がおこなわれ,この国の重要な輸出品となっている。
I この地域は,( ⑦ )の下流域であって,大米作地帯となっている。日本をはじめとるす世界各国の技術援助でナムグムダムの建設などこの川の流域の開発が進められた。
2.上の文の①~⑥にあてはまる河川名を答えなさい。
3.上のD文の下線部の「ダム」名を答えなさい。
4.上のF文の下線部の「湖」名を答えなさい。
5.上のG文の下線部の「2つの国」名を答えなさい。
6.上のC・D・H文の「ある農産物」を下から選び,それぞれ記号で答えなさい。
ア.ぶどう イ.とうもろこし ウ.カカオ豆 エ.茶 オ.ナツメヤシ カ.ジュート
難易度の高い語句が問われています。
A 古くから「エジプトはナイルの賜物」といわれ,ナイル川がエジプト文明を支えた。巨大なダムとはアスワン・ハイ・ダムのこと。
B 黄河は小麦地帯,長江は米作地帯。長江流域の世界最大のダムは三峡ダム。
C ヒンドゥー教にとって「聖なる川」はガンジス川。中流域にあるベレナス(バラナシ)はヒンドゥー教徒にとっての聖地。下流では繊維原料の1つジュートが栽培されている。
D 「酒」とはぶどう酒(ワインなど)のこと。ガロンヌ川河口の港町ボルドーは古くからワインの積出港として栄えた。
E 総合開発とはフランクリン=ルーズベルトのTVA。つまりテネシー川を指す。
F かつてアムダリア川(アム川)はシルダリア(シル川)とともにアラル海に注いでいた。アムダリア川から灌漑用のカラクーム運河がひかれると,アラル海への流水量が減少した。
G 国際河川であるドナウ川はドイツ・オーストリア・スロバキア・ハンガリー・クロアチア・セルビア・ルーマニア・ブルガリアを流れる。下流で国境となっているのはルーマニアとブルガリア。
H ボルタ川の総合開発によってアルミニウム工業を発展させたのはガーナ。ニジェール川と混同しないように。
I 国際河川であるメコン川は中国・ラオス・ミャンマー・タイ・カンボジア・ベトナムとインドシナ半島のほとんどの国を流れる。下流(カンボジアからベトナム)では広大なデルタが形成され米の多期作がおこなわれている。(文中ナムグムダムはラサール高校で問題文中にのみ登場歴がある。)
答え:1.A オ B コ C ク D イ E ア F カ G ウ H エ I サ
2.①ナイル川 ②長江 ③ガンジス川 ④ガロンヌ川 ⑤テネシー川 ⑥ドナウ川 ⑦メコン川
3.三峡ダム(サンシャダム・サンシアダム) 4.アラル海 5.ルーマニア・ブルガリア
6.C カ D ア H ウ
2.化石燃料
①可採年数
鉱産資源を現在のまま生産・消費していくとあとどのぐらいで枯渇してしまうかを年数で示したものを「可採年数」といいます。埋蔵量を,その年の生産量で割った値です。(埋蔵量/生産量)
化石燃料は新たに作り出すことができないので,使用すればなくなる一方です。しかし新たな採掘地が開発されれば確認埋蔵量が増加し,可採年数は延びます。また省エネ技術の向上や需要量が減少すると生産量が減少するのでこれも可採年数が延びる原因ともなります。わたしが中学生であった30年以上前の1980年代には石油の可採年数は約30年といわれていました。つまり今ごろはもうなくなっているという予測だったのです。
それでも新たに作りだすことができない以上,遠い将来とはいえ,いずれはなくなることはまちがいありません。
エネルギー資源の埋蔵量
エネルギー資源 |
埋蔵量 |
年生産量 |
可採年数 |
石油 |
1兆7324億バレル |
343億バレル |
51 |
天然ガス |
188.1兆㎥ |
4.04兆㎥ |
47 |
石炭 |
1兆741億t |
88.0億t |
122 |
ウラン |
608万tU |
4.9tU |
100年以上 |
[表:発展編7-5 データブック オブ・ザ・ワールド2024より 2021年 ウランは2020年]
②石油の問題点
石油資源の大きな問題点の1つはその産地が中東に偏っていることです。
原油埋蔵量【2020】 |
% |
|
産出量【2021】 |
% |
アジア |
50.8(うち中東46.3) |
アジア |
43.8(うち中東30.7) |
アフリカ |
6.8 |
アフリカ |
8.4 |
ヨーロッパ |
6.8 |
ヨーロッパ |
17.5 |
北アメリカ |
14.8 |
北アメリカ |
23.0 |
南アメリカ |
20.8 |
南アメリカ |
7.7 |
オセアニア |
0.1 |
オセアニア |
0.4 |
計 |
2444億トン |
計 |
365836万トン |
[表:発展編7-6 データブック オブ・ザ・ワールド2024より]
これがなぜ問題かというと,中東地域は政治的に不安定な地域だからです。イラク・イラン・シリア,パレスチナにイスラエル,テレビや新聞のニュースで見ない日はないぐらい紛争・外交問題多発地域です。元を正せば,この地域の問題の原因そのものが石油利権なのです。政情の不安定さは原油の生産量・価格に直結します。
[グラフ:発展編7-7 財務省貿易統計より]
具体的には二度の石油危機(1973・1979),湾岸戦争(1991)やイラク戦争(2003)によっての原油の供給量が減るなどすると原油価格は上がります。現在ではロシアのウクライナ侵攻が深刻な原油高をもたらしています。
上のグラフのように原油価格は世界情勢(主に中東)によって急騰することがあるため,アメリカなどでは投機の対象となっています。逆に急落することもあります。アメリカ経済の後退が原油価格の値下がりにもつながる。世界最大の原油消費国の消費量が減少するからです。アメリカ同時多発テロ(2001)やリーマンショック(2008)がその例です。
[グラフ:発展編7-8 データブック オブ・ザ・ワールド2024より 2022年]
上のグラフからもわかるように日本は原油の大半を中東に依存しています。政情不安定な中東にエネルギー資源である石油に頼ることは,エネルギーの安全保障の観点から非常に危険といえるでしょう。
そこで応用編でも学んだように,エネルギー資源とその輸入先の多角化が必要になってくのです。石油とは違い石炭や天然ガスは埋蔵量も多く,産出地に偏りがありません。日本は石油危機以降,このような資源へと火力発電のエネルギー源の転換を図ってきています。
また有事の際に備えて,日本各地に石油備蓄基地が建設されています。中でも鹿児島県の喜入(きいれ)には世界最大級の石油備蓄中継基地があります。
③天然ガス
天然ガスは今もっとも注目を浴びているエネルギー資源です。石油ほど産地に偏りがなく,化石燃料の中でも燃焼したときの二酸化炭素の排出量が少ないなどデメリットの少ないエネルギー資源だといわれています。
近年,地中奥深くの岩盤層であるシェール層から天然ガスを採掘する技術が進んでいます。これをシェールガスといいます。この技術が進むと世界中でシェールガスが産出され,世界のエネルギー事情を大きく変えていくことになると期待されているのです。特に北アメリカは技術的にも潜在的埋蔵量も他地域を圧倒していると考えられ,アメリカでは国家プロジェクトとして進められているのです。
しかしこの天然ガスにも問題点はある。天然ガスの主成分はメタンです。たしかに燃焼時の二酸化炭素排出量は他の化石燃料に比べて少ないですが,メタン自体は二酸化炭素の20倍も温室効果のある気体なのです。天然ガスは気体なので,採掘時や輸送時に大気中へ漏れが出てしまいます。この漏れも計算に入れると結果的に温室効果が上がってしまうのではないかという見解があります。
また日本は島国のため輸入には液化する必要があります。つまりコストがかかるのです。さらに日本の天然ガス輸入価格は原油価格連動方式による長期契約をとっています。つまりいくら産出地でたくさんの天然ガスが採掘されても,原油価格が上昇すると天然ガス価格も上がってしまうのです。
もっといいますと,日本ではヨーロッパやアメリカのように天然ガスパイプラインの整備が遅れています。ということは輸入した天然ガスは臨海部の限られた発電所で電気となり,送電網を通って電力は各地に送られます。電力は送電網が長くなればなるほどロスが出るのです。
このように日本では他国に比べて豊富な天然ガスの恩恵を受けにくい状況にあるのです。
3.原子力発電
①原子力発電
原子力発電に必要な燃料はウランという物質です。産出量が多いのはカザフスタン。あまり登場する国ではないので逆におぼえやすいかもしれません。埋蔵量としてはオーストラリアの方が多く,この2ヶ国をおぼえておきましょう。[表:発展編7-9 日本国勢図会2024/25より 2021年]
ウラン鉱の産出 |
t |
カザフスタン |
21819 |
ナミビア |
5753 |
カナダ |
4692 |
オーストラリア |
3817 |
ウズベキスタン |
3520 |
理科の周期表をみるとウランの原子番号は92となっています。これは原子核にある陽子の数です。水素は原子番号が1。陽子と電子がそれぞれ1つの原子です。原子核の中には陽子のほかに中性子というのがいます。中性子の数は同じ原子でも異なる場合があります。水素は陽子が1つと決まっていますが,中性子をもたない水素を普通の水素,中性子を1個もつ水素を重水素といって区別します。
ウランも原子核に中性子がいくつあるかで種類がわかれ,ウラン235,ウラン238などがあります。ウラン235とは陽子92に中性子が143個(92+143=235),ウラン238は陽子92に中性子が146個(92+146=238)という意味です。自然界に存在するウランの99%以上はウラン238です。原子力発電に燃料として使用するのはわずかしかないウラン235の方で,発電用燃料として3%ほどまでウラン235の濃度を高めたものを濃縮ウランといいます。(逆にウラン235の含有率が低いものを劣化ウランといい,アメリカなどでは武器などに使われることもある。劣化ウラン弾など)
原子力発電のエネルギーはどのようにして得られるかですが,ウラン235の核分裂という方法をとります。ウラン235に中性子を1つぶつけると,ウラン235はその中性子を取り込み,取り込んだあと2つの別の原子に分裂するという特徴をもっているのです。これが核分裂です。核分裂がおきるとき,もとのウラン235から再び中性子が飛び出します。この中性子は別のウラン235を分裂させます。このようにウラン235の核分裂は連鎖的におこることになります。(この状態を臨界という)
ところで分裂したあとにできる2つの原子は特に決まっていません。セシウムとルビジウム,キセノンとストロンチウムなどです。(セシウムやストロンチウムは福島第一の原発事故後,よくニュースで登場した放射性物質)しかし分裂してできた2つ物質の質量の和はどれももとのウランの質量よりも減っているのです。質量保存の法則は知っていますね。
(もとのウラン+ウランにぶつけた中性子)の質量=(分裂後の物質A+分裂後の物質B+飛び出した中性子)の質量
でなければいけないのに
(もとのウラン+ウランにぶつけた中性子)の質量>(分裂後の物質A+分裂後の物質B+飛び出した中性子)の質量
になってしまった。
そうです,この減った質量こそ発生したエネルギーなのです。有名な公式があります。アインシュタインの有名な公式E=mc2。Eはエネルギー,mは質量,cは光速。光の速度は一定(定数)ですから,質量はエネルギーになるのです。
ウラン235の核分裂によるエネルギーがどれだけすごいかというと,ちょっとした比較をしてみましょう。
[グラフ:発展編7-10 日本原子力文化財団 原子力・エネルギー図面集より]
「100万kWの発電所」というのはだいたい原子炉一基分の発電能力です。これを1年間運転するための濃縮ウランはたった21トンです。これに匹敵するだけの発電能力をほかの資源でまかなおうとすると,桁違いなのがわかります。
さて核分裂の反応を安全に安定的におこす装置が原子炉です。原子炉にはウランの燃料棒と水が入っています。水の役割は,核分裂によって発生した熱エネルギーで水蒸気を発生させること。この水蒸気が発電のためのタービンを回します。また高温になった燃料棒を冷やすための冷却材としての役割。そして核分裂をさせる中性子の動きを遅くする減速材としての役割があります。中性子は高速で動き回るとうまくウラン235にぶつからず核分裂の連鎖反応の効率が悪くなるそうです。そこで水を使うと中性子がと水の中の水素原子にあたりながら進むので,中性子の速度が落ちるというわけ。使うのはただの水です。このただの水を使う原子炉を軽水炉といい,もっともよく使われる原子炉です。
②原子力発電の危険性
・放射線
ウランの核分裂がおこると別の原子が誕生しました。この誕生したばかりの原子は非常に不安定な状態にあります。陽子や中性子のバランスがとれていないからです。そこで自らを安定させようとします。どうやって安定させるかというと不必要な陽子や中性子を放出するのです。人間もウィルスや細菌をもらって風邪をひいたりすると,体調が悪くなります。体内バランスの悪い状態です。そこで体は自ら発熱して体内バランスをとろうとします。(この例が的を射ているかどうかは専門家でないのでわからない)
このようにして放出された粒子を放射線といい,放射線を放出して原子が安定化しようとする力を放射能,放射線を放出する物質(ここではウランの核分裂によって誕生したもの)を放射性物質といいます。
放射線はわれわれの生活,地球上,宇宙のいたるところにあります。必要以上に浴びなければ病気の診断,治療にも役立ちます。問題は原子炉で生成される放射性物質がとんでもない量だということです。
放射線はものにもよりますがわずかな遮蔽物があれば遮断することができます。もちろん原子力発電所では何重もの防護壁で放射線を遮断しているわけですが,何かの事故で防護壁に穴が開くと外部へ一気に拡散します。
拡散した放射性物質は放射線を放出し続けるわけですが,この放射性物質の塊,仮にn個の原子の塊だとしましょう。n個の放射性物質の原子の半分が放射線を出さない安定した原子になるまでの期間を半減期といいます。物質によってその期間は短いものから長いものまであります。長いものはとんでもなく長い。
例えば,福島の事故で確認されたセシウムは放射線を出してバリウムという物質になります。半減期は30年。それでもまだ半分は放射線を出し続けることになります。プルトニウムという物質では2万4千年。
人体が放射線にさらされることを被曝(「被爆」ではない)といいます。ある種の放射線は皮膚によって跳ね返される(外部被曝)ので心配ありませんが,呼吸を通して体内に取り込まれることがあります。これを内部被曝といいます。また人体を通り抜けてしまう放射線もあります。しかしこの放射線は稀に細胞内のDNAにぶつかってしまうことがあります。そうするとDNAは破壊され,ガンなどの致命的な病気を発症する可能性が高くなるのです。浴びる量が多くなるほど,その確率は高くなる。
・メルトダウン(炉心融解)
原子炉は停止させてもその燃料はしばらく高温のままの状態を保ちます。放っておくとその温度自体で燃料棒は融け始めてしまいます。だから冷却し続けなければなりません。もし冷却できないと融けた核燃料は原子炉の底にたまり,原子炉をも融かして外に漏れ出します。このような状態をメルトダウン(炉心融解)といいます。福島第一の事故では津波による電源喪失により,もっとも大事な冷却装置が稼動しなかったことが大問題となり,メルトダウンがおこったのではないかといわれています。
融けた燃料が一ヶ所に集まってしまうと,自然臨界に達してしまいます。そうなるともうお手上げです。小いさな原爆が落ちたのと同じです。昔アメリカの映画で『チャイナシンドローム』という映画があったのですが,原子力発電所の危険性を訴える映画です。この映画から「チャイナシンドローム」というと,アメリカでメルトダウンがおこると最悪,核燃料が地殻を融かし,裏側の中国にまで達するというブラックジョークで使われるようになりました。実際はそんなことはありえないのですが,深刻な事態になるのは確かです。
使用済みとなった核燃料もしばらくはそれ自体が熱を持っているので冷やしておく必要があります。プールの中に入れておくのですが,もし冷却機能がストップしたらプールの水は水蒸気となり,水蒸気爆発がおきます。すると放射性物質が大気中に拡散することになります。もし福島第一の事故でこれがおこっていると首都圏も壊滅状態になっていたかも知れません。
・使用済み核燃料の処理
使用済み核燃料,つまり「核廃棄物」のことです。「使用済み」は安心してよいということではありません。放射線を出し続けている物質です。よく「除染」とか「中和」とかという言葉がニュースで使われますが,放射性物質を除去したり中和したりすることはできません。放射線を出しているのは化合物ではなく,物質のもっとも小さな原子そのものですから,別の物質になるまで放っておくしかないのです。福島のように汚染を取り除くのは,人体に有害でない程度に薄めることだけです。それでも放射性物質はどこかに溜まったり,流れ着いたりして放射線を出し続けます。
それでは使用済み核燃料はどうやって処理するかというと,化学的にに処理することは現在の人類の科学では不可能なのです。そこで手は1つ,放射線を出さなくなるまで地中に埋めておく。
使用済み核燃料はそこからもう一度使える分だけ取り出して有効活用することがあります。核燃料サイクルといいますが,現在日本はイギリスやフランスにこの作業を委託しています。青森県六ヶ所村にはこのための再処理工場を建設中ですが,進んでいないのが現状です。
②プルトニウム
核分裂はウラン235に中性子がぶつかることでおこりました。しかし燃料である濃縮ウランにさえ,ウラン235はほんの3%程度しかありまん。ほかはウラン238です。核分裂したあとにウラン235から飛び出す中性子はわずかにある別のウラン235にあたり核分裂を連鎖的に引き起こします。しかしウラン238にあたる確率の方が高い。ウラン238に中性子があたるとどうなるかというとウラン238には核分裂をおこさず,そのままその中性子を取り込む性質があるのです。中性子を取り込んだウラン238はプルトニウムという物質に変身するのです。
変身したプルトニウムはウラン235と同様,核分裂をおこす物質です。ですから中性子をぶつけてやると核分裂のエネルギーを得ることができます。ただしウラン235と違って中性子の動きは速くなければいけません。ウランのときは原子炉に減速材として水(軽水)を入れることで中性子の動きを遅くしましたが,プルトニウムの場合,中性子の動きを遅くしてはいけません。でも冷却材は必要です。そこでプルトニウム型の場合には冷却材として液体ナトリウムを使用します。
これでそれまでの原子炉ではあまり役に立たなかった大量のウラン238を有効活用する道が見えてきました。なんせ大量にあるわけですから,プルトニウムも大量に生成される。ちょっとしかなかったウラン235をもとにして大量のウラン238をプルトニウムに変え,次の燃料を生み出す。なんと消費した燃料以上の燃料が生まれるわけです。この夢のような原子炉を「高速増殖炉」といいます。
「夢のような」といったのはまだ実用稼動していないからです。理由はやっぱり安全性。まず燃料となるプルトニウム。プルトニウムの語源は知っていますか?ローマ神話でプルート(ギリシャではハーデス),冥界の王つまり地獄の神様です。プルトニウムの半減期は2万4千年と凶悪な放射性物質です。もしものことがあれば福島第一どころの話ではない。さらに冷却材として使用されるナトリウム。ナトリウムは扱いが難しく,水とすぐ反応します。少量のナトリウムでも水に落とすと大爆発です。ですから金属ナトリウムは灯油に入れて保管します。
1991年,福井県敦賀(つるが)に「もんじゅ」という高速増殖炉のプロトタイプが完成します。しかしナトリウム漏れ事故などを起こして運転が停止され,安全性を検討した結果2016年,廃炉が決定しました。
③プルサーマル計画
そこで次の計画が浮上。プルサーマル計画です。ナトリウムは危ないので,普通の軽水炉(サーマル)でプルトニウムを使ってみないかというわけです。プルトニウムと軽水炉で「プルサーマル」。
使う燃料はウランとプルトニウムの混合燃料。これをMOX(モックス)といいます。MOX燃料は使用済み核燃料を再処理して抽出されたウランとプルトニウムを使用するため,リサイクル燃料であるという点が利点です。実はウラン235を核分裂させる普通の原子炉(軽水炉)でも自然とプルトニウムが生成されているのです。(中性子が水の中で減速する前にウラン238に吸収されることもある)
プルトニウムを活用する第二案がこのプルサーマル計画ですが,「計画」だけあって本格的に日本の電力を支えるまでにはいたっていなかったようです。やはりプルトニウムを使用することに対する住民の嫌悪感は強く,住民投票をおこなって反対多数となったところや計画に反対する住民運動が各地でおこりました。そしてあの福島第一の事故が起こるのです。
④福島第一と過去の事故
2011年3月11日,東北地方太平洋沖地震による津波が東京電力福島第一原子力発電所を襲います。原子力発電所の安全はまず「停止する」,次に「冷やす」,そして「封じ込める」によって確保されます。大規模地震を探知した段階で,原子炉は緊急停止したわけですが,次に来る津波によって非常用電源まで喪失し,次の「冷やす」をおこなうことができず,結果的に放射線を封じ込めることができなくなってしまったのです。原子炉内の燃料は原子炉が停止してもしばらくは熱をだし続けることは前にも説明しました。使用済み核燃料ですら,冷やし続けなればならないのです。
冷却できなくなった原子炉では核分裂が続き,やがてメルトダウン。水素爆発も起き,放射性物質の拡散は止められませんでした。半径20km圏内には避難指示が出され,現在も帰宅困難区域となっています。
原子力発電所を含めた核技術の安全管理・監視をおこなう国際機関がIAEA(国際原子力機関)です。本部はオーストリアのウィーンにあります。IAEAはこの福島第一原子力発電所事故を,1986年に旧ソ連で起こったチェルノブイリ原子力発電所の事故と並べてレベル7の最悪評価を下しました。以下が主な過去に起こった主な事故と評価レベルです。
レベル |
事故 |
7 |
チェルノブイリ原子力発電所事故(1986 旧ソ連)
福島第一原子力発電所事故(2011 日本) |
5 |
スリーマイル島原子力発電所事故(1979 米) |
4 |
東海村JCO臨界事故(1999 日本) |
1 |
「もんじゅ」ナトリウム漏洩(1995 日本) |
0 |
新潟県柏崎刈羽原子力発電所事故(2007 日本) |
JCO…住友金属子会社の核燃料加工施設
刈羽原発事故は新潟県中越沖地震によるもの
新潟県柏崎(かしわざき)刈羽(かりわ)原発は,操業当時世界最大の原子力発電所でした。
|
IAEA本部(ウィーン) |
⑤現在の原子力発電
現在,日本を除く原子力発電がさかんな国は以下の通りです。
[グラフ:発展編7-11 データブック オブ・ザ・ワールド2024より 2021年]
これまでみてきた通りフランスは原子力発電中心の代表国です。ここでウクライナを出したのは旧ソ連時代チェルノブイリがあった国だからです。ウクライナには黒土地帯が広がっており,小麦の世界的な産地としても重要です。フランスとウクライナは原子力と小麦の一見ミスマッチな組み合わせでおぼえておきましょう。スウェーデンはページ上の北欧4ヶ国の比較でおさえておくのがよい。韓国は日本と同様エネルギー資源に乏しい国です。そこでエネルギー源別割合では2011年までの日本と非常によく似た形になっている。原油の中東依存度も日本同様非常に高い。
2011年以降,逆に原子力発電による電源を放棄する国もでてきています。イタリア・スイス・ドイツがその代表例です。しかしこれらの国々は自国の電力の何%かを原子力発電の割合が高い国々から輸入している点で脱原子力政策と矛盾しています。
4.新エネルギー
①新エネルギー
新エネルギーといった場合,普通に文字通り開発途上にあるものも含めて「新しいエネルギー」と解釈してもよいのですが,日本では「新エネルギー法」というのがあって,太陽光発電・風力発電・地熱発電・バイオマスなどの水力を除く再生可能エネルギーを指します。ここではこれらについて触れていきます。
[グラフ:発展編7-12 環境エネルギー政策研究所ホームページより]
新エネルギーによる発電量は2011年の福島第一原子力発電所の事故を受けて,その後大きく増えていることがわかります。中でも太陽光発電の増加が著しい。各エネルギーのメリットとデメリットをしっかりと理解しておきましょう。
②太陽光発電
太陽の光を太陽電池という装置が電力を作りだします。太陽電池は金属(シリコン)でできた板です。これまでみてきた発電とは違ってタービンを回転させて発電する方法とはまったく違います。物質に光をあてると電子が飛び出すという光電効果という現象を利用します。
家屋の屋根に取り付けるものから,未使用の工業用地,休耕地,耕作放棄地などを活用して太陽光パネル(ソーラーパネル)を設置するメガソーラーまで規模はさまざまです。海外では砂漠などを利用した大規模なものもあります。
・メリット
エネルギー源はほぼ無限でまず枯渇することはありません。しかもタダです。温室効果ガスやその他の酸化物を排出することはありません。
地上ならどこに設置しても構いません。家庭用なら発電するところと消費するところが同じなので送電による電力ロスもない。家庭用の太陽光パネルの設置には国や地方公共団体から補助金が出ます。(国は2014年に廃止)
安全性の面でも多少の故障がおこっても致命的な事故になる可能性は低い。メンテナンスも簡単。
・デメリット
何といっても太陽が出ていないと話になりません。したがって夜は無理。太陽光が少ない曇りや雨・雪の日も発電量が少なくなります。天候によって発電量が左右されてしまうのです。
導入コストが高い。費用は以前と比べ安くなってきてはいます。まだまだ一般家庭に普及するには高額。
導入コストを低く抑えること,そして蓄電の技術が進まないと代替エネルギーとしての役割は十分に果たせません。
※スマートグリッド
「スマート」とは「スマートフォン」の「スマート」。「かしこい」の意味。「できるやつ」って感じ。「グリッド」はここでは「送電網」の意味です。「かしこい送電網」とは?
これまでの送電網は発電所から一方的に電気を送ってくるだけでした。ですから一方的に送ってきた電力を一方的に使うだけ。この送電網にIT技術を組み合わせるとどうなるでしょう。発電所が消費者の消費状況(情報)を知ることで無駄な発電を抑え,効率的に発電することがができます。効率化するということは温暖化対策にもなります。
また太陽光発電や風力発電は発電量が天候に左右されやすいため,従来の送電網に組み込みにくいという難点がありました。IT技術を活用すれば,太陽光や風力の発電量が低下したらば,火力の発電量を増やすといった調整が可能になります。自然エネルギーを普及させていくためにもスマートグリッドの整備が必要になります。
スマートグリッドの整備が進むとこんなことも可能になります。太陽光発電によって家庭で作った電気は貯めて置くことができません。だから昼間しか使えないのです。夜は電力会社からの電気に頼るしかない。バッテリがあれば充電しておいておくこともできますが,バッテリを置くスペースの確保や設置費用に相当額かかります。昼間作って余った電気は電力会社に売った方が得です。そこで昼間に作った電気を自動車に貯めておくことができればどうでしょう?このようなことができる自動車をEV(電気自動車)といいます。EVには家から充電できるバッテリーが備わっています。もちろん充電した電気によって走ることもできますし,太陽の出ていない夜に家庭でその電気を利用することができます。EV車に家庭で充電した電力はスマットグリッドを通じて,近くで電力を必要としているところ(例えば工場やオフィス・学校)に電気を送ることもできます。家庭内だけでなく,地域で電力をシェアする(わけあう)ことができるようになります。
スマートグリッドの整備は人件費の削減にもなります。今君たちの家庭では,月に一度電力会社の検針員が電気メーターを見て,検針結果と電気料金を打ち出した紙をポストか何かに入れて,毎月の電気料金を教えてくれるでしょう。スマートグリッドが整備されたら,その必要がなくなります。電力使用量は通信回線を通って電力会社に直接伝えられます。
電力使用量が可視化できるようになり使用者の省エネ意識にもつながりますし,各家庭の生活に応じた料金体系も整備されていきます。携帯電話の料金体系もそのように変化してきましたね。さらに従来の電気会社だけでなく,新たな電気会社の参入も容易になります。そうなると価格競争によって電気料金の値下げにもつながる。
しかし現状ではスマートグリッドを社会に普及させるにはかなりのコストが必要となります。電力を制御・調整する送電網技術,各戸に設置するメーター(スマートメーター),EVなど蓄電の技術。欧米に比べてその整備に遅れをとっています。
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パリ市内に設けられたEVの充電スタンド
スマートグリッドが整備されると電力供給スタンドにもなる。 |
③風力発電
風の力を動力として利用する方法は,古くからありました。これを発電機と組み合わせるだけですから再生可能エネルギーの中でも早くから実用化された発電方式です。
・メリット
太陽光と同じく,再生可能なエネルギーを利用しますからほぼ無限でタダのエネルギーといえるでしょう。大気に与える影響も少なく環境負荷の少ないエネルギーです。
・デメリット
これも太陽光と同じで,発電量が自然に左右されるという点が問題。さらにその発電量自体が少ないときている。また発電用風車の設置場所が問題です。騒音や低周波振動が原因で人体や生活に悪影響を及ぼす。
④地熱発電
火山活動などの地熱によって発生した水蒸気を得てタービンを回す発電方法です。日本など火山国では非常に注目されている発電方法です。しかし現在日本の総発電量にに占める地熱発電の割合はたったの0.2%にすぎません。
・メリット
地熱発電に使われる水蒸気は,地中の中にあるすでに高温に熱せられた水や水蒸気です。燃料としてはほぼ枯渇の心配もなく,もちろん純国産です。何かを燃やすわけでもないので二酸化炭素の排出量はきわめて少ない。天候に左右される心配もありません。
・デメリット
利用候補地はたくさんあるのですが,その多くが国立(国定)公園内にあります。国立公園は自然保護を第一に定められていますから,発電所の建設には法整備が必要です。環境省などが進めていますが,候補地周辺には温泉地・観光地があり,反対派を押し切ってまでというわけにはいきません。環境・自然保護の観点から地域住民の理解が必要です。
⑤バイオマス発電
バイオマスとは生物由来のエネルギーです。その燃料をバイオ燃料といいます。古くは家畜の糞や薪がそうでした。
現在ではガソリンにかわるバイオエタノール,これはさとうきびやとうもろこしなどから作ります。発電用としては,建築廃材,廃棄処分した食料などを利用します。
・メリット
したがって最大のメリットとしては資源の有効活用である点です。バイオマス発電の発電方法は火力発電と基本的には同じで,燃料を燃やして熱エネルギーを得る。そうすると自然と二酸化炭素が排出されるわけですが,燃料となる植物は成長するときに二酸化炭素を吸収して光合成をおこなっていますから,大気中の二酸化炭素の量は差し引き0になる。このような考え方をカーボンニュートラル(カーボン=炭素,ニュートラル=中立)といいます。
・デメリット
カーボンニュートラルという考え方は都合のいい考え方で,これはあくまでも発電に使うバイオ燃料だけに焦点をあてた考え方です。発電には燃料を確保する土地が必要です。発電所も当然必要で,電力は送電網によって送られます。これらの設備を開発・建設するのに森林が伐採されたり,重機や輸送機械を動かさなければなりません。その際に排出される二酸化炭素は無視されがちです。バイオマス発電のカーボンニュートラルとはあくまでも発電のときの二酸化炭素の量を問題にしているのです。トータルで考えると二酸化炭素の減少(環境負荷の軽減)にはつながらないという点を理解しておきましょう。
またバイオ燃料の主な原料作物は食用作物です。そのため燃料用か食用かで,競合が生じます。その結果,穀物価格・食料価格の高騰を招いてしまうのです。
5.その他の資源
①ボーキサイト
ボーキサイトは酸化アルミニウムを含んでいる鉱物です。したがってアルミニウムの原料になります。この鉱物は熱帯に分布する赤茶色したラテライトという土壌に多く含まれますので,熱帯もしくはかつて熱帯であった場所で多く産出されます。
ボーキサイトは化学処理されて水酸化アルミニウムの状態にします。水酸化アルミニウムを高温に加熱したものをアルミナといい,このアルミナを炉に入れて電気分解するとアルミニウムができます。したがってアルミニウムをつくるには大量の電気が必要になります。アルミニウムは別名「電気の缶詰」とよばれるぐらいです。
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左:ボーキサイト
右:アルミナ |
大量の電気が必要になるということはコストがかかるということでもあります。大量の電気が得られ,なおかつそのコストも低く抑えるためには水力発電が適しています。したがってアルミニウム工業は水力発電所と結びついていることが多い。
そう考えると日本なんかはあまりアルミニウム工業には向いていません。原料は取れないし,輸入しても水力発電所は山の中だし,他の電力を使うにはあまりにコストがかかりすぎる。日本では静岡市の蒲原(かんばら)というところでほとんど唯一のアルミニウム製錬工場がありましたが,これは工場が自前の水力発電所をもっているからでした。現在は蒲原の製錬工場も閉鎖され,日本でアルミニウム工業というと,ほとんどがアルミニウム加工業のことです。
日本軽金属蒲原製造所 揚水式水力発電(静岡県静岡市蒲原町)
【例題3】次の表のA~Eにあてはまる鉱産資源をあとから選び,それぞれ記号で答えなさい。また表中のXに共通してあてはまる国名を答えなさい。
Aの産出 |
% |
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Bの産出 |
% |
|
Cの産出 |
% |
|
Dの産出 |
% |
|
Eの産出 |
% |
X |
36.7 |
中国 |
12.1 |
メキシコ |
22.4 |
X |
26.4 |
カザフスタン |
43.4 |
ブラジル |
19.3 |
X |
9.5 |
ペルー |
15.4 |
中国 |
24.2 |
カナダ |
15.0 |
中国 |
13.8 |
ロシア |
9.4 |
中国 |
13.2 |
ギニア |
17.4 |
ナミビア |
11.5 |
インド |
8.3 |
アメリカ |
6.8 |
ロシア |
7.6 |
ブラジル |
8.9 |
X |
8.4 |
ロシア |
3.7 |
カナダ |
6.5 |
ポーランド |
5.4 |
インド |
7.0 |
ウズベキスタン |
6.8 |
南アフリカ |
3.1 |
ペルー |
5.5 |
チリ |
5.1 |
インドネシア |
3.4 |
ロシア |
5.1 |
ウクライナ |
2.5 |
インドネシア |
4.3 |
オーストラリア |
4.6 |
ジャマイカ |
3.1 |
ニジェール |
4.1 |
世界計 |
152000万トン |
世界計 |
3310トン |
世界計 |
27800トン |
世界計 |
32700万トン |
世界計 |
48888トンウラン |
[表:発展編7-13 データブック オブ・ザ・ワールド2024より 2018年 Eは2022年]
ア.金鉱 イ.銀鉱 ウ.銅鉱 エ.ウラン鉱 オ.鉄鉱石 カ.ボーキサイト
表はいずれも産出量であり,A・Dにブラジルがみられることから,選択肢から考えてどちらかが鉄鉱石と推測できます。Dは中国を除いてすべて熱帯の国々ですね。特に統計でギニア・ジャマイカといった珍しい国が並んでいるのが特徴です。このことからDはボーキサイトとなります。同時にAが鉄鉱石ですが,鉄鉱石の統計なのに肝心の国がみられませんね。そうオーストラリアです。したがってXはオーストラリアです。オーストラリアでもボーキサイトは熱帯の北部で産出され,北東部のヨーク岬半島が代表的な産地です。
Eはカザフスタンからウラン。B・Cは金・銀・銅のいずれかになりますが,Bはその産出量(世界計)の少なさや南アフリカ(共和国)から考えて金。Cはメキシコから銀です。銅ならチリの産出量が群を抜いているはずです。
答え:A.オ B.ア C.イ D.カ E.エ X.オーストラリア
②海底と南極
経済水域内の資源開発には沿岸国の権利が優先されますが,公海における海底資源の開発はどうなっているのでしょうか?公海の海底資源は国際海洋法条約に基づいて設置された国際海底機構によって管理されています。開発・採掘にはこの組織の承認が必要です。
同様に南極大陸も勝手に資源開発はできません。南極条約によって厳しく制限されています。ちなみに宇宙空間も勝手な開発はダメです。宇宙条約というのがあって,これはまだ出題されたことはありませんが,公海・南極・宇宙について共通することは「領有の禁止」・「平和利用」です。
③都市鉱山
資源は何も地中から採掘されるとは限りません。ゴミとして廃棄された家電製品の中に有用な資源が含まれている。大都市ほどこのような資源が豊富で,再利用・再資源化といった有効利用が期待されています。特にレアメタルは有用な資源です。
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