地理 第7回 鉱工業   応用編2 鉱工業

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工業の立地

1.工業の発展
①手工業
 工業の原点は手工業です。手作りですね。これをお家ですることを少し難しくいうと家内制手工業といいます。家の中で原材料から製品を作り上げてしまう。
 これが少し発展すると,裕福な商人が原材料と道具と賃金を職人に与えて商品を作らせる。職人がモノ作りをするのは各家なのでこれを問屋制家内工業といいます。日本では江戸時代中期(18世紀)に発展した形態です。
 さらに効率をよくするために商人は工場に人手(労働力)を集め(協業),生産作業を工程ごとにわけ(分業),流れ作業によって商品が生産します。でもまだモノをつくるのは人力ですから手工業には変わりありません。この段階を工場制手工業といいます。日本では江戸時代後期(19世紀)に発展した工業の形態です。

②工場制機械工業
 18世紀,イギリスでおこった産業革命とは,生産手段が手工業から機械工業に変化したことです。(「革命」とは急激な変化)工業の形態が工場制手工業から工場制機械工業へと変化したといえるでしょう。またそれによってこれまでの社会そのものも大きく変わってしまった。それも含めて「産業革命」といいます。
 機械はまず織機などの身近な作業機械から始まり,蒸気機関などの原動機が発明され,製鉄・金属加工,大型の工作機械と発展していきました。産業革命は,軽工業から重工業へと発展していくのです。決して反対ではありません。イギリスの産業革命も綿工業の分野から始まりました。

③日本の産業革命
 日本の産業革命も日清戦争ごろに軽工業が,日露戦争ごろに重工業へと変わっていっています。先に軽工業です。日本の産業,特に重工業の発展は戦争と深く結びついています。つまり軍事目的のため重工業が発展していったといってもかまいません。北九州の八幡製鉄所は日清戦争後の下関条約の賠償金によってその資金は賄われ,1901年,日露戦争に向けて操業を開始します。できればこの「1901年」という年はおぼえておいてほしい年代です。
 戦前(太平洋戦争),鉄鋼業の原材料である鉄鉱石や石炭の多くが中国から輸入されていたため,日本では八幡製鉄所を中心とする北九州工業地帯や阪神工業地帯という西日本の工業地帯が発展しました。さらに阪神工業地帯は当時の日本の主力産業であった綿工業の中心地であったため,戦前は日本最大の工業地帯だったのです。

④戦後の日本の工業
 日本は太平洋戦争に敗北します。しばらくの間GHQ(連合国軍総司令部),実質はアメリカの占領下に置かれますが,朝鮮戦争をきっかけに日本は復活します。「特需景気」といって,朝鮮戦争で戦うアメリカ軍による物資の注文が殺到したのです。特需景気によって日本の経済は戦前の水準にまで回復したのです。
 1951年,サンフランシスコ平和条約によって主権も回復した日本は,「さぁこれからが本当の日本の発展だ」ということで,工業では重化学工業に重点を置きます。重化学工業とは金属・機械・化学工業でしたね。その中心はもちろん四大工業地帯でした。
 日本人の多くは職や生活を求めて大都市圏に流入します。高度経済成長の始まりです。このころの日本人のおかげで日本は世界有数の先進国に発展したわけですが,あまりに大都市に人口が流入したため,様々な都市問題が発生します。そこで工場も大都市圏だけでなく,周辺地域に分散せざるを得なくなった。こうして形成され,発展していったのが工業地域です。
 その一方で,北九州工業地帯や阪神工業地帯の地位が低下していきます。まず金属工業の主力,鉄鋼業の原材料調達地であった中国と戦後国交が閉ざされたこと。そしてその間に石炭や鉄鉱石の輸入先が太平洋側からに変化しました。オーストラリアやブラジルですね。さらに工業の重点が繊維工業・鉄鋼業から機械工業に変化したこともあります。阪神工業地帯が戦前最大の工業地帯であったのは金属工業と繊維工業のウェイトが高かったからです。

[グラフ:応用編7-19 日本国勢図会55版・66版・81版より]
 上のグラフは赤が工業地帯,青が主な工業地域の製造品出荷額の推移です。工業地帯では中京だけが自動車を中心に機械工業が発展したため現在も延びているほかは,出荷額の伸びがおもわしくない。その一方で工業地域の中には工業地帯にとって代わろうとしているところもあります。
 また近年は製品の規模,交通網の整備,コスト面から工業立地が地方に分散するようになったため工業地帯・地域(太平洋ベルト)以外の出荷額が大きく伸びてきています。
 今度は工業を立地の特徴とその変化についてみていきましょう。その前に例題を。

【例題1】次の表は三大工業地帯の製造品出荷額の推移(単位:億円)を示している。阪神工業地帯にあてはまるものを選び,記号で答えなさい。

1970年 1980年 1990年 2000年 2010 2020
156250 376133 515908 402530 257710 231190
76550 251021 445033 427472 481440 546299
122278 302626 405725 325518 301386 324505

[表:応用編7-20 グラフ7-19に同じ]

工業地帯の順位は1位だけをしっかりとおぼえておく必要がありますが,応用編では「戦前」・「戦後」・「現在」と3つの段階でおさえておきましょう。このような問題だけでなく,問題の文中にも使用されることがあります。戦前1位は阪神,戦後1位は京浜,現在の1位は中京です。表から1970年に最大であるが京浜,2020年(現在)に最大であるが中京。よってが阪神です。

答え:ウ

【例題2】次のグラフは日本の製造品出荷額等構成の推移を示している。グラフ中X・Y・Zにあてはまる組み合わせとして正しいものを選び,記号で答えなさい。

[グラフ:応用編7-21 日本国勢図会2024/25]より]
ア.X:金属  Y:繊維  Z:機械
イ.X:金属  Y:機械  Z:繊維
ウ.X:機械  Y:繊維  Z:金属
エ.X:機械  Y:金属  Z:繊維


 日本の工業は戦後,機械を中心に発展しその額を伸ばしてきたのですからYが機械。一方,金属と繊維はその割合を減らしてきている。また「額」の割合であることから,金属の割合が繊維の割合よりも多くなるはずですから,Xが金属,Zが繊維。

答え:イ

2.輸送面からみた立地
 工業は原材料を「産地」から「工場」に運び,加工して「市場(消費地・都市)」に届けます。「産地」は動かすことができません。「市場」も動かすことができません。では選択の余地があるのは「工場」の立地です。ではどこに工場を建てたらよいのでしょうか?
①鉄鋼業
 鉄鋼業の原材料は「鉄鉱石」・「石炭」・「石灰石」です。まず「石炭」は加工して「コークス」という物質にしてから使います。「鉄鉱石」とは「酸化鉄」のことです。「鉄」に「酸素」が結びついた状態で掘り出されたもの。だから鉄と酸素を分離させてやらなければならない。「酸化」の反対の「還元」ですね。そこで石炭(コークス)を入れてやる。石炭は「炭素」ですので,鉄鉱石の酸素は石炭の炭素と結びついて二酸化炭素になるのです。
 ここで石灰石の登場です。今,鉄と酸素と炭素は三角関係にあると考えて下さい。この三角関係を泥沼にならずに,すっきり別れさせ結びつけてやる働きをするのが石灰石です。石灰石のおかげで円満に化学反応がおこり,鉄と酸素が別れ,炭素と酸素が結びつくのです。また石灰石は三角関係によっておこる周囲の雑音も取り除いてくれます。周囲の雑音とはここでは「リン」や「硫黄」などさまざま不純物です。
 さてここで考えて下さい。「鉄鉱石」・「石炭(コークス)」・「石灰石」をまぜてできあがる「鉄(鉄鋼)」は元の原材料すべてを足した重量より重くなるか軽くなるか?3つを混ぜる理由は鉄鉱石から酸素や不純物を取り除くためでした。つまり必要のないものを取り除いた結果,できあがる製品=「鉄(鉄鋼)」の重量は原材料の重量より軽くなるはずです。
 そうするとわざわざ,重たい原料を市場の近くまで運んで製品化するよりも原材料の産地に工場を建てて,軽くなった製品を輸送する方がコストが安く上がりです。したがって鉄鋼業は原材料の産地に立地する工業といっていいでしょう。
 例をみます。まずはヨーロッパ最大のドイツのルール工業地帯ルール地方で石炭が産出されます。あとは鉄鉱石をもってくればいいんですが,近くのフランス国境地方で鉄鉱石が採れます。このあたりはライン川の支流が流れていますから,その水運を利用すれば輸送は簡単です。ルール工業地帯はライン川の水運を利用し,付近で産出する石炭と鉄鉱石によって鉄鋼業が発展しました。
 生産された鉄鋼は再びライン川を利用して河口のオランダに運ばれ,輸出されます。ライン川の河口都市,ロッテルダムにはユーロポートとよばれる港があり,EUの玄関港として知られます。

 2つ目の例はアメリカ五大湖周辺です。ピッツバーグという都市が鉄鋼業の都市として知られます。ピッツバーグはアパラチア山脈の北端に位置し,ここでは石炭が採れましたね。鉄鉱石五大湖西端(スペリオル湖)のメサビ鉄山が有名です。メサビで採れた鉄鉱石は五大湖の水運を利用してピッツバーグに運ばれ,石炭と合わせて鉄鋼業がおこなわれる。そして生産された鉄鋼は再び五大湖の水運を利用して,セントローレンス川を下って輸出されるのです。

 3例目は日本の北九州です。福岡県にはかつて日本最大の筑豊(ちくほう)炭田がありました。(その他三池炭田なども)鉄鉱石はというと近くの中国から輸入します。そして肝心の石灰石福岡(平尾台)山口(秋吉台)でたくさん採れます。八幡製鉄所はこのような資源背景から建設されたのです。

 しかしこれらの例が鉄鋼業の都市として栄えたのは昔のことです。現在ではどうでしょう?現在の鉄鋼業の立地は臨海部に移ってきています。理由は技術の進歩です。鉄鋼業で使われる石炭の量が少なくて済むようになってきたのです。それに加え古い炭田の産出量が減ってきた。そうすると原料の産地にこだわる必要がなくなってきます。自然と輸入量が増える。輸入量が増えると海に近いところが便利だというわけです。
 ドイツでは同じルール地方でもよりライン川本流に近いところに製鉄所が移動してきています。そしてこれまで鉄鋼業で栄えたところでは機械工業や電子工業などのハイテク産業が代わって発展し始めています。
アメリカの五大湖周辺の鉄鋼業も現在は,東海岸(ボルチモアなど)へと移動しています。
 北九州はもともと臨海部で鉄鋼業が発展しましたが,エネルギー革命による石炭需要の減少,炭鉱の枯渇,それと同時に原材料の輸入先が中国からオーストラリアなどに変化したこともあり,鉄鋼業は太平洋側の工業地帯・工業地域に移り代わりました。これが戦後,北九州工業地帯の地位を下げていった大きな原因でしたが,現在ではドイツと同じように機械工業や電子工業の割合を高めてきています

②セメント工業
 セメント工業石灰石に土などを混ぜてコンクリートやブロックなどをつくる工業です。石灰石を大量に産出するところに立地しやすい。また石灰石は日本ではめずらしく自給可能な資源であることもおさえておきましょう。
 セメントの需要の多くは公共事業によるものですから,景気や国の政策・予算の影響を受けやすい産業だというのも特徴です。

②化学工業
 石油化学工業も輸送面から考えて,まずは原料である原油の産地,油田の近くがいい。アメリカを例にとるとメキシコ湾岸油田が代表です。メキシコ湾岸のヒューストンがアメリカの石油化学都市としておさえておきましょう。
 ※ヒューストンにはNASAで知られるアメリカ航空宇宙局のジョンソン宇宙センターがあり,宇宙産業がさかんな都市としても知られる。人工衛星やロケットは地球の自転(速度)を利用するので,できるだけ低緯度で東向きに発射するのがよい。そのため打ち上げ基地は低緯度に設置するのが望ましい。アメリカではヒューストンのほかにフロリダが有名。日本では種子島。いずれもその国の低緯度にある。
 しかし石油化学工業は工業技術が発達していないとなかなかできません。油田は資源でみたように限られたところにしかない。そこで先進国の企業は産油国にいって原油を掘り出しで輸送しやすいようにまで加工し,タンカーで積み出す。世界を股に掛ける多国籍企業というのは,そもそもこのような資源確保のために活躍したのが始まりでした。現在でも海外にもつ資産額が大きい多国籍企業のほとんどは石油をはじめ電力・資源関係の企業です。
 そして原油は先進国に運ばれ,受け入れる先進国では臨海部に設置された石油化学コンビナートで化学工業をおこないます。これも輸送面を考慮して臨海部に設置されるのです。

【例題3】次の地図中のは,わが国の主な製鉄所のある都市を示している。これらの製鉄所の立地条件について,「原料」・「製品」という語句を用いて簡単に説明しなさい。


 上の地図から日本の主な製鉄所(鉄鋼業)のすべてが臨海部に立地していることを考えましょう。同様の問題が石油化学コンビナートについても問われます。

答え:原料と製品の輸送に便利な臨海部に立地している。

③印刷業(出版業)
 印刷業(出版業)の原材料は何でしょうか?「紙」もちろんそうですが,「紙」に書かれている中身にこそ価値がある。つまり「情報」こそが原材料です。
 すると「情報」には重さがないから原材料の輸送費を考える必要はありません。情報が,人が,集まるところに集中します。人口が多いところこそ印刷業(出版業)の立地にふさわしい。人口が多いところとは消費地(市場)ですから,この産業は「市場」に立地する工業の代表例です。

自然条件からみた立地
①造船業
 小型ボートのような小さい船のことではなく大型の船舶を念頭におきますと,造船作業は自然と屋外での作業となります。ですから雨が少ないところの方がいいね。また波の荒い大洋に面した場所は造船所には向いていません。造船所をつくるんだったら波の穏やかな場所がよい。
 日本では瀬戸内海沿岸がバッチリ。瀬戸内地方は年間通して晴れの日が多い(少雨)気候でした。広島県の呉(くれ)はおぼえておいてもよい造船都市です。戦前は日本海軍の拠点の1つでもあった。それに長崎県の長崎と佐世保。両方ともリアス海岸の入り江の奥に位置しています。
 長崎や広島が戦争中,米軍の(原爆も含め)空襲の対象となったのは,大規模な軍艦の造船所があったからです。

②精密機械工業
 時計やカメラをつくる精密機械工業は,小さな部品を扱う工業です。「精密」だけにこのような工業の天敵は湿度とミクロのゴミです。だからできるだけ乾燥していてきれいな澄んだ空気が必要です。
 世界ではスイスが代表的な精密機械工業の国として知られます。アルプスの澄んだ空気が精密機械工業にふさわしい。そして「東洋のスイス」の異名もつのが日本の長野県です。諏訪盆地の岡谷(おかや)・諏訪(すわ)が中心です。内陸性の降水量の少ない乾燥した気候と大都市から離れたきれいな空気が向いていた。

戦前,岡谷や諏訪では盆地の扇状地を利用してくわが栽培され,養蚕をおこない生糸をつくる製糸業がさかんでした。戦後製糸業が衰退すると,失業者が増えます。そこへ新たな産業として精密機械工場を誘致することにしたのです。気候条件もよく,地方であるため工場を建てる土地や労働力も安い。位置的にも東京に近いということもあって,世界的な精密機械工業都市となりました。現在では交通網も整備され,立地条件がよく似た電子工業も発達しています。
☆長野県(諏訪盆地の工業)
 戦前:製糸業→戦後:精密機械工業→現在:電子工業


③電子工業
 これはよく問われる問題ですね。電子工業(半導体・IC)の工場の立地あるいは分布については,3通りの問題が出されます。(1)製品の特徴,(2)立地の特徴,(3)輸送の特徴です。
 (1)製品の特徴は「小型」・「軽量」・「高価」であるということ。
 (2)立地の特徴は,自然条件としてはきれいな水と空気があることです。空気がきれいであるという点では精密機械工業とまったく同様の理由です。きれいな水が必要な理由は,部品の洗浄を純水でおこなうからです。不純物が混ざらないようにする。そしてきれいな水が得られれば,それだけ純水を作るコストが下げられます。また社会条件としては地方の方が安い工場用地や労働力が得られるからです。
 (3)輸送面では,空港や高速道路の近くに工場がつくられます。(1)でみたように半導体電子部品は小型で軽量であるため運びやすい。また空輸したとしても高価であるので採算がとれる
 アメリカのサンフランシスコ郊外のサンノゼが「シリコンバレー」とよばれることから,九州を「シリコンアイランド」,東北地方の東北自動車道沿いを「シリコンロード」と呼んでいます。

【例題4】空港や高速道路を利用しやすい場所に,生産工場が立地することが多い工業としてもっとも適するものを選び,記号で答えなさい。またその理由を「価格」という語句を使って簡単に説明しなさい。
 ア.石油化学   イ.鉄鋼   ウ.繊維   エ.IC


答え:エ  理由…ICは価格のわりに小さく軽いため,飛行機や高速道路を使って輸送しても採算がとれるから。(答えには「採算」という言葉が使えるとよい。)

4.労働力からみた立地
①安い人件費を求めて(機械工業・繊維工業)
 鉄鋼や石油などと違って原料の輸送がたやすく,また原料と製品の重量にたいしてかわりのないものでは輸送費を気にする必要はありません。どこに工場を建ててもよいわけですが,君たちならどのような場所に工場をつくる?もちろんつくるモノにもよりますが,できるだけ利益を得ようとすると人件費を安く抑えたい。
 そうすると大都市よりも大都市周辺,大都市周辺より地方という具合に大都市から離れた方が人件費が安く済む。さらにもっと周辺,つまり海外の安い人件費を求めていく。低賃金の労働力を求めて工場は立地します。
 このような工業の例として機械工業(組み立て)や繊維工業があります。

②日本の工場の海外移転
 日本の場合,日本より人件費の安い国は日本の周りにたくさんありました。まずは隣国の韓国・台湾・ホンコン,そしてシンガポールです。
 1980年代,これらの国々はNIES(ニーズ)とよばれました。新興工業経済地域の略です。発展途上国の中でも急速に工業化・経済発展を遂げた国々です。しかししばらくするとこれらの国々の経済状態もよくなり,次第に人件費も高くなってきます。するともっと労働力の安いところに工場の移転先を探すようになりました。この動きがもっとも加速したのは1990年代はじめ,バブル崩壊後のことです。次に向かった先はどこか?ASEANとよばれる地域。東南アジア諸国連合です。
 東南アジア諸国は人口が多く,安い労働力を得るのに苦労しませんでした。中でも最初に進出したのはタイとマレーシア。タイとマレーシアについては農業のところで輸出品目の変化というのをやりました。タイ・マレーシアが工業発展すると,今度はインドネシア・フィリピン,そしてベトナム・カンボジア・ミャンマーへと広げていきます。
 さてこれらの国が経済成長したら次はどこか?それが中国です。ここで中国についてしっかりと理解しておきたい。中国の正式名称は「中華人民共和国」です。今ではすっかりなくなってしまいましたが国名に「人民共和国」というのが付くと,その国は社会主義国です。社会主義の国では生産手段や土地はすべて国有です。産業は国の計画経済にのっとっておこなわれ,利益は国民が平等に受けます。ですからわれわれ資本主義の企業は存在しないし,してはいけないのです。
 しかし社会主義国の宿命でしょうか。経済的に平等を保障されているところでは人間の生産意欲が失われていく。社会主義国はどこも行きづまっていきます。そこで中国では「改革解放」政策をとって,社会主義のしくみに少し穴を開けて資本主義のしくみを取り入れるようにしました。その一部とは南東部の沿岸地域です。このように資本主義国の資本(お金)・技術・企業を受け入れた地区を「経済特区」といいます。ここに日本は次の安い労働力を求めていったのです。

【例題5】次の地図のように中国をA~Dの4つの地域にわけたとき,あとの説明にあてはまる地域を地図中からそれぞれ選び,記号で答えなさい。

ア.近年,経済発展がめざましく,外国企業がもっとも多く進出している。
イ.乾燥した気候や高山気候に属し,家畜の遊牧がおこなわれてる。


 中国では東部の沿岸部で経済発展が著しく,働く場を求めて人口も集中している。特に南東部には経済特区が設置されてからは外国企業の進出が激しい。
 一方,内陸部は一部の都市を除いて経済発展が遅れており,産業の中心は農業で,所得水準も沿岸部に比べて低い。特に西部は厳しい気候条件もあって生活は昔ながらの遊牧生活が今でも営まれている。Aの北部はイスラム教を信仰するウィグル族,南部では仏教(チベット仏教)を信仰するチベット族とよばれる少数民族が居住している。

答え:ア.C   イ.A

【例題6】次のグラフは日本・アメリカ・ドイツ・中国の自動車生産台数の推移を示している。日本と中国にあてはまるものを選び,記号で答えなさい。

[グラフ:応用編7-22 国際自動車工業連合会 生産統計より]

 長年,自動車の生産はアメリカと日本が世界をリードしていましたが,後進国であった中国が近年の経済発展を背景に急激にその生産台数を伸ばしています。が中国のグラフ。
 グラフ中で注目すべき点は2009年(2008年から)です。このときにアメリカが発端となって世界金融危機がおこります。リーマンショックといいます。この出来事によって先進国の景気や工業生産が一気に後退します。特にアメリカを象徴する自動車産業は大打撃を受けた。このことからがアメリカ,が日本となります。
 2008年の世界金融危機(リーマンショック)は,経済・工業の統計を読み取るとき非常に重要なポイントとなることをおぼえておきたい。
 なお,現在中国は主だった工業製品はすべて世界一の生産量であることを頭に入れておきましょう。鉄鋼・アルミニウムその他の金属製品,綿織物・毛織物・絹織物などの繊維製品,機械では自動車・冷蔵庫・洗濯機・テレビ・オートバイ・船舶・録画装置・デジタルカメラ・携帯電話・パソコンなどなど。ほとんど1位とおぼえておけばよい。

答え:日本:イ    中国:エ

③産業の空洞化
 日本の工場の海外移転を今度は違う目線でみてみましょう。工場の海外移転が進むと日本の労働者は働く場所を失っていきます。失業者が増えるのです。安い労働力を国外に求めた結果,失業率が上昇するという現象は先進国に共通する問題といえるでしょう。
 次に国内では産業構造が変化していきます。工業ではもっと最先端技術(エレクトロニクス・バイオテクノロジーなど)の開発に力を入れ,製品の価値が形のあるモノではなく,知識に重点をおいたモノづくりにかわっていく。ハードでなくソフト・デザインの重要性が増します。知識の重視はサービス業・情報産業を育てていきます。第三次産業人口の割合が大きくなってくるのです。
 こうなると資金力のある大企業は成長していくことができますが,その請負いとなる中小企業(工場)は仕事を失います。中小企業(工場)は必死で品質を高めることで対抗しますが,安い人件費で作られた製品と勝負するのはなかなか厳しいのが現状です。
 また最初に立ちかえってみましょう。労働力を重視した工業は大都市より大都市周辺・地方に立地していました。工場が海外に移転すると,地方(地域)経済も衰退していきます。
 このように企業の生産拠点が海外に移転したことで国内産業の衰退し,失業率が悪化していくことを「産業の空洞化」といいます。
☆日本の工場の海外移転
・NIES→ASEAN→中国(経済特区)…安い人件費を求めて
・国内では「産業の空洞化」が進む


【例題7】次の資料をみて,あとの問いに答えなさい。
資料1[グラフ:応用編7-23 外務省 海外在留邦人数調査統計より 令和4年]

資料2 日本・中国・インドネシアの人口・生産年齢人口・賃金の比較 [表:応用編7-24 データブック・オブ・ザ・ワールドより作成 2021年]

人口
(千人)
生産年齢人口
(千人)
1人あたりの国民総所得
(日本を100とする)
日本 122423 71495 100
中国 1425893 9867179 27.4
インドネシア 273753 182593 9.6


資料3[グラフ:応用編7-25 WORLD BANKより]

資料4[グラフ:応用編7-26 日本自動車工業会より]

資料5[グラフ:応用編7-27 経済産業省海外事業活動基本調査より 2022年度]

1.資料1から多くの日本企業がアジア諸国に進出していることがわかる。その理由を資料2・資料3を参考に生産面と消費面から簡単に説明しなさい。
2.資料1では日本企業はアジアに次いで北アメリカ・ヨーロッパに多く進出している。その理由として誤っているものをあとから選び,記号で答えなさい。
ア.1980年代後半から円高が進み,輸出産業が大打撃を受けたため。
イ.欧米諸国との間で大きな問題となった貿易摩擦を回避するため。
ウ.新たな製品市場の開拓が必要になったため。
エ.安価で豊富な労働力を得るため。
3.資料4は日本の自動車メーカーによる自動車の国内生産台数と海外生産台数の推移を示している。このグラフを参考にして,現在の国内産業の問題点を「雇用」・「空洞化」という語句を使用して,説明しなさい。
4.資料5は業種別海外生産比率を示している。グラフ中Aにあてはまる業種を選び,記号で答えなさい。
〔海外生産比率=現地企業売上高÷(現地企業売上高+国内企業売上高)×100〕
  ア.精密機械   イ.鉄鋼   ウ.化学   エ.輸送用機械
5.海外に工場や支店を設け,国際的な活動をおこなう企業を何といいますか。


 企業が海外へ進出していく理由はいくつかあります。主なものをいくつか挙げてますと。
(1)安価で豊富な労働力と原材料(資源)の確保
(2)新たな市場の開拓・拡大。
(3)貿易摩擦の回避
(4)為替相場の変動
(5)外資税制優遇措置


 特に(1)と(2)が非常に大きい。これらは昔からやっていることで,国家ぐるみでさらに軍事力を背景にしていた時代,20世紀はじめの帝国主義がそうです。
 日本の企業場合,海外進出が活発化したのは1980年代でした。アメリカやヨーロッパ諸国との間におこった(3)の貿易摩擦がきっかけでした。「貿易」の単元でもお話しますが,貿易摩擦とは一方の継続的な貿易黒字によっておこる問題です。この問題は黒字を減らすことでおさまるわけですが,黒字を減らすためには輸出を減らすしかない。輸出を減らすと輸出企業はダメージを受けます。それなら現地(輸出相手先)に工場をつくって,そのままその国に出荷すればよいという理屈です。
 また1980年代後半から進んだ円高も輸出産業には大打撃でした(4)。円高になると日本にとって輸出が不利になり,輸入は有利になります。日本経済は輸出産業によって支えられていますから円高は大きな問題です。これも工場の現地化が進む要因となりました。
 自動車に代表される日本製の機械は性能がよいので海外でも人気が高く,日本企業にとって購買力の強い欧米は市場としても魅力だったのです。(2)
 それと同時に企業はコスト(生産費)削減も追及していきます。これはもうすでに詳しく説明しました。日本周辺のアジアには(1)安価で豊富な労働力があったのです。資料2からもわかるように1人あたりの国民総所得(年収・賃金と考えてもよい)は日本と比べて中国で4分の1です。なおかつアジア諸国は人口が多く,つまり労働力・消費者とも大規模であるとともに,資料3から国民総所得も年々増加しており購買意欲も高まっている。(2)市場としては欧米諸国よりも将来性があるのです。
 また海外企業を受け入れる側も国内産業・経済の発展のため積極的に外国資本が入って来やすい環境をつくります。(5)税制面の優遇措置を設けるのです。この例が中国の経済特区であったり,北米においてはメキシコなんかが同様の地区を設けています。
 一方,工場の海外移転・進出が進むと国内産業はどのような影響を受けるのでしょうか。国内の工場が減少するわけですから,雇用が減ります。雇用の減少は失業率の悪化にもつながります。失業率の悪化は国全体の経済力にも影響を与えます。また資料4からもはや日本企業の自動車は国内より海外で生産されている台数が多い。資料5からは売上においても50%は海外です。このまま進むと日本の自動車産業は衰退し,日本車なのに海外から輸入しなければならないなんてことにもなりかねない。これが「産業の空洞化」です。想像しましょう,中国人がつくった日本車。(だって日本には工場も働き手もいないんだもの)

1.生産面では資料2の「生産年齢人口」・「1人あたりの国民総所得」に注目しましょう。消費面では資料2の「人口」,資料3の「国民総所得」の増加傾向に注目。
2.北米・西ヨーロッパにあてはまらない説明を上の説明から考えてみましょう。また選択肢の文中の「貿易摩擦の回避」・「円高による輸出産業の大打撃」といった説明は,よく似た問題でも使えますから,理解をしておきましょう。
3.「雇用」は「減少」,「空洞化」は「産業の空洞化」という語句につなげて考えましょう。
4.海外進出しやすい工業は「組み立て型」の機械工業であること。その中でも割合が突出している工業。

答え:1.〔生産面〕安価で(人件費が安く)豊富な労働力が得られ,生産費の削減につながるから。(生産に有利であるから。)〔消費面〕人口が多く,1人あたりの国民総所得も増加傾向にあり,将来においても消費の拡大が見込まれるから。
2.エ  3.日本国内の雇用が減少し,産業の空洞化が進んでいる。  4.エ   5.多国籍企業

日本の各地方の工業

1.九州地方
①北九州工業地帯
 1901年八幡製鉄所を中心として発展し金属工業を中心とした工業地帯でした。付近で石炭と石灰石を産出し,鉄鉱石は主に中国から輸入していました。
 戦後,炭鉱の枯渇やエネルギー革命による石炭需要の減少,日本の工業の中心が機械工業へと移り変わったこともあって,その地位は低下します。しかし現在はトヨタ・日産・ダイハツなどの自動車工場をはじめ,各種機械工業の工場が建設され,機械工業の出荷額が増加してきています。

②シリコンアイランド
 九州地方全体では半導体(IC)工場が空港周辺に集まり,日本や世界各地に出荷されるようになりました。このことから九州はシリコンアイランドとよばれています。特にアジア諸国と近距離にあるのも発展の要因です。

【例題8】次の地図をみて,あとの問いに答えなさい。

1.地図中のは何の工場の分布を示していますか。あとから選び,記号で答えなさい。
 ア.自動車   イ.セメント   ウ.IC   エ.鉄鋼
2.1の工場の分布の特徴を輸送手段に着目して簡単に説明しなさい。


答え:1.ウ   2.空港や高速道路の近くに立地している。

③水俣病
 高度経済成長期の1960年代,熊本県水俣市を中心に化学工場から有機水銀化合物が排出され,これが原因で水俣病という公害病が発生しました。



2.中国・四国地方
①瀬戸内工業地域
 瀬戸内海沿岸に広がる各種工業都市をまとめた工業地域です。内海であるため波が穏やかで,遣隋使・遣唐使・日宋貿易・日明貿易・西廻り航路などが瀬戸内海を通り,古くから海上交通が発達していました。かつての広い塩田や軍用地が,戦後鉄鋼業や石油化学の工業用地として転用されました。
 各地に大規模な石油化学コンビナートがあり,化学工業の割合が高い工業地域です。

②石油化学コンビナート
 たくさんありますが,やはり岡山県倉敷市だけは必ずおぼえておきましょう。ただし倉敷だけでは得点に結びつかない場合もあります。そこで「倉敷市水島地区」と「水島」までおぼえておくことが大切です。

③セメント工業
 山口県(カルスト地形)で原料である石灰石を大量に産出します。

④自動車工業
 広島県広島市とその周辺では自動車工業がさかんです。マツダという会社が有名ですね。広島カープファンの人はホーム球場の名前が「マツダスタジアム」であることは知っていますね。

[グラフ:応用編7-28 県勢2024より 2021年]
☆広島は人口と工業(自動車)で解け!
 中国・四国地方最大の工業県は広島県であり,その中心は自動車などの輸送用機械である。


 その他,広島市のお隣の呉(くれ)市造船ぐらいはおぼえておきましょう。

【例題9】次の表は島根県・広島県・岡山県・愛媛県の面積・人口・果実の生産額・製造品出荷額を示したものである。岡山県にあてはまるものを選び,記号で答えなさい。

面積(k㎡) 人口(万人) 果実の生産額(億円) 製造品出荷額(10億円)
8480 272 161 8870
6708 65 43 1165
7114 183 284 7060
5676 131 554 3804

[表:応用編7-29 データブック・オブ・ザ・ワールド2024より 2022年]
 人口・製造品出荷額からは広島県。同じく人口の少なさからが島根県。果実の生産額からが愛媛県(みかんなど)。最後に残ったが岡山県。

答え:ウ

3.近畿地方
①阪神工業地帯
 戦前は1位,現在は第2位の工業地帯です。河内木綿とよばれる綿花栽培がさかんであったため綿工業がさかんで,繊維工業から発達しました。近畿地方は古くから日本文化の中心地であり,大阪は江戸時代以降商業の中心地としても栄えましたから,明治以降もそのまま地場産業(刃物や織物など)が近代化され,中小工場として継承されいきます。
 戦後,臨海部に製鉄所などの大規模な工場が建設されても,中小工場はそれまでの熟練した技術によって金属加工業・機械部品の製作など大工場の関連工場として生き残っていきます。その技術は0.01ミリの違いを指先で感じ取るといいます。こうした中小工場が多いのが阪神工業地帯の特徴です。「こうじょう」というよりも「こうば」(町工場)といった方がよいかもしれません。
 高度経済成長期,工業地域に重化学工業の分散化が進むと同時に,古くからある阪神工業地帯の設備の老朽化が目立つようになります。またこのころになると工業の重点が金属工業から組み立て型の機械工業へと代わっていきます。繊維工業では化学繊維が登場したり,コスト削減のため工場の海外移転が活発になっていきました。周辺アジア諸国の工業化は阪神工業地帯の地位を下げていくことになったのです。
 近年は大阪・京都・奈良の3府県にまたがる地域に関西文化学術研究都市が建設されたり,港湾部に最先端の工業製品を生産する大規模な工場が進出したりすることで機械工業の出荷額が伸び,その地位は現在日本第2位にまで回復しています。

②紡績業と製糸業
 ここは用語の説明になってしまうんですが,「紡績業」と「製糸業」の区別をつけておきましょう。ただし問題の答えとして問われることはまずありません。(まれに選択肢として出されることはあります。)
 綿や麻,羊毛などは刈り取った状態では糸ではありません。短い繊維が無造作に集まっているだけです。集まっている繊維をほぐしてバラバラにし,よりをかける(ねじる)ことで長くつなぎ合わせるとともに強度をつけていきます。この作業を「紡ぐ(つむぐ)」といいます。これを何度も何度も積み重ねていくことを「績」といい,この字にも「つむぐ」という意味があります。合わせて「紡績」といいます。したがって綿・麻・羊毛を糸状にすることを「紡績(業)」というのです。
 一方,蚕の繭から生糸をつくることを「製糸(業)」といいます。糸をつくるという点では紡績と同じですが,「製糸」とは「生糸をつくる」という意味で「製糸」として区別しています。
 蚕は蛾の幼虫です。蛾になるためにはサナギになる必要があります。サナギになると無防備ですから,繭というカプセルで身を守ろうとします。蚕は自ら糸を吐いて繭つくる。この繭,実は一本の糸でできているのです。自分の身をすっぽりおおうぐらいのカプセルですから,その長さはとてつもなく長い,その長さ1000m以上です。
 製糸業つまり生糸をつくるとは,蚕が繭をつくるのと逆のことをするということです。繭は蚕の体液で接着させれていますからこれを煮てほぐすことで糊(のり)をとってやります。ほぐした繭から糸の先をつまみ出して,丁寧に引き出してやる。繭を一個ずつそうやっては気が遠くなるので,何個も一緒につまみだしてやる。このように数本の糸をまとめて取り出す作業を「繰る(くる)」といいます。繰り出された糸はよりがかけられ一本の生糸となるのです。
 製糸の過程で生糸が切れてしまうこともあります。このような生糸のくず糸は集められ長い糸にすることもあります。この場合は綿などと同じく「紡績」という言葉を使います。絹の場合は「絹紡(けんぼう),絹紡績」といったりもします。
 紡績によってつくられた綿と製糸によってつくられた生糸の繊維を拡大してみてみると,綿糸はもともと短い繊維をよりあわせていますから,ところどころちぢれたり,切れていたりします。これがチクチク感の原因です。一方生糸はもともとつながっている一本の糸をより合わせていますからなめらかです。そのため生糸の肌触りはなめらかで心地よいのです。

 明治時代,大阪で操業したのは綿糸をつくる紡績会社でした。特に1882年に設立された大阪紡績会社は日本初の本格的紡績会社として日本の産業革命に大きく貢献しました。
☆紡績は綿糸など,製糸は生糸



4.中部地方
①中京工業地帯
 日本最大の工業地帯です。「日本最大」を支えるのが,自動車工業をはじめとする機械工業です。代表選手は豊田市。いわずと知れたトヨタ自動車の企業城下町(特定の企業の工場や下請け工場がその町の産業を支えている)
 トヨタ自動車の発祥は明治期の自動織機でした。1897年,豊田佐吉という人物が発明します。日本の産業革命の始まりが日清戦争(1894年)ですからちょうどそのころですね。愛知県も大阪と同じく綿花の栽培がさかんな土地でした。三河木綿といいます。この木綿を使っての綿織物をつくる自動織機の製造からトヨタが始まったのです。つまり中京工業地帯の出発点は繊維工業と機械工業であり,それが現在の中京工業地帯をも特徴づけています。
 現在でも愛知県は,機械・綿織物はもちろんのこと毛織物・鉄鋼・陶磁器においても全国一の生産額です。陶磁器では瀬戸市をおぼえておきましょう。陶磁器のこと「瀬戸物」というぐらい瀬戸は陶磁器の代名詞となっています。
 もう1つ,三重県四日市市の石油化学。これは四大公害病:四日市ぜんそくとともにおぼえておくべし。

東海工業地域
 工業地域とはいうものの,実際は静岡県一県だけなので,「=静岡」とおぼえておいてもかまいません。中京工業地帯と京浜工業地帯に挟まれている東日本の工業地域なので,機械工業の割合が高い工業地域です。代表的な都市は浜松市。ここでつくっている機械はあまり他では出てきません。楽器・オートバイです。楽器とオートバイ,奇妙にも同じ名前の会社を思い出しません?そう「ヤマハ」です。また「ホンダ」という自動車やオートバイの会社の名前も聞いたことがあるでしょう。「ヤマハ」も「ホンダ」も浜松の会社。

③中央高地
 もうすでに長野県諏訪盆地の工業については触れました。

④北陸工業地域
 あまり名前そのものは出てきません。瀬戸内工業地域のように北陸地方一帯を指してこうよぶことがあります。北陸で重要なことは,伝統産業が多いことです。
 北陸だけに限らず,日本海側は冬の積雪が多い。このような地方では冬場の農業収入がなくなります。そこで冬場に現金収入を得る方法としては,季節労働者として大都市に出稼ぎに行く。酒造りの職人:杜氏(とうじ)というのが代表的で,北陸や東北の出身者が多かった。
 または家の中で手作りのモノをつくる。こちらの方が,長年をかけて継承・発展したのが雪が多い地方の伝統産業です。
 北陸の伝統工芸品としてよく出されるのが,輪島(石川)の輪島塗金沢(石川)の九谷焼です。最低この2つはおさえておきましょう。

5.関東地方
①京浜工業地帯
 東京から神奈川(横浜)にかけて広がる工業地帯で,戦後すぐ阪神工業地帯を抜いて第1位に,そして現在では工業地帯中,中京・阪神についで第3位となっています。地位が下がっていった理由は,まず京浜地域にもうこれ以上工場が建てられなくなってしまったのです。新しく大きな工場を建てるスペースがない。いっぱいいっぱいになってしまったからです。
 あまりにも人も工場も東京に手中してしまったから,地価も上がるわ,人件費も上がるわ。そこで臨海の資源輸入型の工場は東京湾の反対側(千葉・茨城)へ,組み立て型の機械工場は内陸部へと拡大し,それぞれ発展。結果的に伸び代のない京浜工業地帯はおいてけぼりを喰らった。
 それでも首都圏の工業地帯だけあって機械工業を中心にそれなりに出荷額は高い。愛知のトヨタに対して,横浜には日産自動車がある。さらに他にはない強い工業があります。印刷業です。機械工業に比べて額は少ないですが,京浜を代表する工業です。

②京葉(けいよう)工業地域
 文字通り千葉県の東京湾岸に広がる工業地域です。「京」とつくものの実質千葉県だけを指しています。それでも「京」の字を使うのは,京浜工業地帯の延長としての意識が高いからです。
 京浜工業地帯で手狭になった臨海型の鉄鋼業や石油化学工業が中心です。中でも化学工業の割合が非常に高く,京葉のグラフをあてるには「化学」だけで足りる。また説明文によく使われる表現が「埋立地に多くの火力発電所が建てられ・・・」です。

③関東内陸工業地域
 関東地方の内陸県をまとめてこういいます。つまり埼玉・群馬・栃木です。「北関東工業地域」ということもあるようですが,「北関東」というと茨城県も含めてしまいます。工業統計は埼玉・群馬・栃木の3県で出されることが多く,また茨城県の工業は内陸3県と少し特徴が違いますので,ここでは「関東内陸」として説明します。
 京葉工業地域と同じく,京浜工業地帯の延長として広がった工業地域ですが,今度は内陸ですので立地しやすい工業は組み立て型の機械工業です。そもそも内陸県なのでかつては扇状地でのくわ栽培,そして養蚕・製糸業がさかんな土地柄でした。群馬県の富岡製糸場は典型的な例です。
 戦後,製糸・絹織物業が衰退すると労働力は近くの東京大都市圏へ流れていきます。高度経済成長期に大都市圏が飽和状態になり,石油危機がおこって日本経済が停滞すると今度は労働力の逆流が始まります。逆流を容易にしたのが,以前から進めていた工業地域の地方分散政策と交通網の整備(関越自動車道・東北自動車道)でした。関東地方の内陸県は東京や神奈川に比べて土地も安く,高速道路沿いに次々と工業団地がつくられ,労働者も集まってきます。
 進出した工場は主に輸送用機械の組み立て,部品の製造です。要するに自動車関連工場がほとんどです。そのため製造品出荷額に占める機械工業の割合が非常に高いのが特徴です。

例題10】次の各問いに答えなさい。
1.関東地方では機械工業が内陸部へと移転している。その理由としてあてはまらないものを選び,記号で答えなさい。
ア.臨海部に比べ地価が安く,工場用地を確保しやすかった。
イ.高速道路などの交通網が整備された。
ウ.都心部に集中した労働力を吸収しやすかった。
エ.最先端の技術や情報が集中しやすい。
2.次のグラフは京浜工業地帯・京葉工業地域・関東内陸工業地域の製造品出荷額と工業の種類別割合を示している。京葉工業地域にあてはまるものを選び,記号で答えなさい。


[グラフ:応用編7-30 日本国勢図会2024/25より 2021年]
3.関東地方の内陸部(埼玉・群馬・栃木)で工業生産額が伸びている理由を「交通網」という語句を使用して簡単に説明しなさい。

1.エは都心部の特徴。
2.京葉工業地域は化学工業の割合が大きい工業地域。瀬戸内と京葉は「化学で解く」。京葉と瀬戸内が同時に出される問題はめったにない。
 またの区別は難しいが,関東内陸工業地域はもともと製糸業がさかんな土地であったことを考えると繊維を比べてイが関東内陸だと考えてもよい。出荷額を比べて解く方法は力技になり,あまりよくない。
3.関東内陸工業地域の発展を「輸送」面から考える問題。

答え:1.エ   2.ウ   3.高速道路などの交通網が整備され,製品の輸送が容易になったため。

④鹿島臨海工業地域
 鹿島とは茨城県の鹿嶋市。「しま」の字が違います。もちろん海に面していますから,臨海型の鉄鋼業・石油化学工業が中心です。この工業地域の特徴はY字型の掘り込み式工業港をもつことです。原料の搬入と製品の輸送をより効率的にした工業港です。


6.東北地方・北海道
①伝統産業
 東北地方の工業では,北陸と同様伝統産業に注目するところから始めるのがよいでしょう。厳しい自然条件のため農家の副業として発展したこと。地域間移動が困難だったため地域ごとに多彩多様な地場産業が育まれたことが要因です。
 挙げていくとキリがないので,応用編としておぼえておいてほしい工芸品を挙げておきます。それぞれの県に1つおぼえておきましょう。
 盛岡の南部鉄器(岩手)天童の将棋の駒(山形)鳴子のこけし(宮城)会津若松の会津塗(福島)津軽の津軽塗(青森)大館の曲げわっぱ(秋田)。曲げわっぱとは薄い木の板を曲げてつくる木の箱です。米びつや弁当箱なんかに使われます。

②先端産業の進出
 九州・関東内陸でみたように,安い土地・きれいな空気と水・交通網の整備などが要因となって交通の要地に工業団地が次々と建設されるようになりました。特に東北自動車道沿い半導体(IC)工場か多く,シリコンロードという異名をもっています。

③北海道の工業
 北海道では地元でとれる農水産物を利用した食料品工業がさかんです。大消費地である札幌を中心に乳製品・ビール,水産加工業などがおこなわれている。少し難易度が高いですが,食料品工業は軽工業の中でもっとも出荷額が多い工業です。
 北海道の玄関港である新千歳空港の周辺では半導体工場も進出しています。


【例題11】次の地図は日本の主な製鉄所・石油化学コンビナート・自動車工場・半導体工場の分布を示している。自動車工場の分布()を示すものを地図から選び,記号で答えなさい。


 これまで学んだことを活かして工場の分布図を読み取りができるようになりましょう。上の地図のままだとポイントがわかりづらいので,それぞれ下のようにまとめます。


 まずピンクの線で挟まれた地域は太平洋ベルトを示しています。日本の工業地帯・地域が並んでいる一帯ですね。
 まずの地図では工場は臨海部だけでなく内陸部に多くみられます。それに対してウ・エではすべて臨海部に立地している。つまりア・イは組み立て型の機械工業(自動車・半導体)で,ウ・エは原料依存型の鉄鋼・石油化学工業であることがわかります。
 の地図のポイントは愛知県・関東内陸部に印が集中していること。また広島市も重要です。したがって自動車。自動車工場の分布ではまず広島市に印があるかないかで判断してもよい。(愛知県は自動車で有名だが,その他の製造品もさかんであるため)
 しかしも愛知・関東内陸部・広島市に印が多くあるようです。そこでの地図に主な高速道路を重ねてみます。すると多くの点が結ばれていくのがわかります。特にと違って九州や東北に多くの印が打たれている。これが半導体工場の特徴です。
 は問題の地図ではほとんどみわけがつきません。ほぼ同じ場所に印が打たれているからです。日本の場合,鉄鋼も石油化学も原料の輸入の観点から太平洋ベルトの臨海部に立地するという共通点があるからです。そのため製鉄所と石油化学コンビナートは同じ場所に立地するところが多い。大分・倉敷・川崎・千葉・鹿嶋などです。
 そうすると製鉄所と石油化学コンビナートが単独で立地しているところが重要になるわけです。製鉄所では北九州,そして少し難易度は高いのですが北海道の室蘭がポイントになります。室蘭は応用編ではおぼえる必要はありませんが,その位置が特徴的なので,室蘭の位置に印がある地図が製鉄所の分布であることを知っておきましょう。そして石油化学コンビナートでは三重県の四日市です。この位置に印があるのが石油化学コンビナート。

答え:ア

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