地理 第8回 流通   発展編

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交通・通信

1.陸上交通
①世界の鉄道
 鉄道・交通の歴史は近代史の問題とからめて,難関私学・国立ではよく出される問題です。

 鉄道の歴史はやはりイギリスではじまります。1825年,イングランド北部のストックトン・ダーリントンを結ぶ鉄道が開通しました。蒸気機関車の設計を担当したのがスチーブンソン。スチーブンソンはさらにマンチェスター・リバプール鉄道にもかかわり,この鉄道は時刻表(ダイヤ)をつくって運行したため,これが世界初の実用的鉄道とされます。マンチェスターはランカシャー地方の綿工業の中心地,リバプールは綿花の積み下ろし・綿織物の積出港として栄え,イギリスの産業革命を支えました。
 日本では明治初期の1872年,東京新橋・横浜間を結ぶ鉄道が最初です。1889年に新橋・神戸を結ぶ東海道線が開通,1895年には京都市で最初の路面電車(市電)が開業しています(現在は廃線)。東京駅は1914年の大正時代になってから開業,この年は第一次世界大戦が勃発した年です。50年後の1964年には東海道新幹線が開通しました。
 日本の新幹線に並ぶ世界の高速鉄道にはフランスのTGVドイツのICEなどがあります。国内の主要都市を結ぶだけでなくドーバー海峡を渡るユーロスターとともに国際列車として近隣大都市を結んでいます。また韓国・中国・台湾でも日本やヨーロッパの技術提供を受けて高速鉄道が整備されています。韓国では1970年代からセマウル号という高速鉄道が主要都市間を結び,中国ではペキン・シャンハイ間全長約1300kmを結ぶ高速鉄道が走っています。
 ロシアとアメリカの大陸横断鉄道は,貨物列車として開拓・開発に利用されました。アメリカ大陸横断鉄道は1869年,東海岸と西海岸からそれぞれ別の鉄道会社が線路をのばし内陸部で結合しました。1869年はスエズ運河開通の年と同じ年です。ロシアのシベリア鉄道1904年開通ですから日露戦争の年ですね。日本はこの鉄道で送り込まれる無尽蔵のロシア兵に苦しめられることになる。これら大陸横断鉄道は歴史の問題としてもよく出題されますのでおぼえておきたいところです。
※シベリア鉄道にはモスクワからウラジオストクを結びバイカル湖の南側を通るほか,途中分岐してバイカル湖の北側を通る第二シベリア鉄道(バム鉄道)があります。
 アフリカのタンザニアとザンビアを結ぶタンザン鉄道も重要です。内陸国ザンビアは世界的なの産地ですが,積出港がない。そこでタンザニアの首都ダルエスサラームから積み出せるように鉄道を敷設しました。この鉄道は中国の援助によって建設されたものです。タンザン鉄道は同じカッパーベルト(銅地帯)であるコンゴのカタンガ州とアンゴラを結ぶベンゲラ鉄道と連絡し,大西洋とインド洋を結ぶ大陸横断鉄道となっています。

②海峡を越える
 北海道・九州と本州を隔てる津軽海峡と関門海峡にはそれぞれ海底トンネルが通っています。津軽海峡には青函トンネル津軽半島松前半島を結んでいます。現在全長がもっとも長い海底トンネルです。ただし通過できるのは鉄道車両のみ。自動車は不可です。
 ドーバー海峡の下を通るユーロトンネルも同様に鉄道車両のみ。自動車はカートレインという鉄道車両に載せて海底部が世界最長ということになっています。

 関門トンネルの方は鉄道と自動車用のトンネルがあり,海峡には関門橋という連絡橋も架けられており中国自動車道と九州自動車道を連結しています。
 本州四国連絡橋では瀬戸大橋のみ鉄道が通っており,瀬戸内しまなみ海道には歩道もあります。すべてに共通するのは高速道路です。
 もう1つ。海底トンネルと連絡橋の組み合わせたものとして東京湾アクアラインがあります。神奈川県川崎市と千葉県木更津市とを結び,東京湾を横断します。川崎側のアクアトンネル,木更津側のアクアブリッジで構成されており,その境には海ほたるパーキングエリアが設置されています。

海ほたるパーキングエリア(右が千葉県側=アクアブリッジ)

③モータリゼーション
 自動車が広く普及し,日常生活における車の依存度が高まることを「モータリゼーション(車社会化)」といいます。日本では高度経済成長期の1960年代に進展し,クーラー(エアコン)・カラーテレビとともに自動車(car)は「3C」とよばれ,新時代の必需品の1つとされました。
 いち早くモータリゼーションを迎えたのはアメリカです。第一次世界大戦後の1920年代,好景気に沸くアメリカでT型フォードの大量生産が始まり,急速に自動車が社会に普及しました。ヨーロッパではつづく1930年代にドイツアウトバーンを整備したことで一気に加速します。アウトバーンとはドイツ版高速道路ですが,日本と決定的に違うのは制限速度がないことです。だから時速200kmぐらいで走っている車もあります。アウトバーンの整備には当時恐慌にあったドイツの失業対策(公共事業)という側面に加え,軍事車両の高速移動という軍事的側面もありました。当時の指導者はヒトラーです。
 近年,モータリゼーションは転換期を迎えているといわれています。1つは環境問題です。大気汚染・二酸化炭素の排出・大都市での渋滞ですね。そして高齢社会も車社会に問題を提起しています。近くに日用品を買うことができるお店がなくなり,自動車を運転できないと買い物にもいけないいわゆる「買い物難民(買い物弱者)」。そして運転免許をもっていてもブレーキとアクセルを踏みまちがえておこる事故も多発しています。
 都市内部の渋滞緩和・排ガス規制のためには「パークアンドライド」というシステムが注目されています。自宅から郊外の駐車場(パーク)まで自動車で移動し,そこから市内の移動には鉄道やバスなどの公共交通機関を利用(ライド)する。市内の交通機関にはLRT(ライト・レール・トランジット)という路面電車が注目されています。車両編成が鉄道に比べて短く,バスよりも輸送力がある。またバリアフリーの観点から低床に設計されているものもあり,地下鉄や鉄道に比べたら高齢者などが利用しやすい。
 ロンドンでは市内に入る自動車には渋滞税が課されます。環境に優しいハイブリッドカー(ガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせた車)やバスなどの公共交通機関は免除されます。その他,世界の大都市の中には車のナンバープレートの末尾の数字によって市内に入れる日が異なるという方法をとっているところもある。
 このようにモータリゼーションの社会を見直し,公共交通機関や鉄道・船舶による旅客・貨物輸送を見直して転換していくことをモーダルシフトといいます。

【例題1】次の表のA~Cは交通に関する上位5位の都道府県を示している。A~Cにあてはまるものをあとから選び,記号で答えなさい。[表:発展編8-1 県勢2024より]

1  北海道  東京 福井
2  茨城  大阪 富山
3 愛知 神奈川 山形
4 長野 千葉 群馬
5 埼玉 埼玉 栃木

ア.乗用車の100世帯あたりの保有台数(2022年)
イ.鉄道旅客数(2021年度)
ウ.道路の実延長距離(2021年)


 交通に関してよく出される資料です。Aは北海道が1位であることから「道路の実延長距離」であることがわかるでしょう。Bは考え方をまちがわないようにしましょう。大都市ほど自動車保有台数が多くなる傾向にありますが,ではありません。は世帯あたりに換算しています。日本の大都市やその近郊は鉄道網が整備されており,通勤・通学には鉄道が多く利用される。鉄道の利点は時間が正確なことでした。だから多少遠くても(1時間前後),通勤・通学には鉄道が利用される。これが自動車だと渋滞に捕まったら大遅刻です。したがってBはです。
 残ったCはとなりますが,福井県・富山県が世帯あたりの自動車保有数が多いことはおぼえておいてもいいくらいです。これは知っているだけですぐに問題が解ける場合がある。(知っていないと消去法だけでは解けない場合もある。)また逆に大都市ほど一世帯あたりの自動車保有数は少なくなる。(45位神奈川,46位大阪,47位東京)

答え:A ウ  B イ  C ア

④高速道路あれこれ

 よく「高速道路」といいますが,一般道路とは違って文字通り「高速」を出すことができる道路なんですけど,実は「高速道路」と名前がつくのはそれほど多くのないのに気がついていましたか?首都高速道路や阪神高速道路の都市高速がそうです。
 それとは別に全国的な自動車交通網を形成する高速道路は正式には「高速自動車国道」といいます。これにはそれぞれ「~自動車道」という名前がつけられている。東北自動車道とか中国自動車道とか。実は全国の主だった高速道路はほとんど「~自動車道」です。例外は4つだけ。東名高速道路新東名高速道路・名神高速道路新名神高速道路です。(「東名」・「名神」がつくものだけ)あとはすべて「~自動車道」だと思って下さい。これらも本当は「高速自動車国道」が正式なところなんだけれども,建設段階で「高速道路」という名前の方が広まってしまっていたので通称が名前になってしまった。
 高速道路と一般道路が合流・分岐するところをインターチェンジ,高速道路同士の合流・分岐はジャンクションといいます。また料金所で停止することなく自動で料金を支払うシステムはETC。「Electronic Toll Collection system」の略。


2.水運
①運河
 船舶を利用する水運には,海上交通と内陸水路交通があります。内陸水路交通とは河川・湖沼を利用する水運です。
 内陸水路交通で重要なのがライン川・ドナウ川・メコン川のような国際河川。五大湖からセントローレンス川を通って大西洋に出るセントローレンス水路(海路)などがあります。
 海上・内陸問わず運河の建設は水上交通をより活性化させるものです。運河はその構造から水平式と閘門(こうもん)式があります。水平式は結ばれる両海域の水位差がない場合に用いられます。水位差がありませんからそのまま掘るだけで完成します。スエズ運河はその代表例です。
 閘門式は高度差のある地点を結ぶ場合,閘門(水門)の開閉によって水位を調整する方法です。高度差によっては何度もこれを繰り返す必要があります。パナマ運河はその代表例ですし,内陸運河には閘門式が多い。

 1869年フランス人のレセップスによってスエズ運河が開通します。その後レセップスはパナマ運河に挑戦しますが,太平洋と大西洋の水位の差,また内陸部の高度差が激しく技術的な問題で断念します。パナマ運河が完成したのは1914年。第一次世界大戦が勃発した年です。運河の建設はアメリカによっておこなわれたため,完成後もアメリカの管理下に置かれました。
 かつてアメリカ海軍の軍艦はすべてパナマ運河が通れる大きさに設定されていました。そのため太平洋戦争で日本海軍はそれより大きな戦艦(「大和」など)を造って対抗しようとした。日本の誤算は大きな戦艦を造れば勝てると思ったことでした。海戦の優劣は航空機の性能にかかっているという時代の流れを読んでいなかった。
 1999年,パナマ運河はパナマに返還され,その通行料はパナマの重要な収入源となっています。
 ここからはかなり難易度は高くなります。中央アジアの灌漑用水として建設されたカラクーム運河。これはアラル海に流れ込むアムダリア川の水を引くもので,最終的にはカスピ海につなげる予定でした。
 カスピ海に流れ込むボルガ川と黒海に注ぐドン川を結んでカスピ海と黒海とを結びつけるためにつくられたのがボルガ・ドン運河
 またヨーロッパでは多くの川どうしが運河によって結びつけられ,ライン川からドナウ川まで船で行き来できるようになっています。

②海上交通の要地
 スエズ運河・パナマ運河はいうまでもなく,海上交通には商業的・産業的・軍事的に重要な地点がいくつかあります。
 このような海上の拠点をおさえることを得意としたのはイギリスでした。まずアジアではホンコンをアヘン戦争以降植民地とします。アジアではマラッカ海峡,マレーシア・シンガポールです。インドではコルカタ(かつてはカルカッタ)・ムンバイ。アフリカ南端のケープタウン。地中海では2つの出口であるスエズ運河とジブラルタル海峡(ここは今でもイギリス領)です。イギリスがこのような拠点をことごとくおさえたのは,一重に最大かつ最重要な植民地インドを守り,インドへのルートを確保するためだったのです。日露戦争のとき,日本とイギリスは日英同盟を結びましたが,ロシアの艦隊(バルチック艦隊)がバルト海を出て日本にまで長い航海をしなければならなかったのは,地中海航路はイギリスにおさえられ,長い航海中も要所要所でイギリスの嫌がらせを受けたからです。日本海に着くころにはロシア水兵は疲れ果てていた。
 そのロシア艦隊が一路目指したのがロシア極東基地のウラジオストクです。ロシアの太平洋側の拠点として重要です。またロシアにとって重要なのが黒海から地中海に出る航路です。黒海と地中海(エーゲ海)はダーダネルス海峡ボスポラス海峡によってつながっています。実に細い海峡ですが不凍港が少ないロシアにとっては非常に重要な水路です。黒海にはロシアの軍事拠点セバストポリがあり,この地を含むクリミア半島はウクライナ領となっていましたが,住民投票の結果2014年にロシア領に編入されました。


③便宜置籍船
 次の統計をみてみましょう。世界の商船保有量を示しています。

主な国の商船保有量(登録国)
パナマ 16.0
リベリア 14.4
マーシャル諸島 12.2
香港 9.3
シンガポール 6.1
[表:発展編8-2 データブック オブ・ザ・ワールド2024より 2022年]

 統計ではめったに出てこない国が上位をしめていますね。パナマとか,リベリアとか。なぜこのような小国が船舶をたくさん保有しているのでしょうか?それはこれらの国は船舶にかかる税金が非常に安いのです。だから先進国の船主は自国に船舶の登録をするより,これらの国に船籍を登録するのです。このような船を便宜置籍船といいます。海難事故がおこると日本の近海なのにテレビのニュースで「パナマ船籍の船が」とか「リベリア船籍の船が」と発表される。事故にあった船が決まってパナマやリベリアなのはそういうわけです。

3.航空交通
①日本の国内路線
【例題2】次の表は,国内定期航空路線がある東京(羽田空港)・大阪(伊丹空港)・札幌(新千歳空港)・福岡(福岡空港)からそれぞれの空港への旅客数(万人)を示している。福岡にあてはまるものをA~Dから選び,記号で答えなさい。[表:発展編8-3 国土交通省航空輸送統計年報より 2023年]

空港 出発地
A B
到着地 - 29 64 246
21 - 37 422
64 37
- 445
254 429 452 -

 まずDの旅客数が他を圧倒して多いことからDが東京であることがわかります。そこで考えなければならないことは,鉄道路線,特に新幹線との競合です。東京と大阪は距離的にも近く,都市中心部から離れた空港から飛行機で移動するよりも新幹線に乗った方が安くて早い。(航空券には早割りという制度もありますが)したがって大都市だからといって空路で移動する人が多くなるとはいえないのです。したがって東京・大阪間は東京・福岡,東京・札幌間に比べて旅客数が少ない。Aは大阪。
 次に福岡と札幌の違いはどうでしょう。ともに東京からの距離はかなりあります。したがってD(東京羽田)を出発してB・Cに到着する旅客数に大きな違いはありません。それではA(大阪伊丹)から出発する旅客数はどうでしょうか。CはBの3倍あります。したがってBが福岡と考えられます。大阪・福岡間では飛行機でなくても山陽新幹線を利用するという選択肢があるからです。

答え:B

②世界の国際線
 世界の航空路網の拠点となる空港をハブ空港といいます。ハブとは自転車の車輪の中心部分を指します。自転車の中心部には放射状にスポークという針金がのびていますね。このスポークが航空路網です。多方面から中心部の空港に飛行機が集まり,そこで乗り換えてまた違う方面に飛び立つ。

 日本は成田国際空港をつくったけれど狭すぎた。そして関西国際空港をつくったけれど空港使用料が高すぎた。日本の国際空港はハブ空港を目指したけれどもその機能を果たせていません。
 その一方で,東アジアのハブ空港として発展したのがお隣韓国の仁川(インチョン)空港です。広くて使用料が安い。世界的なハブ空港としてはロンドンのヒースロー空港が世界最大の旅客数です。パリのシャルルドゴール空港がそれにつづきます。

※新型コロナウイルスと物流
 新型コロナウィルスの世界的流行(
パンデミック)は人流だけでなく,国内外の物流に大きな影響を与え,世界経済は深刻なダメージを受けました。製品の原材料・部品の調達から販売に至るまでの一連の流れはサプライチェーンと呼ばれますが,グローバルサプライチェーンにおいて重要な地位にある中国の製造・流通の停滞,地域封鎖(ロックダウン)や渡航制限は,グローバル経済に大きな課題を突き付けています。

4.観光

①日本と世界の余暇
 日本人はヨーロッパ人と比べてよく働くといわれます。本当にそうか下の表をみてみましょう。

主な国の労働時間と休日[表:発展編8-4 データブック オブ・ザ・ワールド2024より 2021年]
年間(時間) 週あたり(時間) 週休日 年次有給休暇(日) 1人当たりの国民総所得(ドル)
日本 1607 39.8 104 17.6 43450
アメリカ 1791 39.9 8.0 70900
イギリス 1497 39.4 104 20.0 44790
ドイツ 1349 36.7 104 30.0 51660
フランス 1490 31.6 104 25.0 44160

 総実労働時間は年間では確かに多いですね。でもアメリカの方がもうちょっと長い。週当たりでみてもヨーロッパの主要国とほとんど変わらない,むしろ少ないくらいです。ではなぜ「日本人はよく働く」というイメージがついたのか?
 週40時間労働が基準になったのが,つい最近の1997年,労働基準法が改正されてからのことです。1日8時間とすると,週5日働くことになる。
 しかし実際日本の社会でほとんどの企業が週休2日でやっているかというとそうではありませんし,上の統計も完全週休2日制と仮定した場合の話です。労働基準法には週休2日は定められていません。また日本の悪しき伝統,「サービス残業」というのがあります。これは統計には表れてこない。サービスですから残業手当はもらえません。ですから統計にもカウントされない。日本では労働者が会社にサービスすることを美徳とする考えがまだ残っている。欧米では時間内に仕事を終えられない人は無能だといわれます。
 ドイツやフランスでは労働時間の基準は週35時間です。それでいてドイツなんかは1人当たりの国民総所得は日本よりずっと多い。労働生産性が高いのです。労働時間あたりの国民総所得(仮に時給とよんでもよい)を試しに求めてみましょう。日本がいかに低いかがわかります。残業を含めると恐るべき無能さです。
 さらに日本とヨーロッパで決定的に違うのは有給休暇の日数です。フランスでは戦前から2週間の有給休暇が認められていました。現在では5週間です。実際は土日の2日を除きますから,5日×5週で25日です。
 このように日本とヨーロッパでは休日の日数が違いますから,余暇の過ごし方にも違いが出てくる。旅行を考えてみます。日本ではよく「アン(安)・キン(近)・タン(短)」といわれます。安くて・近くて・短い,短期滞在型。逆にヨーロッパはゆったりと長期滞在型です。
 わたしも休みがとれたらよく海外へ行きますが,海外でみかける日本人の観光の仕方はサイト・トゥー・サイト,点から点へ有名観光地巡り。あっちで買い物・こっちで買い物。忙しいったらありゃしない。ヨーロッパ人の旅行の仕方は違います。まず長距離移動そのものを楽しむ。列車やバスにゆられるところから旅行です。そしてホテルでもゆっくり本を読みながら過ごします。1日ホテルにいる人だっている。めぐまれた環境で働いている人なら1ヶ月は旅に出ます。それでいて会社に戻っても何の問題もない。うらやましいですね。

②日本の観光地
 行楽地・保養地のことをリゾートといいますが,日本で古くから親しまれているリゾートといえば温泉でしょう。数では北海道と長野が多い。その他東北地方が多いようです。

温泉地数
北海道 228
長野 192
新潟 137
福島 128
青森 124
静岡 122
秋田 119
群馬 90
鹿児島 87
千葉 84

[表:発展編8-5 県勢2024より 2021年度]
 温泉も含めて自然とその風景を楽しむところとして国立公園国定公園があります。両方とも自然公園法という自然の風景地を保護するための法律で環境大臣が指定しますが,国立公園は環境省自ら,国定公園は各都道府県が管理します。
 景色でいうと「日本三景」とよばれる日本の名勝(うつくしい風景)があります。松島(宮城県の多島海),天橋立(京都府丹後地方の砂嘴),安芸の宮島(広島県厳島)です。
 歴史的風景・町並みとしては代表は奈良京都でしょう。修学旅行の定番ですね。あと鎌倉(神奈川県)も。これらの都市は古都保存法という法律で都市開発が規制されています。
 室町時代以降,各地の大名が自らの城下町を京都の町並みに真似てつくった「小京都」とよばれる町も全国に数多くあります。江戸時代になって各藩の大名が作った庭園の中には日本三名園というものあります。金沢市の兼六園,水戸市の偕楽園,岡山市の後楽園です。
 その他,避暑地として長野県の軽井沢もおぼえておきましょう。

 バブル期になると日本各地でリゾート開発がさかんになります。リゾート法という法律もできます。新潟県湯沢町は,文字通り温泉の町でしたが,上越新幹線・関越自動車道が整備されると首都圏からのアクセスがよくなり,スキーリゾートとして開発されました。バブル期,冬になるとスキーにいくのは若者の流行でした。スキーの映画や歌が毎年流行ったものです。「♪絶好調 真冬の恋 スピードに乗って 急上昇 熱いハート とけるほど恋したーい♪」(広瀬香美『ゲレンデがとけるほど恋いしたい』)
 しかし確かに観光客は増え,地元経済は活性化されたのですが,いきすぎた開発のため環境・ゴミ問題などといった問題が地元住民を苦しめました。バブルが崩壊するとリゾート開発と自然環境の保護,または地元住民との関係をいかに両立させていくかを考えるようになりました。
 例えばエコツーリズムという考え方がでてきます。自然・歴史・文化そして地元住民の生活と調和した観光のあり方です。グリーンツーリズムというのもそうです。山村や漁村で自然に触れ,地元住民とも交流する。村の特産品を集めた季節イベントに参加したり,農業体験をしたり,果物狩りをしたり。日本人の余暇の取り方の特徴「アン・キン・タン」にあった観光の形でもあります。

 また一方で都市型リゾートの開発も進んでいます。テーマパークです。遊べる場所がコンパクトな敷地にまとまっているので,お値段はそこそこかかるかもしれませんが1日といった短い期間で楽しめる。
 都市型リゾートの開発はウォーターフロントの再開発に深く関わっています。ウォーターフロントとは「水辺の地区」です。大都市の臨海部の埋立地。かつては重化学工業の工場やコンテナ倉庫だったところです。
 再開発として注目されたのが神戸のポートアイランド。1981年,ここで「ポートアイランド博覧会(ポートピア81)」が開催され,海や港と暮らしがテーマになりました。博覧会終了後もポートピアランドというレジャー施設が営業を続けます。しかし1995年の阪神淡路大震災の影響で来場者が減少し,大阪の埋立地にUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)ができると施設の老朽化を理由に閉園しました。
 ポートピアランドに少し遅れて,千葉県浦和市東京ディズニーランドが開園します。現在はディズニーシーとあわせて東京ディズニーリゾートとして日本全国から観光客を集めている日本最大のテーマパークとなっています。
 その他,日本各地に趣向の凝らした動物園・水族館も建てられています。北海道旭川市の旭山動物園沖縄県の美ら海(ちゅらうみ)水族館は遠隔地にも関わらず来場者数を伸ばしています。

②海外旅行
 日本国内だけではありません。日本人の海外旅行者数も年々増加傾向にあります。日本人の海外旅行が増加したのは1980年代からです。このころから円高が進んだことが大きな要因でした。渡航先としてはアジアが多い。やはり近い・安いというのが魅力ですね。そして北アメリカ・ヨーロッパと続く。
 訪日外国人の方もみておきますと,やはりアジア諸国からの訪日が多い。特に中国・韓国です。滞在先は東京・大阪・京都以外には北海道が多いことが大事。北海道を目的地として選ぶ国としてオーストラリアが挙げられます。オーストラリア人が最も多い訪日時期は12月・1月の冬で,そのころオーストラリアは夏期休暇の時期にあたります。季節が逆なので,日本でのスキーホリデーを楽しむ旅行スタイルが定着してきている。
 2019年に訪日外国人旅行者数は3000万人を突破しました。訪日外国人旅行者が国内で消費活動をおこなうことを指すインバウンド消費(需要)という語句はこれから出題が増えてくると思われます。

【例題3】次の表は,福岡空港・新潟空港・那覇空港における外国人入国者数について上位5ヶ国までの国と地域を示したものである。福岡空港にあてはまるものをA~Cから選び,記号で答えなさい。

順位
1 中国 韓国 台湾
2 台湾 台湾 韓国
3 韓国 中国 中国
4 ベトナム ホンコン ホンコン
5 アメリカ タイ タイ
 6  ロシア フィリピン   アメリカ

[表:発展編8-6 法務省出入国管理統計より 2018年]
 どれもよく似た国が並んでいますが,それぞれの空港の地理的な位置を考えれば難しくありません。Aはロシアがみられるので新潟。Cはアメリカがあるのでアメリカともっとも関係が深い沖縄であることが予測できます。
答え:B

☆コロナ禍における航空旅客輸送
 2020年は新型コロナウィルスのパンデミックの影響を受けて航空業界や旅行業界が大きなダメージを受けた年でした。その影響は引き続き2021年も続きましたが,2022年から回復傾向がみられ,2023年にはコロナ前の2019年の水準に回復していることが分かります。

[グラフ:発展編8-11 日本国勢図会2024/2025より]


[グラフ:発展編8-12 国土交通省航空輸送統計より]


[表:発展編8-13 日本政府観光局より 2023年度]


③世界の観光地
 では世界的にみてもっとも観光客を受け入れている国はどこでしょうか?フランスです。フランスは魅力的な国ですね。ファッション・歴史・文化・食事,どれをとっても超一流の国です。わたし自身フランスには何度もいっていますがその度にワクワクする国です。下の表をみると観光と世界遺産は大きく関係しているようです。2019年から2021年にかけて,どの国も大きく観光客数が減少しているのは,新型コロナの影響です。

観光客数(2019年) 千人 観光客数(2021年)  千人  世界遺産数(2022年)
フランス 89322 フランス  41684 イタリア 59
スペイン 83509 スペイン 31181 中国 57
アメリカ 79256 トルコ 29925 ドイツ 53
中国 65725 イタリア 26888 フランス 52
イタリア 64513 メキシコ 24824 スペイン 50
トルコ 51192 アメリカ 22100 インド 42


[表:発展編8-7 データブック オブ・ザ・ワールド2022・24より]
[表:発展編8-8 UNESCO World Hrritage List Statisticsより]
 それでは具体的にどの都市に観光客は訪れているのか?世界の観光都市をみていきましょう。
ヨーロッパでは,もちろんパリ・ロンドン・ローマといった大都市。パリのシンボルとして資料に出されるのがエッフェル塔(1889年のパリ万博時に建設)。ロンドンではビッグベンとよばれる時計塔(ウェストミンスター宮殿=国会議事堂),ローマではバチカンのサンピエトロ寺院が出されます。
 そのほかにスペインのバルセロナ。アントニオ=ガウディーのサグラダ・ファミリア教会で有名です。イタリアの海上都市ベネチア,ルネサンスが栄えたフィレンツェ,ヨーロッパとアジアの交差点であるトルコのイスタンブールも人気です。
 アフリカではエジプトが観光業にかなり頼っている国ですが,近年の政治的混乱のためかつての賑わいはありません。ほかにはモロッコのマラケシュ


 北アメリカではニューヨーク,ロサンゼルス,サンフランシスコがやはり大人気。ニューヨークの中心地はマンハッタン島摩天楼とよばれる超高層ビル街です。2001年,同時多発テロで倒壊した世界貿易センタービルもここにありました。世界経済の中心地,世界恐慌の起点ともなった金融街ウォール街はこの島の南部の通り(ストリート)です。かつてこの通りに防御のための壁(=wall)が築かれたためこうよばれます。ロサンゼルスのハリウッド,サンフランシスコの金門橋(ゴールデンゲートブリッジ)はこれらの都市のランドマークとなっています。
 南アメリカではカーニバルで有名なブラジルのリオデジャネイロペルーのクスコは近くにインカのマチュピチュ遺跡があります。


 アジアでは中国のシャンハイカンボジアのアンコール遺跡(シェムリアップという都市),シンガポールアラブ首長国連邦のドバイ
 太平洋地域ではオーストラリアのシドニーやゴールドコーストがあるブリスベン。ハワイ・グアム・サイパンは日本人がもっとも気軽に行けるリゾート地です。


古い写真(フィルム)で申し訳ないが・・・

フィレンツェ ニューヨーク ハリウッド ハリウッド ゴールドコースト
古い写真なので写りがよくない。中央の橋が有名なポンテ・ベッキオ。 中央のツインビルにテロリストを乗せた飛行機が突っ込んだ。 ハリウッドの玄関(チャイニーズシアター) チャイニーズシアター前の有名人の手形・足型。私の大好きなハンフリー=ボガート。名台詞は「君の瞳に乾杯」 いわれなければどこの海岸かわからなくて申し訳ないけど,ゴールドコーストです。

こっちはデジカメ写真

ベネチア(ベニス)
マラケシュ(ジャルエルフナ広場)


2.情報社会
①情報伝達手段の発達
 情報の記録,伝達。保管をおこなう装置・器具をメディアといいます。情報の発信者と受信者が1:1である場合,例えば電子メールとか電話・携帯電話などをパーソナルメディアといいます。特定の発信者が多数の受信者(1:多)に情報を送る場合,その手段である新聞・ラジオ・テレビなどをマスメディアといいます。
 現代社会では情報のデジタル化によってこれまで個別のメディアとして扱われていた文字・映像・音声・画像などをまとめて処理することができるようになりました。コンピューターやインターネットの出現です。これらをマルチメディアといい,こういった情報技術の発達よって社会や生活が大きく変革したことIT革命といいます。1990年代におこりました。

②ユビキタス社会
 現在てはいたるところにコンピューターが内臓され,そのネットワークが張り巡らされており,いつでも・だれでも・どこでも時間と空間を越えてそれらを利用できるようになっています。このような社会をユビキタス社会といいます。「ユビキタス」とはラテン語で「どこにでも存在する」という意味です。
 また最近ではスマートフォンの普及によってわたしたちの暮らしの中のさまざまなモノがインターネットを通じて連携し,制御されるようになりました。このようなわれわれの社会や生活を向上させる新技術をIoT(Internet of Things),「モノののインターネット」といいます。これから出題が増えるかも。
 その一方でIT技術を利用できるもの(若者・先進国・富裕層・都市部など)とできないもの(高齢者・後進国・障害者・貧困層・地方特に離島など)との間に情報格差が存在します。これをデジタルディバイドといいます。「divide」は「分離する・分ける」という意味の英語で,IT革命期のアメリカのクリントン政権の副大統領アル=ゴアの演説から生まれた言葉です。

貿易

1.貿易に関する問題
①国際分業と自由貿易
 世界の国々の産業にはそれぞれ強みと弱みがあります。「鉄をつくるのは得意だけれど,原材料は国内にない。」逆に「石油はたくさんとれるんだけれど,機械をつくる技術がない。」産業のあらゆる面において一国内で完結できる国はありません。(旧ソ連ではかなり完結していた)ですからそれぞれの強みをいかして,お互いの弱点を補い合い共に利益を得ようとする営みを国際分業といいます。貿易とはそのためのモノの取引をいうのです。
 国際分業には水平分業と垂直分業とがあります。水平分業とは,先進国どうしが工業製品を取引しあう形,垂直分業とは先進国と途上国との間で工業製品と一次産品(農作物・鉱産資源など)を取引する形です。
 工業の発展には原材料となる鉱産資源が必要です。だから原材料を輸入して製品を輸出する加工貿易(垂直分業)が成立するのは当然です。では工業が発達した国は何も工業製品どうしを取引(水平分業)する必要はないではないか?工業が発達した国でも得手不得手があるのです。
 ここで比較優位という考え方がでてきます。以下がその基本的な考え方です。
 A国とB国で食料品と機械製品を1単位生産するのに必要な労働者数が下の表のようになっているとします。

各品目を1単位つくるのに必要な労働力
品目  A国  B国 
 食料品 10人 9人
 機械製品 12人 8人

 食料品も機械製品もB国の方が少ない人数で生産していますね。一見,B国はA国と取引する必要がないように見える。
 しかし見方を変えて同じ国の中での労働力を比較してみましょう。機械製品と食料品のの比率はA国では12人:10人=1:0.83,B国では8人:9人=1:1.125。製造するための労働力が少ない方が労働生産性が高いのですから,A国は食料品をつくるのが得意で,B国は機械製品をつくるのに優れているといえます。これが比較優位です。
 そこでそれぞれの国が不得手な製品の製造をやめて得意な製品に労働力を集中したとします(特化)。

特化後の生産量
品目  A国  B国  生産量(単位) 
 食料品  22人  0人   2.2 
 機械製品  0人  17人  2.125

 両国がそれぞれ得意分野に特化したあとの生産量をみてみると,A国はもともと10人で1単位の食料品を生産していましたから,22人になると2.2単位になりました。B国では8人で1単位の機械製品を生産していましたから,17人でやると2.125単位生産できることになります。特化する前はA国・B国合計で食料品は2単位,機械製品も2単位つくっていましたから,特化後は食料品が0.2単位,機械製品は0.125単位増えたことになります。
 そしてお互いが生産しなくなった品目を1単位ずつ交換(貿易)します。A国は食料品1単位をB国に輸出し,機械製品を1単位輸入する。するとA国には機械製品1単位と食料品1.2が手もとに残るわけです。B国も同様に食料品が1単位と機械製品が1.125単位です。ねっ,このように国際分業するとお互い得するでしょ。

 この比較優位の考えに基づいておこなわれる貿易が自由貿易です。そしてこれを提唱したのは19世紀はじめのイギリスの経済学者リカードです。比較優位の考え方は現在では貿易に限定したことでなく,社会の様々場面で用いられます。

②保護貿易
 比較優位の考えのもとで特化が進むとどうなるでしょうか?B国の機械製品をつくる企業は多くの利益を得るでしょう。また国内外で企業どうしの競争がばけしくなり,品質も向上します。機械製品製造においてB国以上に労働生産性が高いC国が現れてはB国はダメージを受けますから,負けないようにがんばるわけです。
 一方B国の食料品工業はどうでしょうか?(A国の機械工業でもよい)生産する人はいなくなってしまいました。これではB国の食料品工業は衰退します。業界の人は猛反発です。
 そうならないようにするためにはどうしたらよいか?A国から輸入される食料品がB国の食料品よりも同じぐらいかそれよりも高くなるように設定してやる。つまり関税をかけてやるのです。あるいは輸入量を制限してやって,B国内にA国の商品があまり出回らないようにする。こうして国内産業を保護するのです。これを保護貿易といいます。
 関税や輸入量制限は国家が決めることですから保護貿易は国家が経済に介入することになります。一方自由貿易は国家の介入できるだけ避け,自由競争に任せた貿易といえるでしょう。

③20世紀までの世界の貿易
 18世紀,イギリスで産業革命がおこります。この結果,世界の歴史はイギリスがリードしていくことになりますが,貿易においてもイギリスの工業製品は比較優位の独壇場になります。とするとイギリスは世界に対して自由貿易を求めてくるわけです。
 19世紀,イギリスのこの姿勢が帝国主義へと向かわせました。アヘン戦争(1840年)がその例です。結果,南京条約(1842年)清は治外法権を認めるとともに関税自主権を失ったのです。この方法はのちに欧米列強が見習い,帝国主義の常套手段となります。
 同じころドイツやアメリカではよくやく産業革命が軌道にのってきました。,ここでイギリスの安い工業製品が流入してきてはたまりませんので,保護貿易政策をとります。さすがのイギリスもドイツやアメリカ相手にアジアと同じ手(武力)は使えません。ドイツは当時小国の分立状態にありましたから関税同盟という形で加盟国内の関税を撤廃し,域外関税を設定したのです。小型のEUって感じでしょうか。提唱者は保護貿易の父リストです。彼の考え方がEUの基礎となったのです。結果ドイツは工業発展を遂げ,その盟主であったプロシア(プロイセン)がドイツを統一し,ドイツ帝国(1871年~)を築くのです。(首相はビスマルク)
 アメリカは,といっても工業化が進んでいたのは北部です。北部は国内産業を守るため保護貿易を主張します。それに対し南部は黒人奴隷を使用した綿花のプランテーションがさかんです。この綿花はイギリスに輸出されていました。だからイギリスとの間で自由貿易をしたいのです。南北戦争の背景には黒人奴隷問題のほかに貿易に対する主張の決定的な違いがあったのです。
 一方のイギリスでは南北戦争が起きるとアメリカ産の綿花の輸入が減少,その調達地としてインドの存在がますます大きくなっていきます。イギリスの植民地政策はこのインドを守るためと工業化によって力をつけてきたドイツに対抗するために展開されていったようなものです。イギリスとドイツのこの対立は20世紀になって第一次世界大戦へと進んでいきます。

 1929年世界恐慌がおこるとイギリスやフランスブロック経済によって経済の回復を図りました。ブロック経済の反対語はあえていうならグローバル経済です。「ブロック(bloc)」とは「まとまり・圏」の意味で,ここでは複数国(国民)の政治上・経済上のまとまりのことです。
 「恐慌」とは極端な不景気です。不景気とは国内通貨の流通量の減少やそれにともなう需要の減少が原因です。対策には通貨流通量を増やし,国内需要を活性化させる必要があります。ところが当時通貨の流通量はその国が保有する金の量を基準に設定されていました。金本位制度といいます。金は安定した価値をもつので,その価値を基準に設定された通貨の価値も安定します。その一方で国の発展に合わせて,あるいは景気を刺激するために通貨量を増やすことができないという欠点をもっています。ブロック経済の第一段階はまずこの金本位制度を放棄することからはじまりました。そして自国の通貨が使用できるあるいは影響力をもつ国,つまり植民地との結束を強める。ブロックを形成するのです。これで貨幣の海外流出が防げる。
 そして内需の拡大です。自由貿易のもとでは比較優位の原則が働きますから,内需が拡大すると当然輸入も増加します。そこで自由貿易をやめてしまって保護貿易にする。自国のブロック以外からの輸入に高い関税をかけてやると,需要は外国の商品より国内商品に向かいます。国内で生産できない商品はブロック内から取り寄せます。このこのときの関税は低く設定してやる。1つのブロック(経済圏)の中で経済が完結し,国力を回復させることができるのです。
 しかしこれができるのは海外に広い植民地や保護国をもつ国だけです。当時はイギリス・フランスぐらいでしょう。イギリス圏・フランス圏が他国からの輸入を減らしたということは,ある国のイギリス圏・フランス圏への輸出が減少したということでもあります。その国は貿易による利益を減らすことになります。資源にめぐまれない国ならなおさら貿易赤字は増えます。結果的に国民所得も減るという悪循環。となればイギリス圏・フランス圏と同様自国もブロックを形成させるしかない。というわけで軍事力で海外侵略に打ってでたのが,ドイツであり,イタリアであり,日本だったのです。日本ではこうして拡大していったブロックを「大東亜共栄圏」とよんだのです。
 この話の教訓はこうです。「ブロック経済(保護貿易)がヒトラー(第二次世界大戦)を生んだという一面がある。」

②ブレトンウッズ体制
 このように第二次世界大戦の経済的要因が保護貿易にあったという反省から,戦後アメリカを中心とした連合軍は自由貿易を進めていこうとしたのがブレトンウッズ体制です。ブレトンウッズとはそのための協定が結ばれたアメリカの村のの名前です。
 ブレトンウッズ協定では2つの組織を設立することを決めました。国際通貨基金(IMF)国際復興開発銀行(IBRD)です。これはまた公民で詳しくお話しますが,2つの機関の目的は為替の安定・貿易の振興・発展途上国の開発です。それもこれも世界的な自由で安定した貿易体制をつくるためです。さらにGATT(ガット)という協定が締結されます。「関税および貿易に関する一般協定」といいます。これは組織の名称ではありませんが,条約の名前であるとともに締約国の集まりを指します。話し合いの場は第1回・第2回と回数で表しますが,第5回以降は交渉を提唱した人の名前や交渉を開始した地名をつけて「~ラウンド」と表すのが慣習となりました。
 GATTの根本理念はリカードの比較優位説に基づいた自由貿易にあります。そして以下がGATTの三原則です。
(1)関税の低減・数量制限の禁止
 国内産業を保護するための措置としては関税以外は原則認めないという姿勢です。関税についてはできるだけ低くすることを目標とします。ただし国内産業に重大な被害が生じるおそれがある場合,あくまでも一時的な措置として,関税の引き上げや輸入量制限を認める場合があります。これをセーフガード(緊急輸入制限)といいます。WTO成立後のことですが,日本では2001年に中国からのいぐさ・ねぎ・生いしたけに対して,2009年にこんにゃくいもに対して発動しています。
(2)無差別
 どの国に対しても同じ待遇を無差別に与えるというルール。これを最恵国待遇といいます。入試で問われることはありませんが,発展編を学ぶ人には将来的におぼえておいてほしい言葉です。ある交易国に与えたもっとも有利な待遇は,他のすべての交易国に与えられなければならないというルールです。例えば幕末の不平等条約はこのルールにのっとって結ばれました。
(3)多国間
 交渉は二国間ではなく多国間交渉であるといことです。正誤問題のポイントとなるところです。この多国間交渉を「ラウンド」しいいます。丸いテーブル(ラウンド)に各国代表が着席し,序列を設けず話し合いをおこなう(円卓会議)ためです。

③WTO
 GATTの交渉で最後にして最大の交渉は1986年からのウルグアイ・ラウンドでした。主な議題は農産物に関するもの数量制限を撤廃して,すべて関税化する。日本なんかはかなり苦しみました。
 またサービスや知的財産権の国際経済活動が活発になってきたため,それをどうするかが問題になりました。そもそもGATTは形のあるモノ(財)についての協定であったためです。さらに1980年代というと二国間の貿易摩擦が多発していた時期です。GATTをさしおいて二国間協議がさかんにおこなわれました。  
 GATTには二国間の対立を解決する手続きに不備があったのです。(締約国が全会一致で紛争解決に賛成しなければ,問題解決に踏み込めない。当然紛争当事国の一方は不利だと思ったら反対するわけです。)何よりGATTは正式な国際機関でないので,組織がしっかりしていない。
 そこで1995年,ぼちぼち限界に達していたGATTを発展的に解消して設立されたのがWTOです。本部はスイスのジュネーブに置かれます。
 日本・アメリカ・EU諸国は発足時からこの組織に加盟していますが,中国は2001年にロシアは2012年に加盟。この2国は比較的新しい加盟国(GATTを含めて)であることは注意しておきたい。

④貿易摩擦
 貿易摩擦がおこるのは,輸出入される商品がお互いの国内商品と競合するからです。例えば日本から自動車がアメリカに輸出される。輸出量が増えるとアメリカの国内自動車産業が困る。これはもしアメリカで自動車産業がさかんでなかったらおこりません。アメリカが日本に農産物を輸出する。輸出量が増えると日本の農業がダメージを受ける。もし日本で農産物(例えばみかん)をつくっていなかったら摩擦は生じません。
 高度経済成長期,日本の経済発展と技術革新によって日本の工業製品の国際競争力が高まるとアメリカの対日貿易収支が赤字に転じました。1960年代に繊維製品1970年代に鉄鋼製品,そして1980年代に自動車・半導体をはじめとする機械製品の日本の輸出が問題となります。貿易摩擦の解決方は応用編でみた通りです。

⑤地域経済協定…自由貿易協定と経済連携協定
 WTOによる多角的貿易交渉は現在膠着状況にあります。交渉する内容がモノだけでなくサービスや知的財産など多岐にわたっていること。加盟国の増加,特に途上国・新興国の加盟国が増えたことなどが原因です。そこで現在,地域の経済協定が世界の通商ルールを決める中心的な存在になってきています。
 そもそも地域の経済協定はブロックをつくることになり,GATT・WTOの原則に反するもののはずですね。しかしGATTには例外条項(24条)があって,ごく一部の商品を除いて域内の関税を0にし,域外関税は引き上げないというルールを守れば地域経済協定はOK。このルールを入れてしまったことでGATTの無差別の原則に反するケースが次々と誕生したのです。
 1960年代のEC(EEC),1990年代のNAFTAなどがそれです。そして現在ではさらに規模が大きくなりAPECTPPといった経済連携協定がWTOの多国間交渉を脅かす存在となろうとしています。
※NAFTAはトランプ政権による再交渉によって新たにアメリカ・メキシコ・カナダ協定(USMCA)にかわりました。
 地域経済協定には関税同盟自由貿易協定経済連携協定といった形があります。関税同盟の代表がEC(EEC)・CIS(独立国家共同体)MERCOSUR(メルコスール,南米南部共同市場)です。域内関税の撤廃と域外に対し共通関税制度を適用する自由貿易地域です。最終的にはEUのように経済統合を目標としています。(EUについてはあとでお話します。)MERCOSURは南米南部のブラジル・アルゼンチン・ウルグアイ・パラグアイが中心となって現在,その加盟国を南米全体に広げようとしています。CISはソ連崩壊後,バルト三国を除く旧ソ連を形成していた国々で構成されていましたが,現在は脱退国が次々と出ています。

 自由貿易協定(FTA)経済連携協定(EPA)二国間以上の協定です。二国間以上ということは二国間でもよいということです。GATT・WTOではそれができませんでした。自由貿易協定が物流に関する協定に対し,経済連携協定は人の移動・知的財産といった幅広い分野での経済協定です。2002年,日本はシンガポールを皮切りにさまざまな国との間で二国間協定を結んでいます。シンガポールが最初だったのは,シンガポールから日本に農産物が輸入される心配がなかったからです。
 自由貿易協定の代表的なものにEFTA(エフタ ヨーロッパ自由貿易連合)NAFTA(ナフタ 北米自由貿易協定)があります。EFTAには現在,スイス・ノルウェー・アイスランド(・リヒテンシュタイン),つまりEU非加盟国が加盟,NAFTAはアメリカ・カナダ・メキシコの3国が加盟しています。
 経済連携協定の代表がTPPです。環太平洋経済連携協定。GATT・WTOのルール(例外条項24条)でいけば,域内関税を原則0にすることが条件になっていますので,日本はかなり厳しい立場に立たされました。TPPは例外なき関税撤廃を目指しています。
※2018年末,アメリカを除いた新しい枠組みでTPPは発効しました。(CPTTP)
 またAPEC(アジア太平洋経済協力会議)は地域協定ではありませんが,アジア太平洋諸国の経済的な情報交換や目標・指針を決定する会議です。こちらはサミットのように各国首脳が集まりなんらかの宣言を打ち出す。APECにはこれといった拘束力はありませんが,TPPの方はルールづくりの場ですので合意に至ると守らなければなりません。
※アフリカ連合
 EUをモデルとして
アフリカでも地域連合がつくられました。その名も「AU」です。しかし紛争が多発したり,独裁政権や特定の国(例えば南アフリカ)に富が偏在していたりで,経済的な連携は不完全なままです。一方,ASEAN(東南アジア諸国連合)は今や経済統合をめざして順調に交渉が進んでいます。

2.EU
①EC(ヨーロッパ共同体)
 1967年に発足したECは3つの組織が母体となっていました。ECSC(ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体)EURATOM(ユーラトム,ヨーロッパ原子力共同体),そしてEEC(ヨーロッパ経済共同体)です。原加盟国はフランス・西ドイツ・イタリア・ベルギー・オランダ・ルクセンブルクの6ヶ国。ECSCとEURATOMは資源・エネルギーの共同管理を目的としたもの。というのも結局ヨーロッパが大きな戦争の舞台となった原因は石炭・鉄鋼といった資源にあったからです。特にフランスとドイツの国境,フランス側のアルザス・ロレーヌ地方(鉄鉱石)とドイツ側のルール地方(石炭)は,これまで幾度も両国のケンカの原因でした。原子力・石炭・鉄鋼の共同管理は経済的な理由からだけでなく,安全保障の理由からも必要なことだったのです。
 EECの母体はベネルクス三国(ベルギー・オランダ・ルクセンブルク)間ですでに結ばれていた関税同盟です(ベネルクス関税同盟)。実は関税同盟を結んでいるベネルクス三国がGATTに加盟する際に,第24条の例外規定を設定しなければならなかったのです。戦後地域経済協定のはじまりといっていいでしょう。
 EECに対抗してイギリスなど7ヶ国で結成したのがEFTAです。ただしEFTAは多国間の自由貿易協定ですから,関税同盟のように域外共通関税の制度はありません。またEUのように政治的な統合もありません。
 ECの本部はベルギーのブリュッセルです。これはそのままEUでも継承されます。

②拡大EC
 1973年,イギリスはEFTAを脱退してEC加盟を決めます。同じ年,デンマークアイルランドが加盟。北への拡大です。このときノルウェーも加盟条約に調印しますが,国民投票で反対されたため現在もEUには加盟していません。南への拡大は80年代に入ってから,ギリシャそしてスペイン・ポルトガルが加盟。加盟国が12ヶ国に増えたECは拡大ECともよばれ,1992年を目処に市場統合をめざします。

③ECからEUへ
 1992年,ECは市場統合を完成したため,これで国境を越えたモノ・サービス・労働力・資本の移動の自由が可能になりました。そしてさらに通貨統合,外交・安全保障政策の共通化をめざすマーストリヒト条約を結び,93年EUが発足します。マーストリヒトは条約が調印されたオランダの都市の名前です。95年にはオーストリア・スウェーデン・フィンランドが加盟し,加盟国は15ヶ国になりました。
 2002年,ドイツのマルクを基準に共通通貨ユーロの使用が開始され,イギリス・スウェーデン・デンマーク(しりとりでおぼえるとよい)以外の国で使用されました。2004年には中東欧10ヶ国が加盟し,現在は28ヶ国となっています。もっとも新しい加盟国はクロアチアで,これらの中東欧諸国ではまだユーロの使用は進んでいません。(スロバキア・バルト三国は使用開始)逆にEU非加盟にも関わらずユーロを使用している国もあります。代表的な国はバチカンです。ほかにもモンテネグロなどがあります。

④シェンゲン協定とスイス
 EUとは別の枠組みでヨーロッパでは国境を自由に行き来することができる協定があります。これをシェンゲン協定といいます。協定締約国間では人が国境を越えるときの国境審査をなくすというもので,要するにパスポートはいらないのです。わたしたち日本人も一度シェンゲン圏内に入ると,そのときに入国審査を受けるだけです。そのあとシェンゲン圏内ならいちいちパスポートを見せる必要はありません。
 EUに加盟していないスイスはシェンゲン協定に入っています。スイスがEUに加盟しないのは永世中立国だからという説明は成り立ちません。スイスは最近になってようやく国際連合に加盟しましたが,今日まで国連に加盟しなかった理由としては「永世中立国」というのが背景にありました。EU非加盟はまた別です。その理由はもともとスイスでは輸入関税率が非常に低いということ。国民所得が高く生活水準がEU加盟国より高いこと。スイスフランは金より安定しているといわれるぐらい通貨価値が高いこと。他国にない独特の金融システムをもっているということなど。スイスがEUに加盟すると経済的メリットよりデメリットの方が多くなるという経済面の理由の方が大きいのです。
 一方,イギリスは加盟中も離脱後も一貫してシェンゲン協定には入っていません。

⑤EUの組織
 EUには立法・行政・司法の三権が備わっています。唯一EU市民の直接選挙で選ばれるのがEU議会で,議会が開かれるのはブリュッセルではなく,フランスのストラスブール(これはよく出ます)です。行政府にあたるのはEU委員会。委員会委員長は各国の代表者で構成されるEU理事会によって任命され,議会の承認を受けます。いってればEUの首相にあたります。EU理事会議長は大統領といってもいいですが,現在は「大統領」にあたる地位が明確に存在するわけではありません。サミットにはEU委員会委員長とEU理事会議長も参加します。(EU議会議長ではない)EU委員会・理事会は本部ブリュッセルでその任にあたります。裁判所にあたるのはEU司法裁判所。ルクセンブルクにあります。
 またユーロ圏の金融政策を担う中央銀行としてヨーロッパ中央銀行(ECB)がドイツのフランクフルトに設置されています。
 現在EUでは「EU憲法」が制定されましたが,これが発効するには各国の国民投票で賛成多数が必要であり,フランスとオランダで否決されたことから,現在発効にには至っていません。ちなみにEUの歌というものがあります。ベートーベン交響曲第9番第4楽章「歓喜の歌」です。作詞はドイツの詩人シラー。日本でも年末によく流れる歌です。

⑥EUの問題点
 次の表はEU各国の国内総生産を順に並べたものです。[表:発展編8-9 IMF World Economic Outlook Databaseより 2023年]

EU各国の国内総生産と1人あたりの国内総生産
順位 国内総生産
(10億ドル)
順位 1人あたりの
国内総生産(ドル)
1 ドイツ 4457 1 ルクセンブルク 129810
2 フランス 3344 2 デンマーク 68299
3 イタリア 2255 3 オランダ 62718
4 スペイン 1581 4 オーストリア 57081
5 オランダ 1117 5 スウェーデン 56224
23 スロベニア 68 23 ハンガリー 22146
24 ラトビア 43 24 ポーランド 21996
25 エストニア 40 25 クロアチア 21347
26 キプロス 32 26 ルーマニア 18175
27 マルタ 20 27 ブルガリア 15854

 ドイツ・フランス・イタリアといった経済力のある国とそうでない国との間に大きな差があり,1人あたりに換算しても最上位の国と最下位の国では10倍以上も差があります。加盟国間の経済格差,これが一番の問題点です。このように経済格差があるにもかかわらず単一通貨ユーロを使用している。新しい加盟国である中東欧諸国がユーロを導入できるはずがありません。
 中東欧諸国の人々はEUに加盟したことで域内を自由に移動することができます。労働者はより所得の高い国で働こうとします。逆に労働者を受け入れる側の国では仕事にありつけない人も出てくる。失業率が高くなるという問題を抱えるわけです。以前からドイツでは過剰なトルコ人労働者流入が社会問題となっていたため,EUはトルコ加盟にかなり慎重になっています。(トルコ加盟問題にはもちろん宗教問題もある)
 またEUでは共通農業政策を実施しています。農業に関しては過保護ともいえる保護政策をとっているのです。貿易に関しては輸入品には高関税をかけ,輸出品には補助金を出して売りやすくする。域内の農産物は高価格を維持する。(日本の食料管理制度のようなもの)農家には所得保障をする。特に大規模農家は優遇されています。EUは農業関連にEU予算のなんと40%以上もつぎ込んでおり,財政を逼迫しています。そして当然フランスのような農業国にそのお金がたくさん渡ります。そうでない国に不満があるのは当然です。

 近年では南部の国を中心に財政問題があらわになってきています。これまでひた隠しにしてきた杜撰な財政運営が2008年のリーマンショック以降顕著になり,ギリシャが財政破綻。EU諸国はギリシャに財政再建を求めるとともに多額の財政支援を決定しました。EU最大の経済力をもつドイツの国民からすれば,真面目にやってきた自分たちのお金が,不真面目な人たちを助けるために使われるのは御免です。しかしユーロの危機,EUの危機だと大国指導者は国民を説得し,支援はなされました。
 ところが財政破綻の危機はギリシャだけでなく,大国イタリア・スペインも抱えていたのです。このような国々は侮蔑の意味を込めて頭文字をとり「PIGS」(ピッグズ=豚 ポルトガル・イタリア・ギリシャ・スペイン)とよばれています。(アイルランドを含めて「PIIGS ピーグス」とよばれることもある)

3.ラテンアメリカ諸国の貿易 [表:発展編8-10 データブック オブ・ザ・ワールド2024より 2022年・2021年]
①ラテンアメリカの国々の輸出品目

メキシコ キューバ ブラジル アルゼンチン
機械類 34.0 金属鉱とくず 37.9 大豆 14.0 大豆油かす 12.9
自動車 21.3 たばこ 13.7 原油 12.8 とうもろこし 10.5
原油 5.5 砂糖 10.7 鉄鉱石 8.8 自動車 6.8
野菜と果実 3.5 化学工業品 8.6 肉類 7.6 大豆油 6.6
精密機械 3.3 基礎工業品 5.9 鉄鋼 5.2 牛肉 4.5
計(百万ドル) 578193 計(百万ドル) 1966 計(百万ドル) 334136 計(百万ドル) 88445

・メキシコ
 輸出品目から工業国であることがわかります。メキシコはNIESの1つに数えられるぐらい先進国につぐ工業・経済発展している国。またメキシコ湾岸油田があり,産油国であることも特徴。
・キューバ
 砂糖とたばこ(葉巻)がこの国を支える基幹産業です。またラテンアメリカでは唯一アメリカと国交のない国。冷戦期にキューバ革命がおこって以降,この国は社会主義国となり,現在にいたるまでアメリカとの国交は断絶。したがって貿易相手国にアメリカはありません。2015年,オバマ政権によって国交回復交渉がはじめられ,今後が注目されます。
・ブラジル
 なんといっても鉄鉱石ですね。もういう必要もないでしょう。
・アルゼンチン
 アルゼンチンは農業国です。とくにとうもろこしと大豆のゴールデンコンビ。このコンビの相性のよさは「世界の農業」で説明済み。

②アンデス諸国の輸出品目

ベネズエラ エクアドル コロンビア ペルー チリ
原油 85.1 原油 27.3 原油 27.1 銅鉱 27.1 銅鉱 23.3
石油製品 12.5 魚介類 26.4 石炭 10.6 金(非貨幣用) 13.7 22.1
化学薬品 0.9 バナナ 13.1 金(非貨幣用) 7.6 野菜と果実 10.9 化学薬品 11.4
鉄鋼 0.3 石油製品 4.9 コーヒー豆 7.5 卑金属鉱 6.6 魚介類 8.1
鉄鉱石 0.3 切り花 3.5 石油製品 5.2 5.3 野菜と果実 8.1
計(百万ドル) 5170 計(百万ドル) 20225 計(百万ドル) 31057 計(百万ドル) 58675 計(百万ドル) 97492
 

 アンデス山中の国の特徴としては「原油」・「石油製品」が目立つこと。アンデスは新期造山帯でした。その上で各国の特徴を読み取ります。
・ベネズエラ
 マラカイボ湖周辺で採掘される石油がこの国の経済を支えているモノカルチャー経済。(原油・石油製品の割合が非常に高い)
・エクアドル
 フィリピンと同様この国の「バナナ」は有名ですね。
・コロンビア
 ブラジルとともに「コーヒー豆」の生産の多い国でした。
・ペルー
 非鉄金属の割合が高いことですが,特におさえておくべきところはありません。あまり出題される国ではありませんね。出題されても消去法で解きましょう。
・チリ
 銅鉱(世界1位)・果実(地中海性気候)・魚介類(サケ)。もういうことないですね。これだけそろえばどこからみてもチリ。

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