地理 第9回 環境   発展編

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環境問題への取り組み

1.環境保全のあゆみ
国連人間環境会議(1972年)
 1960年代の日本の高度経済成長期は,ちょうど世界の先進国でも環境・公害問題が深刻化した時期でもありました。そんな中,1972年スウェーデンのストックホルム国連人間環境会議が開かれます。この会議のスローガンは有名で「Only One Earth」。日本語では「かけがえのない地球」です。環境問題についてのはじめての大規模な国際会議で,人間環境宣言(ストックホルム宣言)が採択されました。そしてこのときに設立された国連機関が国連環境計画(UNEP)です。本部はケニアのナイロビにあります。

国連環境開発会議(1992年)
 ところが何というタイミングでしょう。1973年に石油危機がおこります。前年に環境保護を謳っておきながら,石油危機がおこると企業はそれどころではなくなりました。利益優先の論理が再び頭をもたげてきたのです。
 また当時の環境破壊は主に先進国の仕業です。発展途上国は工業化によって経済発展したいのです。そこへもってきて経済発展より環境保全だといわれても納得がいきません。先進国と発展途上国との間の南北問題は,ここでも対立を深めていった。
 そこで環境保護と経済発展を両立できないかと悩んだ末,出てきたのが「持続可能な開発」。のちにこの言葉は「将来の世代のニーズ(必要)を満たす能力を損なうことなく,今日の世代のニーズを満たすような開発」と定義されます。(ブルントラント報告)「持続可能な開発(社会)」を説明する模範解答なのでおぼえておいたほうがよいでしょう。
 何だか先の「かけがえのない地球」より頼りない気がするのはわたしだけでしょうか?よくいえば現実的なスローガンで環境問題を考えていこうとしたのが「国連環境開発会議」です。国連人間環境会議のちょうど20年後です。ブラジルのリオデジャネイロで開かれ,「地球サミット」ともよばれます。
 この会議では持続可能な開発を進めるための行動計画を「アジェンダ21」(アジェンダとは行動計画)として示し,気候変動枠組み条約生物多様性条約などの条約を結び,すべてを「リオ宣言」という形でまとめました。

③持続可能な開発に関する首脳会議(2002年)
 さらに10年後の2002年南アフリカ共和国のヨハネスブルクで,「第2回地球サミット」が開催されます。内容は「地球サミット」と大筋ではかわりません。

気候変動枠組み条約(地球温暖化防止会議)
 1997年,第3回京都会議(COP3)の京都議定書についてみていきましょう。2008年から12年までの間に二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を先進国全体で1990年レベルの5%以上削減するための目標値の達成が義務づけられました。
 まずその目標値ですが,日本は6%,アメリカは7%,EUは8%とされます。このため企業利益優先のアメリカは「こんなの無理」ということで2001年に離脱します。EUは8%と高いですが「がんばる」という姿勢をみせます。しかしこれには裏がある。基準となった年に注目しましょう。「1990年」です。このころ何があったかわかりますか?東西冷戦が終結して,東西ドイツが統一。ソ連が崩壊して,東欧諸国は次々と民主化していったころです。東ドイツを含めて東欧諸国は環境技術において西欧諸国に比べて非常に遅れていた。ドイツが統一して,EUの東欧諸国加盟が進み,東欧諸国にも西欧の環境技術が移出されれば,1990年比で8%の削減にたいした努力は必要ないのです。
 一方日本は1990年当時すでに最先端の環境技術をもっていました。だから一国で6%の削減はとてもつらいものがありました。しかし何といっても日本でおこなわれた会議で結ばれた条約。「いや」とはいえませんね。
 もう1つ,京都議定書には大きな欠陥があります。中国を含めた発展途上国には削減義務がありません。(義務がないだけで,議定書には調印している)京都議定書がようやく発効したのは2005年。前年ロシアが批准したことで発効にいたりました。そして削減期間である2008~12年。この間にどれだけ中国やインドの工業化・経済発展が進んだことかを考えると,はたして温室効果ガスの削減に効果があるのか?
 このような課題から京都議定書にかわる新しい枠組みが必要だと考えられています。温室効果ガスを地球規模で削減するためにはどうしてもアメリカや発展途上国の参加が必要ですし,そのためにクリアされなければないらい問題が山積で,会議ばかりが積み重ねられています。

 2015年,パリで開催されたCOP21においてパリ協定が採択されます。京都議定書と決定的に違ったのは,気候変動枠組み条約に参加するすべての国に温室効果ガス削減義務があるという点です。すなわち発展途上国も含むということです。これには大きな効果があると期待されました。一度はアメリカ(トランプ大統領)が離脱を表明しましたが,現バイデン政権は2021年,すぐに復帰を表明しています。。
 さてここで注意が必要なのは,「削減義務」です。「みんなで温室効果ガスを減らしていこうではないか。」というのは当然の取り組みなんですが,達成できるかどうかはまた別の話で,達成自体は義務ではないということ。では何が義務かというと,削減目標を設定して提出する義務,簡単にいうと努力義務です。なんだか少しだまされような気分になるのはわたしだけでしょうか。

⑤京都メカニズム
 特に日本にとって厳しい削減目標が定められた京都議定書ですが,2011年から原子力発電所が次々とストップし,その分を化石燃料に頼らざるを得なくなった日本がどうして目標を達成できたのでしょう?
 そこには京都メカニズムという裏技があったのです。
排出権取引
 目標以上の削減量を達成した国は,他国に削減超過分を売ることができるのです。逆に目標に足りない国はお金で削減量を買うことができる。

・クリーン開発メカニズム
 先進国が途上国の削減事業を支援すれば,途上国の削減量の一部を先進国の実績としてカウントできる。
 そのほか植林などで二酸化炭素の吸収量が増えれば排出量削減にカウントできたりします。
 京都メカニズム以外には環境税の導入(日本では検討中)再生エネルギー導入に対する減税も温室効果ガス削減に効果があるとされています。

【例題1】京都議定書について,正しいものを選び,記号で答えなさい。
ア.温室効果ガスの排出量の削減はすべての国で一定の割合であることが決められた。
イ.ロシアはこの文書をを批准した。
ウ.発展途上国では中国のみ削減義務を負った。
エ.東日本大震災の影響から,日本は削減目標を達成できなかった。

ア.1990年比で,EU諸国は8%,アメリカは7%,日本・カナダは6%など国ごとに削減の割合が決められた。アメリカは経済発展の足枷となるとして,批准せず。早々に離脱。(批准とは国家が最終的に条約を受け入れる決定をすること)カナダは削減期間(2008~2012年)途中で脱退。
イ.2007年にロシアが批准したことで京都議定書が発効した。
ウ.中国をはじめ発展途上国には削減義務はない。
エ.東日本大震災による福島原発の事故により,以降火力発電の割合を高めた日本であったが,排出権取引など京都メカニズムを駆使して-6%を達成した。

答え:イ

⑥気候変動に関する政府間パネル(ICPP)
 「パネル」とは「討論会」に近いかな。先のUNEP(国連環境計画)WMO(世界気象機構)が1988年に共同で設置・開催したもので,地球温暖化のメカニズムや環境への影響,防止対策などを何千人という専門家による意見を集約して報告書を提出します。2007年の報告書によって,地球の温暖化は疑う余地はなく,それが人間の活動が原因であることを断定しました。(ICPPはこの年のノーベル平和賞を受賞)

⑦生物多様性を守るために

 主な生物保護に関する条約には,生物多様性条約ラムサール条約ワシントン条約があります。
 生物多様性条約は1992年の「地球サミット」で調印されました。この条約は特定の生物ではなく,地球上の生物を包括的に保護することを目的としています。
 ラムサール条約はもっと歴史が古い。ただし正式名「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」が示すように,水鳥という生物よりも「生息地=湿地(湖沼)」の方に重点が置かれている。ちなみにラムサールとはイランの都市名です。
 ワシントン条約は正式名を「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」といいます。絶滅危惧種の国際取引を規制するためのもの。つまり「取引」に重点が置かれています。

⑧市民運動
・ドイツの例
 ドイツ南西部の都市フライブルクは「環境都市」とよばれています。第二次世界大戦後,この都市をおおう「黒い森(シュバルツバルト)」が酸性雨の被害にあい,木々は次々と枯れていきました。
 そこでフライブルクではNGOが中心となって森林保護をすすめていきます。自然エネルギーの推進,パークアンドライド路面電車(LRT)などの公共交通機関の整備,自転車の活用など。この都市の取り組みは,現在世界の都市環境政策のモデルとなっています。
・イギリスの例
 19世紀末のイギリスで歴史的名所や自然を保護するため,市民団体が設立されました。「ナショナルトラスト」といいます。そしてこの団体の名前は現在でもナショナルトラスト運動として世界で展開されています。開発から自然を守るために市民や自治体が,その土地を買い取り自ら管理していくというものです。ピーターラビットの作者ベアトリス=ポターがイギリスの湖水地方の広い土地を買い取ってその美しさが損なわれないようにしたという逸話がよく知られます。日本では埼玉県所沢市の通称「トトロの森」が有名です。

ナショナルトラストによって保護されている歴史的建造物(イギリス)

グリーンコンシューマー
 「グリーン」は「緑」=「環境」にやさしいイメージ。「コンシューマー」は「消費者」の意味。消費者が日常レベルで環境問題に取り組む姿勢で,買い物のとき,価格や安全性・デザインなどの付加価値に加え,環境に配慮した消費行動をとることです。例えば,無駄なもの・使い捨てのものは買わない。過剰な容器・包装したものの購入は避ける。近くで生産したものを買う。生産時のエネルギー消費の少ないものを選ぶなど。

トップランナー方式
 エネルギー消費を抑える政策の1つで,省エネルギー性能がもっとも高い製品(トップランナー)を常に目標基準に設定することで,他の製品の省エネ性能を高めていこうという考え方です。


2.世界遺産
世界遺産条約
 正式には「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」といいます。1972年,第17回UNESCO総会で採択されました。1972年というと,国連人間環境会議が開かれた年。ちょうど各国が環境問題に正面から向き合おうとする機運が高まってきた頃なんですね。
 1960年,エジプトがナイル川上流でアスワンハイダムの建設を決定します。建設予定地には古代エジプトの遺跡(アブ・シンベル神殿など)があり,ダムの建設によってそれらが水没してしまうという危機に直面しました。UNESCOは遺跡を守ろうとその救済を世界によびかけます。このよびかけに賛同した国々は協力して寄付金を出し,遺跡ごとダム湖の範囲外に移築する計画を実施しました。この精神がやがて世界遺産条約へと発展したのです。人類の遺産は,その国だけでなく世界の国々が協力して守らなければならない。

アスワンダム(エジプト) アスワン・ハイダム(エジプト) アブシンベル神殿(エジプト)


 世界遺産には文化遺産と自然遺産,そしてそれらをあわせた複合遺産(日本にはありません)とがあります。登録されると景観や環境の保全義務が生じます。登録後のいきすぎた観光地化が進むと(それを目的に登録申請することもある),保全の妨げとなることが心配されます。

②日本の加盟
 実は日本は先進国の中ではもっとも遅い,全体でも125番目の加盟国です。(1992年)最初に登録されたのは法隆寺と姫路城。加盟が遅れた理由は,国内の制度の整備が遅れていたことがあります。世界遺産登録には,推薦の時点で国内法などによって保護や管理の枠組みができている必要があるのです。
 また日本の木の文化石造りの西洋の文化に比べて理解されにくかったこともありました。登録件数をみてもイタリア,スペイン,フランスとヨーロッパが多く,地域的な偏りがかなりあります。
 しかし現在では少しずつ日本の木の文化や西アジア・北アフリカなどの土の文化も評価されるようになってきました。地域的な是正だけなく,近年は文化的景観・産業遺産(日本の富岡製糸場など),さらには20世紀以降の現代建築(オーストラリアのオペラハウスやスペインのサグラダ=ファミリア)まで登録されるようになってきています。

[グラフ:発展編9-1 UNESCO World Hrritage List Statisticsより]

③危機遺産
 世界遺産に登録されている物件のうち,その存続が失われる危険性があるものを「危機遺産」といいます。その理由としては環境破壊や紛争,財政難です。中でも問題となっているのが紛争・内戦・治安の悪化が激しい西アジア・中央アフリカの世界遺産です。アフガニスタンでは2001年に当時のタリバン政権がイスラムの偶像崇拝の禁止に反するとしてバーミヤンの石仏を爆破しました。現在ではシリアにある世界遺産が内戦のため次々と破壊されています。
 
④負の世界遺産
 UNESCOが特にそう分類しているわけではありませんが,その性格上「負の世界遺産」とよばれる世界遺産があります。人類のおこした悲劇の反省に立って登録されたものです。
 日本の原爆ドームが一番有名ですね。その他,ポーランドのアウシュビッツ(=ビルケナウ)強制収容所,アメリカが20回以上核実験をおこなったビキニ環礁(マーシャル諸島),ネルソン=マンデラが収容されアパルトヘイトの象徴ともいうべきロベン監獄島(南アフリカ共和国),15世紀以降の黒人奴隷貿易の拠点であった西アフリカのゴレ島(セネガル)などが有名です。

⑤さらにおぼえておきたい世界遺産


 応用編の世界遺産に加えて,少し難易度の高い世界遺産です。しかし写真をみれば「あっ知っている!」というものばかりだと思います。位置で注意したいのは,バルセロナベネチア(ベニス)。バルセロナはスペインでも地中海に面しています。ベネチアはイタリア半島の付け根の東側の方。アドリア海に面しています。同じ付け根でも西側はジェノバ。
 バルセロナにはアントニオ=ガウディーが設計し,その死後,そして現在も建造中であるサグラダ=ファミリア教会がシドニーのオペラハウスとともに20世紀の建築の代表例として登録されています。フランスの建築家ル=コルビュジェの設計した世界中の建築物といったものもあります。(日本では東京の国立西洋美術館)
 ベネチアは海の上に築かれた都市。中世には地中海交易を支配していた海洋都市です。ルネサンスの中心都市でもありました。海上都市であるため温暖化による海面上昇の被害を受けやすく,満潮時には町が水浸しになることがあります。アクア・アルタとよばれ,アクアは「水」,「アルタ」は「高い」という意味。文字通り高潮のことです。同じような被害が心配されている日本の世界遺産が厳島神社です。この神社も海上に建てられている。

ベネチア(イタリア)
水路が道(船が移動手段) アクア・アルタ(海水があふれると木の板で歩道を確保 )

 イスタンブールは古代ギリシャ人が植民地として建築したビザンチウムが始まりです。その後ローマ帝国時代には皇帝コンスタンチヌスの名をとってコンスタンチノープルとよばれ,4世紀後半の帝国分裂以降は東ローマ帝国の首都として栄えました。その千年後の1453年オスマン=トルコによって東ローマ帝国が滅ぼされるとそのままオスマン=トルコの首都となります。イスタンブールはコンスタンティノープルのトルコ語読みです。ボスポラス海峡に面したこの都市は,古代から交通の要地であったことから大帝国の首都であり続けた。都市はボスポラス海峡を挟んでアジア側とヨーロッパ側にまたがっており,「文明の十字路」と表現されることがある。

イスタンブール イスタンブール イスタンブール
イスタンブール歴史地区 ローマ時代の水道橋 ボスポラス海峡
(ヨーロッパ側からアジア側をながめる)

 ガラパゴス諸島は19世紀にダーウィン(イギリス)「進化論」をとなえるきっかけとなった島。島によって違う固有の生物が適者生存の発想のもとになった。ガラパゴス諸島はエクアドル領です。
 古代アメリカの古代文明の遺跡も数多く登録されています。有名なのがユカタン半島マヤ文明の遺跡ククルカンのピラミッド。マヤは天文学に優れ,春分の日と秋分の日を正確に割り出していました。このピラミッドにその日の太陽光があたると蛇の影が映し出される。
 ペルーマチュピチュインカ帝国の空中都市跡。ナスカも古代アンデス文明の遺跡で巨大な地上絵が描かれている。

⑥UNESCO,その他の役割
 UNESCOには三大遺産事業というものがあります。世界遺産・無形文化遺産・世界記憶遺産。あとの2つは世界遺産条約の一部ではなく,別のものですから注意して下さい。世界遺産が不動産をあつかうのに対して,無形遺産は文字通り形にできないもの。記憶遺産は動産をあつかいます。
 無形世界遺産には,芸能・伝承・社会的習慣や儀式・伝統工芸技術などがあります。日本では能楽歌舞伎人形浄瑠璃,雅楽,京都祇園祭アイヌの古式舞踏。最近では和食和紙などが登録されました。
 世界記憶遺産は,後世に伝えるべき価値をもつ書物や文書・記録物です。具体的には『アンネの日記』(ナチスのユダヤ民族の迫害),マグナ=カルタ(イギリス立憲政治の基礎),グーテンベルク聖書(世界初の活字印刷物),フランス人権宣言。日本では『御堂関白記』(藤原道長の日記)慶長遣欧使節関連資料,最近では山本作兵衛による筑豊炭鉱記録画があります。
 人間が残した遺産だけではありません。地球科学的な価値をもつ遺産をジオパークとして保全し,教育や観光(ジオツーリズム)に活用しようという試みも行われています。日本では洞爺湖・有珠山,阿蘇山,糸魚川,伊豆半島などが認定されています。

【例題2】次の文をよみ,あとの問いに答えなさい。
 ①ダーウィンがビーグル号に乗り,②ガラパゴス諸島にたどり着いてから180年あまりが過ぎた。彼はそこに生息するイグアナやゾウガメなどの変種が多いことに驚き,のちの③進化論にいたる着想を得たとされる。
 ガラパゴス諸島は1978年,生物多様性の保全にとって,最も重要かつ意義深い生態系として最初の④世界自然遺産に登録された。しかし登録にともなう⑤観光開発や不十分な管理に起因した外来生物の持ち込みなどにより,2007年に危機遺産に登録され,長い時間をかけて形成された貴重な生態系が,短期間の⑥人間活動によって崩壊の危機に瀕しているのである。
 このような生物多様性を保全するため,1992年「⑦生物多様性条約」が国連環境開発会議において調印された。地球温暖化にともなう大規模な気候変動とともに,生態系の崩壊をわれわれは阻止できるのであろうか。将来にわたって⑧環境を保全していけるかどうかは,現代世代の努力にかかっている。

1.下線部①について,ダーウィンはイギリスの博物学者であるが,イギリス発祥のナショナルトラスト運動について,まちがっているものをあとから選び,記号で答えなさい。
ア.広く市民から基金を募り,自然環境や歴史的環境を守る運動である。
イ.国民環境基金とよばれることもある。
ウ.自治体や政府が関与することはない。
エ.日本では1964年に神奈川県鎌倉市の御谷地区を乱開発から守るためにおこなった住民の運動が始まりであるとされる。
2.下線部②について,ガラパゴス諸島を領有する国をあとから選び,記号で答えなさい。
ア.ペルー   イ.エクアドル   ウ.コロンビア   エ.チリ
3.下線部③について,ダーウィンが進化論をとなえる『種の起源』が発表されたころの日本の出来事としてもっとも近いものを選び,記号で答えなさい。
ア.日米修好通商条約が結ばれた。
イ.天保の改革がはじまった。
ウ.下関砲撃事件がおこった。
エ.王政復古の大号令が出された。
4.下線部④について,世界遺産には,自然遺産とともに文化遺産とそれらの複合遺産があるが,世界遺産でないものと「負の世界遺産」とよばれているものを選び,順に記号で答えなさい。
ア.原爆ドーム
イ.端島
ウ.琉球王国のグスク及び関連遺産群
エ.姫路城
オ.佐渡金山
5.下線部⑤について,自然や人文環境を損なわない範囲で,自然観察をおこなったり,先住民の生活や歴史を学ぶことを目的とした観光形態を何といいますか。
6.下線部⑥について,熱帯での森林面積減少の主要な原因となっている人間活動に基づく土地利用の変化を木材採取・薪炭としての利用・農地開発以外で1つ答えなさい。
7.下線部⑦について,1972年の国連人間環境会議で設立され,この条約を管理し,本部がケニアのナイロビに置かれている国連の機関をアルファベットの略称で答えなさい。またこの条約の内容としてまちがっているものを選び,記号で答えなさい。
ア.この条約では,生物の多様性は人間の生存を支え,人類に様々な恵みをもたらすものであると考えられている。
イ.この条約では,絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引を禁止している。
ウ.この条約の締約国会議はCOPとよばれている。
エ.この条約は,締約国に対し,生物資源の提供国と利用国との間での利益の公平かつ公平な分配を求めている。
8.下線部⑧について,なぜ生物多様性としいう観点から熱帯林が保全される必要があるのか説明しなさい。


1.はあきらかに正しい文だが,イ・エは知っていないと判断がつきにくい(保留)。が誤文であり,この運動には政府や自治体が深く関わることがある。自然環境の保護には多額の資金が必要なため,自治体に土地の買取を求めたり,日本ナショナルトラスト協会は環境省が関わる公益財団法人である。
3.『種の起源』は1859年。日米修好通商条約(1858年)がもっとも近い。
4.日本の世界遺産登録地を問う基本的な問題。端島(長崎県)は通称「軍艦島」。明治の産業革命遺産として最も新しく登録された文化遺産です。
6.熱帯林の破壊の主な原因は木材の採取と焼畑農業であるが,木材の採取・薪炭利用・農地開発以外で考えなければならない。
7.語句は国連環境計画のこと。はワシントン条約の内容。のCOPは,「気候変動枠組み条約締約国会議」が有名であるが,「締約国会議」の略であり,どの条約に使用してもかまわない。
8.難問であるが,国立高校向け。

答え:1.ウ   2.イ   3.ア   4.〔世界遺産でないもの・負の世界遺産の順に〕オ・ア   5.エコツーリズム   6.エビの養殖池への転換(道路の建設・ダムの建設など)   7.UNEP,イ   8.熱帯林地域は,世界の生物種の半数以上が生息する地域で,バイオテクノロジーでの利用が期待される遺伝子資源の宝庫となっている。また希少生物も多く生息していることから保全が必要である。

2.日本の環境への取り組み
汚染者負担の原則
 PPPといいます。「Pollutter Pay Principl」の略。1972年,OECD(経済協力開発機構)で採択されたルールで,公害防止費用は汚染発生者が負担すべきというものです。1960年代から四大公害病訴訟がおこっていた日本では汚染回復責任や被害者救済責任も企業側にあるとしています。
 四大公害病訴訟のすべては1970年代のはじめ,企業側の敗訴として一応の決着をみました。ただし「企業側」です。この時点では「国や自治体」の責任は問われていません。

自然環境保全法
 難問題ですが,出題されたことがある。(東大寺学園)しかも時期ですから,超難問です。1972年に制定され,公害ではなく環境保全をあつかった法律としては,環境基本法に先んずる法律です。文字通り,「自然環境」の保全に特化した法律です。
☆1972年の環境関連事項
・国連人間環境会議(スウェーデンのストックホルム)
・世界遺産条約(UNESCO)
・汚染者負担の原則(OECD)
・自然環境保護法
 
※国連環境開発会議(地球サミット)は20年後の1992年,第2回地球サミットは30年後の2002年。

③環境基本法
 1992年の地球サミットが掲げられた「持続可能な開発」,これに向けて日本では公害対策基本法を廃止。改め幅広い環境問題にあたるため環境基本法を定めました。この当時はまだ1971年発足の環境庁が所轄省庁です。環境省に昇格したのは2001年のことです。
 またこの法律を基本として環境アセスメント法循環型社会形成推進基本法などが制定されていきます。

④循環型社会形成推進基本法(2000年)
 いわゆる3Rを促進しようというもので,「リデュース」→「リユース」→「リサイクル」→「サーマルリサイクル」→適正処分という優先順位で廃棄物処理やリサイクルが行なわれるべきと定められています。サーマルリサイクルとは「熱回収」の意味で,廃棄物処理のときただ燃焼するだけでなく,その熱エネルギーをも有効活用することです。
 その他,エアコン・テレビ・冷蔵庫・洗濯機を廃棄するときにリサイクル料金を課す家電リサイクル法,同様にパソコンの場合のパソコンリサイクル法(パソコンのモニターはこちら),食品リサイクル法など次々と3R関連の法律が制定されています。

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