公民 第4回 地方自治 発展編

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地方自治

1 地方自治は民主主義の学校である」としたイギリスの政治学者は〔   〕である。
ブライス(ジェームズ=ブライス)
   ブライスは19~20世紀のイギリスの政治家で,その著書『近代民主政治』の中でこの言葉を残しています。「地方自治は民主主義の学校であり,その成功の最良の保証人である。」と続きます。
   
2 明治憲法には地方自治の規定はなく,知事は〔   〕から任命され,市町村長も住民の直接選挙ではなかった。
天皇
   明治憲法には地方自治の規定はなかった。知事は天皇による任命,市町村長は議会によって選出される間接選挙でした。(地方議会は制限選挙)
 1947年,5月の日本国憲法施行を前に,全国の首長と地方議会議員の選挙がおこなわれました。首長と地方議員の任期はすべて4年ですので,任期途中での辞職・解散がない限り,地方選挙は4年に1回(うるう年の前の年)同じ時期に訪れることになります。これが現在でも地方の選挙が統一地方選挙とよばれる理由です。
 その年,4月の上旬は都道府県知事・政令指定都市市長とその地方議会議員が,下旬に政令市以外の市町村長・地方議会議員の選挙がおこなわれることになっています。
   
3 地方公共団体が扱う事務には,国が法令に基づいて地方公共団体に委託する〔 ① 〕事務と,地方公共団体が主体的におこなう〔 ② 〕事務がある。
①法定受託  ②自治
   以前は地方公共団体がおこなう仕事の多くは,国から委託された仕事でした(機関委任事務)。その割合は,都道府県の仕事の何と約8割,市町村では約4割を占めていました。
 地方分権一括法が制定されると,機関委任事務は廃止され,効率性などの理由によりやむを得ず地方に委託する仕事(法定受託事務)以外は,地方公共団体が主体的におこなう仕事(自治事務)となります。
・法定受託事務
 国政選挙旅券(パスポート)の交付,生活保護,戸籍,国道の管理など。
・都道府県の仕事
 警察高校・養護学校の運営,都道府県道の管理など。
・市町村の仕事
 消防・救急戸籍・住民登録(住民基本台帳)健康保険・介護保険ゴミ処理小中学校(幼稚園)公民館の設置,市町村道の管理など。

 都道府県と市町村の仕事の違いで注意する点は,警察と消防高校と小中学校(幼稚園)を区別しておくこと。戸籍・住民登録,公民館の設置は市町村独自の仕事。
 一方で共通しているところもある。地域振興(農業・中小企業・環境・経済など)・港湾管理・上下水道など。違う自治体が同じ業務を重複しておこなうことを二重行政といいます。行政費用が増大し,税金の無駄遣いの1つとされます。
 2015年,大阪で「大阪都構想」の是非を問う住民投票(法律によるもの)がおこなわれましたが,当時大阪市長であった橋下徹氏は,都構想の目的の1つがこの二重行政の解消だと主張しました。
   
4 地方議会が首長の〔 ① 〕を議決すると,首長は〔 ② 〕日以内に議会を解散するか,自ら辞職する。
①不信任  ②10
   首長と議会の関係です。不信任と解散の関係は国政の議院内閣制に似ている。議院内閣制では,内閣不信任が可決すると,10日以内に衆議院を解散させるか,内閣は総辞職する。内閣は連帯責任ですので,「総」辞職ですが,首長は1人なので「辞職」でよい。
 また内閣不信任決議は衆議院の3分の1以上の出席(定足数)で過半数の賛成があれば可決しますが,首長の不信任決議は地方議員3分の2以上の出席で,その4分の3以上の賛成となっており,ハードルは高い。
   
5 首長は地方議会の制定した条例や予算に対して10日以内に〔   〕を行使できる。
拒否権(再議権)
   首長と議会の関係はまた,アメリカの大統領制とも似ている。アメリカの大統領が議会の法案を拒否する権利があったように,首長にも議会の議決を拒否する権利がある。これは内閣総理大臣と違って,首長が住民の直接選挙によって選ばれている強みです。再議権ともいわれ,再び議会で審議し,再議決には出席議員の3分の2以上の賛成が必要です。(衆議院の法律の再審議と同じ)
   
6 成立した条例は〔  〕が公布する。
首長
   法律は天皇が公布しますが,条例は首長が公布します。条例は法律の範囲内で制定されますが,上位の法である法律に優先することはありません。あくまでも法律に違反しない限りで制定が可能です。また条例には条例違反の罰則を設けることもできます。これもただし一定の範囲内と定められています。(懲役2年以内,100万円以下の罰金など)
   
7 首長は住民の直接選挙で選出され,〔 ① 〕・〔 ② 〕は首長が指名し,議会の同意を得て選任される。
①副知事  ②副市町村長(順不同)
   首長が副知事・副市町村長を選任する場合,議会の同意が必要です。
   
8 地方公共団体の首長が,自ら提出した条例案を議会で否決されたときなど,その職を辞して再び首長選挙に立候補することを〔   〕という。 
出直し選挙 
   ただし再選した場合,再選時から4年の任期を数えるのではなく,前の任期が継続しているとします。例えば任期3年11ヶ月で出直し選挙おこなった市長が,再当選しても1ヶ月後には任期満了となり翌月再び,市長選挙が実施することになる。
   
9 地方自治の直接民主制の方法として,住民投票:〔 ① 〕,住民発案:〔 ② 〕,解職請求:〔 ③ 〕などがある。
①レファレンダム  ②イニシアチブ  ③リコール
   イニシアチブ(住民発案)とは,具体的には日本の地方自治における条例制定改廃の直接請求です。
   
10 条例の制定・改廃の請求は,有権者の50分の1以上の署名で首長に請求し,〔 ① 〕にはかり,〔 ② 〕の賛成で成立する。
①議会  ②過半数
   以下《10・11・12》は直接請求権について,請求後の手続きとなります。この部分の正誤の判断が重要になるのが発展編ならではでしょう。
 まずは条例の制定・改廃(イニシアチブ)ですが,これは簡単。首長が条例案を議会に提出して,議会で議決する。通常の条例制定の手続きです。
   
11 議会の解散請求または議員・首長の解職請求は,有権者の3分の1以上の署名で選挙管理委員会に請求し,〔 ① 〕を実施し,〔 ② 〕の賛成で解散する。
①住民投票  ②過半数
   解散・解職請求(リコール)は,住民投票にかける。
   
12 主な公務員の解職請求は,有権者の3分の1以上の署名で首長に請求し,〔 ① 〕にはかり,〔 ② 〕以上の出席,その〔 ③ 〕以上の賛成で解職。
①議会  ②3分の2  ③4分の3
   主要公務員の解職は,首長の不信任と同じと考えて下さい。一緒におぼえます。議員3分の2以上が出席した議会で,4分の3以上の賛成
   
13 特別法の制定以外にも住民の生活に重要な影響を与える問題には〔   〕がおこなわれることがあるが,法的拘束力はない。
住民投票
   条例に基づいて実施された主な住民投票(投票結果に法的拘束力はない)
 自治体  年  投票対象 結果   意義・投票後の影響
 新潟県巻町  1996 原子力発電所建設  反対多数  全国初・発電所建設は撤回
 沖縄県  1996 日米地位協定見直しと米軍基地整理縮小  賛成多数(89%) 全県レベルで初・民意は反映されず
 沖縄県名護市  1997 在日米軍普天間基地返還にともなう米軍ヘリポート基地建設  反対多数 市長は受け入れを決定して辞任
 埼玉県上尾市  2001 さいたま市との合併  反対多数 市町村合併で初・合併せず
 滋賀県米原町  2002 市町村合併の枠組み   初の定住外国人に投票権
米原市の成立
 秋田県岩城町  2002 市町村合併の相手先   初の未成年(18歳以上)に投票権
由利本庄市の成立
 長野県平谷長  2003 市町村合併  賛成多数 初の中学生(12歳以上)に投票権
現在はまだ合併されていない
 北海道奈井江町  2003 市町村合併   反対多数 一般投票とは別に子ども投票(小学5年生~)を実施・合併せず
 これらの住民投票は公職選挙法の適応外で,条例によって投票資格を定めているため,20歳未満の住民や永住外国人に投票権を与えている自治体があるというのがポイント。(当時の選挙権は20歳以上)
 2015年,大阪市で実施された「大阪都構想」の是非を問う住民投票は,大都市地域特別区設置法に基づいておこなわれたため,法的拘束力があった。結果は反対多数でしたが,仮に賛成多数であった場合,東京都の特別区と同じものが大阪市を解体して設置され,将来大阪府は大阪都となっていたかもしれません。
   
14 地方公共団体は地方税法に定める税目以外に,条例により税目を新設することができる。これを〔   〕という。  
法定外税 
    地方税の税目(種類)は,地方税法という法律で定められています。租税は法律によって定められるというのがイギリスのマグナ=カルタ以降,民主国家の原則で,これを租税法定主義といいますが,「法定外税」はこの例外にあたります。
 地方分権一括法以降,制定が容易になり全国で広がりをみせています。条例の可決後,総務大臣の同意(以前は許可制)を得て課税します。全国的に環境保全(自然保護・歴史的遺産の保護・産業廃棄物処理など)を目的とした一種の環境税が多いようです。 
   
15 地方交付税は国が集めた税金の一定割合が交付されることになっている。地方交付税に充当される直接税の国税には〔 ① 〕税と〔 ② 〕税がある。
①所得税  ②法人税 
   地方交付税交付金は,地方公共団体に交付されるお金でした。そのために集められるお金(税金)が地方交付税です。(国が徴収した段階では地方交付税,地方に交付した段階で地方交付税交付金)
 地方交付税は「地方交付税」という名で国民から徴収するのではなく,国税をそれに充てる直接税では所得税と法人税(共に約3割)です(間接税では消費税の約2割,酒税の約5割)。 
   
16 国税として徴収し,その全額または一定割合を地方公共団体の財源として譲与される租税を〔   〕という。
地方譲与税  
   地方交付税交付金は,税収による地域格差の是正にありました。いわば税の再分配です。一度所得税・法人税・消費税という形で国税を徴収して,その何割かを改めて国で配分し直して,地方に分配してあげる。
 地方譲与税は,国が徴収する税ですが,これは地方譲与税という形で徴収し,国の歳入(一般会計)にはカウントせず,その全額もしくは何割かを地方譲与税譲与金として地方に交付してやる。「譲与」とは,そのまま「譲り与える」のです。
 例えば,地方揮発油税という税があります。これは「地方」と名がついていますが,国税(間接税)で地方譲与税の1つです。国税ですので国が徴収し,その収入額の全額を道路の全長・面積に応じて都道府県・市町村に譲与します。
   
17 2001年からスタートした小泉内閣では〔 ① 〕の改革が進められ,〔 ② 〕の削減・国から地方への財源移譲・〔 ③ 〕の見直しを一括して行うようになった。
①三位一体  ②国庫支出金  ③地方交付税
   つまりは地方への補助金を減らす代わりに,税源移譲しますよという改革。3つを一括しておこなったので「三位一体」とよんでいます。小泉内閣の「小さな政府」を目指す「聖域なき構造改革」の一環として実施されました。「地方にできることは地方に」。地方分権と財政再建が目的の政策です。
 当初から政府内では,税源移譲には財務省が反対するわ,交付税の見直しに総務省が反対するわで実施は厳しかった。
 税源移譲とは具体的には,国税の所得税を減税するかわりに,住民税を増税する。その規模は約3兆円です。
 こうした中,財政基盤の強化などを念頭においた市町村合併も進み,2006(平成18年)に税源移譲が実施されると,地方税収入が4割を超えるようになり,地方交付税交付金・国庫支出金の割合が減少しています。
 しかし2009年(平成21年)以降は,前年のリーマンショックの影響から景気が後退し,再び税収が減少。また2011年(平成23年)の東日本大震災への対応・影響から国庫支出金の割合が増加傾向となっています。また2020年度(令和2年)における国庫支出金の増加は,新型コロナ感染症対応経費の増加が影響しています。

[グラフ:発展編4-1 総務省 令和6年版年地方財政白書より] 
   
18 1999年から市町村合併がすすみ,「平成の大合併」とよばれた。自治体の財政力を強化すること。〔 ① 〕の進展による生活圏の広域化。〔 ② 〕都市になることで都道府県なみの権限が移譲されることなどが主な理由である。
①モータリゼーション  ②政令指定
   地方公共団体の財政状況は,地域ごとに差はあるものの,国と同様全体としては悪化傾向にあります。多くの市町村は厳しい財政運営を強いられ,必要経費への支出ばかりが増え,新しい柔軟な行政サービスを提供するのが困難になっています。(財政の硬直化)
 安定した行政サービス,迅速で専門的な施策,健全な財政運営を図るためには財政規模を大きくして,その基盤を強化する必要があるのです。
 現在のわれわれの生活圏はモータリゼーション(車社会)にともなって交通網が整備され,従来の市町村の枠を越えて大きく広がっています。それにともなって行政サービスも広域的な対応しなればならなくなっている。ゴミ処理(廃棄物処理),消防・救急,防災対策,少子高齢化,こういった問題は近隣の自治体が個々におこなうより,広域的に取り組んだほうが効率的です。
 これらの点から市町村合併が進められると,一般財源にしめる税収入の割合が増加し,地方交付税交付金依存が減少する。国からの依存が減ると予算の自由度が高まり,地域が独自性をもって政策を打ち出すことができるようになります。また道路や公共施設の整備,都市開発も一括しておこなえるので,効率的になり予算の無駄が省けるようになります。住民にとっても利便性が高まる。合併後,議員や公務員の削減にもつながり経費削減が期待されます。
 特に人口規模を増やし,政令指定都市中核市・特例市になることで,都道府県なみあるいはそれに準ずる権限を得ることができます。

[グラフ:発展4-2 総務省 令和6版年地方財政白書より 令和4年度 中都市…政令市・中核市・特例市以外の市で人口10万人以上,小都市…政令市・中核市・特例市以外の市で人口10万人未満]
・政令指定都市
 地方自治法に基づき,政令で指定された人口50万人以上の都市。都道府県に準ずる行政上・財政上の権限をもち,行政区(~区)を設けることができる。
・中核市
 人口30万人以上などが要件。政令市の約7割の権限をもつ。
・特例市
 人口20万人以上。中核市の約2割の権限をもつ。
・一般財源
 地方税・地方交付税など議会で予算を決定することができる財源。対して国庫支出金・地方債などは使用目的があらかじめ決められており,これらは特定財源という。

 資料をみると,団体規模が大きいほど地方税の歳入総額に占める割合が高い傾向となっています。一方、地方交付税の構成比をみると,団体規模が小さいほど地方交付税の歳入総額に占める割合が高い傾向となっている。
   
19 これまで法的関係で実施が不可能な事業を特別におこなうことが可能になる地域を〔   〕という。 
構造改革特別区域(構造改革特区) 
   中国の経済特区からヒントを得たもので,やはり小泉内閣で実施されました。地域で成功を収めると,全国展開が可能。ただし政府からの財政援助はなし。全国一律の政策ではなく,地域で独自に実施する。教育・福祉・医療・農業・環境などさまざまです。 
 これに対して安倍内閣で推し進められてきた国家戦略特区というのがあります。構造改革特区の対象が地方公共団体であるのに対して,国家戦略特区は区域が対象となっています。規制緩和などの申請が自治体から国におこなわれていたものが,区域から出た提案を国が主導して方針を決めていこうとするものが国家戦略特区の特徴です。

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