公民 第5回 経済① 発展編

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消費

1 消費支出に占める食料費の割合を〔   〕という。
エンゲル係数
   まずポイントは「消費支出に占め」食料費の割合だということ。「支出に占める」ではない。したがって計算に入れるのは消費支出のみ。非消費支出や貯蓄は全支出から除外する必要があります。

 次にエンゲル係数は生活水準をはかる数値であること。食料費は人間の生活に最低限必要な費用です。この割合が高いということは,食料費以外にお金を回す余裕がないということであり,生活水準が低いことを示します。逆にエンゲル係数が低いということは,食べること以外にもお金を使う余裕があるということで,生活水準が高いということを示している。つまりエンゲル係数と生活水準は反比例するということです。
 最後に,エンゲル係数は生活習慣や生活条件の異なる国と国との比較には有効ではないということ。
〔例題〕次の家計のエンゲル係数を求めなさい。(小数点以下は四捨五入し,整数で答えること)
 支出総額  305857(円)
 食料  32905
 住居  15419
 光熱・水道  13127
 被服・履物  4656
 保健医療  8600
 交通・通信  11922
 教養娯楽  16055
 交際費  21265
 雑費  5659
 直接税  24516
 社会保険料  36521
 貯蓄  100000
 この問題で注意しなければならない点は,消費支出とそうでないものを区別することです。エンゲル係数は消費支出に占める食料費の割合ですから,非消費支出と貯蓄は含めない。よって総支出からその分を引いておく必要があります。
 表中,消費支出でないものはというと。直接税(税金)と社会保険料が非消費支出,そして貯蓄ですね。これらの額を支出総額から引く。305857-(24516+36521+100000)=144820(円),これが消費支出です。
 念のために注意しておくと,保健医療費と社会保険料は異なります。保険医療費は,例えば病院で支払うお金です。これは医療サービスに対して支払うので,消費支出です。また雑費とは,それほど重要でない,または小額の支出のことで,消費支出の中の「その他」と考えて下さい。
 ではエンゲル係数の計算です。食料費:31905÷消費支出:144820×100=22.7≒23(%)
〔答え〕23%
   
2 家計の所得には財産所得・勤労所得・個人業主所得のほか,高齢者の年金や雇用保険などの〔   〕所得がある。
移転
   移転所得とは生産活動に関係しない所得です。ただ受け取るだけ。
家計の所得=勤労所得+財産所得+移転所得
家計の支出=消費費出+非消費支出+貯蓄
収入=支出だから
家計の所得=消費支出+非消費支出+貯蓄
家計の所得-非消費支出(税+社会保険料)=消費費出+貯蓄
 つまり所得から税金と社会保険料の除いた分は,消費されるか貯蓄にまわされるかのどちらかだということ。
   
3 消費者が団結して,消費生活の防衛,改善,充実をはかろうとする運動を〔   〕という。
消費者運動
   日本の消費者運動が活発になったのは,やはり高度経済成長期のことでした。生活が次第に豊かになっていく反面,欠陥商品などによる深刻な消費者被害が相次いで発生しました。多くの被害者を出した森永ヒ素ミルク中毒事件(1955)がその象徴です。
 折りしもアメリカで1961年,ケネディが大統領になるとその翌年,「消費者の4つの権利」を宣言し,その後の消費者運動に大きな影響を与えました。
 そんな消費者運動の中で消費者主権の考え方が確立していき,消費者保護立法へとつながっていきました。
   
4 1968年,消費者の立場を保護するために,国や地方公共団体および企業の責任を明記した〔   〕が制定された。
消費者保護基本法
   この法律では消費者の役割だけでなく,国・地方公共団体・事業者の責務を明確しました。企業に商品の安全確保や計量・規格・表示の適正化を義務づけ,この法律を根拠に国民生活センター(特殊法人)を設置し,消費生活に関する苦情・問い合わせを受け付けられるようにしました。
※基本法…国の制度・政策に関する理念、基本方針が示されているとともに、その方針に沿った措置を講ずべきことを定めている法律。
 消費者保護基本法は現在,消費者基本法に改正され,国民生活センターは独立行政法人となり,消費者庁が設立されてからは,その管轄に入っています。
   
5 消費者保護のため,商品テストや商品の苦情処理などをおこなう地方公共団体の機関を〔   〕という。
消費者生活センター
   国民生活センターが国の機関なら,消費者生活センターは地方公共団体の行政機関です。国民生活センターと連携しながら,消費生活相談,情報の収集・提供,商品テスト,苦情処理などをおこなっています。(自治体によっては,「消費者センター」など名称は異なります)
   
6 クーリング=オフなどを定めた法律は〔   〕である。
特定商品取引法
   クーリング=オフは制度であり,法律でないことに注意。また業者に落ち度がなくても無条件に契約解除できることも付け加えておぼえておこう。「無条件に」ということは,「違約金なしで」ということです。
 もう1つよく出る製造物責任法の追加の注意点としては,この法律における「製造物」とは,「製造または加工された動産」となっており,サービス・未加工品・不動産(住宅など)は対象ではないということ。
   
7 不適正な販売方法や契約内容であれば,消費者が売買契約の取り消しができることを定めた法律を〔   〕という。
消費者契約法
   製造物責任法がモノの被害をあつかうのに対して,この法律はサービスや契約のトラブルから消費者を保護することを目的としています。特定商品取引法が店舗以外の販売(訪問販売・通信販売など)を対象にしているのに対し,消費者契約法は消費者契約のすべてが対象となります。自ら店舗に出向いた場合も含めて,事業者に不適切な行為があった場合,契約を取り消すことができます。

☆悪徳商法の例(いずれも法律の範囲内であれば,犯罪とはなりません)
キャッチセールス
 街頭でアンケートや無料体験、展示会のチケット配布などと言って声をかけ、喫茶店や営業所に連れ込み,契約しなければ帰してもらえないような雰囲気をつくり上げ、強引に契約させる。
悪徳訪問販売
 自宅にセールスマンが訪問し,商品の説明をおこなって高額の契約を結ばせようとする。開運商法(開運グッズの販売)や霊感商法,催眠商法(SF商法)などがある。
ネガティブ=オプション
 注文もしていないのに勝手に商品を送り付けて,返品をしないと代金を請求してくる。
アポイントメント=セールス
 「キャンペーンに選ばれた」・「賞品をあげるので至急連絡を」などと電話やはがきで勧誘して営業所に出向かせ,そこで高額な契約をさせられる。
マルチ商法
 「友人を紹介すれば,儲かる」と会員が新規会員を勧誘し,新規会員がまた別の会員を勧誘するという連鎖により,利益を得る。
電話勧誘訪販
 販売業者もしくはその代行者が消費者に電話をかけ,商品の紹介や勧誘を行うことにより高額の契約を結ばせようとする。
ワンクリック請求
 インターネット上の特定のサイトや勝手送られたメールを開くだけで,高額の請求を受ける。
   
8 できるだけ環境に配慮した製品を選ぶことで社会を変えていこうとする消費者を〔   〕という。
グリーンコンシューマー
   「消費する」を英語で「consume」。消費者だから「コンシューマー」。
   

生産

1 社会主義経済の特徴は,〔 ① 〕経済と〔 ② 〕の社会的所有にあり,資本主義の弊害の原因は〔 ② 〕の私有にあるとする。
①計画  ②生産手段
   資本主義では,生産手段をもつ資本家(ブルジョワ)と生産手段をもたない労働者(プロレタリアート=無産階級)が誕生します。
 当初資本家は,労働者から利益を搾取する存在であり,搾取により労働者が貧しくなると,必然的に労働運動がおこります。さらに資本家と労働者の対立が激しくなると労働者革命(プロレタリア革命)がおこり,資本主義が崩壊,社会主義が到来して,やがて共産主義社会へと発展する。こうマルクスは予言しました。(※これに対して,市民革命はブルジョワ革命といいます)
 社会主義は現在の社会の中で,より平等で公正な社会を目指していこうという考えです。そしてその目標が共産主義の実現です。共産主義社会は財産のすべてが共同所有されている社会です。
 またレーニンは帝国主義が資本主義の最高の発展段階であるとし,この次に訪れるのが社会主義社会であるとして(『帝国主義論』)ロシア革命を指導しました。
 社会主義と共産主義はほぼ同意義だと考えて結構ですが,社会主義を共産主義の前段階と考える主張をマルクス=レーニン主義といい,スターリンによって実践され,ソ連が体現しようとしました。
   
2 中国では外資導入の受け入れ特別地区を〔 ① 〕として国内に5ヶ所設置し,〔 ② 〕を進め,社会主義市場経済を進めてきた。ベトナムでも1986年以降,〔 ③ 〕政策をおこない,資本主義経済を導入した。
①経済特区  ②改革開放  ③ドイモイ
  ☆社会主義国家の問題点
共産党一党独裁
 共産主義をめざす国家なので,それ以外の政党を認めない。共産党の政策=国家の政策として実行される。共産党代表=国家元首。選挙もないので,民主主義・自由主義的思想は認められない。
官僚制
 国のすべての産業が,国有であるため官僚(公務員)の権力が大きくなりがち。官僚制が強化されていくと,腐敗と非効率化が進んでいく。
生産意欲の減退
 国の計画に従って生産活動をおこない,一定の賃金が保障されるので,生産意欲が落ちる
・社会の停滞
 自由競争がおこなわれないので,新技術の発明・開発が進まず,社会や生活の向上が見込めない。

 その他さまざまな弊害を自覚した社会主義国は,独自に自由主義(資本主義)の要素を取り入れようと努力します。ソ連では1980年代のゴルバチョフによるペレストロイカ(改革)やグラスノスチ(情報公開),中国では改革開放政策,ベトナムではドイモイ(刷新)政策がそれです。
   
3 採算などの関係で実施することが不可能か、不可能に近いような事業を実施することを目的として法律により直接に設立された企業を〔   〕という。
特殊法人
   例としてNHK(日本放送協会)は放送法という法律によって設立された特殊法人です。特殊法人の中でも株式会社の形態をとり,国がその株式の全部または一部を保有する企業を特殊会社といいます。 国営企業であった日本電信電話公社(現NTT)・日本専売公社(現JT)・日本国有鉄道(現JR)などは1980年代,中曽根内閣のときに民営化され,特殊会社となりました。小泉内閣で民営化された日本郵政公社もそうですね。特殊会社の国がもつ株式がすべて民間に売却されると,完全民営化といいます。
 特殊法人と同じく特別の法律で設立された会社に認可法人というのもあります。これは国ではなく民間が設立して,所管の大臣の認可を受けたものです。日本銀行日本赤十字社などがこれにあたります。
   
4 国や地方公共団体と民間の共同出資による企業を〔 ① 〕という。また公共施設について,施設の所有権を公共が有したまま,施設の運営権を民間事業者に設定することを〔 ② 〕方式という。
①第3セクター  ②コンセッション
   特殊法人や認可法人は半官半民の企業であることから公私合同企業とよばれます。また法人税や固定資産税が免除されるのも特徴です。近年は行政改革の一環で,これらの会社は独立行政法人へと移行が進んでおり,特殊法人などに比べて運営・資金の運用について自由度が高く,法人税や固定資産税が課せられるのが違いです。国からの資金交付を受けていない独立行政法人もあります。
 公私合同企業のうち,特に地域開発や交通などの分野で設立されているものを第3セクターといいます。 また公共施設(社会資本)の所有権を公共に残したまま,民間企業がこれを運営する形式(運営委託)をコンセッション方式といいます。現在,空港が多く,水道事業への展開が進められています。
   
5 株主は,株式会社の債務について,自分の出資額の範囲内でしか責任を負わない。このような責任を〔   〕という。
有限責任
   会社へ出資したものが,その出資した額についてのみ責任を負うこと有限責任といい,このような出資者を有限責任社員といいます。会社で働く「社員」とはまた別ものです。有限責任社員は,もしその会社が負債を抱えて倒産した場合でも,会社の債務について責任を負う義務はありません。逆に,だから出資しやすいのです。
 
 出資した会社が倒産した場合,出資した額だけでなく,個人の私財のすべてを投げ打ってでもその会社の債務を返済しなければならないこと無限責任といい,そのような出資者を無限責任社員といいます。出資するにはリスクが高く,出資者=経営者であったり,経営者に身近な存在(家族や親しい友人など)である場合が多く,経営規模も小さい企業が多い。
 一方,株式会社の出資者は,資本家であり経営者であるという単純な関係ではなく,一般株主は経営に参加する意思はなく,株価の値上がりや配当を期待する投資家が多い。この状況を指して,所有(株主)と経営(取締役)の分離といいます。
   
6 会社企業には〔 ① 〕会社・〔 ② 〕会社・〔 ③ 〕会社・〔 ④ 〕会社がある。
①合名  ②合資  ③合同  ④株式(①~③順不同)
   私企業は大きく個人企業と法人企業にわかれ,法人企業は組合企業と会社企業に分別することができます。組合企業は特定の事業(例えば農業)を営む組合員(農家)で構成され,事業活動(組合員の相互扶助)をおこない,事業運営の議決権は1人1票となっています。会社企業,例えば株式会社の株主が,持株数に応じて会社運営の投票権をもっていることを考えれば,会社企業は「資本」を土台として成り立つ企業といえるでしょう。それに対して組合企業は特定の事業を営む「人」が土台となっているといえます。「~協同組合」というのが企業名になっているのが多い。

 会社企業は「資本」が土台ですから,その資本の集め方(出資)によって会社を区別します。で登場した「社員」という言葉が重要になりますが,ここでは「社員=会社員・従業員」ではなく,「有限責任社員」・「無限責任社員」を意味することをおさえておきましょう。
合名会社
 無限責任社員のみが出資している会社。リスクが高いため,出資額の範囲が限られており,小さな企業に多い。
合資会社
 「合資」なので,無限責任社員と有限責任社員からなる会社。
合同会社株式会社
 有限責任社員からなる会社。

 このうち,合名・合資・合同会社は会社規模が小さく,所有者と経営者が一体である点で株式会社と異なります。また株式会社は大きな資本が必要であるため,大会社に適した形態である点で合同会社と異なります。
 最近では企業や個人がさまざまな目的やイベントのため,インターネットを通じて不特定多数の人から資金を調達するクラウドファンディングという方法が注目を集めています。「クラウド」は「cloud」ではなく,「crowd(群衆)」の意味です。
   
7 2005年に〔 ① 〕が制定され,〔 ② 〕会社は株式会社の一部となり,会社は資本金〔 ③ 〕円から設立できるとした。
①会社法  ②有限会社  ③1
   現在の会社法でおさえておくべき点は3つ。まず有限会社という会社がなくなったこと。有限会社は株式会社同様,有限責任社員からなる会社ですが,その数が50名以下という中小企業に多い会社の形態でした。これまで有限会社であった会社は,そのまま特例として残されますが,以後新設はできなくなった。そして有限会社にかわって設立できるようになったのが,合同会社であること。
 もう1つは最低資本金制度が撤廃されたこと。これまで会社設立時に必要な最低資本金は,株式会社で1000万円,有限会社で300万円でした。それが「1円」の資本金で会社を設立できるようになりました。事実上,資本金の下限がなくなったわけです。

※株価と配当
 株主が得ることができる利益には
配当金と株式の売買によるものがあります。配当金は,企業が出した利益の一部を株主に還元するというもの。業績によって配当金は変わりますが,例えば1株5円の配当金を出す企業があって,その企業の株を10000株もっているとします。すると配当金は5円×10000株=50000円の配当金を受け取ることができる。銀行に預金をして利息をもらうような感じですが,配当金の方がより利益は大きい。ただしその企業が業績不振に陥ってしまうと,配当金も下がり,最初に買った株価も下がるので元金の保障はありません。リスクが大きいということです。
 銀行預金や株式の配当金のような保有資産によって利益を得ることをインカムゲインというのに対し,株式の売買によって得られる利益をキャピタルゲインといいます。
 株式の値段も普通の商品と同じく,株式市場という市場において需要と供給の関係で成り立っているのです。配当金をたくさん出す企業は業績もよく,その企業の株を欲しいと思う人が増える。需要の増加ですね。するとその企業の株価が上がります。画期的な新技術の開発や新製品の発売も株価を押し上げる要因になりますし,社会全体の景気も影響します。株価が安いときに買って,株価が高くなって売るとその差額が利益となります。逆にさまざまな要因で株価が下がることも大いにあり得るので注意が必要です。
 このように株式は市場において売買が可能になっており,会社法では,株式会社をその株の譲渡に制限がない(自由に売買できる)公開会社と,譲渡に制限を設けている非公開会社とに区別しています。公開会社は広く多数の人に株を買ってもらいたいので,
証券取引所の厳しい審査をパスして株を売ってもらえるようにします。これを上場といい,上場企業とは一流企業の証明なのです。まだ上場していない公開会社の株も証券会社を通じて購入することが可能です。
 逆に一流公開会社でも上場していない企業があります。また株式に譲渡制限を設けることで非公開会社となり,株式の譲渡を制限している会社もあります。会社の許可なく株式の譲渡ができないようにするのです。
同族経営を守りたい企業や,大株主に言論が左右されることを警戒するマスコミ関係大企業の下請けとなっている中小企業などがそうです。

 株式保有比率については個人株主の割合が20%を下回っていること。そしてそれを越えて,外国人の保有比率が伸びていることもおさえておきましょう。

[グラフ:発展編5-1 日本取引所グループ 株式分布状況調査より]
   
8 独占禁止法によって禁止された〔 ① 〕会社は,1997年に再び解禁された。これによって企業の合併・買収:〔 ② 〕が活発になった。
①持株  ②M&A
   1997年,独占禁止法が制定されてちょうど50年目に同法律が改正されました。戦後,過渡経済力集中排除法によって財閥が解体され,独占禁止法によって財閥持株会社が禁止されましたが,改正法によってこれを解禁します。規制緩和の一環ですね。
 持株会社は株を保有することで子会社を支配すること自体が目的の会社であり,企業の合併・買収:M&A(Merger & Aquisition)を進めることで国内外での競争力の強化,事業規模の拡大を図ろうとしたのです。「~ホールディング」とよばれる会社がこれにあたります。
   
9 企業の〔 ① 〕とは,組織活動が社会に与える影響に責任をもち,利害関係者には説明責任をもち,持続可能な社会の実現のため環境・労働問題などにも自主的に取り組むことをいう。法令遵守:〔 ② 〕もその1つである。今日の投資家は〔 ① 〕だけでなく,環境に取り組む姿勢も重要視しており,このような観点からの投資を〔 ③ 〕とよんでいる。
①社会的責任  ②コンプライアンス ③ESG
   企業は大規模になればなるほど,株主の所有物から社会の所有物という性格を強めます。そのため法令遵守(コンプライアンス)はもちろんのこと,さまざまな利害関係者に対して責任ある行動をとるべきだという考えを「企業の社会的責任(CSR)」といいます。(Corporate Social Responsibility)ただしこれには法的な義務はありません
 逆にCSRの視点から企業を評価して投資しようとする人をグリーン=インベスターといいます(インベスター=投資家)。このような投資家が企業を評価する3つの指標は「ESG」とよばれ,環境・社会(社会的責任)・ガバナンス(内部管理)の英語の頭文字をとったものです。社会的責任とともに環境への配慮が企業には必要で,今後の企業は利益が最優先ではないということです。
   
10 企業がおこなう様々な文化支援活動を〔   〕という。 
メセナ 
   「メセナ」とはフランス語で「文化活動を擁護」といいますが,もとはといえば人名です。1世紀,古代ローマのマエケナス(Maecenas)という人物です。初代皇帝アウグスツスの片腕で,軍事担当のアグリッパとともに政治面でアウグスツスを支えました。
 このマエケナス,当時の文学・芸術の保護者でもあったことから,現在でもこのような活動を彼の名をとって「メセナ」(活動)とよんでいます。これも企業の社会的責任の1つ。企業や創業者の名前をとった美術館・博物館なんかが多い。 
   
11 製造業で資本金〔 ① 〕億円以下か従業員〔 ② 〕人以下の企業を中小企業という。小売業では資本金〔 ③ 〕万円以下,従業員〔 ④ 〕人以下である。 
①3  ②300  ③5000  ④50 
   中小企業の中でも特に企業規模の小さいものを小規模企業者(零細企業)といい,日本では従業員5人以下という規模の企業が多く存在します。大企業に比べて中小企業の賃金は一般的に低く,大企業との賃金水準の開きを賃金格差といいます。
  また中小企業が,特定の大企業に従属的に結び付けられていることを系列化といい,近代的な工業と前近代的な第一次産業の併存,および大企業と中小企業が併存しており,そこに大きな賃金格差が生れる。このような経済状況を二重構造といいます。 
   
12 中小企業の努力目標と,政策の目標を示している法律が〔   〕であり,1963年に制定された。
中小企業基本法 
   1963年制定の中小企業基本法では,二重構造による「企業間の格差是正」という政策目標がありましたが,現在(1999年)はこれが削除され,中小企業の「自助努力を国が支援する」という競争政策的な法律に改正されました。 
☆高度経済成長期に制定された主な基本法と現在
・農業基本法(1961)→新農業基本法(1999)
・中小企業基本法(1963)→改正
・公害対策基本法(1967)→環境基本法(1993)
・消費者保護基本法(1968)→消費者基本法(2004)
   
13 大規模な株式会社の,迅速かつ円滑な再建を可能とする倒産処理手続きを定めた法律を〔   〕といい,申請と同時に,経営陣は総退陣する。 
会社更生法 
   倒産手続きの法律です。次の民事再生法【比較】しておさえたい。この法律の対象となるのは株式会社だけです。 
   
14 中小企業について,再建を見込んでの倒産処理手続きを定めた法律を〔   〕といい,手続き申し立て後も経営者は残留できる。 
民事再生法 
   主として中小企業を対象とした倒産の手続きに関する法律です。(すべての法人・個人でも可) 
   
15 自社の業務の一部を外部に頼んでやってもらうことを〔   〕という。
アウトソーシング 
   従来は会社の内部でやっていた業務の一部を外部に委託すること。その業務にのみ特化した企業があってそこに委託する。例えば,財務管理・知的財産管理・コールセンターなど。情報産業ではITアウトソーシングといい,ソフトウェア・ハードウェア・ネットワーク技術の開発などを手がけます。インドがこの手の世界最大のアウトソーシング受入国であることは地理で学びました。 
   
16 新しい生産技術の導入や新しい経営方式を導入することを〔   〕という。
イノベーション 
   日本語では「技術革新」と訳されます。 
   
17 対象間における放送・通信の情報量に差があることや情報技術(IT) を使いこなせる者と使いこなせない者の間に格差が生じていることを〔   〕という。 
デジタルディバイド 
   「ディバイド」は「分ける・分割する」の意味。特に情報技術を使えていない,あるいは取り入れられる情報量が少ない人々の事を情報弱者ともいいます。
   
18 企業や自治体などが自社(地方)の製品の紹介や消費者の反応を見ることを目的として開設する店舗を〔   〕という。
アンテナショップ 
   

財政

1 国家財政には,〔 ① 〕・〔 ② 〕があり,〔 ② 〕には中小企業の振興や公共性の強い事業に投資・融資する〔 ③ 〕などがある。
①一般会計  ②特別会計  ③財政投融資
  ☆財政の原則
・量出制入
 「出ずるを量って入るを制す」の意味で,家計とは逆に,最初に必要な支出を計算してから収入を確保するという原則。
・事前決議主義【第86条】
 予算は原則として年度の開始前に成立させる
・租税法定主義【第84条】
 税金はすべて法律で定める。

 財政には一般会計特別会計が存在し,特殊な事業や資金運用は一般会計と分離して特別会計予算として別に予算が設けられています。
 本当は単一の会計ですべての歳入と歳出を管理すればよいのですが,そうすると特別・特定の会計については負担と受益がはっきりしない場合がある。
 例えば,高速道路や空港などの社会資本を整備したいとする。でも自動車に乗らない人や飛行機を利用しない人にとっては,自分が支払った税金(負担)なのに自分の利益(受益)になっていないと感じるでしょう。
 そこで自動車や飛行機に乗る人にだけ特別な税金をかけて,これは一般会計には入れず,特別会計で管理する。自動車関連(ガソリンなども含む)で徴収したお金や空港・飛行機に関連して得たお金は,その整備のために使う。こうすることで受益と負担の関係を明確にするのです。年金の保険料と給付なんかも一般会計ではなく,特別会計で扱います。東日本大震災復興の会計もそうです。

 また租税負担によらずに財投債(国債の一種)の発行などにより調達した資金で,長期・低利の投資や融資をおこなうものを財政投融資といい,民間金融機関から十分な資金供給を受けられない中小企業などに資金を供給したり,住宅・道路など生活環境整備など公共性の強い事業に支出します。かつて財政投融資は郵便貯金・簡易保険・年金積立金などを原資として投融資をおこなっており,その額の大きさから「第二の予算」とまでいわれました。
※投資と融資
 投資とは,将来的に資本を増加させることを目的に,現在の資本を投じること。英語では「invesrment(インベストメント)」といいます。融資はお金を貸して利息を取ることを目的とします。英語では「loan(ローン)」です。


 各特別会計を合計した総額(歳出)は,一般会計をはるかに上回ることもおさえておきましょう。(総額約436億円[発展編5-2 日本国勢図会2024/25より 2024年度)

 さてここで,一般会計歳出における省別内訳をグラフでみておきましょう。次のようになります。

[グラフ:発展編5-3 日本国勢図会2024/25 2024年度]
さぁ,このグラフ,どうしてこのような内訳になるか理解できますか?では主要経費別の内訳《基礎編》と比較すると,その理由がよくわかります。

 歳出の三大経費は,順に社会保障関係費・国債費・地方交付税交付金でしたね。この経費をそのまま管轄する省にあてはめてみましょう。そう,厚生労働省・財務省・総務省になりますね。
 さらにそのあと国土交通省・文部科学省・防衛省と続きますが,このあたりは経費別にみて重なりはしませんが,よく似ています。
   
2 新年度がはじまるまでに予算が国会で決議されない場合は,〔 ① 〕予算でスタートすることがある。また社会情勢の変化によって〔 ② 〕予算を組むこともある。
また決算は〔 ③ 〕が作成し,〔 ④ 〕の審査を受けて,〔 ⑤ 〕の承認を受ける。
①暫定  ②補正  ③内閣  ④会計検査院  ⑤国会
  予算編成の流れ
 6月  経済財政諮問(しもん)会議(内閣府)が基本方針を発表
 8月  財務省から各省庁に概算要求基準の提示→各省庁が事業計画を提出
 9月  予算の査定
 12月  原案をまとめる
 1月  通常国会
 3月  月末までに決議されない場合は,「暫定予算」で新年度をスタート
 4月以降  社会情勢の変化をみて,「補正予算」を組む

 予算の審議は衆議院からはじまることになっています。もし衆議院の議決後,参議院が30日経っても議決をしない場合は,衆議院の議決が国会の議決となりますので,およそ2月の末までに衆議院を通過すれば,年度内に予算成立が確定します。
   
3 国税と地方税をあわせた税の直間比率(直接税と間接税の比)は〔   〕である。
7:3
   直接税と間接税の比率を直間比率といいます。下のグラフは世界の主な先進国の直間比率です。

[グラフ:発展編5-4 財務省ホームページより 2021年(日本は2021年度)]
 日本はだいたい2:1,国税だけでみると6:4になっており,直接税の比率が大きいのが特徴。個人の所得税を中心としたアメリカも同様,直接税の比率が高い。
 アメリカには消費税はありません。あるのは各州や郡ごとに小売価格に課税する売上税があるだけです。
※消費税は製造業者から卸売・小売・消費者ごとに課税されます。多段階で課税されるので,付加価値税ともいわれます。

 一方,ヨーロッパ主要国では5:5(1:1)か,それに近いぐらいに間接税の割合が日米に比べて高くなっている。各国の付加価値税(消費税)率をみてみると,イギリス・フランスでは20%,ドイツはで19%です。福祉国家として名高いスウェーデンにいたっては25%もある。(EU域内では最低でも15%と決まっている)
 日本でも現在の直間比率が議論になることがありますが,この議論は要するに間接税の割合を上げることを意味し,つまりは消費税の増税の議論だと考えて下さい。
 国税の直接税の中心は所得税と法人税です。これらは収入(所得)に課せられる税ですから,景気の影響を受けやすい。不景気になると税収入がズドンと落ち込んでしまうんです。
※消費税が景気の影響に「左右されない」といっているのではなく,「左右されにくい」と,あくまで比較です。
 でも不景気になっても国民の消費はすぐには落ち込まない。衣食住に関わる必要な消費は大きく変わらないからです。つまり間接税の比率が高いほど国の税収入が安定するんです。

[グラフ:発展編5-5 財務省ホームページより]
   
4 所得税累進課税の最高税率は〔   〕%である。
45
   所得税は直接税ですが,サラリーマンは源泉徴収という納税方式で,会社があらかじめ税金を差し引いて(天引き)お給料を渡し,会社が所得税を納入します。自営業者などは申告納税で,自ら申告して納税します。
 納税するとき,収入から必要経費を差し引いた分を「所得」といい,「所得税」とはこの所得に課税される税をいいます。自営業などの個人企業では,この必要経費が大きく認められます。例えば自宅でパソコンを買って,インターネット回線を引いて仕事をするとします。家賃・パソコン代・インターネット回線料がかかります。サラリーマンではこれらは必要経費とは認められませんが,個人企業主は,仕事に必要な経費であると認められることがあります。
 この必要経費を差し引いた額が課税対象額ですから,所得を低く見積もることが可能になります。そこでサラリーマンに比べて個人業主の方が税負担において優遇されているという批判もでてくるわけです。
 所得税は累進課税制度が用いられ,最高税率は現在45%です。一方,法人税は一律23.9%,工場・支社ではなく,本社の所在地で納税します。

 ではここで所得税の計算方法をみておきます。この計算は何度か出題された問題です。
まず累進課税の税率は現在5%から45%の7段階で設定されており,次の表のようになっています。(問題では次の表は与えられています)
 課税所得金額  税率
 195万円以下  5%
 195万円を超え 330万円以下  10%
 330万円を超え 695万円以下  20%
 695万円を超え 900万円以下  23%
 900万円を超え 1800万円以下  33%
 1800万円を超え 4000万円以下  40%
 4000万円超  45%

 上の表を用いて,課税所得金額が500万円の場合の所得税を計算します。楽勝と思ったあなた,実はこれ,少し複雑なんです。500万円は「330万円を超え 695万円以下」ですから,税率20%となっている。だから500万×0.2=100万(円)とはならないんです。
 課税は,表のそれぞれの段階でおこなわれるのがポイント。195万円以下の所得には5%,195万円を超える分には10%,330万円を超える分には20%の税率を課しますよ。というのが累進課税。
 まず500万円を表に従って,3つに分割します。3つというのは①「195万円(以下)」,②「195万円を超え 330万円以下」,③「330万円を超え 695万円以下」の3つです。①=195万円,②=330-195=135万円,③=500-330=170万円。これで①+②+③=500万円となります。
 次に①~③のそれぞれの段階の税金を計算します。(税率をかける)
① 195万×0.05=97500円
② 135万×0.1=135000円
③ 170万×0.2=340000円
 最後に①~③の税額をすべて足すと,所得税が求まります。
97500+135000+340000=572500
 よって課税所得金額500万円の場合,所得税は572500円。

〔例題〕上の表に従って,課税所得金額700万円の所得税額を求めなさい。

 
今度は700万円なので,上の表に従うと4つの段階にわけることができます。
①195万
②330万-195万=135万
③695万-330万=365万
④700万-695万=5万
 次に税率をかけます
① 195万×0.05=97500円
② 135万×0.1=135000円
③ 365万×0.2=730000円
④ 5万×0.23=11500円
 最後に①~④の計算結果を合計します。
97500+135000+730000+11500=974000


〔答え〕974000円
   
5 消費税の10%の内訳は,国が〔 ① 〕%,地方が〔 ② 〕%となっている。
①7.8  ②2.2
   消費税率10%,実は国税としての消費税7.8%で,残りの2.2%地方消費税とよばれ,地方の収入となっていることに注意。以前税率5%のときは,きりよく4%と1%で,問われることもあったのですが,8%になって細かくなりすぎた。そのためなかなかおぼえにくいかもしれません。おぼえられる人だけでよいでしょう。
 だからできるだけ地元でお買い物する方がいいんだ。例えば奈良県の人が都会の大阪のデパートでお買い物したとする。支払った消費税のうち,2.2%は大阪府の収入になるわけです。よその都道府県の人のためにわざわざ税金を支払っていることになるんですよ。
   
6 消費税は高所得者より低所得者の負担率が大きくなる。これを〔   〕という。
逆進性
   なるほど消費税は安定財源としての期待値は高い。けれど実質的な税の負担が高所得者よりも低所得者の方が大きくなるという短所がありました。この特徴を逆進性といいます。
 そこで低所得者の税負担を少しでも軽くするために,生活必需品に限って税率を軽くする(または非課税)という方法がヨーロッパでは導入されています。標準税率より低く抑えた税率を軽減税率といいます。日本でも2019年の消費税率の引き上げにともなって導入され,対象品目は8%に据え置かれました。対象となるのは,「酒類・外食を除く食料品」。イートインがある店舗では,テイクアウトするか店内で食べるかで税率が異なります。イートインは外食となり,軽減税率は適用されないからです。もう一つ注意したいのは,定期購読の契約をした新聞(週2回以上発行)です。新聞から得る情報も食料と同じ生活必需品(思索のための食料や栄養元)というのが,その理由ですが,この説明だけでは十分に納得できませんよね。
   
7 〔   〕税は物納が可能である。
相続税
   期限内に金納することが原則ですが,物納も可能です。物納とは,例えば土地・家屋・国債・株などで納めることが可能だということです。
   
8 所得税・酒税・法人税・消費税・たばこ税が原資となっているのは〔   〕であり,使途が限定されない地方公共団体の一般財源である。
地方交付税交付金
 
9 国債には公共事業にあてる〔 ① 〕や経常的な支出にあてる〔 ② 〕があるが,〔 ② 〕は原則的に禁止されている。
①建設国債  ②赤字国債
  国債の発行
 まず「国の歳出は,公債または借入金以外の歳入ををもって,その財源としなければならない」と財政法第4条にはあります。あたりまえのことです。しかし財政法第4条は次のように続きます。「ただし,公共事業,出資金及び貸付金の財源については,国会の議決を経た金額の範囲内で,公債を発行しまたは借入金をなすことができる。」
 つまりこういうことです。原則として国債の発行は禁じるが,例外として公共事業のための国債発行は認める。この公共事業にあてるための国債を建設国債といいます。上下水道,道路,橋などの社会資本(インフラ)をつくることは,資産として将来の国民の利用も可能であり,次世代の負担が正当化されるというわけです。
 一方,一般会計予算の経常費不足を穴埋めするために発行される国債を赤字国債(特例国債)といいます。財政法はこれを禁止しているはずですが,これまで学んだ通り,一般会計の約24%が公債金(国債による借入金)でしたね。現在そのほとんどが赤字国債です。ではなぜ赤字国債が可能かというと,反則技を使っているからです。財政特例法を毎年成立させて発行しているのです。法律の上に法律をかぶせるというやり方。
 赤字国債は,1965年,東京オリンピック後の「40年不況」の際に発行されたのが最初です。その後は第一次石油危機後の1975年に再開され,バブルがはじまる1989年まで続けられました。バブル期には発行額は0になりましたが,バブル崩壊後の1994年から現在に続いています。
 一般歳入に占める国債(公債)発行額を国債依存度といいますが,その推移は下のようになります。バブル期でも依存度が0になっていないのは,建設国債の発行はあったからです。

[グラフ:発展編5-6 財務省 債務管理リポート2024より]

☆国債依存度の推移をみると,1990年代以降,バブル経済崩壊(1991),リーマンショック(2008),東日本大震災(2011)などによる税収減と景気対策のため国債依存度は50%を越えました。その後,景気回復に伴う税収増,歳出総額の抑制などから国債依存度は低下。近年は30%代を維持していましたが,新型コロナウィルス感染の拡大により,2020年度は3度にわたる補正予算を組み,国債を増発したことから,国債依存度は64%にまで跳ね上がりました。

国債発行の問題点
・将来世代の負担
 国債は借金である以上,返済の義務があります。特に赤字国債の増発は将来の世代の返済負担を重くする

[グラフ:発展編5-7 財務省 債務管理りポート2024より]

・財政の硬直化
 歳入における公債金(国債)が増加すると,歳出においても国債返還費(元本+利払い)の割合が大きくなり,自由に組める財源が少なくなる。これを財政の硬直化といいます。
 財政再建が急がれる中,政府が重視する指標の1つに「プライマリーバランス(基礎的財政収支)」というのがあります。歳入と歳出から公債金(借入金)と国債費(返済金)を除いた収入と支出のことで,これが均衡しておれば財政収支は均衡しており,収入が多ければ黒字,支出が多ければ赤字というわけです。現状,日本はこのプライマリーバランスにおいて,大幅な赤字となっています。
 すでに借金した国債を無視するわけではありませんが,まずはプライマリーバランスを黒字にするところから財政再建をはじめないと,膨張する国債残高に歯止めをかけることはできません。現在歳出の中でもっとも伸び率の高い項目が社会保障費であり,社会保障の安定化と充実,そのための安定財源の確保と財政再建,これが政府の最重要課題であり,これらの目標を同時に達成するための行財政改革を「社会保障と税の一体改革」といいます。

・市中消化の原則
 国が発行した国債は,まずは銀行や生命保険会社などが買うことになっています。買うときの元手は銀行預金や保険料,つまり私たち国民の貯蓄です。そして一般国民が国債を買いたいと思ったら,銀行などから買うことになります。
※日本の国債のほとんどは日本人(日本の銀行など)が買い支えているのであり,例えばアメリカなどの外国が保有しているのではありません。したがって日本の借金は日本の国内の資産で補っているため,財政破綻しないという考え方もできます。


[グラフ:発展編5-8 日本銀行 資金循環統計より 2023年12月]

 このように国債は国民に引き受けてもらうことが財政法5条で規定されており,日本銀行が直接政府から国債を引き受けることを禁止しています。これを「市中消化の原則」といいます。日本銀行が国債を売り買いする「公開市場操作」は一旦,市中に出回った国債を売り買いしているのであって,政府と直接取引をしているのではありません。
 いったん中央銀行が国債の引き受けによって政府への資金供給を始めると,その国の財政節度を失わせることになります。中央銀行は通貨発行権をもつ銀行(発券銀行)であり,このとき市場に供給しようとする資金は,根拠のない資金です。増やそうと思えば,いくらでも増やせてしまう。通貨の濫発は悪政のインフレーション(一次大戦後のドイツや戦後の日本)を引き起こすおそれがあり,そうなると国民生活が困窮するだけでなく,その国の通貨や経済運営に対する国内外からの信用も失われてしまいます。

・景気の悪化
 例えば1年後に国が2%の利子をつけて返す100万円の国債があったとします。100万円の2%は2万円ですから,この国債は「1年後に国から102万円もらえる国債」ということができます。
 そこへ国債が追加発行されたとします。すると国債の供給量が増えるわけですから,国債の市場価値が下がります。「1年後に国から102万円をもらえる国債」の価値が下がるのです。ここで注意しなければならないのは,この国債は「1年後」(償還期限)・「102万円を国が返済」(額面金額)というのはかわらないことです。下がったのはこの債権の市場価格(市場での取引の価格)だということ。
 例えば90万円に下がったとします。価格が下がったので取引量が増えます。みんな買いたがる。90万円で買った国債が1年後には102万円になって還ってくるのだから,12万円も儲けることができるのです。さてこのときの利子はいくらになっているでしょう?12万÷90万×100≒13%。最初の定価のときより上がったことになります。
 つまりこういうことができます。国債の発行数を増やすと国債の価値は下がるが,国の利子負担が増える。
 日本で発行される国債の多くが「10年物の長期国債」です。実はこの「10年物の長期国債」の利子は,銀行の金利に連動しているのです。まず国債の利子が上がるとわれわれの銀行預金の金利が上がります。これに合わせて銀行は企業への融資金利や住宅ローン金利など貸し出し金利を上げるというわけです。
 つまり国債の価値が下がると金利が上がる。逆に国債の価値が上がると金利は下がる。これが国債と金利の関係なんです。こうして銀行の貸し出し金利が上がると,お金の流れが悪くなりますので,景気が悪化する

・安易な増税
 国債返済のために税収入を増やそうとすると,安易な増税につながります。特に取りやすいところから取ろうと消費税率のアップがおこなわれ,低所得者の負担増(逆進性)になります。
   
10 累進課税制度や社会保障制度を組み入れておくことによって,財政は自動的に景気を安定させる働きをもつことを〔   〕という
自動安定装置(ビルト=イン=スタビライザー)
  ・好景気
 個人所得の増加→累進課税で税収増→失業者・生活保護費などの減少→国の社会保障費の減少(通貨供給量の減少)→景気の抑制
・不景気
 個人所得の減少→累進課税で税収減→失業者・生活保護費などの増加→国の社会保障費の増加(通貨供給量の増加)→景気を刺激
   
11 道路,鉄道,空港,港湾,電気,農業基盤など社会的生産活動を支える基礎的な社会資本を〔  〕という。
インフラ(インフラストラクチャー)
 
12 〔   〕とは,所得の分配の不平等を表す指数である。
ジニ係数
   数値が高いほど所得の再分配が進んでおらず,格差(貧富の差)が大きいことを示しています。例えばスウェーデンは税と社会保障による所得の再分配が進んでいる高福祉国なので,日本よりもジニ係数が小さい。
   
14 東日本大震災からの復興のために〔   〕税が法人税,所得税,住民税に上乗せされた。
復興特別
  ※現在,復興特別法人税はすでに廃止されました。

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