公民 第7回 経済③ 発展編

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労働

1 イギリスで労働組合法が制定されたのは,〔   〕年のことである。
1871
   歴史で学んだように産業革命が最初におこったイギリスで,資本主義が発達し,そして最初に労働問題がおこり,労働運動が展開されてきました。(18世紀:産業革命→19世紀:資本主義・労働運動)
 イギリスの主な労働運動は次の通り
1833 工場法制定…世界初一般工場労働者の保護(日本では1911年制定→1947,労働基準法)。
1838 チャーチスト運動…労働者が普通選挙権獲得を要求。
1871 労働組合法成立…労働三権の確立(日本では1946年,日本国憲法で保障)
1906 労働党成立
1924 マクドナルド労働党内閣成立→戦後,保守党との二大政党制へ 
   
2 労働組合法には使用者の〔   〕の禁止が規定されている。
不当労働行為
   労働組合法は,労働者の労働三権を具体的に保障している法律でした。逆にいえば労働三権を認めないような使用者の行為を禁止しているわけで,このような使用者の行為を不当労働行為とよんでいます。(使用者が労働者の正当な組合活動を妨害する行為)
☆労働組合法
 労働者の労働三権を保障=使用者の不当労働行為の禁止


 具体的には,労働者が自主的に労働組合を結成し(団結権),使用者と対等な立場で団体交渉をおこなって労働協約を結び(団体交渉権),ストライキなどの争議行為をおこなうこと(団体行動権)を認めているんだ。
※労働協約とは,労働条件に関する労使双方による取り決めで,労使双方を拘束するものです。労働条件に関する法的拘束力の強さは,まず日本国憲法,次に労働基準法,そして労働協約(使用者と労働組合で決定),就業規則(使用者が決定),労働契約(使用者と労働者個人で決定)となります。日本国憲法>労働基準法>労働協約>就業規則>労働契約
   
3 労働基準法の改正によって,現在は〔 ① 〕の深夜業禁止の規定は廃止され,〔 ② 〕未満の深夜業禁止規定だけが残っている。また労働者の解雇は〔 ③ 〕前に予告する義務や〔 ④ 〕歳未満の労働の禁止,有給休暇,性別による賃金差別の禁止などが定められている。
①女性  ②18  ③30  ④15
  労働基準法の注意点
1週40時間,1日8時間以内(35条)
 休憩時間は除く

 次条の36条で,労使間協定によって時間外労働を認める。通称:36(サブロク)協定。
・労働者の解雇
 30日前に予告
有給休暇
 6ヶ月間継続勤務(全労働時間の8割以上出勤)した労働者に対して,10日間の有給休暇。以後勤続年数に応じて加算。
男女同一賃金
 女性の賃金差別禁止
・最低年齢
 15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで使用してはいけない。
・賃金支払いの5原則
 通貨払い(現物支給の禁止),全額払い,直接払い,毎月1回以上払い,一定期日払い。

その他
・法律に規定のないもの
 週休二日制セクハラ防止規定(→男女雇用機会均等法)女子の深夜業禁止(改正後,撤廃)最低賃金の基準(→最低賃金法)
・外国人労働者
 労働基準法だけでなく,すべての労働法規が適用される

 労働条件に関して法的拘束力をもつ国際条約にILO条約がありますが,日本は全条約中の4分の1しか批准しておらず,加盟国特に先進国中では非常に少ないことも頭にいれておきましょう。特に,労働時間関連,雇用形態についての条約批准に消極的な傾向があります。
   
4 労働基準法の監督機関として,厚生労働省に〔 ① 〕,都道府県など地方に〔 ② 〕が設置されている。
①労働基準局  ②労働基準監督署
 
5 労働関係調整法は,〔 ① 〕のあっせん・調停・仲裁について定められている。これらの監視・実行は〔 ② 〕が行う。
①労働争議  ②労働委員会
   憲法で団体行動権が認められている以上,労使間対立・紛争がおこることは避けては通れないはずです。そんなときの調整・解決法を示した法律も当然,前もって用意しておかなければならない。というわけで制定されたのが労働関係調整法です。
 平和的解決がまず第一ですが,労使間で自主的な解決ができなかった場合,第三者機関である労働委員会が登場し,労使紛争に関して,労使双方の主張の要点を確かめて自主的な紛争解決を促す斡旋(あっせん),解決案を作成してその受諾を勧告する調停,書面による裁定を下して紛争を終結させる仲裁をおなこう。斡旋・調停・仲裁の順に手法がきつくなります。斡旋・調停では,まだ穏やかですが,仲裁になると労使双方を法的に拘束する力があるんです。
 鉄道やバスなどの公益事業に従事する労働者が労働争議をおなこうときには,10日前までに予告することを定めている。だって知ってても困るけど,知らんかったらもっと困るもんね。
   
6 労働者が団結して作業を放棄し,使用者に経済的打撃を与えて要求の貫徹をはかる労働争議を〔 ① 〕という。また意識的に作業能率を低下させることは〔 ② 〕という。
①ストライキ  ②サボタージュ
   労働者がおこなう争議の代表例に,「ストライキ」があります。労働者が労働組合の統制のもとで,集団で就業を拒否するやり方。これは昔,待遇に不満をもった水夫が船の帆を降ろした(strike sail)のが語源。
 就業拒否とまではいかなくても,作業効率を低下させたり,遅延させることを「サボタージュ」といいます。「さぼる」っていうでしょ。あれは「サボる」で,フランス語の「怠ける=サボタージュ」が語源の外来語。ちなみに「サボ」とはフランスやオランダの農民が履いていた木靴のこと。産業革命後,工場労働者も愛用していたんだけれども,不満をもった労働者が機械を木靴で蹴ったり,機械の中に放り込んだりして破壊活動をおこなったことからこの語が生れた。
 「ボイコット」というのもある。不買運動のことで,これはボイコットされたイギリス人貴族の名前:「ボイコット」が由来です。
 いずれも使用者に経済的打撃(損害)を与えて,労働者の要求を認めさせるための行為です。
   
7 労働基準法を補完する,賃金に関する法律を〔   〕という。
最低賃金法
   賃金の最低額は地域(都道府県)・職種によって異なることに注意。「最低賃金は全国一律」と書いてある文は誤文。
   
8 企業が女性を積極的に採用・昇進をおこなうことを〔   〕という。
ポジティブアクション(アファーマティブアクション)
 まず男女雇用機会均等法について。1997年に改正され,募集・採用・昇進・配置などで女性を差別しない規定が,努力規定(1985年,制定時)から禁止規定となりました。これによって企業が女性を積極的に採用しようとするポジティブアクション(アファーマティブアクション)が導入されていきます。クオータ制という,具体的に数や割合を決めて割り当てる方法もあります。「クオータ」とは「割り当て・分担」という意味です。
またセクハラ防止については,事業主の配慮義務が明記されたことも重要。
 さらに2007年の改正では,性差別について,「女性差別」から「男女双方の差別」に拡大されたことが重要。当然,男性に対するセクハラも禁止事項として明記されただけでなく,事業主の防止義務に強化されています。さらに現在は,妊娠・出産などに関するハラスメント(マタハラ=マタニティ・ハラスメント)についても明記されるようになりました。
 これまで女性労働者と男性との格差が大きかった理由に,結婚や出産・子育てにより退職する人が少なくないためでした。技能や職務が中断されやすい。応用編でみたグラフがM字型になっているのは,出産・育児と仕事の両立が難しいことを示しています
 そこで1992年,育児休業法が制定され,さらに介護休業制度を追加して,育児介護休業法となりました。労働者が育児や介護のために退職することのないようにするための制度です。
育児介護休業法
1歳未満の子どもの養育のため,1年間休業を申し出ることができる。
・要介護状態にある家族の介護のため,休業を申し出ることができる。
・休業を申し出た場合,事業に損失が出る場合,事業主は賠償を求めることができない
パート社員・派遣社員も同様
 大切なポイントは,休業を申し出ることができるのは男女ともであること。(女性だけではない)休暇を申し出ても解雇・降格されることはないという点です。

 現在,女性労働者は,労働力人口の約48%を占めるようになりましたが,その一方で女性正社員の割合は低く,多くはパートタイマーや派遣労働者となっています。また女性の管理職(部長・課長・係長)の割合は,10%を少し上回る程度で,先進国中では最低水準の低さであるのが現状です。
 
9 企業ごとの労働組合や官公労働者の労働組合が集まってつくる日本最大の全国組織を〔   〕(日本労働組合総連合会)という
連合
   日本の労働組合の特徴は,企業別であること。欧米諸国では産業別労働組合・職業別労働組合が一般的
 しかし労働組合は何といっても結成根拠が団結権であるだけに,労働組合員の加入人数が発言権・交渉権を拡大につながります。そこで高度経済成長期には,労働組合の全国組織が次々と結成されていきました。
 高度経済成長後,石油危機やバブル崩壊などで景気が停滞すると,今度は労働条件よりも雇用そのものが当面の課題となり,労働運動自体が低迷していきます。そんな中でも組合人数を確保しようと,1987年,いくつかの全国組織が結集したのが日本労働組合総連合会(連合)でした。現在,日本最大の労働組合の全国組織ですが,労働組合の組織率(組合に加入している人の割合)自体が戦後下降傾向にあり,現在の組織率は20%未満です。

[グラフ:発展編7-1 日本国勢図会2024/25より]
 大企業の組織率は以前高いのですが,日本は中小企業が中心の国,中小企業における正社員の数が減少し,非正規社員の数が増加したことが原因の1つに挙げられます。

 一方,所属する企業や雇用形態に関係なく,産業・業種・職業・地域別に組織され,個人で加入する労働組合を合同労働組合(ユニオン)といいます。現在増加している非正規労働者の受け皿として活動が活発になっています。特にブラック企業・バイトが社会問題となっており,ブラックバイト・ユニオン,首都圏サラリーマンユニオン,首都圏高校生ユニオンなどが注目を浴びています。
   
10 正規労働者とは異なり,期間を定めて雇用契約を結び,常勤で働く社員を〔   〕という。
契約社員
   労働者には企業の雇用形態によって,まず正規労働者(正社員)非正規労働者に区別されます。非正規労働者にも様々な形態がありますが,これを理解するためには,正規労働者とはどんなものかを知っておく必要があります。
 正規社員は,終身雇用・年功序列賃金制が絶対ではなくなっていますが,一応基本です。企業が経営危機に陥ってリストラされる可能性がありますが,原則,その会社に定年まで勤めることができます。年功序列賃金制も近年は成果主義へと移行していますが,毎月一定のお給料は安定してもらえます。それだけでなくボーナスや退職金もあります。ただし企業の就業規則で決められた時間をフルタイム働かなければなりません
 日本は企業別労働組合が特徴なので,勤めている会社の労働組合に参加することができます。また福利厚生も充実しており,会社の社会保険(医療・労災・厚生年金・雇用)に加入することができます。

 非正規労働者の形態には,パートタイム労働者,契約労働者(契約社員),派遣労働者(派遣社員)があります。
・パートタイム労働者
 正規労働者がフルタイム働くのに対し,その一部の時間帯(短い時間)を働く労働者です。「パート」・「アルバイト(ドイツ語で「働く」の意味)」とよんだりしますが,契約社員や派遣社員であっても,会社の労働時間よりも短い労働者はパートタイム労働者といいます。「パート」といえども正社員に近い労働時間を働けば,会社が社会保険に入れてくれます(少ないとダメ)
・契約労働者(契約社員)
 一定の期間,その企業で働く契約を結んだ労働者です。期限付きの契約を結んでいるので,途中で解雇されたり,自ら辞職することができませんが,期限が切れると次の雇用は保障されません。退職金がないことが多く,ボーナスも正社員に比べて低い。
 フルタイム働くことを求められますので,会社が社会保険に加入させてくれます
・派遣労働者(派遣社員)
 契約社員は,労働者が直接,企業と契約を結びますが,派遣労働者は,労働者は派遣会社と雇用契約を結び,派遣会社が派遣先(依頼会社)に労働者を派遣します。企業が派遣会社(派遣元)に派遣料金を支払い,派遣会社(派遣元)が派遣労働者へ賃金を支払います。
 契約期限が切れたあとの雇用不安という点では,契約社員と同様です。

 現在は労働者の約3分の1が非正規社員となっています。賃金月額が少なく,ボーナスや退職金もないので収入が著しく低い。さらに企業の業績や景気に左右されやすく,すぐに契約を打ち切られるので生活が安定しません
 このような非正規雇用の増加の背景には,バブル崩壊後の景気の停滞。金融の自由化と外資系企業の参入とともなう企業間競争の激化により株主配当や経営者報酬などが重視され,人件費が抑制されるようになったこと。国際間競争を勝ち抜くために,規制緩和によって派遣業務の自由化が進んだこと。フレックスタイム制裁量労働制など,多様な労働形態への対応が進んだことなどがあります。
   
11 勤務時間終了後に,残業手当の支給なしに働かされることを〔 ① 〕といい,働きすぎが原因で,突然に死亡することを〔 ② 〕という。
①サービス残業  ②過労死
 
12 定められた労働時間を勤務すれば,始業または終業時間は自由に決められる勤務制度を〔   〕制という。
フレックスタイム
  新しい労働時間制
・変形労働時間制
 平均労働時間が法定労働時間を超えなければ,特定の日や週に1日8時間を超えて労働させることができる。(業界によっては年末・年始やゴールデンウィークに集中して労働など)
・フレックスタイム制
 労働者が出社・退社時刻を決めることができる。
・裁量労働制
 労働時間を労働者の裁量に任せ,実際の労働時間にかかわらず,定められた時間だけ働いたとみなす(みなし時間)ことができる制度。仕事の成果さえ出せば,1日8時間も働かなくてもいい(5時間でできれば,それで帰ってもいい)ということ。逆に成果が出ないと残業代なしで10時間働かされることもある。

 おさえておきたいのは,これらすべて労働基準法(改正)に定められているということ。逆にワークシェアリングについての法律はまだ整備されていません。(ワークシェアリング法はない)。
 また連休を増やすため,国民の祝日の一部を固定日から月曜日に移動させる制度(法)をハッピーマンデー制度(法)といいます。成人の日・海の日・敬老の日・体育の日の4祝日が対象です。(祝日と祝日に挟まれた平日は祝日となるというルールもある。毎年5月4日と年によって敬老の日と秋分の日の間の日)
 一方,月末最終金曜日の終業時間を早めるプレミアムフライデーは個人消費喚起キャンペーンであり,法律で定められたものではありません
 
13 性的嫌がらせによって,仕事上で不利益を与えたり,職場環境を悪化させることを〔 ① 〕といい,職場の上司が,その権限を利用して,嫌がらせをおこなうことを〔 ② 〕という。
①セクシャル=ハラスメント  ②パワー=ハラスメント
 
14 外国人が正式な許可を得ないで,日本国内で働くをことを〔   〕という。
不法就労
 
15 〔 ① 〕とは,教育・労働・職業訓練のいずれにも参加していないものをいう。また働いても貧困から抜け出せない就業者を〔 ② 〕という。
①ニート  ②ワーキングプア
   「フリーター」という言葉がありますが,フリーターは非正規労働者と正規・非正規を問わず職を探している人を合わせた言葉です。社会とのつながりをもつ点や働こうとする意欲がある点で「ニート」とは異なります。
 「ニート」は「NEET=Not in Education,Employment or Training」の頭文字をとった言葉。学校にもいっておらず,就職もしておらず,職業訓練も受けていない人を指します。
   

社会保障

1 社会保障制度は,19世紀後半に〔   〕ではじまった。
ドイツ
   近代的な社会保障制度は,19世紀末のドイツではじまりました。当時の首相はビスマルクですね。世界初の社会保険制度が整備されます。またドイツでは1919年のワイマール憲法でも世界で最初に社会権を保障しています。
   
2 1935年,ニューディール政策の一環としてアメリカで〔   〕が制定された。
社会保障法
   1930年代のアメリカでは,フランクリン=ルーズベルトが大統領になると,ニューディール政策のもとで,公的扶助と社会保険をあわせた社会保障法が制定され,「社会保障(Social Security)」という言葉が初めて使用されました。
 それでもアメリカは近年まで,日本のように国民みんなが医療保険に入っている国民皆保険ではありませんでした。そこで前オバマ大統領は,高額の医療費で破産するものが出ないように,民間の医療保険でよいから,低所得者でも何とか加入できる制度を整えようとしました。この医療保険制度改革を「オバマケア」とよんでいます。目指したのは国民皆保険制度であって,国民皆年金制度でないので注意。
   
3 第二次大戦中に〔   〕で「ゆりかごから墓場まで」が社会保障の目標とされた
イギリス
   イギリスでは第二次世界大戦中の1942年,チャーチル内閣のもとで,ウィリアム=ベバリッジによる社会保障制度拡充のための一連の報告が示されました。戦後,イギリスの社会保障政策に大きな影響を与えた「べバリッジ報告」です。そのスローガンは「ゆりかごから墓場まで(from the cradle to the grave)」。全国民を対象として最低限度の生活を保障する福祉国家を目指しました。戦後,アトリー労働党内閣によって実施されていきます。
 イギリスやスウェーデンに代表される北欧の社会保障制度は,単一の社会保障制度により,全国民平等に最低限度の生活を保障します。公的扶助が中心で,公費(租税)負担の割合が大きく,社会保険料は均一なのが特徴です。給付格差は生じにくいという長所があるけれど,高負担になりやすいのが欠点です。
 一方,ドイツやフランスなどは,所得の高さに応じた保険料負担と給付を保障する能力タイプ。社会保険が中心なので,財源は保険料が中心。所得により給付格差が大きくなるのが欠点。
 日本はこれらヨーロッパの2つのタイプの中間をとっており,公費(租税)・保険料の両方で費用を賄う制度となっています。
   
4 日本では〔 ① 〕・〔 ② 〕・〔 ③ 〕・〔 ④ 〕・〔 ⑤ 〕の5つの社会保険が整備されている。
①医療保険  ②年金保険  ③雇用保険  ④労災保険  ⑤介護保険(順不同)
   国民皆保険・国民皆年金はともに1961年にはじまりました。皆保険・皆年金だけに多額の費用が必要になり,現在社会保障給付金は100兆円以上,そのうち4分の3は社会保険費となっています。

[グラフ:発展編7-2 日本国勢図会2024/25より]


・医療保険
 自営業や一般国民が加入する国民健康保険(国保)会社員健康保険(社保)あります。国保では保険料は全額自己負担となりますが,健康保険では企業との折半となります。
 保険料は所得に応じて異なり,保険料率は保険を運営する組織(都道府県・市町村)によって異なります。国保の保険料は各自が各市町村に納めることになっています。(健康保険は給料から天引き)
 医療機関を受診した場合の自己負担は3割で,残りの7割が公費と保険料で賄われることになります。
※また75歳以上の高齢者は,独立した後期高齢者医療制度があり,個人で独立して加入し,医療費の自己負担は1割になっています。(現役世代並みの収入がある場合は3割のまま)

・年金保険
 年金も医療保険と同様の区別があります。まず自営業や一般国民が加入する国民年金会社員が加入する厚生年金です。
 国民年金は基礎年金ともいわれ,20歳以上になると職業に関係なく,全国民が加入することになります。サラリーマンや公務員は,この基礎年金に上乗せする形で厚生年金の保険料を支払い,給付を受けます。(二階建て年金)もちろんその保険料は企業との折半です。
 基礎年金である国民年金の財源は,年金給付に必要な費用を,現役世代の人々が払う保険料で賄う賦課方式(世代間扶養)であるため,少子高齢化が進むと,現役世代が支払う保険料が段階的に引き上げられ,給付額は引き下げられていくことになります。また国民年金の保険料納付率の低下も大きな問題となっています。

・雇用保険
 雇用保険は「雇用」という言葉がつくので紛らわしいのですが,中身は反対語の「失業」のための保険です(失業保険ともいう)。失業したときに次の職が得られるまでの生活ができるように給付を受ける。そのための保険料は労使の折半。給付金の財源は保険料と公費が負担。給付窓口になるのが公共職業安定所(ハローワーク)です。

・労災保険
 正式には労働者災害補償保険。業務中の災害(仕事が原因の負傷・病気・死亡など)と通勤災害について,本人や遺族に補償金を給付する制度で,通勤も含まれるところがポイント。では業務外はというと,こっちは健康保険が適用される。
 また保険料は全額企業が負担するという点も他の保険とは異なります。

・介護保険
 介護保険は,40歳以上になると加入することができる保険です。年齢がまず重要。市町村によって要介護と認定されると介護サービスを受けることができます。
 利用者は,費用の1割を負担するだけで,残りは保険料と公費が半分(45%)ずつ負担する。ただし現役並みの収入がある高齢者の場合は,収入に応じて2~3割の自己負担が求められるようになりました。
 ホームヘルパーなど自宅で家族によってなされている介護や看護を社会的に補う福祉サービスは在宅ケアとよばれます。  
   
5 2010年に厚生労働省の社会保険庁は,非公務員型の〔   〕に改組された。 
日本年金機構 
   
6 生活保護費は国家が〔   〕で支給している。
無償
   公的扶助は生活困窮者に対するお金,つまり経済援助でした。生活保護費厚生労働大臣の定めた基準にしたがって,生活費や教育費,住宅費などを全額公費(租税)で給付します。国と自治体の負担です。生活保護の窓口は,各自治体の福祉事務所です。
 生活保護受給世帯は年々増加傾向にあります。その背景には,不況や高齢化の影響があるといわれています。最低限の基礎年金(国民年金)だけでは,生活が苦しく,そのため生活保護の対象になってしまう人が増えている。
 生活保護も社会保険も在日外国人にも適用されることもおさえておきましょう。
   
7 65歳以上の高齢者の割合が〔 ① 〕%以上を高齢化社会といい,〔 ② 〕%以上を高齢社会という。
①7  ②14
   7%以上が高齢化社会14%以上が高齢社会21%以上を超高齢社会といいます。7→14→21で7の倍数になっている。現在の日本の高齢化率は約28%であることは知っておきたい。
 ついでに現在の出生率(特殊合計),平均寿命も数値としておさえておきましょう。
・出生率…1.26[発展編7-3 日本国勢図会2024/25 2022年]
・平均寿命…男:81歳,女:87歳女性の方が高い。男女あわせるると84歳でホンコンにつづいて世界2位[発展編7-4 日本国勢図会2024/25 2022年]
   
8 少子化対策には,政府は〔   〕大臣を設置している。
少子化担当
 
9 未就学児が通う幼稚園は〔 ① 〕省の,乳幼児を養護する保育所は〔 ② 〕省の管轄であるが,〔 ③ 〕の増加から,子育て支援を一体的に提供するため,幼保両方の機能をもつ〔 ④ 〕が〔 ⑤ 〕 の認定を受けて設置できるようになった。
①文部科学  ②厚生労働  ③待機児童   ④認定子ども園   ⑤都道府県知事
 
10 保育所や児童養護施設などの〔   〕施設は〔   〕法に基づいて設置されている。
児童福祉
 
11 〔   〕が制定され,1歳未満の子どもの養育や要介護状態にある家族の介護のため一年間休業を申し出ることができるようになった。
育児・介護休業法
   厚生労働省の調査(2021)によると,育児休業取得率は,女性の85%に対し,男性は増加していますが14%と依然低い水準にとどまっています。
   
12 〔 ① 〕とは,すべての人に使いやすい設計を目指したものである。公共性の高い建築物に対してバリアフリーを促進するための法律を〔 ② 〕法というが,交通バリアフリー法と統合され新バリアフリー法となった。このように障害者・高齢者・健常者が特別に区別されることなく社会生活をおくれる社会をめざすことを〔 ③ 〕という。
①ユニバーサルデザイン  ②ハートビル  ③ノーマライゼーション
   ユニバーサルデザイン・バリアフリー(ハートビル)・ノーマライゼーション,外来語の区別をしっかりとしておきましょう。
 「ユニバーサル」は「一般的・普遍的」という意味から理解しましょう。
 「バリアフリー」の「バリア」は「障害・障壁」のこと。「フリー」は「自由」ではなく,「ない」の意味。「dutyfree」は「免税」の意味だね。「smokefree」は「タバコ自由」ではなく逆の「タバコ禁止」の意味。「ハートビル」は「heartful building」を略した和製英語。よって建物に関するバリアフリーと考えましょう。エレベーター・スロープなどね。
 「ノーマライゼーション」は「正常化・標準化」の意味ですが,ここでは「違いをなくす」の意味。障がい者も健常者もすべて受け入れるという意味。
 また性別による役割分担意識にとらわれることなく行動することを「ジェンダーフリー」といいます。「ジェンダー」とは「(社会的)性別」を意味します。
 
13 学校や病院,官公庁施設などで,他人のたばこの煙を吸わされることのないようにしなければならないと定めている法律を〔   〕という。
健康増進法
   高齢化・医療技術の高度化などにより,医療費が急激に増加しています。さらに少子化が進み,税収入が減少すると医療財政が破綻の危機に迫られます。そこで医療費の抑制・医療の効率化・医療保険制度の強化などを推進する医療制度改革が必要だと考えられています。
・患者の自己負担の増加
 自己負担比率が2割であったのを現行の3割負担に引き上げられました。
・後期高齢者医療制度
 75歳以上が対象となる後期高齢者医療制度では,一定以上の所得がある人の自己負担率を3割としています。(一般は1割負担)
・保険料,租税の増額
 社会保障費増額のための増税をおこなわない限り,保険料の増額はまぬがれられません。増税の形は消費税がベストであり,現在2014年に消費税率が8%に上げられ,2019年には10%に上がる予定です。
・ジェネリック医薬品
 製薬会社の特許期限切れの後発医薬品を推奨することで,医薬品費用を下げる。
・予防医学の推進
 健康増進法を制定して受動喫煙を防止したり,生活習慣病予防のための特定検診・健康指導をおこなっていく。
   
15 障がい者や高齢者に,日帰りで老人ホームなどの利用や食事,入浴,リハビリなどを提供するサービスを〔   〕という。
デイケア
   社会福祉は,児童・高齢者・障がい者・母子世帯な社会的弱者の救済のための,主に施設やサービスを提供することでした。該当する法律は挙げるとキリがありませんので,これらの人々に関する法律だと理解しておけばよい。財源は全額公費負担です。
 現在よく取り上げられる法律を挙げておくと,児童・高齢者・障がい者に対するそれぞれ虐待防止法です。虐待の問題はあとを絶ちません。
 障がい者に関しては,障害者雇用促進法はおさえておきたい。企業や行政が従業員のうち,障がい者を雇うべき割合(法定雇用率)を定めています。民間企業で2.3%,国や地方自治体で2.6%。また雇用に関して,高年齢者雇用安定法というのがあります。希望する人全員を65歳まで雇用するよう企業に義務づける法律です。この法律は改正後,企業に対し,①定年の引き上げ,②定年の廃止,③定年を迎えた高齢者を改めて嘱託社員や契約社員として再雇用する,のいずれか措置を会社の制度として導入する義務を定めています。
   
16 河川の水質検査・食中毒の原因検査・伝染病の予防など公衆衛生を支える公的機関は〔   〕である。
保健所
   公衆衛生の中心となるのが,保険所公立病院です。伝染病予防・公害病などの公費医療と清掃・上下水道・ゴミ処理などの環境衛生が主な仕事。
   

日本経済

1 戦後,GHQによって経済の三大改革が実施されたが,財閥解体農地改革は不徹底に終わり,労働運動でも1948年,〔   〕禁止令が出された。
2・1ゼネスト
   日本国憲法や労働三法によって,GHQは労働三権を保障する一方,占領政策に影響を与える場合,あるいは共産主義(社会主義)の影響を強く感じた場合は,労働者の味方をしない姿勢をみせます。
 1948年,2月1日に全国的な大規模なストライキ(ゼネラル=ストライキ)が計画されていました。GHQのマッカーサーはこれを禁止する指令を出します。2・1ゼネスト禁止令といいます。
 その後,マッカーサーは当時の内閣に公務員のストライキを禁止するように指示を出します。こうして政令201号が発布され,公務員の争議権が制限されたのです。
   
2 戦後の日本経済は,戦争による生産減少と公債の乱発が原因で悪政インフレがおこった。〔   〕により,インフレは収束したが,景気は後退した。
ドッジライン
   1948年,2・1ゼネストが計画された背景には,労働者の生活苦があり,そこには戦後経済の混乱がありました。ハイパーインフレがおこった。第一次大戦後のドイツと同じ状態です。敗戦→モノ不足・金不足→日銀引き受けの公債の発行→裏づけのない紙幣(銀行券)の増加→貨幣価値の低下→物価上昇という流れです。
 1949年,経済の安定のためGHQの経済顧問としてアメリカからドッジ氏が招かれました。彼が実施した経済政策をドッジラインとよんでいます。インフレ対策が重要課題ですから,教科書通りの対策です。主な政策は増税と財政支出の削減。こうして国内需要を抑制する政策をとった。
 また税収の安定のため,直接税中心の税制改革をおこないます。(シャウプさんのアイデアなのでシャウプ勧告とよんでいる)これは1989年,竹下登内閣が消費税を導入するまで,日本の税制の基本となりました。日本ではまだ税の直間比率で直接税が高かったのも,このシャウプ勧告に起因しています。
 さてドッジラインによってインフレは収まりましたが,今度は逆にデフレが進行していまい,景気が不況に傾いてしまった。そこで朝鮮戦争がおこります。1950年ですね。この戦争による特需景気が転機となり,日本は戦後復興を遂げ,経済は戦前の水準に回復したのです。
※泥棒とインフレ
 ドッジについてはこんな逸話があります。ある日ドッジは新聞をみて大喜びしたそうです。その内容は泥棒がお金を盗んで捕まったというもの。つまりインフレ中ではお金の価値は低くモノの価値が高いので泥棒はお金ではなく,モノを狙います。泥棒がお金を狙うということはモノよりお金の価値が高い証拠。つまりインフレ抑制策が功を奏した証拠でもあったのです。
   
3 高度経済成長は,〔 ① 〕景気→〔 ② 〕不況→〔 ③ 〕景気→〔 ④ 〕景気→〔 ⑤ 〕不況→〔 ⑥ 〕景気→石油危機と景気変動をくり返した。
①神武  ②なべ底  ③岩戸  ④オリンピック  ⑤40年  ⑥いざなぎ
   できれば高度経済成長期の好景気の呼び名は順におぼえておきたい。好景気の名称は日本の神話をさかのぼる形で名前がつけられています。神武(天皇)→(天の)岩戸→いざなぎ(みこと)。また好景気・不景気・好景気を2セットでおぼえるとおぼえやすい。神武景気→なべ底不況→岩戸景気オリンピック景気→40年不況→いざなぎ景気
・神武景気(1955~)
 三種の神器(電気冷蔵庫・電気洗濯機・白黒テレビ)などの家電製品が普及,経済白書に「もはや戦後ではない」と表現された。
・岩戸景気(1960ごろ)
 池田内閣の「所得倍増」計画。食生活の洋風化。
・オリンピック景気(1964ごろ)
 東京オリンピック(アジア初),高速道路,新幹線などの建設投資。
・40年不況(1965ごろ)
 戦後初の赤字国債発行
・いざなぎ景気
 3C(クーラー・カラーテレビ・乗用車)の普及。高度経済成長を通じて日本製品の国際競争力が強まり,貿易収支は黒字基調に転換。その結果,GNPが資本主義国第2位に。1970年には大阪万国博覧会が開催。
   
4 高度経済成長期の1961年に〔   〕が制定され,経営規模の拡大,果樹・畜産物の増産などをめざしたが,十分な成果は得られなかった。
農業基本法
  《地理:第6回発展編2》参照
   
5 大企業と中小企業,工業・サービス業と農林水産業のように,生産性や所得に格差のある分野が共存していることを,経済の〔   〕という。
二重構造
  《公民:第5回発展編》参照
   
6 〔   〕年には第二次石油危機に見舞われたが,省エネルギーや合理化によって,他国より早く経済は回復した。
1979
   第二次石油危機は,イラン革命がきっかけでおこります。省エネルギー型産業や第三次産業中心へ,産業構造の中心が重化学工業からサービス業に移動することを経済のソフト化といいますが,第一次石油危機以降,日本は早くにこれを進めていたため,第二次石油危機の影響は他の先進国に比べて少なかったことをおさえておきましょう。
   
7 1973年,1ドル=〔 ① 〕円と設定されていた外国為替相場は,〔 ② 〕制へと以降した。
①308  ②変動相場
   1971年ニクソン=ショックによって,1ドル=360円固定相場制が維持できなくなります。ニクソン=ショックの背景については《歴史:第9回発展編》を参照。
 先進国首脳は,アメリカのスミソニアン博物館に集合し,固定相場制を維持するため,自国の通貨をドルに対し,増価することで合意します。この結果,円ドル交換レートは,1ドル=308円と決まりました。この協定をスミソニアン合意(協定)といいます。この合意はあくまで,固定相場制の維持のたの合意であり,変動相場制への合意ではありません。
 しかしその後もドルの信用は下落を続けたため,国際通貨の為替相場の固定は困難になり,1973年変動相場制へと移行したのです。1973年は石油危機と同じ年。世界経済の転換期となった年として重要ですね。
   
8 1985年の〔 ① 〕以降,〔 ② 〕が進んだことで輸出産業が不況におちこんだ。政府や日銀は低金利政策をとったため,不動産に資金が流れ〔 ③ 〕の価格が高騰した。また同じころ〔 ④ 〕の自由化がおこなわれ,大企業が国際的な市場から資金を調達することができるようになった。このようなことから1980年代後半に株価が急上昇し,〔 ⑤ 〕景気が始まった。
①プラザ合意  ②円高  ③土地  ④金融  ⑤バブル
 さてここからバブルへの道のりです。まず第一次石油危機以降,先進国はスタグフレーションに陥りました。そして長い不況から抜け出せずにいた。これまでみた通りです。
 アメリカが立ち直りをみせはじめたのは,1981年,レーガン大統領が登場してからのことです。レーガンの経済政策は,「レーガノミクス」とよばれました。まず政府支出を拡大します。その内容は社会保障と軍事費の拡大。「強いアメリカの復活」,これがスローガンでした。だれかさんとよく似ていますね。
 次に減税,規制緩和,インフレ抑制です。インフレ抑制には金融政策によって金利を高くする政策がとられていましたが,その国の金利が上がると,その国の通貨が買われ(需要増),通貨高に結びつきます。ドル高(円安)への通貨高誘導もレーガノミクスの一環でした。(現在アベノミクスではデフレから脱却するために,通貨安=円安に誘導している)
 日本はといえば,1970年代の石油危機を高性能で省エネ・低燃費の機械を開発することで乗越えました。特に日本産の自動車はアメリカをはじめ世界で大人気。また日本人は消費よりも貯蓄にお金を回す国民性です。日本の企業は国内消費に期待するより,積極的に輸出で稼ぐ方針をとります。そこへ円安となれば,アメリカ国民が安くて性能のいい日本製品を求めるのも当然です。こうして日本は対アメリカ貿易において大幅な黒字,逆にアメリカは赤字に苦しむことになったのです。
 一方でレーガンはかつてのアメリカの威信を取り戻すため,敵対国ソ連を「悪の帝国」とよび軍備を増強。かさばる軍事費によってついにアメリカの財政は赤字国に転落,借金国となったのです。このように財政・貿易ともに赤字になったアメリカ経済を「双子の赤字」といい,そのピークは1985年に訪れます。
 そこでレーガンがうった最終手段が,「プラザ合意」でした。アメリカ・日本・イギリス・フランス・(西)ドイツの先進5か国がニューヨークのプラザホテルで会合し,各国が協力して「ドル安」に誘導しようとしたのです。アメリカ経済の不安定は,世界経済に悪影響を及ぼす。「だからみんな協力してね」と何万発も核爆弾をもった国が上から目線でいうのです。実質,アメリカのねらいは対日貿易赤字をなんとかすることであったため,世界の大国に囲まれた日本は合意しないわけにもいかなかった。結果,プラザ合意前,1ドル=235円であったのが,翌年には150円まで下がり,日本はかつてない「円高不況」へと迷い込むことになったのです。

円高になると日本の輸出産業が打撃を受けます。日本経済は輸出産業に支えられていた。そこで日本銀行が動きます。日本銀行は救済策として金利(利子率)を大幅に下げる決断を下しました。その結果,銀行から安い金利でお金が借りられるようなった。お金に困っていた会社がお金を借りやすくなったのです。
 ところで銀行からお金を借りるためには「担保」というものが必要になります。もしお金が返せない状況になったときのための保険です。100万円借りるためには100万円と同じ価値のものを用意して,万が一のときにはそれを銀行に明け渡すことを約束しておくのです。
 日本にはこの「担保」として使える,確実に価値の下がらないと信じられていたものがありました。「土地」です。国土の狭い日本では,「土地」の価値は絶対下がらない,むしろ上がり続けるという「土地神話」のようなものがあったのです。土地を担保に資金を借りる。借りたお金で会社の業績を上げる。業績が上がれば株価が上がる。もうけたお金で土地を買う。その土地を担保にまたお金を借りる。このようなことが繰り返され,土地と株の価値が上がり続けたのです。
 ここで奇妙なことが起こります。企業は本来その企業の仕事内容によって実績・実力をつけていくものです。ところが異常なまでの土地の値上がりは,そんなことを馬鹿らしく思わせたのです。本来の仕事を一生懸命やってもすぐに何倍ものもうけは出ない。そんなことより土地や株の売買でもうけたほうが楽チン,まじめに仕事するのがアホらしくなってくるのです。
 本来,土地や株だけでなくわれわれが目にするモノの値段は,売る側にも買う側にも「この値段なら売ってもいい,この値段なら買ってもいい」というふさわしい価格=「適正価格」があるのです。板チョコ一枚が1万円で店頭に並んでもだれも得はしません。ところが当時の土地といったら,上がり続けるという神話を疑いもせず,みんなが競うように買い続けたので「適正価格」からどんどんはずれて上がっていったのです。その結果,みんながお金持ちになった気分になり,豪華な家を建て,高級外車を乗り回し,ブランド品を身につける。このような暮らしを「トレンド(流行)」と称してみんながあこがれ,ついには日本人みんなの金銭感覚がマヒしてしまった。
 土地や株(会社の実力といってもいいでしょう)が実体(適正価格)からかけはなれて,どんどんふくれあがっていく。まるでシャボン玉の液体が少しの量で何倍もの大きさの泡を作りだすことに例えて,このような日本の経済状態を「バブル(泡)」とよんだのです。1980年代の終わりから90年代初めにかけてのことでした。

 
9 企業に貸し付けられた資金の中で,倒産や経営不振により,回収不能か回収が困難となっている債権を〔   〕という。
不良債権
   バブルが過熱すると,日銀と政府はインフレを抑えるための対策を打ちはじめます。日銀は金融引き締め(公定歩合の引き上げ)を,政府は不動産融資規制(銀行の土地の売買に関する資金の貸し出しを規制)をおこないました。その結果,株価と地価が下落していきます。バブルの崩壊が始まりました。
 バブル期,上がることを前提に借金までして株や土地を購入していた多くの企業や人は,バブルの崩壊後,株価・地価の下落によって,銀行にお金を返すことができなくなってしまいます。その額は本来自分の力で返すことができるお金とはかけ離れた高額になってしまっている。
 銀行もそんなときのために「担保」をとっていたんだけれども,その担保自体が土地神話に基づいた「土地」そのものだった。その土地の価値が下がったんだからどうしようもない。貸したお金は回収不能となって,積み重なります。この未回収の借金を「不良債権」というんです。
 個人や企業の破産につづいて,不良債権を処理できずに破綻する金融機関があらわれる。破綻を免れたとしても,そんな中で収益を出すためには,やたらめったに資金を貸し出しはできない。今度は貸し渋りがおこります。
   
10 バブル崩壊後の1991年から,不景気の10年間を「〔   〕」という。
失われた10年
   資金繰りが難しくなった企業は,倒産しないためにはバブル時代の過剰な設備・人員を整理していく必要に迫られる。リストラです。リストラは「リストラクチャリング」,つまり「再構築」の意味ですが,中身は解雇です。
 こうして失業率が悪化,就職氷河期とよばれるぐらいの就職難,正規雇用も少なく非正規雇用でもありつけばラッキー。当然経済成長率も低迷。20世紀最後の10年は,「失われた10年」とよばれることになります。
   
11 不況下でおこなわれる人員削減を〔   〕という。
リストラ 
   
12 巨大な資産や収益規模を持つ銀行および銀行グループを〔   〕という。
メガバンク
   かつて日本の金融業界は,大蔵省(現財務省)の「護送船団方式」で守られてきました。金利規制などさまざまな規制をおなこう際,弱小金融機関を含めて,金融機関全体の存続と利益を守ることを主眼としておこなわれてきた日本の金融行政です。スローガンは「一行たりともつぶさない」。
 ところがバブル経済崩壊後,不良債権を処理できずに破綻する金融機関があらわれ,金融機関の再編が必要となります。また経済のグローバル化にともない,国際的な資金調達が必要になってきたこと。アメリカなど各国が日本の金融市場の自由化を求めてきたこと。こういった外的要因も重なって,1996年,橋本内閣は金融市場の規則を撤廃して金融の自由化をはかるため金融制度改革を実施。これを「金融ビッグバン」とよんでいます。
 1998年,独占禁止法も改正され,持株会社が解禁となると,大手年銀行の再編・統合が進み,メガバンクという巨大銀行が誕生します。文字通りメガバンクです。三菱UFJフィナンシャルグループ,みずほフィナンシャルグループなんかが有名ですね。
 規制の緩和は新たな銀行の参入の形も可能にしました。既存の銀行のような支店をもたず,顧客とインターネット上で取り引きするインターネット銀行。小売店など異業種の参入(セブン銀行・イオン銀行など)などがあります。

 そうそう橋本内閣では消費税率が3%から5%に引き上げられた(1997年)ことも重要。
   
13 銀行などの金融機関が経営破綻した場合,預金者の預金を全額保障せずに支払い戻す額に上限を設けることを〔   〕という。 
 ペイオフ
   金融の自由化は金融機関側の自己責任を求めるとともに,預金者の自己責任も求めています。金融機関が破産処理される場合,預金者の預金は一金融機関につき一預金あたり元本一千万円までとその利息までが保護され,それを超える分は,全額保護されません。これをペイオフといい,預金者はどこの金融機関に預けるかしっかりと判断し,分散させて預金するなど自己防衛策をとらなければなりません。 
 
14 2012年末,安倍内閣は〔 ① 〕からの脱却を目指して,〔 ② 〕とよばれる経済政策を打ち出した。
①デフレ  ②アベノミクス
   2001年,小泉純一郎内閣が成立すると,「構造改革」とよばれる経済政策を進めました。「聖域なき構造改革」ともよばれ,新自由主義を取り入れた「小さな政府」をめざした改革でした。⇒《公民:第3回応用編》を参照
 2008年9月,世界経済に衝撃が走ります。アメリカの大手投資銀行のリーマン・ブラザーズが経営破綻。これに端を発して,世界的な金融危機がおこりました。リーマンショックです。⇒《公民:第8回発展編》当然その影響は日本にも及びましたが,この課題に本格的に取り組まなければならなかったのは自民党政権ではなく2009年に発足した民主党政権でした。民主党政権ではさらに2011年3月11日の東日本大震災がおこります。
 日本経済をみるとき,2008年のリーマンショック2011年の東日本大震災は非常に重要な目印なので,統計などではすぐに注目するようにしましょう。

 2012年末,再び総政権に返り咲いた自民党安倍晋三は,デフレ経済を克服するための一連の経済政策:「アベノミクス」を打ち出しました。政策運営の柱は「三本の矢」とよばれています。
・第一の矢…大胆な金融政策
 デフレ脱却と持続的な経済成長のため政府・日銀の政策連携。日銀総裁に黒田東彦(はるひこ)氏を就け,物価上昇率(インフレターゲット)を2%に定め,無制限の量的緩和政策を実施する。方法は公開市場操作で買いオペレーションをおこなうことで,市中に資金を供給する。しかし現状2%の物価上昇は達成していません。
・第ニの矢…機動的な財政政策
 日本経済再生に向けた経済対策。具体的には公共事業の拡大や地方創生(担当大臣設置)などですが,本来は財政支出を増やさなければならないところ,2014年に消費増税をおこなったため,消費が落ち込みデフレマインドを払拭できずにいます。財政支出を増やす一方で,財政再建に取り組まなければならない難しさに足踏みした状態です。
・第三の矢…民間投資を喚起する成長戦略
 法人税を下げ,投資を促進し,中小企業(ベンチャー企業)を成長させる。さらなるグローバル化を進める。(自由貿易・外国人観光客を増やすなど)一億総活躍社会の実現(女性が輝ける社会づくり,働き方改革,優秀な外国人労働者の受け入れ)。新たな市場の創出(電力自由化減反の見直しなど)

※参考…主要国の実質賃金の推移(1991年を100とする)


〔財務省 総合政策研究所より〕
日本の(実質)賃金はバブル期からの30年間おおむね横ばいにとどまり,主要先進国に大きく差をつけられています。

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